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【書籍化】妹よ、その侯爵家令息は間諜です ~家門を断罪された姉、のその後~   作者: ユタニ


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46. 番外編 嬉しい手紙

エピローグのアランの訪れの少し前です。


ハリーが学校から帰ってくると、ヨハンソン家の前にちょうど郵便屋さんが訪れているところだった。

門までの少しの距離をハリーは走る。肩からかけている鞄の中で筆記用具がかたかたと鳴った。


「うちに郵便ですか?」

駆け寄ったハリーが郵便屋の初老の男に声をかけると、にっこりと微笑まれた。


「やあ、ハリー、こんにちは」

「こんにちは、ジョンスンさん」

ハリーは挨拶を忘れていたのを思い出して初老の男ジョンスンにきちんと挨拶を返す。

手紙を配達してくれるジョンスンと町の子供達は大体が顔見知りだ。


「手紙があるなら、もらっていくよ」

ハリーがそう言って手を差し出すと、ジョンスンは逡巡した。


「落とさないかい?」

「落とさないよ!」

失礼な。

ハリーは少し前に七歳にもなったのだ。七歳の立派な男は託された手紙を落としたりはしない。


「失くさないかい?」

「なくさないよ!」

なんて失礼な。

でもぷくっと頰を膨らませながらも、ハリーはジョンスンを怒らないであげた。

年配の人は皆心配性なのだ。ハリーの学校の神父のお爺さんもいつもハリー達を心配している。


「帰ってすぐに姉上に渡すよ!」

ハリーがそう主張するとジョンスンは「じゃあ、これを」と言って、一枚のつるりとした白い封筒をハリーに渡してくれた。

封筒の紙の質と分厚さから、上等なものだと分かる封筒だ。


(きっと王都からだ!)

ハリーはそう直感する。

宛名は姉のシンシアとハリーの連名になっていた。

ハリーは期待に胸を高鳴らせながらくるりと封筒を裏返して差出人を見た。


「やった!」

差出人の名前にハリーは思わず声をあげて、輝く笑顔になる。


「嬉しい便りかい?」

ジョンスンに聞かれてハリーは力いっぱい頷いた。

「うん! とっても! ありがとう、ジョンスンさん! またね!」

ハリーはお礼だけ言うと、引っ越してきて以来、手が回っていなくて花らしい花は咲いていない庭を走って屋敷の玄関へと取り付く。

ばんっと扉を開けて中へ入ると、ハリーはシンシアを探した。その手には白い封筒がしっかりと握りしめられている。


「シンシアー、シンシア!」

一階のダイニングを覗くがそこにシンシアはいなかったので、出会った侍女に聞くと「執務室ですよ」と教えてくれた。


「ありがとう!」

そうして執務室へと走り込む。


「シンシア!」

「ハリー、おかえりなさい。屋敷を走っちゃダメよ」

「あっ、ごめんなさい。僕、嬉しくて」

ハリーは姿勢を正して、何となくズボンの裾を払うときちんと歩いてシンシアの座る執務机の側に寄り、握りしめていた手紙を差し出した。


「アランからの手紙だよ! きっとこっちに来るんだよ。早く開けて読んで」

ハリーの言葉にシンシアの顔がぱっと輝く。

ハリーはにこにこしながら手紙をシンシアに渡した。


「あんまり期待しないのよ。お休みが取れなかったっていう手紙かもしれないんだからね」

ハリーにそんなことを言いながらも、シンシアはそわそわとペーパーナイフを取り出していそいそと封を開けた。

大好きな姉も、期待するなと言いつつ期待しているのが分かる。


(姉上も、アランを待ってるもんね)

ハリーはシンシアの様子を見ながら、手紙の内容がアランの訪れを知らせるものであることを願った。


シンシアが手紙を取り出し、新緑の瞳がきらきらと光りながら忙しなく文面を追う。

やがて、その頰が薄く朱に染まって綻んだ。


「アランが来るって?」

勝利を確信してハリーは聞いた。シンシアが嬉しそうに微笑む。


「十日後くらいにこちらに着くんですって」

姉の声は明らかに弾んでいた。


「十日後!」

もちろんハリーの声も弾む。ハリーはアランが大好きだし、密かに人生の目標にもしている人なのだ。会えるのはとても嬉しい。


「あと十日かあ! 楽しみだね」

ハリーの体が揺れる。


「その少し前に、クリスティナさんも来るみたいよ」

つけ足された情報にハリーは飛び跳ねた。


「ティナも来るの! えっ、アランより早くに?」

「前乗りするって張り切っているみたい」

シンシアがその部分の手紙を読み返しながら、くすくすと笑う。


「まえのり?」

「本当の日程より早めにやって来るってことね」

「ティナらしいね」

「本当ね……えっ、大変、早ければクリスティナさんは五日後には来るかもって」

きちんと文面を読み進めたシンシアは慌てだす。


「お部屋の準備をしないと、リネンって余分にあったかしら? 掃除、掃除もしないと」

シンシアはがたんと立ち上がった。


ヨハンソン家の使用人はけっこう高齢な家令と、やっぱりけっこう高齢な侍女が数人いるだけだ。

だからこういうイレギュラーな仕事はシンシアとハリー、ステラとサムエルで頑張ってこなすことになるのだ。


「僕も手伝うよ! アランの部屋は僕が掃除してもいい?」

「サムエルさんに手伝ってもらうならいいわよ」

「分かった!」

ハリーは元気よく返事をすると、人生の目標としている男の部屋を整えるべく、ちょび髭の侍従を探しに部屋を出た。






お読みいただきありがとうございます。

こちらのお話が書籍化しました。TOブックス セリカノベルスさんからで1巻が2026年4月1日発売となっています。


宣伝とお礼を兼ねてのSSでした。

楽しんでもらえてるといいな。


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― 新着の感想 ―
書籍化おめでとうございます♪ 加筆されているところが、より甘々になっており、とても良かったです! 2巻も楽しみにしております!
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