娘として…母として…全てが終わる日へ
エルミエとセヴィエ、パルラミル女騎士団、ジルベール王党派の戦いがオンディーヌの森でアルビラの差し向けたファルラン騎士団達が集結。
パルラミルは新たな復讐の終演に向けて動かしていく
パルラミルは出産後はレティシアから送られてくる書簡でぜヴィエとエルミアの旅の話と戦い、そして近況を頼もしくまた心配しながら読むのが日課になって、体調が戻るまでその時を待った。
実はセヴィエとエルミエをアフェルキアで出会うようにそ画策したのはパルラミルで、息子がエルミエに魅了されるのはすでに想定内だった。
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もはや情報源としては得られないアルビラの元を離れた旧王党派のジルベール達はアルビラの暗殺指示から身を守る為に、旧市街地のスラム街の娼館の地下で隠れていた。
ある時になじみの娼婦から客から渡す様にたのまれた手紙を手渡される。
ジルベールは貰った手紙の封を切り読み始めた。
途端に顔色が変わる。
あり得ない相手からの物だったからだ。
「王党派の方々
お久ぶりですね。
まだ旧ヴェレイアル王国の再建を夢見ていますか?
どだい無理だったのですよ。
宮廷は賄賂と収賄で腐敗していて大抵の貴族達は平民を虫けらの様に考えていた。
フェレイデン帝国が乗っ取らなくても他国の侵略をうけて滅んだでしょう。
貴方達は新しいフェレイデン帝国にその身を捧げませんか?
貴方方は私の子供達に会ったでしょう。
どうですか?
あの子達は貴方達の新しい君主に相応しいと思いませんか?
あの子達はこれらら新しい世界の担い手になるでしょう。
そうなるように育てました。
私は旧ヴェレイアル王国の裏切り者です。
そんな者の言葉を真に受けるかどうか。
信じるかどうかは貴方達の考え方次第です。
私がヴェレイアル王国国王を死に至らしめ、国を売り、貴方達の身分をはく奪しました。
なのでこの提案は信じられるものではないでしょう。
しかし再起をかけるには彼らは十分に値すると思いますよ。
このままフェレイデンでどこかの金持ちの愛人になるか。
男娼か娼婦の紐になるか。
違法な職業について身を崩すのか。
考えてみてください。
もしこの話に乗るのなら、オンディーヌの森を目指し、ファルラン騎士団と戦ってください。
必ず貴方達に栄光と祝福を贈れるでしょう。
私の子供達が必ず約束するでしょう。
すべては女神ディアの導きのままに」
皇后 パルラミル・ディア・フェレイデン
「まずは旧王党派のメンバーと志のある者だけを揃えよう。
数はかまわない。少なくてもな」
ジルベールが断言しルクレール男爵が動いた。
「まったく あの元王妃様は魔女だな。
俺達がどう出るのかお見通しだったわけだな。
やっぱ魔女だ。」
ラメット伯爵が呆れた様子で言った。
確かにそうだとジルべールは思った。
三人はオンディーヌの森へエルミエ達と合流しファルラン騎士団と戦う為首都を離れた。
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「皇后陛下はこの度この度の妊娠出産は身体に負担がおおく不調の原因になっておられます。
静かに静養されましたなら問題ではございません」と。
「わかった静養を許可しよう」
「君と離れるのは寂しいが。
健康のためだ。
しかたない我慢するよ」
宮廷医長の進言を聞いた後、皇帝はパルミラルの額にキスをして部屋を出た。
退出したから医長は薬を皇后に渡す。
「あとどれくらい動けますか?」
医長は悲し気な様子で言葉をつまらせながら言う。
「皇后陛下 あと三か月くらいかと……」
薬を口に流し込み、強い瞳で覚悟を決めた。
「これでしばらくは宮廷は静かになるでしょう。
罪は私にあります。
陛下には私からお話しますので……」
医長はお辞儀をしてそのまま退出した。
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その夜皇后の私室を訪ねる男の姿があった。
「こちらはこちらで動かないといけませんね」
