リアルに追いつけない
少年の能力が時間停止と聞いて終焉級と言うのも納得がいき、その能力を使えばいつの間にか殺されていたという今までの事も納得いくが、そんな能力が存在すればきっとこの世界はこの少年のものになってしまうだろう。
まだ転生したばかりだというのにこんな酷い目に遭ったエネスだがこれは、試練なのだろう。
「勝てるわけが……」
「いや、君は死ぬ事ができないんだから勝てるかもよ?頑張れよ」
上から目線でいてあの人数を殺して心を痛めていないこの人間であるはずの少年には腹が立つを変えたような謎の感情が湧き始めた。
「お前が同族って考えただけで寒気がするよ」
「勝手に同族扱いするなよ」
この流れからしてまた切られると考え魔力壁を全体に貼ったが、魔力壁は無かったかのようにいつの間にかまた殺されていた。
(無理だよ、俺じゃ)
遠くでエネスの首が落ちるのを怯えながらライムが見ていて、エネスはライムがとても強い事は知っていたがこの少年はそれ以上に強い事を知っていて、手を出さないのだろう。
蘇生するとキリがないと思ったのか少年はどこかに行こうとしていた。
「どこ行くんだよ」
「殺しても意味ないし他の人を殺しに行こうと思うよ」
(ただの殺人鬼じゃないか)
先ほどまでは自分のことだけ殺さずにいて、何か理由があるのかと思ったが特に無さそうでこんな奴は生かしておいたら絶対にダメな気がした。
「なら俺と外でやりあおうぜ」
「ふっ……良いぞ」
エネスが勝つ方法を思いついたのか外で倒す事にした。
外に行くと包丁を持ちため息を吐きながらエネスを見ていた。
「ライムは下がっててね」
ライムがどこかに行き少年と少しの間睨み合いまるで、侍と戦っているような感覚だった。
(今だ!)
瞬時に濃霧を作り出し短剣を構え切りかかったが、またエネスはズタズタに刺されてしまった、きっと時間停止をしてその間に刺されてしまったのだろう。
「いってぇ!痛ぇ!痛ぇ!」
(でもこれが成功すれば!)
エネスが少年の方を向きニヤけた、そこに映っていた光景は少年が氷弾で10発以上は撃ち抜かれた姿が映っていた。
少年はあんな所に封印されていたくらいなのだから今まで誰も殺し方が分からなかったのだろう、だが能力が分かればこうも簡単に倒せてしまうようだ。
「ふっ……黎明戦に君のような優秀な人間がいればどれだけ良かった事か……」
「死ぬ時くらい自分の罪を悔め、そして地獄に落ちちまえ!」
起こった表情で少年に言うがあの虐殺をこの殺人鬼が悔やむはずがないだろう、と考えればより悲しみが自分を追い込んでいく。
「はぁ……俺ってどうやって生きていけば良いんだろう」
皆を殺され父親は大遠征に向かい頼れる人が今近くにいない状況で、両親を殺された先程の少女よりも絶望を味わっているかもしれないが、それでもあきらめてはいないようだ。
「なぁ、ライムはこんな俺についてきてくれるのか?」
「面白そうだしついて行くよ」
「そんな理由で?」
「それに君は僕の友達だから!」
まだ何もしてあげられてないと言うのにともだちなんて言われれば、なんだか申し訳なくなってきて泣き出してしまった。
「友達らしいこともしてあげられてないよ?」
「僕が友達って思ってるんだ、エネスもそう思ってくれよ〜」
確かに契約をしているだけの関係はエネスも好きじゃ無かった、だからこそ友達になってくれと言うのは願うまでの事もなかった。
「そうだね、ライムは僕の友達だ!」
「だからと言って死にたくないから契約は解かないでよ?」
「そりゃ大丈夫だよ」
