真の英雄①
何故かずっとこの女の人の事に対して忠告をしてくるライムが鬱陶しくなってきて魔力を抑えていたが一度魔力を抑えずいつもと同じ形で魂の中の魔力を循環させた。
「それでは、僕は団長達の所に戻りますね!」
あの時に自分のストレスを無くしてくれた恩をどう返すか悩み張られたテントに近づくと、腹に痛みを感じた。
後ろを振り返ろうとすると首をナイフで刺され何かを発する前に死んでしまった、確か今はセーブ/ロードの能力を持っていたはずだがなかなか過去に戻らない、確かある条件でこの能力が外れると書いてあった気がする。
(痛みが引いていく、この感覚は……不死か?)
エネスの本当の能力とも言える不死が帰ってきた、これでもう過去に戻りやり直す必要もない。
「え……」
この場から急いで離れようとすると女の人がナイフをエネスの頭に突き刺そうとしているのが見えまた死ぬのかと覚悟すると、ゼーレが上から降ってきた。
「休む暇もないな!」
「無理しなくて良いよ」
まだ疲労感が滲み出ているゼーレには3日ほど休んでほしいくらいなのにも関わらず、また自分を助けるために現れ少し罪悪感よりその優しさに同情してしまいそうだ。
「ごめんなさい……私じゃこんな子を殺す事はできない……」
いきなり泣き崩れ始めて周りから見たら泣かせたのがゼーレのようで今すぐにこの修羅場からゼーレだけを無くしてやりたかった。
「傲慢よ、テントの中で話をしないか?」
「いやいきなり傲慢って失礼だよ」
この女の人に会った中で一度も傲慢であると思った事はないのにいきなりそう言われて可哀想になり言ったが全く2人とも動じてはいなかった。
「それは後で話すからさ」
「うーん……」
三人がテントの中に入ると女の人はナイフを捨て敵意を無くしている。
「それで、何で傲慢の大罪であるお前がここに現れた?」
「七凶帝の……暴食にエネスを殺せと言われて」
今知ったのだが彼女は傲慢の大罪であって七凶帝と言う何者かに命令され自分を殺しにきたのだと、ただ一つ思ったことがあったのだが殺せないと殺した後に言うのはやめてもらいたい。
「またか?今度そいつらは何を企んでいる?」
「きっと今は、私とライムの親友であるエネスを教会の反逆者として殺そうとしているところでしょう」
なんとエネスは協会に対して自分から関わりに行ったわけでもないのに殺されるらしい、さすがに理不尽でそこを訴えればもしかしたらその七凶帝との衝突は避けられるのでは?と考えそれを聞いてみることにした。
「でも僕は何もしてないじゃないですか」
「本当だったらそれで解決されるはずだったんだけどね、リーデデモ隊に同罪だといろいろ言われて仕方なくって感じ」
七凶帝も最初は皆と同じ意見だったらしいが、そのデモ隊が関わり結局は殺す事になったらしが自分が何をしたと言うのだろうか。
「そんな仕方なくで殺されたくないっすよ!」
「だよねぇ」
「助けられるなら助けたかったが、諦めてくれ」
あんなに助けてくれたゼーレも今ではもう助けてはくれないようだ、まぁ犯罪者に仕立て上げられたわけでもないし自分の国に関係ない事だ、正義感があっても自分が死んでは正義も何もないからきっとこれ以上は関わってくれないだろう。
「俺もこれ以上は迷惑かけられないからなるべく解決できるようにはするよ」
(そっちの方が罪悪感もないしな)
関わってくれなくても今までもらった恩は計りきれない、自分のためにここまでしてくれたんだ。
これからは些細な事やこの国の命運が左右される時だけ頼ることにしようと誓った。
「じゃあ後はこの国に任せてくれ、そうすればエネスの冤罪は世界中に知れ渡るさ」
「やっとなのか……今までありがとうな、またいつかこの国に戻るよ」
「そうしてくれると私も嬉しいよ」
「そようなら」
大悪魔を倒すまでにかかった時間はとても少なかった、ありえないほどにだ。
まぁ相手が手加減した油断で死んでくれたんだありがたい、ただこの事を知っていればもっと早くに殺せただろうにライムはこういう時に役立たない。
(次は城下町を回ってみるか)
館から離れ城下町へ向かっていて一つ気づいた事があった、それはまぐれや気のせいではなく何か意図あっての事だろう、それは傲慢の大罪の名を持つ大悪魔がずっと自分についてきている事だ。
エネスはまだ気のせいだと思いながら城下町まで進んでいるがやはりずっとついてくるのだ、道の外に出て止まるとやはりそこで止まった、これは確信犯だ。
「あの……ついてきてます?」
「えっと、すみません……実は城下町を一緒に回ってくれたら嬉しいなって」
彼女はエネスに好意を持っているのか分からないがただ一緒に城下町を回りたいだけと言っていた、ゼーレと話している時も敵意などはなかったが連れても良いのだろうか?とライムは思っているがエネスはもちろんOKだ。
「俺なんかに?全然良いですよ!」
「ありがとうございます!」
彼女はそれを聞くととても綺麗で可愛い笑顔を見せた、これを見ると大悪魔なんて名前相応しくない気がしてきた、それとも初恋相手の笑顔は全てそう見えるものなのだろうか?
