アジサイとズル休み
梅雨の季節が深まる中、東京の小さな町では連日雨が降り続いていた。厚い雲が空を覆い、まるで永遠に晴れることはないかのように思える日々だった。しかし、そんなある日の朝、奇跡のように雲が切れ、雨が上がった。
近所の公園には、美しい紫陽花が咲き乱れていた。紫、青、ピンクと色とりどりの花がしっとりとした空気の中で輝いていた。公園は雨上がりの清々しい空気に包まれ、人々が散歩を楽しんでいる。
しかし、その日の朝、学校をズル休みして公園に来ていた中学生の野上勇太は、人目を避けるように公園の隅に身を潜めていた。勇太は中学二年生で、最近学校生活に疲れを感じていた。友達との関係や勉強のプレッシャー、部活動のストレスなどが積み重なり、どうしても学校に行く気が起きなかった。
「ああ、もう全部嫌だなあ…」
勇太はそう呟きながら、ベンチに腰を下ろし、紫陽花をぼんやりと眺めていた。雨上がりの清々しい空気が、少しだけ彼の心を軽くしてくれるような気がした。
その時、ふと視線の先に一人の少女が立っているのに気づいた。少女もまた中学生くらいの年齢に見えた。彼女は透明なビニール傘を片手に持ち、紫陽花を見つめていた。まるで花の一部であるかのように、その姿は自然と調和していた。
「こんにちは。」
突然、少女が勇太に声をかけてきた。勇太は驚き、慌てて立ち上がった。
「え、あ、こんにちは…」
「今日は学校を休んだの?」
少女は微笑みながら尋ねた。その微笑みにはどこか親しみやすさがあり、勇太の緊張を和らげた。
「うん、ちょっと疲れて…君も?」
「ううん、私は休んでないよ。ちょうど登校途中だったんだけど、紫陽花が綺麗だったから寄り道しちゃったの。」
少女は楽しそうに笑った。その笑顔に勇太は少し心を打たれた。
「そうなんだ。僕も、なんだか学校に行く気がしなくて…」
「それ、わかるよ。でも、たまにはこんな風にのんびりするのも大事だよね。」
少女の言葉に勇太は頷いた。彼女の言う通り、たまにはこんな風に自分を甘やかしてもいいのかもしれないと思った。
「そうだね、ありがとう。君の名前は?」
「私は狭山実花。よろしくね、野上勇太くん。」
「え、なんで僕の名前を知ってるの?」
「実は同じクラスだから。気づかなかった?」
勇太は驚いて少女を見つめた。確かに、どこかで見たことがあるような気がする。けれど、彼は実花の存在にこれまで気づいていなかったのだ。
「そっか、よろしくね、狭山さん。」
「うん、よろしく。」
こうして、雨上がりの公園での偶然の出会いが、勇太と実花の新しい友達としての始まりとなった。学校をサボったことで出会った二人は、これからどんな物語を紡いでいくのだろうか。