暴食討伐戦
ゼーレはまだエネスの魂の中にライムがいると言ったが、魂に入ってきたのはライムの力だけだ魂なんかじゃないただの魔力だったはずだ……それともその魔力にも魂が宿ったのだろうか?
「それが本当でもライムは帰ってこない」
「それがもし、話せるとしたら?」
契約者は契約主に全てを与えたら何も残らなくなり喋る事なんて絶対にできないはずなんだ、それなのにゼーレは嘘をついている、いやゼーレにかぎって嘘なんて吐くのだろうか?
「話せるわけないじゃないか……契約主に全てを与えた者は灰となって消えゆく、誰もが知っている真実だ」
「じゃあこれは真実を変えた奇跡と呼ぼう、運の良いことに魔力を魂に繋げれば話す事だけはできるんだ」
そう言われて反射的に繋げようとしたがそもそも繋がる感覚が分からなかった、もう少し簡単な例えは無いのだろうか?
「繋げるってどうやるんですか?」
「そうだな、魔力を抑え込めばフックが自動で掛かるようになるって言えば良いのかな?」
「信じるからな」
魔力を抑え込むと最初はぶつぶつとなにかが切れる音がしたと思ったら突然何かの叫び声が聞こえた。
「うわぁっ!」
驚き転んでしまうと徐々にその声が自分に近づいてきてる気がしてゼーレに守ってもらう事にした。
「この声聞こえるか?」
「大丈夫か?」
「大丈夫だけど何かがおかしいんだ!」
自分の肩に一気に疲労が入ったような感覚に加え頭の中で自分の悲鳴や鳴き声が聞こえた。
(絶対に欲なんて持たないで)
とても少ない文で誰かにそう言われた、それはライムでもなくゼーレでもない。
突然ゼーレとエネスは黒い空間に落ちた、それは何年か前にエネスが能力を手に入れた時と似ていたのだ、だがあの時は眠っている時に手に入れたのに今回は無理矢理感が強かった。
「これはなんだ!」
「わ、分からない!」
地面が見えないが終わりが来た、地面に落ちると痛くはなかったが目の前が見えない何も見えなくなってしまった。
「怪我はないか?」
「大丈夫だけど、子供の頃ゼーレはこんな空間を見た事がある?」
「こんな?……そうか、能力を手に入れる時の!」
「そうだね」
2人はすぐに気づき前に進んだ、2人はどこに進んでいるのかがよく分からないがとにかく歩いた、すると2人の前に能力が表示された。
「第二の能力?」
黒い板にはこう書かれていた。
セーブロード:ある条件でロードする、この能力もある条件で消える
そしてゼーレの方にも同じ事が書かれていた。
「これは、ゲームの世界なのか?」
「それはないはずだ」
この能力はまるでこの世界がゲームだと言っているかのようで気味が悪かった、強い能力であることは確かなのだが自分が好きな能力とは言えない。
「とりあえず俺はこの能力を手に入れるよ」
「私はいらない」
2人がそういうとエネスは入手できたがゼーレは手に入れなかった、もったいない気もしたがそれなりの理由があるのだろう、そこらも考え詮索しようとするのはやめた。
(期待どおりだよ)
また声が聞こえたがきっと幻聴だろう、そもそも期待されても自分は凡人だ何もできやしない。
新たに板にはこう書かれた。
不死のアップデート完了
「アップデート?」
「……」
この暗い空間に扉が現れ外に出ようとしたがゼーレがまだ来ない。
「どうした?」
「え、あぁ何でもないよ」
きっと何かを見たのだろう、そんな反応だった。
2人は外に出ると大罪の住む館の前にいた、周りには兵士がたくさんいてシペティアもいた。
「どこ行ってたんだ?」
「よく分からないところだった……後もう少しで入るのか?」
「そうだ」
あの時は何故か中にいる状態であまり緊張感だとかがなかった、やはりライムがいたからだろう。
(なんか忘れてる気がする……ライムか!)
魔力を抑え込んでみるとさっきと同じで何かが切れる音と同時にライムの声が聞こえた。
(何であんな能力を取ったんだ!)
「急にどうした!?」
迫真の演技なのだろうか?今まで怒らなかったライムが今初めて怒ってきた、ブチギレている。
(エネスはこの世界を滅ぼしたいのか?)