「えぇ 予定通りに」
「合図はどうしますか」
「宮殿の中庭にはいつも薔薇の花を飾っています。
決行日はその前日の薔薇は白色にします。
あの花は必ず私が直接侍女に色を指定しますから大丈夫です。
丁度宮廷が静かになる十七時頃がいいでしょう。
皆晩餐の支度であまり気を止めたりしなから
その時は宮中は静かでしょうよ」
「かしこまりました」
「あなたにとって辛い日ですね」
「それは陛下も同じでございましょう」
「もう辛いなどという感情は死んでしまいました
もうすぐ全てが終わる。もう少しで」
男は少し苦笑いを浮かべてお辞儀をして去っていった。
侍従長を呼びに内密に呼び言った
「内密に陛下の所へ参ります。
今夜」
深夜の宮殿は暗く静まりかえっている。
廊下にヒールの音さえ響きやけに恐ろしく思える。
皇帝の寝室はさすがに近衛兵が扉の前で待機している。
皇后の歩みは止められない。
当然のようにノックして入る。
「皇帝陛下」
まだ書類を寝台に広げた皇帝は目線をその声に向ける。
「体調が悪いと聞いている。
どうした?」
優しく傍に寄って来たパルラミルが寝台に腰をかけると優しく肩を抱きしめる。
「無理はしてほしくない。
愛しい君。
私の夢は皇太子に譲位して君とゆっくり過ごすことさ。
どうだい?」
耳元で囁くように優しく言った後に軽く首筋と頬にキスをする。
パルラミルは自分の手を皇帝の手に置いて握りしめた。
皇帝の手はぶ厚くて安心する。
この手にいつも頼ってきた。
あの日からいつも一緒に。
あの日からこれまでも。
「お願いがあります。
これから起きる事をだまって見ないふりをしてほしいの」
皇帝は少し考えて大きな両手でパルラミルの頬を包みこんでしっかりとその瞳を見つめている。
「何を黙って? 何か手伝う事は?」
パルラミルは皇帝の肩を抱いて耳元で告白する。
「…………ファルラン騎士団……聖パルミラル女騎士団……オンディーヌの森……宮中内………」
「わかったよ。なにが起きても君を信じてる。
何もかも終わったら二人でゆっくりしよう。
何をしようと君を信じている。
そして愛しているよ」
パルラミルは黙ってセビェイの指を握りしめた。
静かな夜の時が二人を見守る。
そして翌日の早朝皇后は離宮を目指し内密に宮殿を出た。
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決行日は近いベルナードは今度こそ決着をつけなくては…と。
合図は中庭の過敏に白薔薇が飾られた翌日の夜の深夜。
しかしその打ち合わせの日に皇后は倒れ緊急に離宮へ静養に出た。
その時に連絡もない。今もない。
女官長の同行も間に合わないほど。
えっ!!
もしかしたら…その可能性は?その…。
その答えは正しいのか?わからない確証がない。でもその考えが引っかかるんだ。
否定できない自分がいる。
頭を上げて水しぶきのかかった髪をかきわけていると目に留まる。
中庭の東屋に置かれた薔薇を生けた花瓶。
皇后が言っていた薔薇の花。
そういえば思い返すとあの日からこの花瓶に生けられていた薔薇は深紅から日を追うごとに色褪せていった。
毎日見ていたから確かだ。
色彩は日々薄いピンク色へと変化していった。
今日はもはや限りなく白に近いピンク色だ。
ベルナードの脳裏に確証の二文字が浮かび上がる。
不敵な笑みを浮かべながら下女にある伝言を残し意気揚々と中庭を去った。
ほのかに浮かび上がるその人は見覚えがあるここにいないはずの人物がそこにいた。
まるで導かれる様に。
突然皇后陛下の不在中の宮殿に急に内密に訪問してきたアルビラの服装は明らかにおかしいものだった。
地味な綿のグレーのワンピースは泥で汚れ所々シミがありエプロンも黄色く変色している。
髪の毛が見えないように綿のキャップの帽子を被っている。
「どうなっているの!?」
宮殿の裏門にある使用人の通用口は買収した衛兵がおり、その者の交代時間を見計らい伝書鳩を飛ばしてレオナードを呼び出した。
まったく予期しない訪問者にベルナードは目を見張り言葉が出てこない。
