02:大急ぎで家に帰ろう
R-15は保険。戦争になりそうなお話なので。
前もって準備はしてあったから、パーティーの翌日には王都を引き払う。これは、王都にある屋敷も商会も何もかも込みである。その為に準備はして来たし。
「さて、帰るか。」
とギルが言う。
今ここに、辺境伯の屋敷に残っているのは、最低限の使用人と後は護衛の騎士だ。残った荷物も最小限だし、下手に追手のかかる前に移動するに限る。屋敷は1週間後に買い取られる事が決まっているし。
既にウチの親は、私をギルに任せて王都から商会ごと領に引き上げている。ついでに王都にある屋敷は、かなり早い段階で売り払っていた。その方が高く売れるから、だそうだ。言い訳的には、娘が結婚するのでもっと広い屋敷が欲しい、と探させてはいたのだけれど、新しい屋敷はのらりくらりとして、決めていない。
そして、王都の商会で仕事をしていた人なのだけれど、希望者は領に移住するらしいよ。王都に移住する手続きは面倒なのだけど、王都からの移住はそこまでじゃないし。商会長が領主だからね、許可は出たようなものだし。
「そうね、さっさと合流しましょう。」
王太子殿下とその側近の婚約者は、昨日の夜のうちに王都を出ている。
家に帰らずに済むように、前もって準備だってしてきた。でもやっぱり、夜道は危険なので、護衛には辺境伯領の騎士をつけてある。その辺のごろつき程度じゃかなわないくらいに強いから大丈夫だろう。
「そうだな。急ごう。」
「そうね、不安になっていそうだし。」
王家に《影》が居るように、ある程度大きな家にも《影》はいる。
それだけじゃなく、昨日のパーティーの出来事は生徒とその婚約者から広がるだろう。下手したら、背びれも尾びれもついているんじゃないかな~。色々と工作はしていたからね!
情報収集だけじゃなく、情報操作も貴族の嗜みだ。
「親父もな、帰りを待っている。」
あ、それ、別の意味じゃん。
ギルの父親は、現国王の弟で、辺境伯令嬢と恋に落ちて婿入りした、と言う事になっているが、若干違うらしい。
真実の愛、とか言って長年の婚約者に罪を擦り付けて婚約を破棄した兄を見限って、いざとなったら独立が出来るような家に婿養子に入ろうと探していた時に知り合って、恋に落ちたのだそうだ。ギルが言ってた。
でも、本当に仲のいい夫婦でね? 憧れてしまう。
さて、昨日の夜はあちこちに手紙を書いたりと寝不足だったりするので、馬車が動き出してすぐに爆睡した。だってこの馬車、長距離の移動を前提にしているから寝やすいように作ってあるのよ。
「着きました。」
と声がして目が覚めた。
声をかけられたと言う事は、ギルも寝ていたのだろう。
「予定通りか?」
「はい。皆さまおそろいです。」
と言う事なので、これから話し合いに向かいます。
ですが、話し合う事も無く、ほぼほぼ予定通りとなりました事をお知らせします。
婚約破棄された令嬢で私の大切な友だちでもある3人は、このまま辺境伯領に向かいます。そこで、今後の事を状況を見ながら考える、と。
正確には、ギルが誤魔化しちゃったけど断罪がしたかったらしい王太子とそのゆかいな仲間たちと言いたくなるようなお花畑な側近が接触出来ないように匿う、と。
「これは、ほほ確だなぁ。」
とギルは言うけど、真面目にそうなるのかな。
実際問題として、王太子の婚約者は公爵家の令嬢、陰険メガネの婚約者は侯爵家の令嬢、脳筋の婚約者は伯爵家の令嬢だ。しかも、公爵様は国政に携わっていたりもするし、侯爵様は王都の騎士団の団長だぞ。敵にしたらマズいって、何で解らないのかな? あ、騎士に興味もないから知らないのかな。
そしてウチは伯爵家だけど、辺境伯領の隣なのもあって、辺境伯の先にある国々からの物流を一手に握っているんだぞ。その商会の利益は国の中で有数なんだけどな。同様に内海に大きな港のある伯爵家もだけど。
「確かに、何人かのご領主様もいたものね。」
そうなんだ。
今回の会談に参加したのは、婚約破棄された3家だけじゃない。
辺境伯領の周辺の寄子の領主こそはいなかったけど、かなりの数の賛同者がね? 領主ではなく、代理も含めるとかなりの人数だったんだ。特に公爵家の寄子だとか、侯爵家の寄子だとか。
確かに今の王家は求心力が無いからって言っても、国の3割程度はこの段階で辺境伯に賛同しているんだよね。辺境伯の寄子も含めてだけど。
マジか~って思わないでもないけど、男爵家出身で仕事が全く出来ずに余計な事ばかりする王妃様を母に持った王太子も婚約破棄だからね。今回のお相手は子爵家だけどさ、一応規定では、王家に嫁ぐのは伯爵家以上の令嬢なんだよね。
婚約破棄なんかせずに、婚約は解消か白紙にしてさ、伯爵以上の家に養女にする手配をするとか考えられなかったのかなぁ? 考えられなかったんだろうなぁ。
規定を2代続けて破る事になる訳なのだけど、その相手が有能だったら問題は無かったんだけど、現王妃様も問題ありだし、今回もヤバイ。
何がヤバいって、成績が底辺な王太子が選んだお相手が自分と頭の程度が同じときたもんだ。どっちも仕事が出来そうにないってさ、マズいっしょ。
「詳しい話は、家に帰ってからだな。」
とかギルは言うけど。
仕事の出来ないトップを持つ事になる王宮の文官は、これから苦労するんだろうな、と今更ながらに大臣を辞める事が確定している公爵様の部下を思う。今までは公爵さまが守ってくれていたものね。
ま、私には関係ないけど。
聞いた話だと、有能な文官さんは公爵様が引き抜いてから領に戻るらしいよ。どうなるんだろうね?
「確定なのは、公爵様が自領で謹慎、侯爵様はそのまま騎士団長でいい?」
その辺の話は出なかったのよ。
「そうだな。そう聞いている。」
と言う事はさ、いざ独立! とかになったら、集めた同志と一緒に『これから討伐に向かいます!』とか言って、人を集めて辺境伯領に向かいながら、こっちに付きそうだわ。
真面目にいいのかしら。
王都の騎士団よりも強い騎士が多い辺境伯領だけど、騎士の数が増えるのはいい事だ。数は力だから。
なんだかこの段階で、戦わずして独立出来そうな気がして来た。まぁ、その為に元王弟殿下、現辺境伯様は臣下に下った辺りから準備だけはしていたのだろうけど。
「公爵領も国境にあるから、騎士団があるよね?」
「あるなぁ………」
あーこれは確定。
何がって、この段階でチェックメイトしてませんかね?
この国の西側を守る公爵領は、国境である西側が高い山脈だから使える道も限られているとはいえ、騎士団がある。そして、領主の所の末姫様を愚弄されて怒らない騎士は居ないだろう。だって、一方的だったし。
本当に積んでる。
あの王太子って、何を考えてるんだろう?
子どもだって理解出来そうなのにね。
婚約破棄の話が書きたかったのに、全然違う方向に話が進んでいる気がする。
どうしてこうなった?
次回の更新は、21日の予定です。