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クラス転移に失敗して平民の子に転生しました  作者: ささくれ厨
第五章

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ガラン=アドゥナ 四

 クウガを含め、子どもたちが寝静まった夜。

 居間には異世界人の女性たち──白羽結凪、柊遥、一条栞里、久喜恵、此花奏、多々良華魅──。それと森のエルフの姫君・ララノアとその従者のラエル、それから、ドワーフの娘・アルニア、この家の住人のラナ、レイナ・イル・セアと、コレオ帝国の皇族のミル・イル・コレットとメル・イル・コレットが集まっていた。


「夜分にこうして集まってお話をさせていただくのは憚られる想いがありましたが、この機会にお伝えしておきたく、集まっていただきました」


 各々がソファーや椅子に座る中、ミルは一人、この部屋で立って周囲を見渡している。


「まず、もう十四年も経って言うことではないかもしれませんが、ユイナ様、ハルカ様、シオリ様、メグミ様、ハナミ様、カナデ様──ここにいらっしゃらない異世界人の皆様を異世界から喚んでしまって、心から申し訳なく思っています。この場を借りて謝罪をさせてください」


 ミルはそう言ってゆっくりと頭を下げた。


「大規模召喚魔法の際に二名の方が亡くなられました。その方たちの名前をニコア・イルミ、クウガ・アモウと伺っています。そのお二方を思うと今でも胸が痛みます。まさかあのようなことになるとは全く予想しておりませんでした。特にクウガ・アモウはユイナ様の想い人という話を聞き、ユイナ様には多大なるご心痛をおかけしましたこと、誠に申し訳なく、ただただお詫びする思いにございます」


 ミルの周囲の女性たちは彼女の言葉を静かに聞く。


「不思議なことに、ニコアという名前の女の子が私の従者となり、クウガと言う名の男の子が私が憧れたラナ様のご子息として生まれ育ち……これもなにかの縁なのでしょう──だから、今まで片時も忘れたことはありませんでした。きっとあなた達には今も恨まれているのでしょう。私はあなたたちを元の世界から強制的に引き離して……誘拐して監禁していたのと何ら変わりありません。父に逆らえなかったとは言え、大規模召喚魔法を執り行ったのは私ですから。あなた達をこの世界に招いて以降、異世界人の中には命を落としてしまった方もいらっしゃいました。元の世界にお返しすることができず、かと言って喚び出した私があなた達のためになるようなことを、望むようなことが出来なかったことを、心苦しく思っています」


 ミルは顔を下に向けて言葉を詰まらせた。

 胸に込み上げる大きなつかえが涙を押し出そうとするが、ここで泣いては媚びているように思えてミル自身が許せない。

 それを堪えるために一旦、間を置いた。

 そこで口を開いたのは一条。彼女は席を立ちミルに言葉を発する。


「確かに私は家に帰りたいとずっとそう思っていた。でも、今は充実しているし、これはこれで良いんじゃないかとも思ってる。ラナさんには申し訳なく思うけど、ロインさんのような──元の世界では出会うことのない素晴らしい男性に出会えたし、女としての役割も果たせたと思ってる。これも私の運命なのだと、今は恨んだりしていない。それは私だけじゃなく、めぐっち、はなみん、かなぶんも同じだろう。むしろ、諍いなく過ごせてこれが幸せだと思えるこの世界には感謝しているくらいだから」


 一条が言い終えると、一条に愛称で名前を出された久喜、多々良、此花は首を縦に何度も振って首肯。

 彼女たちは「この世界の仕組みに救われた」と賛同を示していた。


「うちらって別に皇女サマにこき使われてないし、むしろ、元クラスメイトの男子どもに休む間がないくらい働かされて酷い扱いだったからね。恨んでるっていうなら皇女サマじゃなくて委員長──如月とか高野とかにだよ」


 一条に続いたのは久喜。

 久喜は調教師という恩恵を持ち、用途が分からず、異世界人が使う馬車の馬などの世話に回されていた。


「そう! ほんと酷かったよね。アタシは木野山に言われてさー。銃を作らされたりしたけどマジで酷かった」

「ウチもだよ。木野山と高野に言われてね。寝る時間以外ずっとだった」


 此花と多々良が間髪入れずに発言。


「クウガくんの手前、話せずにいたけど、銃のせいでたくさんの人が死んじゃったし、レイナさんのお兄さんもそれで殺されたっていう話だし、木野山に言われるがままだったけど、これって皇女サマとアタシらって同じだよね? 皇女サマはお父さんに逆らえなかった。アタシらは男子に逆らえなかった。あのとき、にこちが死んじゃって怖かったけど、アタシはそれ以上のことをしてしまったんだと思うと、人を殺すためだけに作った銃のせいで死んだ人が夢に出てくるんじゃないかっていうくらいに怖くてさ」


