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母として

パルラミルの周辺はにわかに忙しくなる。

それぞれの思惑が交差して動き出す。

逃亡させたエルミエのその後は。

実は皇后がマクシミリアンとメヌエットとに依頼しフェルキア地方で暮らしていた。

そんなある日にアフェルキアの公子に求婚されアフェルキアの宮廷にやってきた。

ジルベールはエルミアを拿捕する目的で公国を混乱させたが拿捕に失敗する。

その時エルミアが生きているという事実をアルビラに伝えた。


皇帝と皇后は皇太子の失踪を病と称して緘口令を敷いたアルビラにも知らせず宮殿内で平穏と沈黙を保っていた。

**********************************************


宮殿の中庭は季節の花の香りが満ち、この世の中にある花をかき集めたように鮮やかな色の花で溢れていた。

パルラミルは久しぶりに中庭でゆっくりと赤子と過ごしている。

横に乳母に抱かれあやされながら、両手で空をつかもうと握り離すを繰り返しニコニコと輝いた瞳で愛想をふりまいている。


全ての子供が祝福を受けて生まれてくるのに。

いや。

そうなるべきであり、そうしてみせる。

愛おしそうに眺めているパルラミル。


エルミエもこんな子供だったわ。

この子には憂いのない人生をおくってほしいと心から願っている。

「皇后陛下」

穏やかな時間は容赦なく奪われる。


振り向かなくてもわかる。


相手はアルビラだ。


アルビラはすでに皇太子がエルミエと行動を共にしているのは承知していた。


パルラミルの思惑を知りたい。


それからさらなる手をうちたいと一芝居うってきたのだ。


「どうかしましたか アルビラ」


背を向け一言いった後、落ち着いた様子で振り返る。


アルビラは演技ではと思うほどに悔しげな寂しげな様子で、パルラミルの膝に倒れ込むように泣き始めた。 

「こ…うこうご……へいか……あんまり……。」


どうやら何か抗議しにきたようだ。真意はわからないが。


パルラミルはその手を握り、ゆっくりと頭をあげてアルビラを見る


確かに涙は流しているが、心からではないのはわかっていた。


「何かあったのかしら」


とぼけてみる。

アルビラは手にしたハンカチで涙を拭き取ると必死にパルラミルに訴える。


「皇太子殿下の様子はいかがなのでしょう。

 私にも事情を教えてくださらず。

 知ったのも皇帝陛下の命がくだった後でございました。

 またご様子だけでも拝見したく…

 警護官が入ってはならぬと」


 パルラミルはうわべの微笑みを浮かべて言った。


「私がこのように呑気にしているのはおかしいと思ったはずよ。

 アルビラ

 私も先程皇帝陛下から知らされたのです。

 陛下は私を信じてくださらなかったと憂いていたのです。だからアルビラの気持ちわかりますよ。

 実は皇太子がアフェルキア公国で身の危険を脅かされる事件があったの。

 その噂を聞きつけた傍系の公爵家の後継者が自分こそ次期皇太子に相応しいと水面下で先んじて貴族

 達を囲みを行っているとおっしゃるの。

 よって早くに目を潰したいと。

 重篤な病状と手をうたれたのです。 

 皇太子殿下は安全な場所にいますよ」


 安易に元ヴェレイアル王国王党派が皇太子を暗殺しようとした。

 と言っているようないまわしだった。


探りを入れに来たつもりが逆に返り血を浴びる事になりそうな予感がして、動悸が激しくなる。

大丈夫よ。

しっかりしなさい。元ヴェレイアル王国王党派と、私の繋がりの証拠はないわ。

ジルベールも男娼と噂を流しているし。


アルビラのアキレス腱はパルラミルだ。

皇帝にとってアルビラは愛する皇后の信任する者であって直接的な信頼は得ていない。

パルラミルを疑いながら、暗殺を企てないのは皇帝の御代がしばらくは続く事がほぼ間違いない。

もしパルラミルが死んだらあらゆる手を使い調査をするだろう。自然死であったとしても。

アルビラは皇帝を恐れている。

皇太子が即位するまで、皇太子を懐柔しなくては行けない。その後にパルラミルを処理するだけ。



*********************************************



アルビラの邸宅で愛人でヴァレイアル王国の元貴族王党派のジルベールがやってきて居間で話をしている。


ジルベールはアフェルキア公国で事件を起こした首謀で、その時に公子の婚約者エルミエを知った。


「そういえばフランソワが面白い事を言っていた。

 ヴェレイアル王国のエルミエ王女殿下がアフェルキア公国にいたと。

 あの髪の色、瞳、あれは皇・后・陛・下・の・娘・ ・エ・ル・ミ・ア・王・女・殿・下・だと…」

とジルベールが言った。


彼はアルビラの愛人の一人で実はヴァレイアルの元貴族だった。

現在は仲間と共に王政復古を計画し、エルミエを拉致して女王に担ぎ王党派としてアルビラに近づきその機会をうかがっていた。


アルビラの目が鋭いナイフの様に変化した。

瞳に鋭い獲物を睨みつけ殺そうともするそんな目だ。


「そんなはずは…そんなはずは……ない。 

 あれは今

 ドディア皇国のランドルフ子爵家にいるはず。

 そんな馬鹿な!」


アルビラはブツブツと呟くように言ったが、ジルベールには聞こえない。


「なんだっ?」


アルビラはジルベールの体を突飛ばしたかと思うと、ベランダ側の扉を力いっぱい開けそのままバルコニーへと出てしまった。

バルコニーの傍の大木がわずかに揺れている。


「ドディア皇国ランドルフ子爵家にる下女エミリエを調べなさい。

 外見。行動。全てです。全て小さなことでも報告しなさい。」


アルビラの衝撃は計り知れない。


何故ならドディア皇国ランドルフ子爵家にいるという情報は皇后だったからだ。

あの時に手配したのは皇后だった。

しかも逃亡の途中までしか王女の様子はわからない。

どういう事だ!!!何が……。

何故皇后は???

何度も考えるが答えは出ない。

どう出るかも相手次第、しかし意図がわからないと下手に出ていけない。

何せまだ十分に利用価値があるのだ。

いやまだその力を十分に回収できていないといっていいと思っている。

まだ皇后は排除出来ない。まだまだだ!!