「帝都に出ようとしたら、当分の間通行禁止の命令が皇命が出ていると。
どうなっているの?」
激しくベルナードをなじるアルビラは肩を激しく揺さぶり鬼の形相で息子を睨んでいる。
「…ど…う……って……何があったん…で…す?」
ベルナードも困惑してアルビラをまっすぐ見ているその姿に本当に知らないのかと確信を得る。
この子が私を裏切るなんてありえないわよね…。
帝都を出るには高い壁に通用門がありここを通らない事には市街の外には出られない。
「とにかく一旦私の部屋へ」
周りを見廻し人影を確認しながら、アルビラを中へ招き入れる。夜の帳が二人を隠してくれる。皇后宮は主人が不在の為に下女もほとんど残っておらず静かなのが助かった。
薄暗い湿気の強い通路の先には調理場があり更に続くと長い廊下に出る。
やはり人影はない。慎重にアルビラと廊下を歩き私室の前まで足早にかけると扉を開きなだれ込むように部屋に入り鍵を締めた。
「何があったのです?」
帰ってきた答えは予想はしていたが、出来れば聞きたくない一言だった。
はやる心臓の鼓動を知られたくない。なんとか心を落ち着かせる。
「アーサーがファルラン騎士団全滅と。皇太子、エルミエも生きている。聖パルラミル女騎士団まで出動していたと。おそらくアーサーは死んだわ
お前は何をしていたの!
皇后は知ったのよ。私達の計画を
もう終わり。早く逃げなきゃ」
殺される恐怖計画を狂わされた怒り悔しさにガクガクと小刻みに震え目は血走っている。
滑稽だな散々人にしてぃて自分に降り掛かるとは。自業自得だとなんだか笑えがこみ上げる。そんな素振りは見せない。
「しかし皇后宮は何の変化もありませんでした。
帝都で兵が動いた形跡も。近衛兵も通常任務です」
アルビラもそこが合点がいかない所だ。ことここに至ってなんの動きもない。
確かに奇妙だった。
「通用門の閉鎖はフェレの諜報員が城内に潜伏して、逃走し重要な機密が漏洩たからと人は噂してい
たわ。
あなたは何も聞いてないの?」
「えぇ。今は皇后陛下がいらっしゃいませんから。
内宮には連絡がないだけかもしれませんが。
離宮には行っているでしょう」
「そうね。どちらにしても逃げなくては、計画が失敗した時の為にフェレと繋を取ってきたわ。
国家機密と一緒にね。
フェレの国境に金銀を隠しておいたし。
このドレスに宝石を縫い付けたわ。しばらくどうにかなるわ」
ベルナールは呆れを通り越しある意味の尊敬すらする。その貪欲さ醜さから自分が生まれた事実に自分へ憎悪すら感じる。
「それはさすがです。早速逃亡の計画をたてないと。」
「そうね」
「まずはこちらにいてください。案を考えてから行動しないと」
「ええ。でも早くね。さすがの皇后も私が宮殿にいるなんて思いもよらないでしょうね」
あいかわらず勝手な人間だと怒りで顔が歪みそうになるが、後ろを向いているので顔は見えない。
「たのんだわよ。我が息子」
アルビラの言葉はレオナードの心を強く刀で突き刺す。
いまさら息子?ふざけるな馬頭したかったが今は諦めるしかない。きつく拳を握りしめて耐えぬいた。
扉を開けて部屋を出る。
「えぇ母上」
吐きそうだった。
吐き気で頭がクラクラする二度と口にする事を誓った言葉を無理やりに吐いた衝動でだ。
気分を変える為に中庭の噴水場に出る。
豊かに噴き出す水の塊に向け、頭を差し出すと雪解け水の冷たいが熱い頭を冷やしていく。
強烈に冷たい水は心地よかった。水は顔にかかりながら、これまでの経緯を順に整理する。
真夜中の二十四時に再び部屋に戻り、アルビラと共に皇后のプライベートエリアを音もたてずに目指した。
ベルナードの後ろをアルビラが歩く。
出来るだけ足音を立てずに真夜中の廊下は暗く所々蝋燭がともされているとはいえ薄暗い。
昼の豪華できらびやかさは息を潜めて暗く陰湿さも感じる。
アルビラは顔をショールで覆う。ここで見つかったら全てが台無しだ。
呼吸する息もためらうほどの緊張が襲う。
その足は内宮の奥にある皇后のプライベートエリアにかなり近づいてきた。
この先にどう逃亡するのかと不審に思いながらも他の方法が思い当たらないので息子についていく。