(だからなんでだよ!)
(いや、いいよどうせそんな気はないだろうし)
(お、おう)
やっと話せたというのにいきなりこんなふうに言われてはこちらも困るというものだ、きっと昔のライムの友達にこの能力を使って何かしたかされたのだろう。
「どうだライムと?」
「話せましたよ!」
「元気そうで良かったよ、あと少しで中に入るが準備はできたか?」
「できました」
「なら良かった」
ゼーレは他の兵士達の所に行き励ましているようだ、世界にはこんなに優しい、聖人のような人間はいないだろう。
シペティアは今まで短剣だとかを使っているのだろうと思っていたがスティックのようだ、そのスティックはほぼ鉄で作られていてもしかしたらあれで相手の頭を潰したりもしているのだろうか?
「これから中に入るぞ!」
扉が開くと皆が矢などを警戒して盾を構えた、これなら安全に中に入れると思っていた……奥から聖龍がこちらに突進してきて今の一瞬で半数の兵士が死んでしまった。
「皆んな、あれは暴食の印が刻まれている!交渉はするな!」
「嘘だろ!?」
「団長撤退しましょう!」
こうしてる間にも兵士は食い殺され続けている、抵抗しようとしても聖龍をみると魔力で圧倒され気絶し踏み殺される、全滅するのも時間の問題だろう。
「エネス逃げろ!」
シペティアはやはりこんな子供に戦場は向いていないと思ったのか逃げるのを許可してくれるようだ、これは自分が英雄にならなければいけない戦いのはずであり王の意見や兵士達の死んだ理由に逆らってまでもという事は、自分の責任を捨てたのだろうか?
という事は殺される事を自分でも理解しているのだろう。
(今は従って逃げたほうが身のためだよ)
「分かったよ……」
逃げようとすると信者達がエネスの首を一突きで殺害した。
(そうだ!俺には不死がある、俺だけが戦えば!)
と思ったが体が再生しない、普通だったらこの時にはもう立ち上がっているのに……
目を覚ますと時が戻ったようにゼーレが自分に話しかけている場面から始まっている。
「どうだライムとは?」
「え、あ、あぁ仲良くやってるよ」
「なら良かったよ」
ゼーレが去ろうとした時あの夢の事を言ってやりたかったが、死闘をする前に言うものでも無いなと思い今はまだ言うのはやめておくことにした。
(エネスって面白い妄想するんだな)
(え?)
(いや聖龍に皆んなやられちまうなんて、この戦いにそいつは関係ないぜ?)
(ふっ、そうだよな!)
自分で考えてもライムの言った通りそんな事ありえないんだ、だってこの前館の中に入った時はあんなふうに扉の目の前にいた事はなかった。
「中に入るぞ!」
(さっきの夢、この景色と似すぎだよな……)
エネスはこの戦いの主役だが一応あの夢が正夢になったらすぐに逃げられるように後ろに避難した。
扉を開けるとあの夢と同様聖龍の姿が見えた、きっと自分が1番最初に見えただろう。
「皆さん伏せて!」
魔力で聖龍の頭を包み大爆発を起こしたが鱗の白さは少し茶色くなる程度で全く効いていないようだ。
「皆んな、あれは暴食の印が刻まれている!交渉はするな!」
「嘘だろ!?」
「ありがとうなエネス、あとは任せてくれ」
ゼーレの持つ大盾で聖龍の足を砕き鱗がぐちゃぐちゃになり苦しそうにしている。
「メイス担当は鱗を砕き、魔法担当は石弾で目を潰せ!」
剣士達は魔法担当に魔力を出せる限り支援してメイス担当は微力ながらも鱗をくだけている、ゼーレは足を中心的に使えなくしようとしている。
「ありがとなエネス、もしできたら支援してあげてくれ」
「任せてください」
聖龍も足を重点的にやられもうあまり歩く事はできないだろう、聖とついているのにヒールも使えないらしい。
聖龍の喉が光り始めると皆が思ったとおり炎の息をゼーレに強くレーザーポインターのように噴き出すと、それをカウンターされた、今気づいたがゼーレの能力はカウンターというかなりしょぼい能力であった、いやだがゼーレの能力は確か言霊だったはずだ、という事はあれも努力で身につけた特技なのだろうか。
「そこの酒をよこせ!」
「受け取ってください!」
兵士が安いワインのボトルをゼーレに投げ渡すと聖龍の口の中に投げ入れ体の中から燃えていった。
「離れろ!」
シペティアが皆に忠告すると剣の風圧で10メートル吹き飛ばすと聖龍は爆散して内臓やらが飛び散った。
「よくやった!これだけでとても凄い功績だが、次こそ大悪魔だ!」
「やったー!」
「生きてるぅ⤴︎!」
皆が大歓喜していると奥から以前出会った洗脳されているのか壊れてしまった少女がこちらに向かって走ってきた。
(気をつけろよ、今の俺は外に出られない……あいつはお前じゃ勝てるか分からない)
(でも暴食にはあれだけやれたのに?)
