第六章 静かな告白
夜の公園は、静かだった。
木々が風に揺れて、わずかなざわめきを生む中、ふたりはベンチに腰かけていた。
誰もいない芝生の広場が、時間をゆるやかに流していく。
「今日……話せてよかった」
美由紀がぽつりとつぶやく。
「わたしも」
レナは微笑んだ。
それだけのやりとりなのに、不思議と胸がいっぱいになる。
沈黙が心地よい。こんな夜がくるなんて、昔の自分には想像もできなかった。
•
ふたりはたった今、互いの“怖さ”を言葉にしたばかりだった。
美由紀は、自分の弱さや、愛されたいと願う心の奥を。
レナは、変化を恐れる気持ちと、それでも美由紀のそばにいたいという想いを。
どちらも、形のない告白だった。
でもそのすべてが、嘘のない言葉だった。
「レナ……」
美由紀がふいにレナを見つめる。
その視線の奥にある揺れと決意を、レナは受け止めようとする。
「わたし、あなたのこと……」
言葉が途切れる。喉の奥が震える。
でも、今だけは、言わなくてはいけない気がした。
「――好き。恋愛として。……女性としてのわたしを、ちゃんと見てくれてるあなたが、好き」
レナの目が、ほんの一瞬だけ揺れた。
けれどそのあと、彼女はまっすぐに美由紀を見つめ返した。
「美由紀。わたし……ずっと前から、そうだったと思う。
どんな名前のときよりも、“いまの美由紀”を一番好きでいる、わたしがいるの」
静かに、言葉が空気の中に溶けていく。
ふたりは、それ以上何も言わなかった。言葉がいらない時間が、そこにはあった。
•
別れ際、レナは美由紀の手を握ったまま、そっと言った。
「ねえ、また今度――
ちゃんとふたりで、どこか遠くに行かない? ただ、わたしと、美由紀とで」
「……うん。行きたい。あなたとなら、どこでも」
見上げた夜空に星はなかったけれど、ふたりの足元にはたしかに、やわらかな光が落ちていた。
それは、“ふたりでいる”という選択を、静かに肯定する光だった。




