#39,5.昼想い、夜夢む feat.真昼
鬼族。強さと誇りを重んじた一族。
歴代四天王で名前を見るのが当たり前で、
みんなからも頼りにされることが多い。
けれどそれは、今の話。
鋭い牙に、屈強な体格。そして極め付けは、二体の角。
外見故なのか、野蛮な性格が多かったからなのか……
これは、まだ鬼が悪いものして扱われていた頃の話。
あたしが小さかった時の話であるー
「ねえ、何してるの? あたしもまぜて!!」
「えーやだよー。マヒルちゃんって鬼なんだろ?」
「鬼と遊んじゃいけないってママ言ってた! 鬼は怖いからって!」
「そんなことない! 優しい人ばっかりだし、あたしだって意地悪したことない!」
「見た目が変わらないからって、鬼だっておれたちに言わなかっただろ? それって嘘ついたってことなんだぜ!」
物心ついた頃から、あたしは悪者だった。
特に何もしていない、昨日まで普通に遊んでいても、鬼と分かれば手のひら返し。
共存を謳っているこの国でも、昔はまだ異種族と人間だけでなく、異種族間にも大きすぎる溝があった。
「……あたし、納得いかない。どうして鬼は悪者扱いばっかりなの? 鬼族のみんな、怖くないもん。優しい人ばかりだもん」
「今はまだ難しいかもしれないが……たくさんの人に鬼は怖くないって伝えられたらいいかもな」
「そんなことできるの? どうやって??」
「今よりももっと強くなって、困っている人や泣いてる人を、率先して助けてあげるんだ。マヒルが好きな、ヒーローみたいに」
鬼としての存在意義。最初は、それがきっかけだった。
悪者扱いされたくない。優しいみんなに、恩返しがしたい。
幼い頃のあたしは、とにかく必死だった。
ただ強いだけじゃない、誰かのために命を張れるようなヒーローになろうと。
そうすることが、同族達への報いにもつながると思っていたからー
「きいたか? ルシェが四天王を決める場に呼ばれたらしいぞ」
「村を放って出たあいつが……とんだ出世だな」
「これで四天王に選ばれたとしたら、少しは鬼族の扱いがよくなるかも! なんてな!」
そんなあたしの行先を、突然前触れもなく塞いだ奴がいる。
それが、ソルー・ルシェだ。
同族の中でもかなり魔力が高く、それ故極めて異端といわれてきた、吸血鬼。あたしが生きてるより、何倍もこの世界に生きている人。
魔力と生力のために、同族ですら血を奪う存在だったからなのか、周囲とは喧嘩が絶えなかった。
結果、村を捨ててどこかに姿を消してしまった。
姿を変える魔法で、鬼ということを隠して。その結果、四天王という大役に任命されて。
そんなあいつが、あたしは嫌いだった。
「なんでよ……なんであんたが! あたしの邪魔すんのよ!! 村のみんなを放ってでていったくせに!」
「相変わらず威勢がよいのう。そんなに悔しければ、お主も四天王になればよいではないか。まぁ、そう簡単なものではないがな」
強くなりたい。
あいつより、いや他の誰よりも強くなって、鬼族としての自分を、誰かに認めてもらいたい。
だから、あたしは行動を起こした。
「あんたが魔王ディアボロスね。あたしはマヒル。あんたを倒すヒーローの名前よ!!」
魔王を倒す、そしてこの世界にあたしが最強と示す。
この世界では、魔王がすべてだ。
故に魔王を倒そうとした者には、それなりの罰が与えられるという。
それでもあたしにはそんなの関係ない。
魔王を守る戦士たちを、木っ端微塵に薙ぎ払ってゆく。
つい笑ってしまうくらいの弱さに、これなら魔王も楽勝だと。そう、思っていたのに。
「ヒーロー、か。確かに悪くない太刀筋だ。相手が我でなければ、の話だが」
魔王は、あたしの想像を遥かに超えていた。
どんなに鋭く、大きな攻撃もしのぐ、膨大なバリア。
手や指をかざすだけで、人を吹き飛ばすほどの力を持つ魔力。
結果、あたしは魔王に一撃も与えることもできず、やられてしまった。
「相手に動じない精神、魔力を補うかのように、全ての武器を巧みに使いこなせる戦力……マヒル、と言ったか。その努力と勇気を讃え、貴様を四天王選抜の参加券を与えよう」
彼女ーディアボロスはとにかく謎な女だ。
罰を与えられるどころか、こんなあたしに選抜への参加券さえ与えてくれた。
当然、城のものからは野次や文句ばかりが飛び交ったが全く聞き入れる様子もなく。
結果、あたしは難なく勝ち上がった。四天王最強という名をもらって。
けれど正直、あんまり実感はわかなかった。
なぜなら彼女達は、各々優れた点があり、同族相手では負けなしだったあたしと、渡り合う力を持っていたのだから。
「どうしてそんなに強いのか、か。ならまずは、見つけることだな。お前が一番、守りたいと思うものを。いずれくるその時に、お前の相手をしてやろう」