「そういえば貴方の名前は?」
「私の名前はルニア・シェルネっていうの」
「可愛いルニアさんには似合ってるよ」
そう言うとルニアは頬を赤嬉しそうにこう言った。
「ありがとう、でもちょっと恥ずかしいかな」
「ハハハ」
城下町に着くとスケートボードに乗った人や大きな魚を捌く人などの様々な良い個性で溢れ栄えていた、相変わらず魔道具屋や装備屋などはあり、異世界と融合したというのがよく分かる。
「とりあえず魔道具店に行きたいんだけどルニアもついてくる?」
「もちろん!」
城下町を歩いているとやけに見られている気がする、エネスが見られているのは理由があるとしてもルニアが見られているとなると全く分からなかった。
魔道具屋に入ると突然矢が飛んできてシールドを貼ろうとしたが間に合うはずがなく、それを察したのか咄嗟に手を出して守ってしまった。
「いた!うわぁいってぇ!」
手に矢が突き刺さったままで抜くとさらに肩が押し寄せてきたがヒールを一度かけると痛みはあるが、何故か痛みが痺れのようになり耐えられるようになってきた。
「大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ」
ルニアが涙目になりエネスにさらに効果のあるヒールをかけて穴が塞がった、痛みがなくなり剣を構えて店の奥を見ると店員も涙目になりこちらを見ていた。
「え、エネスさん!すいませんすいません!」
何故こんなに謝られるのかが分からなかった、そんなに早く情報が回るはずがないと思っていた……のだがスマホがこの世界にはありZもあるのだから情報がすぐに拡散されるのは当たり前だろう、きっとこの店員は英雄に矢を当ててしまった事をまずいと思い謝罪しているのだろう。
(何でこんな必死に謝るんだ?もしかして大悪魔討伐したってのがもうこんなにも拡散されてるのか?)
「いえ元は酷い冤罪をかけられていたのですし仕方ないですよ、ただ今後は躊躇なく人に打ってはいけませんよ」
状況をすぐに理解できたがこの店員のさっきの行動は非常識としか思えなかった、だって店に入ったと思えばいきなり頭を狙って矢を放ってくるのだから、ただそれでもここで騒ぎを起こしても意味がない。
「分かりました、ありがとうございます!」
「ハハ」
(いつかこいつ絶対人殺すな)
そんな事を思っていると驚いた顔をしてルニアが口調も表情と似すぎた話し方で言ってきた。
「優しすぎるでしょ!」(小声)
「そうかな?」
きっとエネスは死に過ぎて死への恐怖をあまり感じなくなってきているのだろう、生前人らしく生きていたいと思っていたがここまで来るとそんな事はもう忘れてしまっているだろう。
「そうよ!」
「まぁ俺にはそれくらいがちょうど良いさ」
「うーん……」
きっとルニアは納得し難いのだろう、エネスも自分がそこまで優しいとは思っていなくルニアとは違いそこが納得し難い点ではある。
「店長もこの件は無かったことにしたいでしょうし何か一つ無料で貰ってってください!」
店長がどんな人なのか分からないがこの女の店員は少し自分勝手な人に見える、本当に貰ってもいいのだろうか?
だが店員が貰えと言っているのだからこの好機を逃すわけにはいかないという事で何か一つを貰うことにした。
「じゃあ……この石を貰ってもいいですか?」
「はい!そのルーンは自分の杖に吸い込ませる事で自分の人生を5分にまとめて作る事ができます!」
この世界ではスマホなんかよりも技術が発達した動画があるのかと感心していて思ったのだが、昔の真の住んでいた星と融合した星リンワットでの戦力差は真の住んでいた星の方が上だと思っていた。
だがリンワットには魔力壁や兵器さらにこの世界の要とも言える魔力がありまず勝てるわけがないと思った。
証拠に自分の人生を五分に収め作る事ができるルーンがあるのだからまだリンワットの底力は想像しようとしても想像できないほどに恐ろしいものなのだろう。
「それは凄いけど、高かったりしない?」
「元から安価ですが、本当によろしいのですか?」
(これが安価?融合前の俺が住んでた星でこんなのあったら数億円で取引されるぞ!?)