(あの時は覚醒状態……成長期の突然変異状態だったんだし仕方ない)
そう言われるとあの時の力は普通の感情だとかでは出さないのだろうか?
それはそれで少し自分に自信がなくなるというものだが納得はできる、アニメの中でもよくそういう覚醒はあるのだからそれと同じ状況だったのだろう。
「やっと私の出番だな」
シペティアが石を投げつけるとどんどん加速していき少女の頭を貫いたと思ったのだが、大剣で弾かれてしまった。
「そのスピードじゃ私には追いつけないぞ!」
シペティアの体には風元素が満ち溢れ、素早いスピードで少女の首を断ち切ろうとしたがまたも大剣で防がれてしまった。
「貴方は才能、お菓子にもなれない憎まれる人」
「じゃあお前は主人様の奴隷だな」
兵士とは違って名誉ある事をしているわけでもない、大義名分すらも持てないような戦いをしようと少女はしているのだ、それにこの少女は大悪魔の意見しか耳に入れることのないただの奴隷である、シペティアはよく頭が回る人間なのかも知れない。
「もう私は戻ることができないから戦う……奴隷ではないよ」
「そうか、良い夢を見れるようにな」
魔法兵がこの少女は死体であると気づいたのか魔力の熱線を放ち少女を灰にした。
「同情はせずに進むぞ」
「はい……」
この館に入った時も異形という人としての尊厳を奪って作り上げたかのような、敵意のない兵士である存在もいたが自我を持っていて殺すのには罪悪感しか必要ないと思う、あの異形達も生きているのが全ての面で辛く殺してからと言っているかのようだった、あの光景を思い出すと暴食の非道さがよく分かる。
「やはり館だからなのかすぐに着いたな」
ゼーレが躊躇なくライム同様扉を蹴り破り入って行った、誰も普通に扉を開けるという事ができないのだろうか?
(普通に開ければ良いのに……)
「かかってこいや!外道野郎ぶっ殺してやるからよ!!」
あんなに紳士と言えるような人間が何故こんなにも怒り、今までの性格とは180°離れたような姿になってしまったかはよく分からないが、それほどまでに憎んでいる事がわかった。
「えぇ……扉また壊したの?」
「知るか、このクソ野郎が!」
自分で壊したくせに知るかと言われて暴食も困っていた。
「もういい」
ゼーレが大盾を暴食に投げつけると、暴食はただ何とか抑えようと試みたが手は切れ吹き飛びその大盾は地面に落ちたがゼーレがその大盾を魔力で操り上に持ち上げ降下する勢いと共に暴食の体を魔力壁を貫き大打撃を与える事に成功した。
「魔法兵よ、奴の魂すらも残さず自分たちのやり方でズタズタにしろ!」
皆が石や雷などを使わずにただ魔力の熱線を暴食に何度も放ったせいなのか煙が立ち上がり何も見えない、地面が揺れているのは分かるのだが音がしない。
「動くな」
ゼーレの言霊で何人も動く事ができなくなった、これで煙が消えるのを待つのだろう。
「今の時代の人間は弱いな」
(エネス避けろ!)
