03:やっとゆっくり出来そうな気がしたのに
会談が終わった後、即時に出発しなかったのは、集まった同志と言っていいような人たちで込み会ったから。その人たちを送り出さないといけないし。
それだけではなく、今後の事の相談と報告もしないといけなかったからね。
集合場所がドーレス商会、私の親の商会の会議場だったのは、この子爵領にある商会は、この領の領主様の息もかかっているから。だって、次女のアティカお姉様の結婚相手の実家なのだもの場所としては最適になる。
一応、名目としては王都から引き上げたドーレス商会の今後を説明する、だったんだよね、この集会。後で何か言われると困るから、ちゃんと説明もしたけど。
その関係上、元婚約者の令嬢は別邸で待機だったので、未だ会えていない。元気そうだとは聞いているけど。
で、その説明をしたのは私の姉。ウチの三姉妹の長女なんだけど、家を継ぐより商売がしたい! と言って、現在は国外も含めてあちこちを飛び回っているような人だ。だから、説得力あるでしょ。
「パトリシアお姉様、お疲れ様です。」
今回の関係者を残して、会議場から人が出て行ったので閑散としている。
残ったのは、元婚約者の父親3人と私たち。それ以外の人は帰ってもらった形となる。
「あら、フェリ。久しぶりね。」
いや、私、ずっとこの場にはいたんだけどな。
「たまには家に帰って来なさいと言いたい所だけど、私が一番家に居ないわね。」
って、お姉様。
事実だけど、確かに事実だけど。
「これから少しの間は家に居る予定なのよ。」
とは?
「国内は荒れそうでしょ?」
「否定はしませんよ。」
お姉様の言葉にギルが乗る。
確かに荒れそうだな。否、確実に荒れる。戦いがおきるとかまでは………どうだろう?
「国境線付近は安定しているから、防衛ラインを王都の方に下げますよ。」
と実にあっさりとギルは言いやがる。
この国は南北に長くて、王都は中心よりも南西よりになっている。その関係で北の守りについているバンクロフト領は王都から一番遠い領でもあったりするのだ。
「どの辺りまで?」
と聞いてきたのは、騎士団の団長のハンゼルマン侯爵様。
まぁ、王都の守りについている人だから当然気になるよね。でもこの人を王太子は敵に回したんだよね。気付いているかどうかは不明だけど、自分の身の安全も考えた方がいいと思うよ? 団長の娘は騎士団では有名人だったらしいし。母親と一緒に差し入れとかもね、していたんだって。
「寄子の領は確実に。」
きっぱりと言い切ったギルの言葉に納得していたけど。
いいのか? と思わないでもない。
「今回の件で、あなたの父親であるハンゼルマン辺境伯は王家を見限った、でいいのですか?」
「まぁ、そう取ってもらっていただいていいと思いますよ。」
クロプシュ公爵様の突っ込んだ質問に、ギルはあっさりと答えていたけど。
考えてみれば、ギルのお父様って公爵様と同世代になるのかな? だとしたら、もしかしてギルパパの事を知っていたりする?
「ウチにも騎士団はありますから、最前線はうちで。」
「は?」
「大切な末姫を粗雑に扱われた、と我が家の騎士団員は怒っているんですよ。」
「………まぁ、そうでしょうね。」
やっぱり………………
奇しくも公爵領は王都の北西の国境を守っている。その事も加味されての婚約だったと聞いているんだけどね。本当に何を考えているんだろう、あの王太子。
西側の国境線がかなり高い山脈で、その山を越えて攻め込む事は難しいのでそこまでではないのだけれど、やはり国境付近の領には騎士団は必須なのだ。他の、ある程度大きな領には当然のように騎士団はあるのだけれどね。
そして、リクスナー伯爵領は王都の東側。若干南寄りだけど。
この国の東側の海岸線は砂浜が多くて、大きな船が停泊出来るような港は数が少ない。そして、一番王都に近い大きな港を持つのがリクスナー伯爵領なんだよね。
内海な事もあって、船での交易は盛んでとても豊かな領だったりする。そして、他の国とのつながりもあるんだなぁ、これが。ギルパパの所もあるけど。
「東にある国とは懇意にしてますよ?」
こっちも殺る気満々ですね。
確か、娘はティルデ嬢だけでしたよね? 伯爵さまの家って。本人が弟が3人ほど、とか言っていた気がする。
「北側は任せて欲しい。」
ギルもギルで殺る気だ。
と言うか、ギルパパがその辺は手を回していそうだな。
クーデターじゃなくて、独立になるのかなぁ………。公爵領は穀倉地帯だったから、食料も問題は無さそうだし、海上ラインは伯爵家で封鎖も可能だろうし。
「そちらはお任せします。そして、近日中に我が家の商会も、王都を引き払う予定です。公爵家が謹慎するのなら、伯爵家がしないのはおかしいですよね?」
「まぁ、そうなりますか?」
怖いです。
大人二人が笑顔で握手までしてます。裏で何を解り合っているのか、怖いんですけど。
そして、すっかりギルとギルパパに感化されている私は、ハンゼルマン侯爵様が『討伐に向かいます!』と言って、騎士団の団員を引き連れて寝返るんじゃないかと思ってしまう。そうしたら、王都はスカスカだもん。簡単に落とせるっしょ。そうするかどうかは知らないけど。
「さて、これからは大人の話し合いになるから、フェリはご令嬢たちを安心させて欲しい。」
そう言われて、説明会をした商館の会議室から某貴族の別邸だった屋敷に向かう。ここは領主である子爵とは無関係の場所と公表はされているけど、ね?
まぁ大人の事情ってヤツらしい。
「遅くなって申し訳ありません。」
元婚約者のご令嬢が待つ屋敷に到着した。
打ち合わせをした商館からは徒歩でも5分程度で着く場所にあるから、馬車を出す方が時間がかかるのでいつもの通りに歩いてきたんだけど。
王都から馬車で半日ほど。
王都の隣の子爵領を通り抜けた先のこれまた子爵領にこの商館と屋敷は建っている。王都へ向かう途中に休憩場所や宿として利用したり、荷物を置いたりと様々な事で使っている。持ち主の辺境伯だけではなく、寄子の一部も。
「いえいえ、お待ちしておりましたわ。」
実に優雅にクロプシュ公爵家のヴィクトーリア様は言う。
「ランチは未だなのでしょう? 一緒にいかがかしら。」
有難い事である。
早朝に出発して、ろくろく朝食も食べていないんだ。きっと、向こうも食事をしながらの会議になっているんだろうな。ギルが限界だと思うし。
「ありがとうございます。」
と言う事で、今後の事を話しながらギルの到着を待つ事にする。
第二回登場人物紹介
ドーレス三姉妹
長女:パトリシア 愛称はパティ 26歳独身
商会の跡取りとして国外を飛び回っていた。
次女:アティカ 愛称はアティ 25歳夫と子ども2人
女伯爵として夫と共に領地を守っている
元々は彼女がジリアンの婚約者だった
三女:フェリシア 愛称はフェリ 18歳
この度、学園を卒業したジリアンの婚約者
このお話の主人公
次回の更新は、明日いなります。