まだ嘘説を推しているエネスだが今はこの店員の言葉を信じてこの動画を貰うことにした。
「なら買います」
「ありがとうございます!」
魔道具屋を出ようとするとルニアに肩を優しく叩かれ何か言おうとしているのかもしれないと後ろを振り向くと、そこにルニアの姿はなかった。
「……は?」
第一声がこれだったのだが今までも何回かわけの分からない悍ましい体験をした時は必ずこの声が出た、きっと今回もろくな事ではないだろう。
「すみません、僕の隣にいた女の……」
今まで喋っていた女の店員も目の前から消えていた、これは誘拐なのかドッキリなのかよく分からないがきっとエネスの事だ、前の話題で出ていた七凶帝の仕業だろう。
(ドッキリか?いやまずはできる限り魔力の跡を追うか)
周りの魔力が可視化するように自分の魔力を抑え目を凝らし地面を見ると、魔力の跡は地面に留まったままでこれではどこへ行ったかが分からない。
「何だよこれ……初めて使ったからか?」
今度は自分が狙われているんじゃないのかと辺りを警戒しているとどこからか声がする。
遠くからでもなく近くからでもないような、それはまるで頭の中で響く親友のような音が聞こえた。
(エネス……エネス!)
「ライムか!」
自分から声が聞こえないようにしていたのに少し失礼な事をしていたと思っている、何故かって?それはずっとライムという親友の事を忘れて魔性の女の声を優先していたのだから、ただし言い方が悪いな。
そうだ魔性の女ではなく転生後に自分のストレスを無くしこうして一緒に城下町を回ってくれた友達、こっちの方が聞こえは良い。
(別に俺の声はいつ切ったって許す、今はそれよりもあの2人だ)
「その事なんだけど、魔力の痕跡がなくって!」
エネスは焦り少しヒステリック気味になりかけているが自分でも何とか抑えている、そんなエネスを見てライムも優しい口調で話すことにした。
(焦らず焦らず、地面を見ずに自分の腰と同じ位置の1メートル先を見てみろ)
言われた通りにして見るとちゃんと魔力の痕跡が残り魔力の薄い残穢がルニア達の居場所へと誘っているのが見えた。
「見えた!」
(初めてにしては良いじゃないか!さぁ後はこの痕跡を追え!)
「ありがとう」
ルーンを握りしめて魔力の跡の最後まで超加速して城下町を駆けて飛び回っていると、兵士が数人エネスに向かってきているが今職質やら何やらをされて2人が危ない目にあっていたらと考えるとなおさら捕まることはできない。
(これは、今からでも遅くない引き返そう)
突然思ってもなかった事を言われ残念というより驚きの方が強かった、なんせライムも2人を見つけ出すことは賛成してくれているような雰囲気を出してくれていたのに何故今更と思ったが一度理由は聞くことにした。
「なんで!」
(七凶帝の魔力が漂ってるんだ)
「だから、七凶帝ってなに!」
風の音でよく聞こえなく大声で喋っていると、上から何者かにライフルを3発左足左足右目と趣味の悪い打ち方をされ全弾当たり、今まで生きてきた中でかなり上のランクには入る痛みだった。
(避けろ!)
指先が凍り始め爪が割れてしまったが痛みはじわじわとしかこなかったがこれもかなり痛い。
「イッ!!!タッ!」
痛みを言葉で具現したように叫ぶと口の中が炎で焼かれどう表せばいいのかも分からない、唯一例えられるとしたら拷問のような痛みだった。
(……)
今この世界で1番痛みを味わい叫びたいはずなのに何も声が出せなかった、こうして何とか立っていようと我慢していたが膝をつきその場で倒れてしまった。
(不死の……効果で)
不死の効果が効くはずなのに何故かまだ発動されずにいた、その理由は簡単でまだ死んでいないからである。
「……」
作り出した岩で自分の頭を潰そうとすると誰かがその岩を吹き飛ばした、正体は……と普通なら見えるはずだったが片方の目がやられもう片方も今は痛みで目を開けていられない。
(エネス……体を借りてもいいか?)
(もういいよ)
(俺が出れればこんな目に遭わなかったのにな……)
エネスの服装が初めてジーパ(暴食の大悪魔)と戦った時と同じように昔の騎士団団長の服装になり、きっとライムがエネスの体を借りて再生させたのだろう もう痛みは感じない、いや痛みはライムがずっと耐えているのだろう。
「お前が七凶帝か?ふっ……大悪魔達の真似っこでもしてるのか?」
そう煽り口調で何もいないはずの空に言うと、雲が揺れてだんだんと顔が浮かび上がってきている気がした、きっと敵は元素など様々なものを操れるのだろう。
(敵は元素操作だ)
(勝てる?)