する事もなく家に帰ろうと扉を開けようとしたが少し躊躇した。
部屋の中には母親の死体があり、見れば病んでしまうような気がしたんだ、いやそこまでは考えていないだろうがただ死体を見るのが嫌だった。
「今何歳?」
ライムに聞かれるまで自分の歳なんて気にした事がなかったが、この世界が融合する前まではちゃんとそう言う大事な文化は忘れずにいて、転生後もそこだけはきっちり数えていた。
「11だよ?」
(エネスならなんとかしてくれるよね)
「なら旅に出ない?」
実際のところ、旅に出る平均年齢は15〜20からなのだが帰るところのないエネスには都合の良すぎる。
(マジ疲れるわ、過労死するかもな)
「旅?別に良いけど自信ないぞ?」
「まぁなんとかなるっしょ」
「それもそうだね」
何もせずに酷い人生を送るよりかは旅をして退屈のない人生を送りたいというのもあった、だが本当なら大人がいれば必死に止めるべきなのだ。
(でもこの年齢で旅してる奴見た事ないな)
そんな事を考えてしまったが、自分が死んだ後のエネスの空白の5年間の間に何かがあったのかもしれない、そう考えることにした。
(きっと死んだ後の数年にそういう考え方は消えたんだろう)
今の2人には行く所がなかった、皆が旅をする時必ず終点を作るのだがこの世界にそんな場所があるかすら分からない。
「じゃあ行く所どうする?」
「って言われても……」
ライムが亜空間から地図を取り出し右端の方を眺めていた。
「いつ覚えたん?」
「契約した時にいつの間にか」
「便利すぎるだろ」
地図をどこで手に入れたのかよりも亜空間の方が気になるようで、契約をすれば手に入れられるなんてのはエネスが読んだこの世界の魔法や契約の種類等の本にも載っていなく、もしかしたら転生者の契約者という特権で手に入れた能力の可能性があった。
「めっちゃ遠いけど、エンゼルトなんてどう?」
「いや存在するの?」
「本にもよく載ってたでしょ?普通に存在するよ」
「じゃあ行ってみようかな」
エンゼルトとは王都に1番近い、夢の国。
そこは3000年前にエンゼルトという男が親友達と作った魔法陣が暴走した時になんやかんやあり、皆同じ空間に飛ばされて出したい物を自由に出せる空間を作り出しその魔法陣を最小限まで小さくした物を書き写したキューブを売りその後も王や様々な富豪達と商売を繰り返し、今ではエンゼルトという国のホテルでそれを効率的に使った部屋や地域があるらしい、ホテルの中に地域と聞いた時エネス自身想像がつかなかった。
何故夢の国と言われるかというと、痛みも感じず疲れも感じずただ幸せを味わう事しかできないかららしい、そのぶん金もかかる。
夢を見るために金がかかるというのは随分と酷いものだ。
(俺なんかが金集められるのかな)
「じゃあライムはもう入ってて大丈夫だよ」
そう言うとライムは自分の腹の中に飛び込んだ。
「なんか今日はいろいろありすぎたな、本当は夢だったりして」
そうだったら良いなを思いながら地面に寝転がり夜空を眺めていると、いつの間にか眠ってしまった。
朝になると眠る前と風景が全く違く、何かに運ばれている様な感覚だった、手に何かがはめられている気がして見てみると手錠だった。
「はい終わったー!人生終了!」
辺りを見るが誰もいないし光が松明しかない、何故こうなったか考えたが全く分からなかった。
「ここは……馬車の中か?」
この空間が揺れている事に気づき、それにここにはエネスとライムしかいないということはライムに逃がしてもらえば結果オーライと言うものだ。
(ライム!マジ助けて!)
