消えた村人
長老が話始めた。
「昭和63年3月1日に大里という男が洞窟に入ったまま帰ってこないんじゃ」
阿部祐一は長老の話に耳を傾け、メモを取りながら彼の言葉をしっかりと記録していた。長老の話は次のように続いた。
「大里はあの日、何かに取り憑かれたように洞窟へ向かったんじゃ。普段はそんな場所には行かない男だったのに、不思議なことにその日はまるで何かに呼ばれるようにしていたんじゃ。翌日の3月2日、赤いジムニーが村から消え、大里も戻ってこなかった。そのジムニーは村で一番大事にされていた車で、皆が大切にしていたんじゃ。」
阿部はその話に引き込まれながら、石版の解読に戻った。彼の目は石版に刻まれた文字に集中していたが、頭の片隅には長老の話が引っかかっていた。もしかすると、この石版には失われたジムニーの手がかりが書かれているのかもしれない。
「われは まるはち はなわやすみや やみたいわいない」
この古代文字の一節に何か重要な意味が隠されていると感じた阿部は、さらに解読を進めた。石板の次の部分には、洞窟の中で何が起きたのかを示唆するような記述が続いていた。
「やみのなか ひかりのむこうに まるはちのしるしを もとめよ」
阿部はその文を読み終えた瞬間、何かが閃いた。大里が洞窟に引き寄せられたのは、この「まるはちのしるし」を求めてのことかもしれない。そのしるしがジムニーと何か関係があるのかもしれないと思った。
「長老、この『まるはちのしるし』について心当たりはありませんか?」阿部は尋ねた。
長老は少し考え込んだ後、ゆっくりと答えた。「その言葉、昔の伝承に出てくるものと似ておる。『まるはち』は村の守り神の象徴として古くから伝わっておるが、具体的な場所や物については誰も知らん。ただ、洞窟の奥深くに何かがあると言われておったが、それが何であるかは誰も知らんのじゃ。」
阿部はその話を聞いて、次の行動を決意した。彼は洞窟の中に入り、「まるはちのしるし」を探し出す必要があると感じていた。それが失われたジムニーの謎を解く鍵であるかもしれないからだ。