ライムに忠告されると誰かに腹を切り裂かれてしまった、それは大悪魔ではなく突如現れた信者による行為だった。
「また信者か……」
「だからいつも言うだろ!外部を気をつけろと!」
「これは想定外で……」
この光景を見て大悪魔は嬉しそうにしていた、人の不幸やら何やらが好きなのだろう。
また時間は戻り今度はゼーレが扉を蹴り破ったところから始まった。
「かかってこいや外道野郎!ぶっ殺してやるからよ!」
(本当にロードされてやがる……)
きっと今度は言霊を放つのを止めればいいのだろう、いやそれよりも煙が立ち上がった後に霧を起こして煙をなくせばいい、煙よりかはまだマシだ。
「ゼーレ、この戦いで言霊は使わないでくれ」
「え、なんで?」
「止まれなんて言ったら信者が殺しにくるからだ」
「そろそろやろうぜ!」
暴食も今回の相手なら勝てると思い闇属性の魔法を兵士達に螺旋状にして放つと石や魔力を巻き込み体に当たれば必ず貫通するような魔法を放ち、ゼーレが大盾で防ぎ何とか耐える事ができた。
「できそこないのくせにやるじゃないか」
「盾を持っているのに防げなければ意味がないからな」
もしかしたら魔法兵が攻撃をして先ほどのようになってしまうんじゃないのかと思い、すぐに動くのをやめさせた。
「魔法兵達はこの戦いに参加せず近接戦闘に向いてる人達だけ戦ってください!」
エネスがそう言うと数人が子供だからと嫌味を言っていたが、地獄絵図を見るよりかは全然マシだ。
「何でだ?」
「ここには砂が大量に撒かれていてすぐに煙ができてしまうからです!」
「……頭良いな!」
兵士達は理由を聞くと全員が賛同し、剣士が主に大悪魔に切り掛かりに行ったが魔法兵も数人戦いに行った、魔法兵は戦うなと言って賛同したくせに行ったのだから死んでも仕方がないと呆れていると剣を生成し戦っていた。
(皆んな強いな、歳の差かな……)
二十人ほどが1人に対してかかっていくが、大悪魔は斬られても再生してさらには爆風で兵士達を吹き飛ばし数人が重傷を負う、これでは時間の問題だろう。
「後は任せてくれ」
ゼーレが自分の腕を切り血が垂れると、その血は大量の魔力となり盾に吸収された。
これの能力は誰かがこの盾に触れると相手は赤黒く粘り気のある魔力で覆われ瞬時に魔力は固まり、それが割れると相手の魂には大きなダメージを与え、自分の体は動けないほどの苦痛に襲われると言う聖人らしくない能力だった。
「1分だけだぞ!皆離れろ!」
「分かってるさ」
エネスはこの状況がよく分からなかった、2人はあの技について知っているがエネスからしたら呪いを使ったなんかヤバい技にしか見えない。
「何あれ?」
「血に流れる大量の魔力で相手の魂を粉々にする技だ!あと二回で大悪魔を殺す事ができる!」
兵士の言う通り皮膚が破れれば直接魔力が魂に流れ、魂から全てを破壊する事ができる。
能力を聞くとエネスの今持っている能力はセーブ/ロードだ、そんな能力よりも強くかっこよく少し妬んでしまいそうだった。
「凄いな」
少しの間ゼーレと大悪魔の盾と剣が弾きあっていたが、盾の端が大悪魔の指に当たると0.1秒の瞬間に大悪魔の体を赤黒い魔力で覆い固まった。
「やったぞー!!」
兵士達は歓喜しているがエネスとライムの2人は不気味に思っていた、大悪魔という名前を持ち今までどんな非道な事をして討伐しようと国が派遣した冒険者も殺してきたような勇者あるいは奈落級冒険者を超えた存在がこんなので負けるはずがない。
(気を抜くなよ)
(そうだよな)
魔力が割れると確かに体にはヒビが入り息をするのも頭に邪魔され苦しそうだ、これは普通に拷問レベルには酷い技だと思う。
「痛い……痛いじゃないか」
きっと数分はまともに動けないだろう、そんな相手に対してゼーレが殴りかかったのかと思ったが頭を優しく撫でてこう言った。
「止まれ」
これはゼーレの能力の言霊だ、大悪魔ほどの存在には弾かれ効かないはずと思っていたが相手は今自分が死ぬかもしれないという恐怖と昔のようになんの目標も叶わぬまま死ぬのを目の前にした絶望感で涙を流してしまった。