(あっ……そういうことね)
エネスの腹からするんと出てくると手を何故か飲まれ、何やっているんだと言おうとしたら手錠だけが無くなっていた。
「食ったの?」
「なんかいけた」
(なんでも食えるやん)
この馬車の扉をライムが見つけ体当たりしたがびくともしなかった。
「どうするよこれ?」
「う〜ん壊すか?」
「それが良い!」
脳筋パーティーなのかエネスの提案が通り自分で言ったことなのにもっと良い案はないのかと思った。
天井に魔力の熱線を当てると快晴の空が見えて希望しかなく二人はほんわかした笑顔になった。
「よし!逃げるか!」
ライムを抱え天井を登り辺りを見渡すと馬に乗った兵士や、一人だけとても強そうな仮面を被った白色のロングコートを着た男がエネス達を眺めていた。
「あいつ逃げる気だ!」
1人のモブ感満載の兵士がそういうと何人かがライフルを抱えこちらに打ってきた。
「痛いって!マジでぇ!」
反射的に魔力壁を出したがそれを貫通しエネスの腹に当たった、殺傷性が無いのか貫通する事は無かったが血は必ず出ている。
「お前ら何故打った!まだ疑っているのか!?」
白いロングコートを着た男が皆にそう言うと冷や汗を流しながらライフルをしまった、きっとエネスが何かを犯したとは思っていないのだろう。
「ですが生存者は少年しかいなかったのですよ!」
「他の者の可能性を考えろ……すまなかったなウチの兵士が」
エネスにあの隊長であるはずの男が自分にした行動について謝罪をしてきたが、勘違いなら仕方ないと思い今回は許す事にした。
「大丈夫ですよ〜アハハ〜」("死ね")
「エネス、そろそろタイミングを見て逃げよう」
ライムが本題に移してくれて頷き、少しの間天井から外を見渡しがどこも兵士しかいなく逃げられる所が見当たらない。
悩んでみたが特に良い案は思いつかず実行すれば半分の確率で死ぬ時の痛みよりも痛い目に合うかもしれなかったが、これ以外に可能性はなかった。
「どうした!」
エネスがライムを掴み腹の中に突っ込み警戒する気は0にして足にだけ今使える魔力を全て使い、湖の方へと吹き飛んでみた。
(成功してくれ!)
そう願うと湖の外側に上手い具合に突っ込み水が自分の事を叩きつけて痛かったが我慢できないほどでは無かった。
(最近痛い目に合いすぎだろ!)
浮かび上がるともう既に剣士のような者は湖の側にいてエネスを探しているようだ、何かを決断したようにその剣士は剣に雷を纏わせた。
(まさか!)
エネスはさっきの事もあり水中で魔力壁を硬く貼ると、その剣士が湖に剣を突き刺し雷が水の中で暴れ回り魚が浮かび上がりエネスの魔力壁は崩壊寸前だった。
(大丈夫か!)
(なんとか)
外を見てみたが剣士の姿は見えなく陸に上がった。
「ふぅ〜!」
一息吐くと魔力壁が何故か割れた、後ろを振り向くと先ほどの剣士がエネスに切り掛かり今度は突き刺そうとしてきた。
「死ね悪魔憑き!」
「悪魔憑きぃ!?」
きっと生前のように変な言いがかりをつけられているのだろうと考え、今回はクラスメイトではなく宗教が関わっているのではないのかと思った。
「どう言う事だ、俺は悪魔になんて出会った事すらないぞ!」
「ただの少年があの人数の人間を殺せると思うなよ!」
やはり周りから見たらエネスが村の者達を殺した判定らしい、それもそうだろうあそこで生き残っていたのはエネスだけでまず最初に皆はこんな少年がこの人数を殺せるのか?と考えるが、悪魔に憑かれ皆を殺してしまったと考えたのではないのだろうか。
「俺じゃない!本当だ!」
そう言ったが聞く耳を持たずずっと短剣とロングソードで戦っていて、徐々にエネスが押されていく。
その光景を見ていてライムが見ている事ができなくなったのか、クリスタルを板のようにして兵士にぶつけた。
「あ、おい」