皇后の居間、ダイニングを抜けてついには寝室までたどり着く。
さすがに主人がいないとはいえベルナードは皇后の寝室に入るのはかなり戸惑った。
しかしそうは言っていられない。
「さあ。いまから皇帝陛下の寝室と繋がる秘密の通路を通ります。
その通路は火災や皇室に危険が及んだ際の外部との避難ルートになっていています。
そこから逃亡します。
外に馬を用意していますので安心してください」
「ええ。これでなんとかなるわ。よくやったわ」
アルビラは安堵して少し緊張の糸が緩む。
ベルナードがクローゼットの扉を開けると普通の空間の下板を外すと、下に続く階段が見える。
「暗いですから気をつけて」
ベルナードがアルビラの手をとり、ゆっくりと下へ進む。
明かりはなく真っ暗で壁をつたいながら進むと階段は終わる。真っすぐと通路がある。
「ここは皇帝夫妻の秘密の寝室への通路です。
まっすぐ進むと皇帝陛下の寝室に上がれます。
途中に左にある扉は海側に右にある扉はフェレ皇国の方面の市外に出れますので右にまいります」
「わかったわ一気に出国しましょう」
もはや希望しかない。
全てはうまくいく。
扉が開けられた少しづつ開く。そこは薄暗く小さな空間だ。
「え?」
アルビラが驚く。
外だと思ったのにそこはレンガに囲われた小さな空間だった。
薄暗い空間にかろうじて何かがある。いやいる?
わずかに蝋燭らしき明かりが見え始める。
段々と徐々に……その姿が明らかになっていく。
何?何故?
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横の小さなテーブルに燭台があり蝋燭の火が揺れている。
「こ…こう……皇后」
アルビラのうわずった声。
それもそうだ。いるはずのない人物が自分の目の前にいるのだ。
パルミラルは黒のドレス、手袋、顔を隠すレースの帽子でその表情は見えない。
その姿は喪服そのものだった。
「驚かせたようですね。アルビラ」
静かに不敵に口角を上げて微笑む皇后は美しかった。
「なんで??」
アルビラが後ろに足を引いて驚きを隠せないでいる。
「皇后陛下
あんまりですよ
計画が破綻したかと思いましたよ」
アルビラの後ろでベルナードが恨むように言った。
アルビラがベルナールの顔を瞳を大きく見開いて仰視している。
「お前まさか!」
クスッと笑いアルビラに軽蔑の瞳で投げかけた。
「離宮行くふりをして私まで騙して。
しかも薔薇の謎ときまで。生きた心地がしませんでした」
「御免なさいね。
私よりまだ情があるなのではと。
出来れば辛い思いをさせていいのかと。
アーサー卿の連絡が、意外と早くて。
計画を前倒しと変更したの」
「薔薇の謎解きは大変でした」
「でもよく解いたこと。
白の薔薇を二十四本
白は決行日本数は時間ね
実は倒れたふりをして、離宮までは行きました
よ。でも身代わりを置いてすぐに戻り皇帝陛下の
寝室で隠れていましたの
皇后宮の下女を連絡役にね。
侍女は全員買収されていますから。
でも下女は一部しかしていませんでしたね。
アルビラ
実際決行日は未確定でしたが、ベルナードが下女に薔薇の花を足すように言った後すぐにこちら
に来ました。」
「………」
怒りを通り越し言葉を失った抜け殻のようなアルビラに矢継ぎ早に話す。
「皇后陛下
感謝いたします。このような機会を与えてくださり。この女は魔女か悪魔です。
幼い私達を醜悪で金の事しか考えない養父母に預けて。養父母は手にした金を自分達の欲望を満たす
だけに使いました。
使い果たすと金のむしんをしての繰り返し。
私達は今日の食べ物さえ与えられず、盗みや物乞いをするしかなかった。
妹達はそうそうに酒屋でみだらな客を相手に給仕するか、売春するしかなかった。
私達男はは窃盗、恐喝、詐欺出来る悪は殺人以外全てしたさ。
あんたのせいで全て台無しさ」
ベルナールは今まで隠してきた怒りの全てをアルビラにぶつけ、今にも飛びかかり殴ろうとしそうな形相だ。
アルビラは無表情にただだまって聞いている。
その顔に後悔や哀れさ、悲しさなど子供達への謝罪は微塵もない。
「だからなんだというの?