そんな欲望が体中を増大してゆく。

そんな時、雷が落ちたような一言がアルビラの胸を突き刺す。


「旦那様 皇后様がご出産まじか。

 旦那様

 早く宮殿へ」


アルビラは考えが浮かばない中、身支度を整えて馬車に乗り込んだ。

車中も気が気ではない。

どういうか。いや何を言ったらいいのか。

宮殿に入り、どう廊下を歩いたか、誰に何を言ったかまったく覚えていなかった。

バタバタという侍女達の足音だけが、聞こえてくる。

麗らかな日差しが照らす庭園の傍らで皇后は籠を手に薔薇の花を摘んでいた。

出産時にはまだ余裕があったので、医官長のアドバイスで城内をよく歩いていた時期でもあった。

ふと気になって奥の名もない花を摘もうとした時、突然それは起こった。

下腹部の激しい痛みが少しずつ、間隔を置いて襲ってくる。

始めは多少我慢できる程度であったが、そのうち限界近付いているのばわかる。

セヴェルの時の痛みとそれは似ていた。

傍の侍女に震える手を出して荒く激しい息使いの中、やっと絞り出すように伝えた。


「もぅ。 ……さ さん…産婆」

そう言い残し膝から落ちる。

倒れたパルミラルの足元にいくつかの水の筋が流れていた。


「皇后様!!!」


すぐさま侍従がよばれ皇后が運ばれる。

と同時に産婆や数名の女医官が呼ばれ、宮殿の奥は右往左往して秩序がなかった。

その時やっと女官長が現れたのだ。

アルビラは必要な処置と準備を的確に正確に指示を行った事で、皇后宮は安定していった。

セヴェルの時とは違い早産だったが、陣痛から出産までは早かった。



皇后の出産という祝いが帝都を賑わせ、七日間の皇女誕生の祝いが開催されていた。

皇女は皇帝自ら名つけ親になり。

フェルディアーヌ・プルミエ・ディア・フェレイデンという名を賜った。

帝国中から祝福された愛らしい皇女だった。


この日は同年の出産した女性に敬意を現わして「女主人の休息日」とされ、国中の主婦は家事から解放されると制定された。

産婆によると「今までの妊婦で一番早く一番安産だった」と嬉しそうに笑い生まれたばかりの赤子を湯につけて汚れを丁寧にふき取られた状態で宝石のように大切に運ばれる。

綺麗になった美しいあかごは桃色の絹の毛布にくるまれて母の腕に渡された。

あぁ~~エルミエに似ているわ。

パルミラルは思い出していた。

エルミエをその手に抱いたあの時を。

フェルキア公国の国境にある離宮でエルミエを抱いたあの日全てははじまったと。


生まれたばかりの赤子は力強く叫び、それはまるで抗議さえしているかのようにも聞こえた。

あの時はそれしか思いつかなかった。

そうあの時は………。 


「真実は常に表には出ないでよい時もある」のだと当時は信じていた。

しばらくして医官長が神妙な面持ちで皇后の寝室に入ってきた。


その手に湯気の立ったカップが見え、無言でパルミラルに手渡す。

パルミラルはそれを一気に飲みほす。


「服用後母乳は遠慮ください。

 一日一回お持ちします。

 必ず服用してください。

 皇后陛下のお命にかかわりますので」


そういって完治しない病に言いきれない焦燥感からだろうか?

うなだれて部屋をでていった。


パルミラルは病についてはなんとも思わないでいる。

それより重要ではないと思ったからだ。


その日の夕方政務を終えた皇帝が寝室に入ってきた。

声を聴かなくても、その顔が喜んでいるのがわかった。


