ep8.天下無敵lover girls feat.真昼
ここは、ウヨシンテという、平和な国。
そこに、一人の女性が、魔王の娘として転生した。
彼女は自分の好きを叶えるという野望と、
魔王夫婦に頼まれた願いのため、
ありとあらゆる問題を解決してゆく。
あれから、数ヶ月。
四天王達は皆、幸せになった。
これは、そんな四天王達と恋人達の、その後のお話ー
「おっそい………あいつ、どこで油売ってんのよ……」
日照りの暑さが、余計にあたしを怒らせる。
何度確認したかわからない時計を一回、また一回と確認する。
やっぱり、くるんじゃなかった。何やってるんだろう、あたし。
それもこれも全部、全部あいつのせいだ。
ことの発端は、数日前。
その日も、彼女は雑誌を読みあさっていた。
普段から何かと本を見つけ、奪う宝石の情報を蓄えているらしい。
それが服装だったり、アクセサリーだったりと、女性らしいものを多く好んでいる。
強さやかっこよさを求める、あたしとは真逆。
そんなあいつに、あたしは声をかけてしまうのだ。
何がそんなに面白いのかと。
こいつと付き合い初めて数日たつってのに、これといった変化がない。
アサカやユウナギですら、身に余るくらいイチャイチャしてるのだ。むしゃくしゃしてしょうがないったらない。
そんなあたしの心情に気づいているのかいないのか、あいつは
「そういえば、あなたって同じ服ばかりよね……興味あるなら少し街にでない? デート、しましょうか」
なんていったのよ!!!
信じられる!? あのサヨが!! あたしを! デートに誘うなんて!!
誘われたってだけで、一人浮かれて喜んで。
馬鹿みたい、期待して。挙句、こんなに待たされて……
これじゃあまるで、あたしがめちゃくちゃあいつが好きみたいじゃない!
「あら、随分と早いのね」
そんなこんなで、待ち合わせから15分経過した頃。
焦った様子すら感じられない彼女の声に、我慢していた怒りをぶつけようとしたが……
「ごめんなさい、思ったより支度に時間かかったわ」
自分の髪をくるくるいじりながら、そっぽを向く。
一瞬、誰かわからなかった。
三つ編みではなく、ハーフアップにまとめられた髪型。
いつもの動きやすい格好とはうってかわり、綺麗な青色をしたマーメイドワンピース。
まつ毛や頬だって、いつもと何か違うのが1発でわかって……
「あん、た……何よその格好……」
「デートは可愛い服を着るもの、リンからはそう聞いたけど?」
いちごのような甘い香りが、あたしの鼻をかすめる。
気がついた時には、彼女はあたしの隣に移動していた。
何かを訴えるように、右手を差し出している。
ま、まさか……こいつ……
「いい場所を知ってるの。きて、マヒル」
くすりとはにかむ笑顔が、なんともあたしの心を揺さぶる。
ああもう!! やっぱりこいつ、ムカつく!!
「ちょ、力強すぎ……少しは加減しなさい。自分が馬鹿力って自覚ある?」
「うっさい!! 元はと言えばあんたが悪いんでしょ!!?」
細く、滑らかな手。
どこか冷たささえ感じる感触を、少しでも温めてやろうと自分の手で包み込む。
太鼓のような激しい音が、あちこちから聞こえる。
それが自分の音だと認めないように、二人で歩いてゆく。
しばらくして、あたし達は商店街の中にある「おしゃれロード」に辿り着いた。
名前の通り、洋服やアクセサリーなどを主に取り扱っている店ばかりが並んでいる場所。
武器や強さを求めるあたしじゃ、まったく行かない場所。
「サヨ様、お待ちしてました。やだっ、今日は彼女さんもご一緒なんですね!」
!!!?
「な、ななな何言ってんの!!! かかか彼女?! あたしが!!?」
「別に、事実だからいいでしょう? 彼女に似合いそうな服を見たいのだけど」
「はぁい、かしこまりました〜」
こいつはずるい。あたしができないことを、難なくやってのける。
それが悔しいものだから、こっちは張り合っちゃってばかりだけど。
彼女、ねぇ……本当にそう思ってるのかしら。
「今のトレンドだったら、これとこれかしら? どれが、彼女に似合うと思う?」
「そうですねぇ、私はこちらがよろしいかと!」
「ですって。マヒル、試着してきて」
「……あんた……正気?」
「今日はあなたのための買い物よ。あなたが着るまで、うち帰らないから」
そういいながら、あたしだけじゃ絶対選ばないような洋服を渡す。
拒否権はない、とでもいうように、試着室へあたしを押し込んだ。
こちらが出ようとしても、カーテンが開かない。
きっと彼女が、意図的に強く閉めているのだろう。
まったく、やってくれるじゃない。
そっちがその気なら、こっちだって……!