死にはしなかったでしょ」
謝罪の言葉もなく生んでやった。生かせてやった。それで十分だろうといいたげに。
ベルナールにはわかっていたが、言わずにはいられない。怒りを頂点まで引き上げて後悔など微塵もしたくない為の免罪符が欲しかっただけだった。
後ろからハンカチでアルビラの鼻を塞ぐ。
何か薬品の匂いがしてその後の記憶がなかった。
「まだこれからですよアルビラ
自分の行なった過ちを清算しなくては……」
「ええ。そうですよ。」
アルビラは薄れゆく記憶の中で二人が満足そうに微笑んでいるのを見てしまった。
次に目を覚ました時前に二人の影がわかる。
固定された椅子に座らせられ、手足は縄で縛られて身動きできない。
逃亡計画が失敗した苛立ちと息子に裏切られたという怒り、全ての憎悪は二人に向けられる。
「これから知る事実はあなたにとってとても不幸で苦悩に満ちたものになるだろう。
あなたが行なってきた数々の悪行が廻りまわって呼んだ不幸だ」
ベルナードは手にした燭台の蝋燭に灯火をつける。少し表情を曇らせながら淡々と話し始める。
「僕らと年の離れた娘を産んだよね。
その子は養子に出したよね。
その子の事知りたくない?」
はっとする。
年の離れた子はそうアーサーとの子供だ。
息子を睨んで激しく言った。
「何を言ってるの?
何かしたの?
あの子に」
ベルナードは無機質な表情でアルビラが言ったその言葉をなぞる。
「何を言ってるの?
何かしたの?
ふっ。こっちが聞きたいよ。
あなたが何をしたか?
したよね。
殺害命令を出したよね。」
アルビラは息子の言っている意味がわからなかった。
あの子に何かした?
いいえ何もしていないわ。
連絡さえとっていないもの。
「何を言っているの?
そんな事してはいないわ。
いる場所さえ知らないわ。」
本当に知らないのだ。当然だ。
知らなかったから。
「ねえ。
ドディア皇国のランドルフ子爵家の召使を殺す様 に指示したろ。
あの子はエルミエではなかったのは知っているよね。
そうあの子は養父母に売られて子爵家に変装したあんたの娘だよ」
ベルナードはゲラゲラ笑う。
唯一の愛しい娘を自分が殺した事実を叩きつけられて苦悩と困惑と信じられないといわんばかりの
驚きと。
アルビラのその絶望にも顔の見たいと願ったそれだった。
ベルナードは確かに少しの良心はあった。
戸惑いがなかったのかと言われたらあった。
しかし憎悪がそれを勝ったのだ。
全てを背負うと決めたベルナードに躊躇はなかった。
「………皇后と一緒になって我が子を殺したのね
私ではないわ。あなたたちがあの子を殺したのよ」
激しく息子をなじる。
「ふっん」
ベルナードは氷のような冷たい目で女を見ている。母などここにはいないと言わんばかりに。
「愛しい者を亡くす悲哀だどういうものかわかったかしら?」
パルミラルも無機質な顔をアルビラに向ける。
何の思いもない、そもそもなかった。
「御前も私を殺すの?