すぐに傍らに寝かされている小さな女王様を大きな腕で抱き上げる。

幼子は安心した存在がわかるのか見えない瞳を大きく開いて父を眺めているようだった。

髪は艶々と黒黒としてセヴェイに似ているが、瞳はパルミラルと同じエメラルドクルーンをしている。

すでに利発そうな高貴な品格が見て取れる。


「パルミラル

 ありがとう可愛らしい

 美しい子だ。

 今から婚約の申し込みが絶えないだろう。

 本当に可愛らしい。

 皇太子も可愛いと思ったが、それ以上に愛おしい。

 この子を残して旅立てないな」


パルミラルはにっこり微笑んで。


「陛下の望まれた皇女様です。

 愛してあげてください。」


セヴェイの得意そうで愛しい我が子を自分よりも愛している大切だといわんばかりの様子に幸せを感じないでいられようか。

一人だけ幸せに感じている。

自分の後ろめたさが見え隠れしてはいまいかと動揺しているパルミラルだった。


皇帝はまだ初めての女の子に興奮を隠せず頬が高揚している。

パルミラルの額に軽いキスを落とし。

そして生まれたての我が子の額にもキスで祝福を贈った。

パルミラルはこれで皇女がこれから皇帝に溺愛される確信を得て安心するのだった。


この子は必ず幸せになれると………。


その皇帝の後にアルビラの姿が見えたが、顔は陰になって暗い部屋からは見えない。


「アルビラも活躍してくれたと侍従長が言っていた。

 ありがとう

 この労にはそうおうの褒美が必要だな。」


皇帝は上機嫌で今回も十分に満足の出来る富をもたらしてくれるという。

アルビラは安堵している。

「いえ職務でございます。

 皇后陛下に何事もなくなによりでございました。

 皇女様のご誕生御喜び申し上げます」


もし自分の計画を知られているなら皇后が手をうつはず。

しばらく様子を見る事にした。

ただし皇后を監視しながらではあるが。


褒美の始めに一番信頼できる息子のベルナード・ディア・ファルランを皇后付きの侍従の一人につける事に成功する。



***********************************************


宮廷の慌ただしさから解放されたアルビラは諜報員からの報告書を読んでいた。


報告書に目を通す。

子爵家には確かにエルミエという下女がいる事。

外見は情報通りだが、年齢が見た目よりも上の様に思った事。

子爵家の他の下人達はその素性を知らない事。

一日に一度薬を飲んでいるような様子である事。

以上から再度調査した所。


下女はエルミエの可能性は極めて低い事

薬を手に入れた後検査すると「外見を変える為」の物である事が判明した事。


よってこ・の・エ・ル・ミ・エ・は・偽・物・であると断定したと記載していたのだ。

アルビラは急ぎ、ファルラン騎士団のうち諜報員の一人を同家に派遣した。

諜報員は首尾よく身分を偽造して子爵家に雇用される。



しばらくして、この下女は買い物帰りにど・こ・か・の・馬・車・に・ひ・き・逃・げ・さ・れ・路・上・で・死・亡・したと報告を受ける。


アルビラは苦々しな気分を紛らわす事が少しだけ出来たと考えた。

アルビラは皇后の計画を一部を知り、自分の知らないなんだかの秘密があるという事実を知る。

皇后の復讐は達成されるのか?


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