(さぁ)
最初はライムなら勝てるはずと思っていたが帰ってきた言葉を聞くと不安になってきた、相手は元素を操ると言う事は空気中に漂う魔力全てを扱う事ができるのだから。
敵がライムの顔を風元素で吹き飛ばし爆散させたがすぐに頭が再生していたのだがエネスも不死の能力は持っているがここまで再生は早くないのだ、そもそも死ねば普通の人間は再生なんてできないはず、と言う事はライムは人間離れした速さで再生させているのだろうか。
(相変わらず凄いな)
(そりゃ開祖だし)
錬金術で今立っている屋根のレンガを使ってピストルを作り出し、この素材だとどんな弾を打っても1発しか耐えられないだろうと考えライムの魔力で魔力弾を1発放つと空では爆発が起き花火のように散った。
雲は消えたが腕が折れていた、それを言おうとしたがすぐに再生してこの戦いで自分から助言する事なんてあまりないのかもしれない。
(本体はここにいないな)
今の一撃で辺りに魔力が満ち溢れていて敵の魔力を探すのはかなり困難な事だったが、最初に見えた敵の本体の魔力を辿ればまだいる可能性はある。
(一度城に向かうよ)
(まだいると良いけど)
前に集団で城の中にワープした時のように自分の事を黒い外套で包みそれが破けるともうそこは城だった、近衛兵がこちらが身構える前に槍を向けて威嚇していた。
「時間がないんだ」
皆を魔力の膜の中に閉じ込めライムはどこかに進んでいる、力強く地面を踏み込むと階段は割れて地面は靴と擦れ焦げてしまう、ただそれほどの速さで魔力を辿っているおかげですぐに2人の元へ行く事ができた。
「よぉ、悪魔ども!」
きっとライムは最初から気づいていたのだろう、かなり昔にライムが開祖の教皇だった頃に生み出した悪魔達だと言う事は、だからここまで本気になって居場所を突き止めてくれたんだろう。
「エネスに殺されないよう気をつけろよ!」
(え?戦ってくれるんだよね?)
(これ以上は魂使うしやだよ)
魂は魔力の流れる人の最重要の部分、というよりかは魂は存在していないのだが今持っている魔力を使いすぎると今度は魂を使う、魂を使い切ると自分の体は結晶となり破裂してしまう。
皆魔力を使っている感覚は分かるがどこに魂があるのかは誰一人として分からないままだ。
「分かったよ、俺が戦う」
姿がいつも通りのエネスに戻ると敵は七凶帝が姿を現した、姿は無表情のまま涙を流した少し不気味さを漂わす少女だ、これを殺すとなると少し気が引ける。
「すまないがその女の子を返してはくれないか?」
「やだ」
「でも誘拐する必要はないだろう?」
ルニアの顔を見ると眠っているようだ、体に傷はなく安心はできたがこの少女がこれから何をするかが分からないというところには心配しかない。
「ルニアを私達に返してよ」
「返してって、ルニアが大罪チームに行きたいなら自分から行ってるでしょ?」
「帰ってこないんだもん」
少女は顔を下に向けきっと悲しい表情を浮かべてルニアが帰ってこないのは最初から知っていて、さらにまともな論で言われて返す言葉もなく絶望を前にして悲しさがさらに増しているのだろう。
「そうだよね」
「分かってくれたのか……」
さっきはあんなに自分の事を切断してきた奴には見えないほど可愛かった、ただいまはそんな事より戦闘にならずに良かったというのがエネスの心の中ではそれが1番だ。
「じゃあ返してくれるか?」
「セイギに聞いてみるよ」
この子は返すつもりがあってもセイギと言う者はまだこの場にいなく渡すかも今はないのかもしれない。
「大丈夫、僕はここだ」
4歳の頃親が読ませてくれた本にはセイギと同じ服をした勇者がいたのだ、つまりセイギが勇者の服を着て自分の前に現れたと言うわけだ。
「貴方がセイギさんですか?」
「そうだね僕がセイギだ、エネス君……君は初恋相手を救いに来たんだろう?」
「え、いや初恋相手って言うか!」
何故恋していたのがバレたのか分からないが少し恥ずかしくなったが、すぐに正気に戻った。
「ふっ、実は僕も誘拐する理由はないんだ」
(今回はすぐに終わりそうだな)
相手に誘拐する理由はきっとデモ隊にあれこれ言われ誘拐しただけだろう、ならば誘拐して殺した事にしてくれれば全て丸く収まる。
「でもねこんな機会普通はないんだよ……君もルニアも僕の経験値になってくれ」