「はい、着替えたわよ。これでいいんでしょ?」
黒を基調としたチェック柄のスカートに、白色のブラウス。
そこにリボンやフリルといった、かわいい装飾が目立つファッション。
こんなの、普段のあたしならぜっっったい着ない。むしろ着たくもない。
それでも着たのは、彼女であるサヨがいるから。
せっかくの機会だもの。こいつに、あたしの魅力を存分に知らしめてやるわ!!
「わぁ、さすがマヒル様! 美少女四天王のお一人なだけあって、お似合いです!!」
「ふんっ、当たり前でしょ!! あたしを誰だと思ってるのよ!!」
「これが似合うなら、あれも似合いそうだなぁ。裏にお洋服があるんですよ! よかったら試着だけでも!」
「仕方ないわね! ジャンジャン持ってき……」
「必要ないわ」
途端、あたしの言葉を遮るように、サヨが腕を掴む。
びっくりして声も出ないあたしとは逆に、彼女はどこか不服そうな顔をしていてー
「これ、買ってくわね。ありがとう」
無造作にお金を置きながら、有無を言わさず店を出る。
強引に引っ張っていく彼女の力は、心なしか強く感じてー
「ちょ、サヨ! 急にどうしたのよ!!」
「別に。店員に鼻の下を伸ばしてるのが、気に入らなかっただけ」
「伸ばしてないわよ! まだ試着の途中じゃない!」
「……あれ以上、見られたくなかったのよ。あなた外見だけはいいのだから、少しは自重して」
その言葉にどこか既視感を覚える。
どこか怒っているようにみえる彼女に、あたしはつい
「サヨ……あんた、嫉妬してる?」
と、思ったことをそのまま告げた。
「…… あなた、嫉妬って言葉知ってるのね。意外」
「なっ!!? なんですって!!? どういう意味よ!!」
「だってあなた、好きの感情すら知らなかった脳筋じゃない」
「そろそろ本気で怒るわよ!?」
「……ほんと、嫌になるわよね。可愛くさせたいって思ったのはうちの方なのに、誰かに見られるのが嫌だなんて」
そう言いながら、はあっとため息をつく。
ああ、そっか。こいつも、あたしと同じなんだ。
好きになった人を、誰かに取られたくない。
だからあの時、咄嗟に逃げるような行動をして。
……なんだ。こいつ、あたしのこと割と好きじゃない。
「ふん、別にいいじゃない。誰だって嫉妬くらいするわよ、全然恥じることないわ。むしろ、もっとしてもいいくらいよ!!」
「……随分と大きく出たわね。重たい女だって嫌われるかもしれないのに」
「そんなこと、あたしは思わないわ! だって、嫉妬するってことは、それだけ相手が好きって証拠なのよ!!」
『マヒルとサヨってすんごい似たもの同士なんだよね。気づいてないだけで、実はお互い愛が大きすぎるっていうか。だから喧嘩しちゃうんじゃない?』
彼女ーリンネは、気に入らない生意気なガキだ。
まっすぐ相手を知ろうとする割に、肝心なとこは身を引いて第三者として見守ろうとする。
あたしが今言った言葉だって、ほとんどあいつの受け売りだ。
血が繋がっていないというのに、彼女の態度や言葉は不思議とディアボロスと重なる。
だから余計に口が緩むし、彼女ならなんとかしてくるのではと謎の期待さえしてしまう。
皮肉なものだわ。心底気に入らないって思ってるのに、今はあんたの言葉が何よりも頼もしいって思っちゃうのだからー
「……それ、もしかしてリンの入れ知恵? ほんと、あなたって単純ね」
「うっさいわね!! こっちは毎日毎晩嫉妬してんだから、文句言うな!!」
「今度は逆ギレ? ほんと、あなたらしいわね」
彼女の顔が、どこかスッキリしたように晴れてゆく。
すっと立ち上がったかと思うと、彼女は徐に手を差し出して、
「お腹すいたわ。どこかおいしいとこに、連れて行ってくれる?」
微笑む彼女の顔が、太陽に照らされる。
その可愛さと綺麗さに、思わず顔をそらしたくなるー
「……は〜あ。相変わらず、きまぐれな人魚姫ね」
その手を繋ぐ。自分の指を絡ませる。相手の頬が染まる。
あたしはこの先、彼女の手を離すことはしない。
誰がなんと言おうと、こいつはあたしだけのものだもの。
他の誰にも絶対、渡さないんだから!
fin
最初で最後の四天王百合メイン話、
2番目はマヒルです。
さすが四天王随一のツンデレ、とだけあって
コメディ感満載になりました。
彼女の場合、相手がサヨなので
実はもう一話出番があるのですが
それにもかかわらず、めちゃくちゃ長くなりました。
最初、デートというデートしてなくて。
書き直した結果、文字数がえぐくてえぐくて。
削る作業が超大変でした。
これも百合の効果なのでしょうか。
恐ろしいですね、百合って。本当に……
次回も百合です。多分また長いです。
許してください……