 此花の言葉に、レイナは眉をピクリと動かした。ニコアとはまだ言葉を交わせていないから今は何とも言えない。

 この世界は剣と魔法があり、武器と魔法で多くの人間の命を奪う。だから武器を作ったのが悪いのかと言われればそうじゃない。意味もなく人の命を奪うために武器を使った人間が悪いのだと、レイナは考えている。

 それはラナも同じで──彼女が放ったとんでもない魔法は、幾千幾万の帝国兵の命を刈り取った。

 此花の言葉はレイナとラナには綺麗事のよう。でも、今は自分たちは関係ないと口を噤む。


「と、まあ、そういうことなんで、皇女サマが気にすることないよ。ま、ウチは家に帰りたいなんて一度も思ったことないし、今は楽しいしね」


 多々良は現状に満足を示した。


「そういうことなら私は魔法使い? 魔女ってのになれて満足だし。こっちじゃ推しができて一緒に生活してるしさ。確かに家に帰ることができればいいなって思ったことは何度もあったし、親に会いたいけど、十四年経って慣れちゃったところもあるからね。私も今が楽しいから気にしてないよ」


 床に座ってあぐらをかく柊は姿勢を崩さずに発言。

 柊のあとに結凪が静かに言葉を紡ぐ。


「私は……ミル殿下に想い人を殺されたって思ってないんです。私、くーちゃん……天羽空翔は幼馴染で中学のときに突き放すようなことをしちゃってから、ずっと後悔してたんです。だから、必死になって勉強してくーちゃんを追いかけて高校に入ったけど、結局、私は何もできませんでした。くーちゃんが死んでしまって悔しかったけど、それはミル殿下に対してではなくて、私自身に対してだから。ここに来てからは不思議とくーちゃんが傍にいるような気になって少しだけ救われました。それまでは如月くんが言い寄ってくるしちょっと気色悪かったから、その時の境遇のままだったらミル殿下を恨んだかもしれないけど、ここの皆様には良くしてもらえてますし……」


 彼女たちは異世界から転移して十四年も経っていて、仕方がないと諦めている。

 そのことがミル皇女を苦しめていた。しかし、ここにいる異世界人は帰りたいと思ったことがあったのは確かだけど、ある程度は納得をしていると言う。


「異世界人の皆様はこの世界で幸せなのでしょうか?」


 不思議に思うミルは異世界人の女性たちに問いかけると──


「幸せなのかと言えば、ある意味では幸せだし、ある意味では不幸だね。けど、それは元の世界でずっと過ごせていたとしても変わらない。つまり愚問だ」


 一条が答えた。


「そりゃそうだよね。姫サマが私らを皇帝から遠ざけてくれていたのは分かってたし、城から出たクラスメイトを追うようなこともしてないもんね。まあ、そのせいで若かった私らは勇者や賢者に扱き使われるハメになったけどさ」


 柊はそう言って結凪を見る。

 結凪は柊に同調して「わかる……」と小さくため息を吐いた。


「勇者と賢者と言えばレイナさんとラナさんだよね」


 と、久喜。


「うち、馬の面倒を見てたせいでさ。いろんな話を聞いたけど、如月は人妻だったレイナさんの尻を追いかけてたし、高野なんか必死にラナさんを探して回ってたもんね」


 久喜が続けてゲラゲラ笑いながら話し始める。


「私?」


 とラナが反応を示せば、一人掛けのソファーに座っておなかをさするレイナは鬱陶しそうな顔をして


「ああ……」


 と、低い声で小さく唸って表情を変えた。


「私、如月があんな人だと全然思ってなくてびっくりしたよ」

「わかる! 結凪とくっつくと思ってたけど全然だったしね」


 此花と多々良が姦しく言葉を交わす。


「キミたちは戦場に行ってないけど、本当に大変だったんだよ。女子だからっていう理由で会議には参加させてもらえなかったし、なのに、如月は戦に出てるときは結凪に言い寄って近付こうとしてたしね。私は恩恵のせいで結凪の前でしか能力を完全に発揮できないし、何を見せられているんだ私は──と、何度も思わされたよ」

「私、如月くんのそれが凄く嫌で戦に出たくなかったんだよ……治療してるのに後ろに立ってギラギラしてて苦手で……」


 一条と結凪が如月について言葉にすると久喜が話を元に戻そうとする。


「まあ、如月はレイナさんを、高野はラナさんを探すのに大滝を使ってさ。で、レイナさんとラナさんが親しいって知ってからは凄かったんだよ。ちょくちょく早い馬を貸し出したんだけど──そういえば大滝がさ。結構な怪我をして帰ってきたことがあったんだよね」