あんなに世話をしてあげたのに」
「そうね。有能な講師を付けて素晴らしい知識を授けられた事には感謝しているわ。
それと生んでくれた事もね。でもそれと同じくらい憎んでもいたわ。
何故生んだのかってね」
アルビラはパルラミルが放った一言に驚愕した。
知っているはずはないと思い込んでいたからだ。
その姿にパルラミルは満足した。
「知っていたの?
ハッはっ…そう。大公妃はね息子を死産した後二度と姙娠しない身体になったのよ。それを知って
精神のバランスを崩して正気を失っていたわ。
そこで大公に近づいて公国を思い通りにしようとしたわ。
でもあの腹黒男色仕掛けは通用しなかった。
だから妊娠して、その子に望みをかけたのよ。
完璧だったのに。最後の最後で使えない娘」
「完璧?ふっ笑えるわ。
私の出生の秘密はあなたが連れてきた遺伝学の権威の教授から学んだわ。
私の外見にアファルキアの公室のそれとは微塵も共通点がなかった。
それから当時を知る下女と産婆を探したわ。確かにあの時にあなたが出産したってね」
それを聞いてもしくじったことにしか興味のない様子にパルラミルは微笑む、微笑えまずにはいられない我が子と知っても尚なんの情も示さないこの女の憎悪を隠そうともしない姿に感謝すらしている。
「大公妃に妹を差し出して子供をもうけるようにとそそのかしたのはあなたね」
そんな事実はしすっかり頭の中から消し去っていた。
「そういえばそうね。そんな事あったわ」
悪びれる様子もなく平然と言ってのけた。
「簡単だったわ。
子供が出来ない脅迫観念からすぐに妹を手紙で誘いだして大公に襲わせた。
監禁して出来た子供があなたの異母姉。但し大公妃は自分の子と思い込んでいたわ。
愉快だったわ。
あの偉そうな女が実の子でもないのにくるったように溺愛した様子ったら傑作だったわ。
そういえば母親は産んだ後邸宅の屋根から飛び降りて自殺したわね。
何も死ぬことはないのに」
笑いながら話す言葉は人間の者ではなく悪魔のそれかと思うほど恨み、怒り、憎しみ。憎悪は極限にまで達していた。
「当時の下女から聞いたわ。あなたのそそのかした現場を目撃したとね。
この悪魔!」
どんな醜悪な言葉も今のアルビラには刺さらない。
もう遠い昔に魂は悪魔に売り渡してしまったから。
「なんとでも言いなさい。
肉親に裏切られて終わるなんて!ほんと…しくじったわ。はっはっっ」
笑い声が密室に充満して響き渡る。
どうしようもない救いようのない人間がここにいるのだ。
「さあ 殺すがいい。そして呪ってやる。御前たちの子供達も…その子供達に恨まれるがいい」
憎悪の瞳は出来そうにないその呪いは現実に起こるのではないかと錯覚するほどに思えてならない。
「……………」
「……………」
パルミラルとベルナードはお互いの顔を見た後、決心したように頷いた。
ルミラルの重い口が開く。
「エルディア神話で悪魔と契約して魂を売って神になろうとした人間の話は知っているわね。
その末路も。
神により呪いを封印された。
その封印方法を」
パルラミルの手には短剣が握りしめられその上からベルナードも握りしめている。
アルビラがその訪れる瞬間を鋭い眼差しで睨みつけていた。
ベルナードが叫ぶ。
「最後に皆が生きながら受けた苦しみを身を持って受けるべきだ。
そのためならどんなに惨い事も厭わない。ただでは死なせない。死なせない絶対に」
短剣の先がアルビラの心臓を捕らえ、上から突き刺した。鋭い剣先が皮を突き破り肉へと躊躇なく
入れていく。
「グッアア~~~ギャ~~」
真っ赤な血が白い肌に浮かんでは垂れていく。
ズキズキし耐え難いほどの痛みがアルビラを襲う。
剣を縦にゆっくり下へ降ろすと拒否するように肉は刃を締め付けるが、刃がそれをはるかに上回る。
