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ep9.あなたを愛し、私を愛する feat.夕凪

ここは、ウヨシンテという、平和な国。

そこに、一人の女性が、魔王の娘として転生した。


彼女は自分の好きを叶えるという野望と、

魔王夫婦に頼まれた願いのため、

ありとあらゆる問題を解決してゆく。


あれから、数ヶ月。

四天王達は皆、幸せになった。


これは、そんな四天王達と恋人達の、その後のお話ー

「ナギ、頼みがあるんだ。明日一日を、僕に時間をくれないかい?」


スキバ・ユサはいつも唐突だ。

それでもどこか遠慮がちで、誘いながらもオレの顔色を窺ってくれる。

その日の彼女は珍しく真っ直ぐで、真剣ささえ感じ取れて。

断っちゃいけない、そんなオーラを感じた。

だから、誘いを受けたのにー


「………何だよ、この人だかりは」


女、女、女。待ち合わせに指定された場所には、女性たちが群がっていた。

その賑わいといったらまるで、マスターや女王陛下が村に降りてくる時のよう。

歓声の中心にいるのは、言わずと知れた彼女の姿でー


「嗚呼、ありがとう子猫ちゃん達。存分に僕の美しさに酔いしれるといいさ」


手を振ったり、髪をかきあげながらユサが笑う。

それを見た瞬間、心底後悔した。

やはり来なきゃよかった、と。


「やあナギ、よくきたね。待っていたよ」


オレの後悔に気づいていないとでもいうように、構わず彼女は手を差し出そうとする。

そんな彼女に横槍をいれるよう、ため息まじりに告げた。


「相変わらずの人気っぷりだな。わざわざ呼びつけたのも、これを見せたかったってか?」


「嗚呼、そう嫉妬しないでくれ。確かに僕は子猫ちゃんの王子だが、僕の婚約者はナギ、君だけだよ」


「別に嫉妬してねえけど」


「君と二人だけで話がしたい。移動しようか」


そういうと、彼女はパチンと指を鳴らす。

するとやってきたのは、あのパーティー会場で見たペガサスだった。

強引にオレの手を取ったかと思うと、彼女は軽い身のこなしでペガサスに跨って……


「さあとべ、パトリシア! 約束の地へ!」


翼が、はためく。

途端に地面が、遠くなっていくのがわかる。

あっという間に視界は青く澄み切った空に変わり、風を切って走ってゆく……


「ちょっ、怖っ! ペガサスで移動とか聞いてないんだけど!?」


「ご覧、ナギ。地上にいる子猫ちゃんが、皆僕をみているよ……ふふ、美しすぎるのも罪だね……」


「話聞けよ!!!」


「心配せずともパトリシアは、信頼できる僕の相棒だ。まあ、僕が言わなくても君にはわかっているかもしれないけどね」


彼女が、オレに笑いかける。

同時にパトリシアと呼ばれたペガサスから、声がした。

大丈夫、ユサがいるから怖くないよ。

その声から、パトリシアが彼女を信頼していることが伝わってくる。


……わかっている、この子に罪はない。

悪いのは、全部……全部こいつだ。

怒りたいのに、心底迷惑だと思ってるのに、胸の鼓動は早く鳴っている自分がいてー


「もうすぐ着くよ。しっかり僕の体に捕まって」


彼女の背中が、いつにも増して頼もしい。

そんなこと、口が裂けても言えないオレは少しだけユサの体にしがみついてみせたー





「やはり、いつきてもここは綺麗だね。もう、誰いないというのに……こんなにも綺麗に残されているとは、魔王の計らいのおかげとはいえ君も嬉しいんじゃないかい?」


ユサが、微笑みかける。

ついたのは、かつて自分が住んでいたエルフの森だった。

彼女のいう通り、ここにはもう誰も住んでいない。

にも関わらず、森の木々や生き物達は、皆平和に、変わらず過ごしている。


それもこれも、マスターのおかげだ。

人魚族やエルフ族など、滅んだ一族の住処は荒れることなく整備されている。

それを守ってゆくのが、代々四天王であり、オレの仕事だ。

サヨが家にあまり帰らずに住処にいるのも、おそらくその甲斐あってだろう。

何よりここには小さい頃からいる動物達が多いせいか、居心地がいいんだよな……


「で、なんでここに? 人がいない場所なら他にもあっただろ。国から一番遠いのに……」


「他も何も、ここはナギと出会った、思い出の場所だからね。言うなら、この場所と決めていたんだ」


彼女が、指を鳴らす。

気がつくと、周りに泡白い光が空を舞っていた。

……蛍……だろうか。

変だな、この辺りじゃ生息しないはずなんだが……

しかもユサは、虫が苦手だったはず……


「ナギ。君を闇夜へ誘おう」


蛍とは違う光が、彼女の指から空へ放たれる。

