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01:婚約破棄は卒業パーティーで

新連載始めました。

よろしくお願いします。

「人のモンだって解ってて手を出してくる女が健気な訳がねぇんだよ。」


 そう言ったのは私の婚約者であるジリアン・バンクロフト、辺境伯の嫡男である。

 口調! と注意したかったのだが、状況が状況だけに今日だけは見逃そうと思った。


「そんな簡単な事も解んねぇで、偉そうな事を言うな!」


 とご立腹なのには事情がある。

 つい先ほど、王太子とその側近による婚約破棄劇場が始まったのだ。

 実はこの国、現国王陛下が王太子時代、同じように卒業パーティーで婚約破棄をしたのだ。2代続けてはね、真面目にヤバいって。それに気付けない頭しか持たない王太子殿下だけじゃなく、その側近の頭もヤバいと思うんだ。


「「「は???」」」


 少し離れていても、会場は静まり返っていたしギルこと、ジリアンの声はよく通るので聞こえてしまったようだ。

 誰に、って?

 王太子殿下とその側近に、だよ。


「お前、何でここに居るんだ!」


 王太子殿下はお怒りのようだけど、王立学園の卒業パーティーは生徒だけの参加じゃない。

 婚約者のパートナーとしては参加が可能なのだ。だって貴族だもの、卒業時に婚約者がいない生徒の方が少ない。


「そりゃ、愛しの婚約者殿のパートナーとしてかな?」


 いや、だからそんなに挑発的な笑み浮かべて私の腰を抱いて引き寄せないで?

 王太子殿下だけじゃなく、側近も怒りでフルフルしてるからね?


「君は………」


 と言ったものの、私の名前は思い出せなかったらしい残念な頭の持ち主の王太子殿下は、隣に居る側近の陰険メガネの別名を持つ侯爵家のご令息から名前を教えてもらったようだ。

 お母様に似て、頭は残念らしい。


「お前、フェリシアに成績では1回も勝てなかったそうだな。」


 親切丁寧に余計な事をしてくれた陰険メガネ君に向かって私の婚約者様、ギルは言う。

 間違っていないんだよね、私、ずっと首席だったから。でもねギル。陰険メガネ君は1年の頃こそ成績を争っていたけど、3年になった今ではすっかりその影も無くなっていたからね。


「は?」

「事実だろ。フェリはずっと首席だったと聞いたぞ。」


 いやね、間違っていないんだ。

 帯剣していなくても、この3人くらい瞬殺出来るだけの実力がギルにはある。私でも、2人までなら何とかなるだろう。護衛だとか言って後ろに控えている脳筋だって、私にも勝てない程度なんだよね。辺境の住人はね、皆、強いのよ。魔獣出るし。

 でもね、でも、火に油は注がないで欲しかった。


「あ、そこの護衛もどきもフェリに負けたんだよな。」


 事実だけど。

 確かに事実だけど!!!


「もどき、だと!?」


 ほら、更に怒ったじゃん。


「女に手を上げるようなヤツは騎士じゃないからな。」


 それも事実だけど。

 事実だけどね?


 どうやら、この事を知らなかった生徒も多かったようで会場はざわついている。

 もうこれ、婚約破棄の方、とんでるよね? 意識は別の方向にいっているよね?


「騎士でもない、護衛にすらならない程度の実力だからな、もどきで充分だろ。」


 それはね、本当にそうなんだけど。

 この1年間を過ごしていたら、本当にそう思うんだ。あの3人の婚約者の避難場所が私だったからね。

 だから、途中でこっそりと視線だけで合図をしたから、あの3人の婚約者はひっそりと出口に向かっているだろう。まぁ、こうなった場合の時間稼ぎを請け負ったのは事実なんだけど、やり過ぎ感は否めない。


「それとも何? やる?」


 うっわぁ………挑発までしないで欲しかった。


「「「………」」」


 だんまりを決め込めるだけの頭はあったのね。

 失礼だけど、そう思ってしまった。


「あ、そうだ。忘れる所だった。なぁ、そのピンク頭の女のどこが健気なんだ?」


 いや、今ここで聞く?