冷たい刃が熱いアルビラの内側を切り開いていく。
「ぐぁあぁ゙~!」
刀を通じてグニュとした肉の感覚が二人の手に伝わる。その感覚を感じる度にアルビラの絶叫が止むことはない。
何度となく薄暗い響き続ける叫び声を聞いても二人は良心の呵責などは微塵もなかった。
そんなものは捨て去ったのだ。
拒否、躊躇、戸惑い。後ろめたさ、後悔全てを捨て去った。
流れ出すアルビラの血が止まらないのと同じ。
肋骨の辺りでその動きを止める。
すでにアルビラは激痛のあまり激しく身体をよじ曲げる。
「ギャアアア~~~~」
その度に激痛が襲い失神しぐったりとてしまったが、失神したわけではなかった。
更に心臓のを守る肋骨の骨を刃で押し切った。
「ぎゃあ〜ぎゃあ〜ぐぁ〜グァ」
アルビラの絶叫が空気を裂く。
突き刺した剣はそのままにベルナードが剣から手を離してパクッと開いたアルビラの身体に手を入れようとした。
皇后はすでに多くの重荷を背負ってきた。
これ以上の重荷は自分が背負うべきだと。
しかしその手をパルミラルの手が握り止めた。
「私が私がしないといけないの。
私が終わらせないと」
そういって悲しげにベルナードに微笑んだ。
この宿命は自分が背負うべきだと譲るつもりはないと強い眼差しにベルナードは諦める。
正気に返ったアルビラはパルラミルを睨みつける。
「は…はや…く……殺せ…ころ」
事このごに及んでまだ悪態を続ける女は哀れみしか感じない。
パルミラルは躊躇する事もなく、その裂け目に手を入れる。ぬるりとした生温かい肉と鉄の匂いのする血がべったりと手に吸い付く。
手から伝わるその感触を感じる事さえ忘れてしまったくらいに。いとわず中へ紅色の肉を生きているという証の鼓動する心臓に触れる。
波打つその動きと感触に吐き気が襲うが無視をする。
ゆっくり無言で無表情にそれを外気へと引きだした。
「グッツ……」
アリビラが恐怖で失神するとベルナードが許さないとばかり頬を激しく叩き意識を手繰り寄せさせた。
朦朧とした意識の中でパルラミルの声が聞こえた。
「神話では悪魔に魂を売り渡した人間は太陽神によって身体から心臓を取り出され聖なる剣で一突きされて封印されたとあります。
勿論所詮は神話の物語です。現実ではないわ。
でも全てを潰しておきたいの。
全てを。私の代で終えるのよ。全てを」
手にしたアルビラの心臓はなお波打ってその動きを止めない所か更に激しく鼓動していた。
パルラミルは何も感じない。
いや感じるという感覚を放棄していた。
その手にした剣で一気に無心で心臓の中心を一突きする。
血がパルミラルの顔をめがけ吹きつけて、白い肌に真っ赤な血の飛沫が薔薇の文様を作り出す。
それを最後にアルビラは動かない。
だらり。
まるで人形のようだ。
「さようなら」
小さな声で別れを告げた。
その刺した手は少し震えていた。
ベルナードがパルラミルの手を剣から外し、剣ごと心臓を黒い布に包み元の身体に戻す。
全ては終わったのだ。
張り詰めた糸が切れたようにパルラミルはその場に膝ごと崩れ落ちた。
肌は血の気を引いたかのように真っ白だ。
ベルナードがつかさず抱きとめ、自分のマントを広げて身につけた帽子、手袋、ドレスをはぎ取り
包み込んで抱き上げた。
皇后を寝室に運んだ。
「全ては終わったよ。ゆっくり休むんだ。
愛しい異母妹」
ベルナードの声は優しかった。
後始末はベルナードが全て行った。
皇后の居間の扉を叩いた伝書鳩もベルナードが迎えて鳥籠にもどす。
アルビラの遺体は郊外の共同墓地に誰にも参拝されずひっそり埋葬された。
この後パルラミルは七日間眠り続けた。
全てを忘れるかのように。
最終章
パルラミルはどうこの復讐を完結して、どのような結末をみかえるのか?
次完結