途端、空を見上げると、満点の星空が浮かんでいた。

かつて、聞いたことがある。夜を中心に活動する種族が主に使っていた、昼と夜を入れ替える魔法があると。


「どうだい、実に神秘的だろう? 君に、この光景を見せたくてね。まるで、蛍と星の光が奏でるシンフォニーのようだ」


「……よくもまあ小っ恥ずかしいセリフを堂々と言えるもんだな……ま、らしいけどさ」


「場所、シチュエーション……何もかも僕の計画通りだ……ナギ、誕生日おめでとう」


いつから準備していたのだろう、懐から花束が現れる。

バラと呼ばれる花が、これでもかというほど包まれている。

一体何本あるのだろうか。いや、それより……


「よく今日が、誕生日だって知ってたな。まさかとは思うが、このためだけに用意したのか? 苦手な虫まで呼ぶなんて」


「ふふ……君に最高のプレゼントを送りたくてね。これは僕から、君への贈り物だよ」


「花、か……らしいっちゃらしいけど、今時送るものか?


「おや、知らないのかい? 花には色々な意味がある。百合は純粋、菫は謙虚。そしてバラは、あなたを愛する」


すると彼女は、すっと膝を曲げて屈むような姿勢をする。

まるで王子が、姫の手を取るように。

その目は相変わらずまっすぐで、オレだけ見つめていてー


「ナギ、僕と結婚してほしい」


心臓が、うるさい。

正直、いつか言われるだろうと覚悟はしていた。 

再会した時からずっと、彼女はまっすぐ伝えてくれていたから。


可能なら、この手を取りたい。

今すぐにでも、了承してしまいたい。

でも……


「オレはあんたみたいに綺麗じゃない……魔法だって使えない……本当に、いいのか……? オレみたいな落ちこぼれが、みんなから王子を奪うなんて」


彼女の周りには、いつもたくさんの人がいる。

それだけ求められるのは、彼女が王子だからだ。

王子の隣にいるのは、いつだって綺麗で可愛いお姫様。

オレは、姫にはなれない。

だからこの手を素直に取れなくてー


「僕はみんなに愛されるようになった。君も四天王となって自信がついたと思っていたんだが……変わらないね、君は」


「……うっせー」


「確かに、僕は愛されている。中には君を姫だと認めない子猫ちゃんがいるかもしれない。それでも、僕にとって君は、たった一人のお姫様だ。他の人なんて考えられない……君が、必要なんだ」


その言葉に、ふと思い出す。

かつて、彼女にも同じことを言われたこと。

自分に自信が持てないオレに、彼女が投げかけてくれたあの言葉を。


『他人に優しくするのもいいけどさ、本当に欲しいものは欲しいって言わなきゃダメよ? じゃなきゃ、いつか後悔するから。当たり前だったものが突然なくなる、なんてこともあるんだからね!』


彼女ーお嬢は不思議な人だ。

好きとはいえ、恋愛に関してはかなり鋭く、的を射た言葉を放つ。

あんなことを言われてから、嫌でも考えてしまう。

彼女がオレではない人と結ばれる、もう一つの未来を。


「まだ君が自信がなくて手を取らないなら、その時まで待とう。でももし、君が僕を嫌いというなら……その時は……」


「嫌いなわけ、ない!! 大好き、だから……断りきれねーんだろーが……」


ああ、ずるいな、この人は。

ここまで言われたらもう、認めるしかないじゃないか。

どうやらオレは、自分で思っていたよりもこいつのことがー


「完敗だよ、ユサ。あんたには、敵わない。オレを……あなただけの、姫にしてください」


好き。

初めて会った時から、ずっと。

彼女の言葉も、態度も、優しさも。

それでもどこか素直にいえなかったのは、オレだけに向ける顔じゃないとしっていたから。

自分だけを見て欲しい、でもオレなんかが言うには恐れ多くて、届かなくて。

火照る体や頬を、必死に隠して。


「ああ。約束するよ、ナギ。君を幸せにすると」


彼女の唇が、オレの唇と重なる。

その日の星は、未だかつてないほど綺麗に煌めいていて、オレらを祝福するようにいつまでも蛍が飛び交っていたー


fin

余談ですが、それぞれのカップルの行く末だけでなく、

リンネが及ぼした影響、彼女たちからみたリンネが、

共通で描かれています。


ユウナギは、四天王の中で一番

結婚までいきつくのが早いと思っていました。

相手が相手なのもありますが、

落ちこぼれからお姫様、なんて

まさにシンデレラストーリーですよね。


転百合も残すところ、二話で終わります!

最後はあの人です! お楽しみに!

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