ニコニコの悪い予感が的中する5秒前のようなセリフを言った直後兵士の事を見て死んだんじゃねぇのか?と思ったが気絶しているだけだった、もしもこれが近衛兵だったら死刑だろう。
「これは流石に俺たちが悪いぞ!」
「ギリ正当防衛」
「無理無理」
相手は兵士でこっちは無名な子供とモンスターだ、正当防衛なんて言えば虚偽として権力に負けてしまうだろう。
「とりあえず地図くれ」
「よーし」
ライムが亜空間から地図を取り出しこの辺りの地形を見てみたが、どうやらここは実家から離れた街付近らしい。
「じゃあ街行くから中入っといて」
ライムに腹を向けると飛び込み魂の中に入ったようだ、街までそう遠くはないのだが兵士がいつ来るか分からなかった。
(眠っといてくれよ)
何事もなく街に着くとそこは村とはかけ離れた存在のようで、綺麗で大きなビルが建ち魔道具屋も洋風感は少しあったものの村と比べれば近代的だった。
「融合した後の世界ってなんか嫌だな」
コンビニだとかは無いのだが近代的で平成の地球と、文明の進んでいない西洋風の世界が融合した世界はなんだか違う気がして好きにはなれなかった、そもそもあんなギルドだとかを運営してるザ・異世界を漂わせた父がスマホを弄っているのも異常なのかもしれない。
「旅人……なのか?」
老人が驚いたような顔でエネスを見てそう聞いてきた、何故驚いているのかは知らない。
「そうですけど?」
「……そうか、名前はなんと言う?」
「エネス・ルペラです」
エネスの姿を突然よく見始め、何かに気づき悲しそうな顔を浮かべこう言った。
「そうか、これから人に名前を言うんじゃないぞ」
「え?うーん……あぁ!ありがとうございます!」
(そっか俺追われてるんだった!)
(エネス馬鹿なの?)
きっと自分が追われてる身であることに気づいたが、こんな少年がそんな大犯罪を犯したとは信じられないのだろう、実際やってないというところもあるが。
そしえ今この瞬間ライムの中ではエネスって案外馬鹿なんじゃね?という考えが生まれた。
この街を歩いていると何故かやけに写真を撮られる、気がするではなく実際に撮られているのだ。
「ねぇ〜お姉さんと写真撮らない?」
「良いっすよ」
この図を見ただけだとショタとお姉さんの薄い本試し読み版の最初らへんにも見えなくはなかった、もしもエネスの顔が皆に知られているのであればこれはかなりまずい事だ。
写真を撮り終えると手を振りどこかに行ってしまった、エネス達も何か新しい武器を買いたくなった。
(装備買いに行くか)
剣も防具も何でも売っていそうな鍛冶屋に入ってみた、やはり予感は的中しただ鉄を打っているだけでなくちゃんとこの鍛冶屋は値段表とともに剣や防具が売られていた。
店主はいないようだ。
「どれにしよっかなー」
今思い出したが今の2人は無一文のまま鍛冶屋に入ってきたんだ、やっている事はただ商品を見にきただけのしょうもない奴にすぎない。
何とかならないのかと無料の何かを探してみると、部屋の隅に雑に入れられた剣や防具が置かれていて、そこには墨で書かれたかのように0円と書かれていた。
(良かったー!無一文の冷やかし野郎になるところだった!)
面白い武器は無いのかと漁ってみたら、短剣なのかロングソードなのか曖昧な大きさをした剣と、透明な宝石のはまった小さな杖があった。
「二つにしちゃおっかな」
一応二つをカウンターに置いて店主の姿が見えなくベルを押してみた。
「誰かいますかー?」
「いますよ……」
か細い声が聞こえて店の奥を覗いてみたが誰もいなかった、辺りをキョロキョロと見てみたが誰の姿も見えなかった。
「いますよね?」
「ここです、ゴメンナサイ」
カウンターの下から声がして覗いてみると、ロリコンからしたらたまらないような少女が申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ていた。