 ま、いいけど。


「さっきも言ったが、人のものだって解っていて手を出す女は健気じゃないぞ。それからな、女に嫌われている女にはちゃんと理由がある場合が多いぞ。」


 は???? となっている王太子殿下とその側近2人、プラスギルの言うピンク頭のご令嬢の4人は呆気にとられているけど、凡そ間違った事は言っていないと思うの。

 最初の頃は印象操作で側近の婚約者たちの方が悪く言われていたりもしたけどね。でも、ちゃんと見ている人は見ているから、それも無くなったんだよね。私も悪いウワサを否定する方だったし。


「婚約者のいる男子生徒と仲良くし過ぎてはいけないって注意されたら虐められたってさ、被害者妄想が強すぎだろ。」


 私もそう言われましたが何か?


 その辺からブチ切れた私だけじゃなくギルまで関わっての情報操作が始まったんだけど。正確には、王太子が言っている事は違う、とね世論を動かし始めたんだ。

 学園内の出来事を大人は意外と知らないもので、その辺から始めた。駆け引きやら足の引っ張り合い、そして裏の取引や関係などを知らないままに、生徒同士は好き勝手にウワサするから。悪い意味での大人の真似事のウワサをね、書き換えたのよ。王太子殿下やその取り巻きの気付かない所で。


「当たり前の事を当たり前に注意したら問題視されるって、人の話を聞かない、イエスマンしか自分の周りには必要ないって言ってるようなもんだろ? 王太子さんよぉ」


 ギルがそう言ったら、その事に全く気付いていなかった生徒が騒めいていたんだけど。

 要するにそう言う事なのよ。自分にとって耳障りの良い事しか聞かないと同意語なのに気付かなかった生徒が多くいた事に驚きを隠せないんだけど。


「それにさぁ………、そのピンク頭の女の言う事は信じるのに、長年の付き合いのある婚約者の話を聞かないってさ、おかしいだろ?」


 繰り返される質問が自分に都合の悪い事だからって返事をしないのもどうかと思うけど。


「人の男を取るような女が純粋な訳が無いんだよ。それはよ、貴族だから平民だからは全く関係ないぞ。人としてのモラルの問題だからな。」


 そうなのよね。

 人のものに手を出した段階で、問題視されてもいいと思うの。


「それに《真実の愛》の相手を見付けたら、最初にするのは婚約者と話し合って婚約を解消する事だろう?」


 あ! と言う言葉があちこちから聞こえた。

 確かにそうなんだよ。《真実の愛》だとかカッコいい事を言っているけどさ、婚約者側からしたら不貞なんだよ。その事を隠そうとするから、自分の方が悪い事を認められないから、だからこうして罪を作り上げてまでの断罪をしようとしているんだもの。


「真実の愛だとかカッコいい事を言っているけどな、お前らのしている事は《不貞》だぞ!」


 きっぱりとギルは言い切った。

 同じように考えているのは嬉しいというか、何と言うか。その事に気付く事も無く、王太子の言い分をうのみにしていた連中は、その存在を記憶から消したんだよ、私。これ以上の付き合いはしない、ときっぱりと言ってあるんだけどね。まぁ、鼻で嗤われたけど。


「なぁ、婚約者以外の女とパーティーでパートナーとして参加するのは不貞じゃないのか?」


 実例を出しての説明に、納得した生徒も多数いた。

 つか、気付けよ! 遅いよ!!

 自分が婚約者にされたらさ、そう思うじゃん。


「どうせ婚約者にドレスすら送っていないんだろ。その金をそのピンク頭につぎ込んだんなら、公費の横領になるんじゃないか? 王太子さんよぉ。」


 いや、だから言葉使い!!!

 すっかり悪役ですね、どうもありがとうございました! って感じじゃん。


「さて、帰るか。」


 って!!!!!!!


「そうね。帰りましょうか。」


 そう私が返事をしたから、ギルは鷹揚にうなずく。

 もう面倒だし、さっさと帰ろう。彼女たちは会場からいなくなっているし。



 第一回登場人物紹介


*フェリシア・ドーレス(Felicia・Doles)

  愛称はフェリ

  辺境にある伯爵家の三姉妹の末っ子 18歳

  ギルは元々次姉の婚約者だった。

  長女26歳次女25歳で年が離れている。


*ジリアン・バンクロフト (Gillian・Bancreoft)

  愛称はギル

  辺境伯の長男  25歳

 


次回の更新は、17日になります。

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