「あ、大滝くんのほっぺが切れてたのを治したことがあったよ。あの時は服もボロボロになっててあちこちに打撲痕や切り傷があって痛ましかったけど」


 久喜は馬の世話に従事することが多かったため、事あるごとに馬を借りに来る大滝の行動をよく知っていた数少ない異世界人。

 大滝が傷付いて帰ってくることは滅多にないため、久喜と結凪の記憶に焼き付いていた。


「それってセルムの貴族街で私とクウガくんが襲われたときのかしら?」

「そんなことがあったね。私もよく覚えてるよ。あれって異世界人の仕業だったんだ……」

「お兄様に口止めされていてお姉さまには言ってなかったけど、リョウセイ・オオタキだったわ。クウガくんとロインさんに助けられたけど、ロインさんが間に合ってなかったらクウガくんと私は死んでたかもしれないわ」


 レイナの言葉を聞いたラナはふつふつと怒りが蘇り、殺気が魔力となって膨れ上がるよう。

 ビリビリと肌を刺激する様子に異世界人たちはゾワゾワと鳥肌が立つ。

 それを誰一人として止める様子はなかった。ラナは実行に移そうとは微塵も思っていなかったから。


「それってもう何年も前のことだよ? 大滝って結構強かったけど、クウガくんとロインさんはそんなに強いの?」


 大滝の強さをよく知る一人、柊がレイナとラナに質問を投げかける。

 それに答えたのはレイナ。


「クウガくんはロインさんに鍛えてもらってたから、武器を使ってもそれなりに戦えてたわ。でも、魔法はお姉さまと違って少し遅くて、近接戦向きには見えなかったわね……」


 当時のクウガは十歳で大人にも引けをとらない程度。異世界人にはやはり敵わない様子だとレイナは付け加えて説明した。

 クウガはそれから更に稽古に一層励むようになったが、魔法はどれだけ上達しても発動までの時間を短縮することに苦労している様子で、それは今も変わらない。


「クウガはもう少し、魔力操作が熟れてきたら、出力を調整して実戦で使いやすくなりそうだけどね」


 ため息混じりでラナが言う。

 先程までの怒りは収まった様子で異世界人の女性たちは冷や汗を滲ませていた。


「そんなことがあったのですね。あの方たちはやめなさいと伝えても一度も耳を傾けてくれませんでしたから管理しきれなかった私にも責任の一端があるのでしょう」

「それはお父様を殺めたこともミル皇女殿下に責任があると認める発言になるのではないかしら?」

「そう言ってます」

「だったら、私、お父様の仇をここでとってもよろしくて?」

「その覚悟はいつでもできています。それでレイナ様のお怒りが静まるのでしたら、いつでもこの首を差し出しましょう」


 ミルとレイナのやり取りで、ミルは長い髪の毛を後ろから捲って前に退け、首を露わにした。

 レイナは重い腰を上げるように一人掛けのソファーから立ち上がり、うなじをさらして片膝をつくミルの傍らまで歩くと、そこで身体を屈めてミルの肩に手を置く。


「私ね。お父様の葬儀で遺体の傷を見たの。あの傷はオオタキが持つような武器でないとああはならないわ。だから私が憎んでいるのはオオタキ。ミル殿下のことを恨んだりしてないわ。ごめんなさいね。殿下の覚悟を確かめたかったの。殿下はお姉さまに憧れて冒険者を志すほどの女性だもの。私にはわかってたわ。でも、異世界人の方々はそれがわからないから。試すようなことをして悪かったわ」


 レイナはミルを許し、ミルは涙を床に落とした。

 ミルは言葉にこそしないが、冒険者は性に合っていると感じて、楽しんでいたところがあった。

 ラナに憧れ、ラナの足跡をなぞることで、物語に描かれたラナのようになりたいと志す。


──私はラナ様のようにはなれない。


 ミルはラナが怒ったときに放った魔力を肌で感じ、そして、ラナを慕うレイナの言動で、ラナという人物の一端を知ったような気持ちになった。

 憧れたその人は、激情的で強く、そして、誰にでも優しいけど、誰に対しても厳しい。そうでなければ冒険者として名を挙げることはなかったはずなのだと今さら気が付く。


「ありがとう。レイナ」


 零れ落ちた涙のあとはそのままに、ミルは立ち上がる。

 真っ直ぐ前を見据えると、そこにはラナの笑顔が見えたような気がした。


「空気を悪くしてしまったわね。レイナ、お酒があったらいただけるかしら?」

「私は飲めないけど、ここにはドワーフの──そちらにいるアルニアさんのお父様──モルグさんが持ってきてくれた蜂蜜酒(ミード)があるわ」

「なら、それをちょうだい。良かったら皆さんとご一緒したいわ」


 レイナが立ち上がり、ミルの頼みに応じるとメルとアルニアが立ち上がって酒樽を取りに台所の奥に行く。

 この日は空が白くなり始めるまで彼女たちはドワーフの蜂蜜酒を味わった。

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