泡沫の夢
この作品は毎日夢を見る中の一つの夢です。
物語りが突然終わってしまっても、夢です。
遠い昔にもみた夢。童話として綴っています。
これは、一つの夢、昔々の長い夢
そして今にも壊れてしまいそうな一つの物語り
昔々あるところに、農村がありました。
その農村では毎日村人全員が畑や家畜を世話をしています。
村から少し離れたとある一軒家では、おばあさんと子どもが一人が住んでいました。
子どもの名前はまことといいます。
ある年のまことが物心がついた頃、まことはおばあさんに話しかけました。
「おばあちゃん!その首飾りの鍵はなぁに?」
「この鍵は代々肌身離さず、継いできた鍵だよ。けれど、もうどこで使うかも、分からない鍵だねぇ。その内、まこと君に渡そうねぇ」
おばあさんは、昔を懐かしむように鍵を握り締めました。
「そろそろ朝のお仕事に行こうねぇ。もうすぐ麦やべこが育つからね」
「うん!」
この農村の暮らしは麦や家畜を育てるのが当たり前、それがこの村の日常なのです。
そしてまたとある夏の日が来ました。
おばあさんは畑へ、まことは畜舎に向かいます。
いつもの様にべこに餌をやり、掃除をしていると畜舎の隅に、子ども一人が入るような穴がありました。
吸い寄せられるようにその穴に、まことは近付きます。しかし、中は土や草、石などで埋まっているようです。
仕事熱心なまことは少しずつ中のものを、掘り出していきます。
そんなことをしている内に辺りは暗くなっていきました。今日の分の仕事は終わりの合図です。
その日の夜、まことはおばあさんにその穴のことを話しました。
「おばあちゃん、べこさんの部屋の隅に穴があったけど、なに?」
「そんな穴あったかねぇ、遊ぶのも良いけどべこさんにお世話を忘れてはだめだよ」
「わかってるよ!」
結局その日はその穴は何なのかは分かりませんでした。
まことはその日もまたその次の日もそして何日も、その穴を仕事の合間に掘っていきます。不思議なことに、その穴の周りは土ではなく整然と並ぶ石のようで、ここは道だったようです。
最初は気まぐれで掘ってきた穴でしたが、まことは夢中で掘り進めていきました。
そしてまたとある年、ついにその穴の土などを全て取り除きました。
穴の奥地は部屋になっており、子どもが立っていられる広さの小部屋になっていました。
そして、その先には台座があり鍵穴のような穴がぽつんと空いているようです。
その穴を見た、まことはおばあさんの持っていた、鍵を思い出します。
「あっ、あの鍵って!」
まことは仕事もほっぽり出して、おばあさんのいる畑に駆け出しました。
「おばあちゃん!その鍵貸して!」
「だめだねぇ、まことくんが大きくなったら、この鍵をあげるよ」
そう言っておばあさんは畑仕事を再開するのでした。
数年後、その時は突然やってきました。
おばあさんは畑から帰ってきて、とても苦しそうに呻いています。
まことはすぐに駆け寄って叫びます。
「おばあちゃん!苦しそうだけど大丈夫!?」
「まことくん、おばあちゃん、もうダメかもねぇ。おばあちゃんの最期の頼みなんだけど、聞いてくれるね」
「う、うん…」
おばあさんは胸元にかけてある鍵を握り締めると、目を瞑ります。それは短いようで長い長い沈黙。おばあさんは一雫の涙を流しながら優しく首飾りを外しました。
「これはおばあちゃんが、子供の頃にお母さんから貰った大切な鍵だよ。これから先も何があっても肌身離さず持ってるんだよ。そしておばあちゃんのことも忘れないでほしいねぇ」
「う…うん」
そう言っておばあさんは首飾りの鍵をまことに渡すと、静かに息を引き取りました。
おばあさんが亡くなってから、悲しさを誤魔化すために、まことは仕事を一心不乱に始めました。
畑仕事も、べこの世話も気でも狂ったかのように、ただ黙々と作業をしていきました。
そう、おばあさんに貰った鍵も、そして、あの畜舎の穴のことも忘れて。
また数年の月日が流れた時、まことは一人の青年になっていました。
畑を耕しべこを売り生活をしています。
ある時、まことは畑仕事をしていると、胸の上の鍵の存在を思い出しました。
まことは久しぶりにおばあさんの部屋に行くことにしました。
すると、急に何かを思い出したのか首飾りの鍵を握り締めます。そして、目を瞑ると思い出します。
あの、畜舎の穴のことを。
まことは急いで畜舎の穴に向かいます。その穴は、土や泥、草木で覆われています。
すぐに駆け寄ると草木を分け、土や泥を取り除きます。幸い、奥の方は埋まっていないようです。
しかし、成長しきったまことの体では入る事ができませんでした。
次の日、まことは畑の鍬や堀棒などを持ち寄りその穴を拡げることにしました。
石を一つずつ運び出し、ようやく大人一人がギリギリ入れる大きさになりました。
まことが子どもの頃にみたままで、台座と中央に鍵穴のような穴が空いてるだけの小さな部屋。
胸に手をやり鍵を握り締めます。それから、その鍵を恐る恐る鍵穴に差し込み右に捻ると、地面が唸りを上げるように揺れ出しました。
まことは台座にしがみつきながら、早く終わってくれと願いながら目を瞑りながら耐えます。
それは、一刻かそれとも十二刻だったのか長い時間が経ったような気がしました。
次第に怖くなっていき鍵を抜き、その穴から這い出ると農機具を持ち家路につきました。そのとき、ふと体に違和感を感じます。
妙に体が重い。
自身の手や足を見ると痩せ細っていて、しわくちゃになっていました。
急ぎ月明かりの元、井戸の水を汲み自身の顔を写し見ると、まことの顔はおじいさんになっていたのです。