かつて、あいつにきいたことがある。どうしてそんなに強いのか。
そんなことしなくたって、あたしは十分に強い。
そう、思っていたのにー
「やれやれ、一時はどうなることかと思ったが……一安心じゃ。芝居をしたかいがあった」
大きな翼を羽ばたかせながら、彼女が笑う。
先ほどまでいたマグマが、どんどん遠ざかってゆく。
やはりここは危険だ、そう言ったユウナギが大きな鳥を呼んで、みんなを乗せようとしてくれた。
それでも5人は流石に無理があると言う話になり、あたしは彼女と共にルシェに運ばれることになったのだけど。
「芝居、ですって? やっぱりあんた、あたしを騙したのね」
「そんなに怒るではない。こうでもしないと、お主は頑なに認めんじゃろ? それに、すべてが嘘というわけではない。昔から知り合いなのは本当じゃしな」
ソルー・ルシェ。歴代四天王最強の魔女。
魔王の次に、あたしが勝ちたい相手。
そんな彼女が、こいつと知り合いだなんて思ってもみなかった。
もっとも、彼女は何もかもお見通しなんでしょうけど。
「そもそも、わしにここにこいと言ったのは紛れもなくサヨじゃ。文句なら、本人に直接言うんじゃな」
四天王の家に着くが否や、彼女はあたし達二人をおろし、すぐに翼を広げて空へと飛んでゆく。
すぐ隣には、サヨがいた。
飛んでるさなか一緒にいたにも関わらず、ずっと無言だった彼女は目を合わせようとしても、こっちを頑なに向こうとしない。
いつから、だろう。彼女の些細なことに、気づくようになったのは。
四天王になった当時から、とにかく彼女は生意気で、ムカつくことしか言ってこない。
いつも澄ました顔。
それなのに、自分が傷つくことをいとわず、身を削るような戦い方をする。
まるで、いつ死んでもいいと思っているかのように。
「まんまとやってくれたみたいじゃない。どこまでがあんたの差金?」
「……そうね、きっかけはあなたにお守りを渡したとき……かしら。リンに相談してね、ルシェに連絡したの。うちを、奪ってほしいって」
「そ、それ結構前の話じゃない!! 」
「正直、リンがあんなこと言うとは思わなかったけど……好都合だと思った、あなたの気持ちを確かめるにはちょうどいいって」
「ってことは……まさかこの戦いも、全部あんたが仕組んだってこと!?」
「……でも、駄目ね。ほんとは手を出さないつもりだったのに、気が付いたら体が勝手に動いていた……あなたが、いなくなってしまうんじゃないかって」
そう言いながら、彼女はみつあみの部分をくるくる指で回す。
こいつが照れている時、素直になれない時にやる癖だ。
嫌でも目に入ってきたせいで、嫌でも覚えてしまったじゃない。
「それより、さっきの言葉だけど。確認させて欲しいの。勢いで言ったのか、それとも……本気でいったのか」
恋愛。戦闘において必要ない感情。
ずっと見ないふりをしてきた。気づかないふりをしてきた。
認めてしまうと、自分が弱くなってしまうような気がしたから。
けれどもし、これから彼女を奪う人が現れたらー
「さっき偉そうな口を叩いてた奴が、今更何言ってるんだか……本気に決まってるじゃない。全員の前で言っとけば、変な虫がつくことはないでしょ?」
「……で? つまり?」
「だー!! いちいちわかってることを聞くんじゃないわよ!! 好きよ、あんたのことが!! このあたしが、あんただけのヒーローになってあげるわ!! 感謝しなさい!!」
誰かのものになるくらいなら、あたしのものにしたほうがいい。
いつでも助けられるように、そばにいればいい。
ヒーローになるために、守るべきものを増やせ。
あいつの言ってたことは、こういうことだったのね。
「わかってはいたけど、ロマンのかけらもない告白ね。ほんと、脳筋」
「な、なんですって!? 言わせたのはそっちでしょ!? そういうあんたこそどうなのよ!! 自分だけ逃れようったってそうはいかないんだから!!」
「はなからそのつもりないわよ。ほんと、めんどくさい人ね。好きよ、あなたのそう言うところ」
くすりとサヨが笑いながら、その手を差し伸べる。
そうしてあたし達は、家に帰るまでこっそりとその手を繋いでいたのだった。
(つづく!!)
ついに、ここまできました。
長かったような、短かったような……
実を言うと、この作品はマヒルとサヨ、
ケンカップルを幸せにすること、が始まりでした。
私自身、ケンカップルを推すことが多く、
それでもなかなか両思いが書けなかったので
いつか、いつかと思っていたんですけど……
それが、ようやく叶いました。
思い入れがめちゃくちゃある二人なので、
もう感無量です。
さて、これにて四天王コンプしました。
と言うことは……わかりますね?
ついに、本編の終わりがそこまできています。
……本編は、ですが笑
次回をお楽しみに!