「何か言いたいことはあるか?」
「そこのライムの親友は必ず次の大悪魔を殺しに行くだろう、いや殺さなければいけない理由ができるだろう……だがそこまで辿り着くまでには必ずお前は堕ちる、だから大切な人を作れ」
ゼーレも暴食という肩書きを持つ大悪魔にも叶えられなかった事があるのは知って鼻で笑った、きっとジーパはエネスに同じ末路を辿って欲しくなかったのだろう。
「だとよエネス……ジーパ、お前にも理由があってあんな事をしたのだろうが罪は消えない」
「分かった、今まで食ってきた罪を反省するよ」
「そういうところが嫌いなんだよ、子供の頃の事は感謝するよ」
盾に付いた血をジーパに垂らし彼の魂がガラスのように割れる音が響くと皆は大歓喜し抱き合っていた。
「生きて帰れるぜー!」
「死人ゼロとかどうなってんだよ!」
皆が和気藹々としている中エネスもまさかこんなにあっさり終わるとは思っていなく少し嬉しい気分だった。
「ありがとう、俺のためにこんな戦いをしてくれて」
「大丈夫だよ……俺だって自己満足のために暴食と戦ったんだ」
ゼーレにそう言うといつもの笑顔とは違って、悲しい雰囲気も感じる事ができたが自分の偉業が奪われたと感じるような奴ではない事は知っていて、きっと他の何かであるとは分かったが聞くのはやめておいた。
「そういえばライムに聞いて欲しい事があるんだけど」
「良いよ」
「どうして暴食が自分の能力を使わなかったか分かる?」
エネスから見てもじゅうぶん強かった暴食が能力を使っていなかったと思うのは少し無理があったが、戦っていた人間が使っていなかったと言うのだからそうなのだろう。
(あいつは能力に頼るのが嫌いだっただけだ)
(て事は使ってなかったの?)
(使われてたらここにいる全員死んでるさ)
その通りで周囲の魔力すらも食い尽くしてしまう能力なのだから、皆の素早さも筋力も全てが奪われて普段の10倍の弱さになってしまう、簡単に言うと人の真の力で魔王に勝つというようなものだ。
「えっと……能力に頼るのが嫌いだったらしいです」
「その理由を言われれば勝った気がしないな」
ゼーレも理由を聞くと持つ理由のない罪悪感が現れ少し嫌な気分になったが今は自分のした偉業を誇らしく思えば良いと思う。
「それでも勝った事実は変えられないからさ」
「いや、勝ったのはエネスだぞ?」
「そういえばそうだったね、周りの兵士達もそれは知ってるの?」
「当たり前さ!」
「それもそうか」
エネスの大犯罪を本当は怠惰の加護を持つ少年に行われた行為というのを広めるために世界的に広まる話題とともに流そうという事で戦ったのはいいが、勝った人物がエネスになるのはこれこそ罪悪感があった。
「おめでとう皆んな、じきに記者達が来るから少し休んでいてくれ」
「そうさせてもらうよ」
ゼーレは館の外に出たがエネスはまだここにいる事にした。
(なぁライム……俺に大切な人なんてできると思うか?)
(エネスの人生を見てて思うが、トラウマもあるし無理だろ)
(だよなぁ……あいつ俺が堕ちるとか言ってたけど、不安だわ)
さっきの暴食の言葉をつい思い出してしまい、聞いてみても他の人間から見れば大切な人ができるのは無理だと言われ怖くなってきた。
「こんにちは」
隣から自分に向けて挨拶を言われ返そうとすると、そこには数年前誘拐のように家の中に連れて行かれ、何かをしてきた女の人だった。
「久しぶりですね!どうしてここにいるんですか?」
(そいつから離れるか頭を吹き飛ばせ!)
ライムが必死にそう言っていたがこの人にそんなことする必要が分からなかった。
「私……実は実家に帰っている最中貴方を見つけたので気になってついてきました!」
「そうなの?危ないし次からはやめた方がいいですよ」
至極真っ当な事を言うと女の人面白そうに綺麗な笑顔を見せた、その瞬間エネスは他の何でもない一目惚れをした、こんな感覚は初めてで少し緊張してきた。
「うーん、分かったわ」
「なら良かったです」
(お願いだ離れてくれ!)