04:初めまして、な自己紹介
私がここに来てから2時間は経過してから、ギルだけがここに来た。
どうやら、他の方々は娘と会わずに出発したらしい。確かに、時間勝負な所もあるから、そうなるのか。
「あ、ギル、紹介するね。」
実は初対面なんだよね、ギルは。
手紙のやり取りはしていたけど、直接会って話すのは憚れるからね。7歳も年が離れていて学生時代が重なっていないし。
「先ず、クロプシュ公爵家のヴィクトーリア様。王太子の婚約者だったの。だから、王妃教育もばっちりよ。」
「初めまして、バンクロフト様。よろしければヴィクトーリアとお呼びください。」
輝く金の髪に青い瞳の美人さんなヴィクトーリア様は今日も優雅だ。
「ハンゼルマン侯爵家のアンネリーゼ様。お父様の方は王都の騎士団の団長をしているから知っているわよね?」
「父から話は聞いております。わたくしもアンネリーゼとお呼びください。」
父親似の銀色の髪にヴァイオレットの瞳のスレンダーな美人さんである。
嫋やかな見た目に反して、かなり強い。さすが騎士団の団長の娘! と言いたくなる感じ。
「リクスナー伯爵家のティルデ様。お父様の商会をお手伝いしる予定だったのよね?」
「はい、そうなんです。でも、こうなってよかったのではないか、とも思いますけれど。」
そうなんだ。
だから、次男で継ぐ家が無い、騎士爵がもらえるかな? と言う程度でもいいと決めたそうだよ。貴族に拘る気もない、と本人が言っていた。
「フェリが世話になったな。」
3人の紹介を聞いて、それ?
まぁ元々アティカお姉様の婚約者だったからね、ギル。年が離れているだけじゃなく、小さな頃から知っているのも大きいのかな。お姉様の婚約者として紹介されたけど、純粋に懐いちゃったのよね、私。
長女のパトリシアお姉様が実家を継がずに商会を継いでしまった関係で、跡取りがアティカお姉様になってしまい婚約を解消するか、って話になった時に「私がギル兄のお嫁さんになる!」と言ってしまったのよ。
若かったなぁ………………
パトリシアお姉様が学生時代の話だから、8歳くらいの頃か。
「フェリ、遠い目をするな。」
とか言い出すし。
本当に子ども扱いのままの気がしないでもないんだけど。
「ソウデスネ。さて、保護者の許可も出ましたから、このまま辺境伯領に向かう、で大丈夫ですか?」
この話はさっきもしたのだけれど、ここで、ギルの前で確認を取る事は重要だから。
「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」
代表でヴィクトーリア様が言った。
「いや、迷惑じゃないぞ。クロプシュ公爵も殺る気満々だったしな。」
「まぁ、お父様ってば。」
と言うけれどね、自分の娘をコケにされて怒らない親はいないと思うんだ。
愛情をもって育てていれば、そうなると思うんだ。
「詳しい事を話すとだな、情報漏洩の可能性を捨てきれなかったので、ここでしばらく待機になる。」
はい?
「この屋敷は安全に作ってあるから大丈夫なのだが、君たちの両親は、君たちの影武者になった令嬢を連れて帰ってもらっている。」
「影武者ですか?」
「そうだな、背格好の似た娘を選んだし、落ち込んでいる風を装ってローブのフードを頭から被るようにしてうつむいての出発だから騙された者も多いと思う。」
何と言うか、そこまで用意周到に準備した訳ね。
だからここには来なかった、と。
「申し訳ないが、ここで迎えが来るまで待機してもらいたい。」
「解りました。」
代表してヴィクトーリア様が答えた。
領に、家に戻れば部屋に閉じこもって出てこない、と言えばいいのだろうし問題は作らないのだろうな。
「それからもうひとつ。町娘のような服を用意したので、好きなものを選んで着て欲しい。所作で貴族だとバレるだろうか、目くらまし程度にはなるだろうから。」
はい、と返事をした3人が、少しだけ楽しそうだった。
確かにね、お忍びとかでも街に出るような人たちではなかったわ。
「フェリ、お前はどうする?」
そう聞かれて、答えに迷った。
町娘の服を着たお三方をみたい! 絶対に見たい! と思ったんだけど、私がここに残るのも不自然よね。
「大丈夫だ、パティは残る。」
「え? お姉様は残るの?」
「そうだ。元々ここで、商会で働く予定の子女を迎えに来て居るんだそうだ。」
「そうなの?」
「本人がそう言っていたからな。」
あーそこに紛れて、の脱出か。
うん、納得だわ。
「じゃ、残る。」
「解った。」
で終了。
お三方には驚かれたけど。
「私が先に帰っても手伝える事もないだろうし、ここで護衛の騎士もどきをしてるわ。」
そう言ったら、ギルは笑ってくれたけど。
登場人物紹介 Ⅲ
*ヴィクトーリア・テレジア・クロプシュ
公爵家の男女男女の次女 18歳
王太子の婚約者だった
*アンネリーゼ・ハンゼルマン
侯爵家の長女 18歳 兄と弟が居る
陰険メガネの婚約者だった
*ティルデ・リクスナー
伯爵家の長女 18歳
跡取りは弟。少し年が離れて3人ほどいる
護衛もどきの婚約者だった