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クラス転移に失敗して平民の子に転生しました  作者: ささくれ厨
第五章

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森のエルフの郷 二

 母さんはガネルの先にいたエルフの女性に気が付いたようで、


「わ、クウガにそっくり!」


 と驚いていた。

 俺の隣を歩くミル皇女も、


「驚きました。本当に似てるわ」


 と、俺と母さんとエルフの女性を見比べながら俺に言う。


『嗚呼、スクルドの子たち……会いたかったわ』


 女性は母さんに近付いて母さんを抱き締めた。


「え? 私? どうして?」


 意味がわからないと言いたげな母さんだが、抱き締められて嫌な気がしなかったからか、エルフの女性を抱き返す。

 それにしても本当によく似ている。

 顔や体型は瓜二つと言っても差し支えないほど。違うのは耳の形と瞳と髪の毛の色くらい。


『良いのよ。私にはわかるから』


 見た目だけは二十代半ばに見えるふたりの抱擁。

 これはこれでとても綺麗だ。


『そちらの子は随分と多くの精霊に懐かれているね。本当にスクルドを見ているかのようだよ』


 ガネルが俺を見て目を細める。

 精霊──というのかよくわからないけど、俺の身に纏わりつく魔力に近いしっとりした揺らぎが、そうなのだとしたら、この郷は光の精霊が太陽の光を招き入れているように思える。

 空気が俺の身体をなぞるように不規則に流れ、時折ひんやりした水気が俺の頬を撫でる。

 この感触は精霊によるものなのだろうか。


『俺の周りに纏わりついているのが精霊なんですか?』


 ガネルに聞いて確かめる。


『そうだよ。それが精霊。目に魔力を込めると見えるかもしれないね』


 ガネルの言ったように、魔力を使って見ると、ぼんやりと精霊の姿らしきものが目に映った。


『……み、見えました』


 俺の身体の周りをぐるぐると回っていた女性型の精霊に手を伸ばすと俺の手に頬を擦り付けて美味しそうに魔力を吸い取る。


『少し教えただけで覚えるとは素晴らしい──まるで幼いころのスクルドのようだよ』


 ガネルはそう言って俺から離れると、広場の中央に移動した。

 母さんとエルフの女性は並び立ってガネルのほうを向く。

 広場の中央に立つガネルは周囲を見渡してひとりひとりの表情を確かめた。


『今日、ここに、我らが子、スクルドの子たちがこの郷に帰ってきました。そして、ナイア様の千年ぶりのご訪問を本日は祝いましょう』


 ガネルが宣言をすると、唐突に宴のような状態に。

 と、言っても楽器を持ち込んで歌を歌い始めたり、その歌に合わせて踊ったり。

 広場に置かれている台のようなものにはいつの間にか食事が並べられていて、エルフたちがそれを手に取ってつまみ、談笑し始める。

 俺と母さん、ミル皇女が突然の宴に面を食らって目を丸くしていたら、先程の母さんとそっくりなエルフの女性が話しかけてきた。


「私はエミル。久し振りにニンゲンの言葉で喋るから間違ってたらごめんね」


 エミルと名乗った女性が帝国語で話しかけてきた。


「そっちの子はヘルグの面影があるように見えるけど……」


 エミルと名乗った女性はミル皇女の顔を覗き込んで眉を上げる。

 急に近寄られて驚いたミル皇女は一歩後退り──


「……あの。ヘルグって」


 おずおずとエミルに尋ねた。


 ヘルグ・ヴィヴ=イル・コレット。

 領民学校で習った帝国史に出てきた名前で、コレオ帝国が初代皇帝その人。

 コレッタ公国の非嫡出子として産まれ、生母の死後、貴族の出という身分を隠してバレオン大陸を転々として旅をして周り、コレオ帝国の建国後には天下統一を果たしたとされる英雄。

 ヴィヴ=イルは旅をしていたころに名乗った名前という逸話が教科書に載っていた。


「私の祖先にヘルグ・ヴィヴ=イル・コレットという男性がおりますが……」

「あー、そうそう。ヘルグ・ヴィヴ=イル。そう名乗ってたね」


 エミルとミル皇女が向かい合って話しているけどミル皇女のほうが年上に見える。さすが長命種。


「それでは……もしや……先程のスクルドという名の方は……」

「スクルドは私とヘルグの娘だね」

「ですが、ヘルグが結婚していたという話はなかったはず……」

「そりゃ、そうだよ。ここから追い出したのは私だしね。その時は私に子どもができてたって知らなかったし」


 エミルの言葉を聞いて、ミル皇女はひとつの質問をした。


「ラナ様がお持ちのアンクレットはこの郷のものかしら?」


 母さんが手にしているアンクレット。母さんが持つことで郷に入ることができた。ニコアが持っていたときはアンクレットに呪われて、解呪した今も苦しんでいる。

 この魔道具のようなアンクレットがどのようなものなのか気になったのだろう。


「これは私──私たちがスクルドに託したもの。スクルドの血を引く者ならこの魔道具で郷への入り口を開くことができるの。この子がこのアンクレットで入り口が開いたのなら、スクルドの子だってこと」


 エミルの答えを聞いて、ミル皇女に一つの考えに至ったかのような表情に。それから、ミル皇女は俺と母さんの顔を順に見てから、ふたたび、俺に視線を戻した。


「本当にそうだとしたらクウガはヘルグ様の血を引く皇族──ということになるわね」


 ミル皇女が独り言ちるように放った言葉。

 それを耳にした俺と母さんは絶句。そんなわけあるか! と、返しそうになっていたが、会話が途切れたこのタイミングでエミルが何かを察したようで、話題を変えるために口を開いた。


「やー、それにしても、ヘルグって本当に王様になったんだね」

「はい。コレッタがドラゴンに滅ぼされかけていたところに駆けつけて、カーバンクルを倒したときに手に入れたアルマンディンという宝石でドラゴンの攻撃を弾き返して倒したと伝えられています。皇帝になったのはその時ですから」

「そっかぁ。それは良かった。ヘルグと一緒にカーバンクルを狩った甲斐があったわ」


 そう言って笑顔を振りまく姿は母さんに酷似。血筋を感じさせる。

 遠い祖先の英雄譚が聞けるんじゃないかとミル皇女が俺の顔を見て瞳の奥を輝かせた。


「ヘルグ様とご一緒だったのですか?」

「ヘルグと一緒だったよ。大街道で一緒になってからはずっとね」


 エミルはそれなりの期間。コレオ帝国の初代皇帝・ヘルグとともに魔族領を旅して回ったそう。

 その中に狐人族の村があったりして、ダージャから聞いたことと齟齬がなかった。

 ヘルグと深い仲になったエミルは長い旅を経て森のエルフの郷に還り、そこで、ヘルグと別れたという。

 その後、エミルはヘルグの子を身籠ったことを知り、ヘルグに何も知らせないままスクルドを産んだ。

 皇族の血を引くスクルドは実母のエミルと同様、郷を出てあちこちを旅して回った冒険者気質の持ち主だったそう。

 その後のことはあまり詳しくは知らないらしいけど、数年から数十年の間隔でスクルドから定期的に手紙が届いているそうだ。

 エミルはスクルドが子を産んだということを聞いていないと言い、だから、こうして、母さんと俺が訪ねてきたことに驚き、そして、喜んでいるようだった。

 ただ、やはり、ハイエルフ族の特徴的な容姿を受けついでいないから、それで、子を産んだことを知らせなかったのではないかとエミルは考えているよう。

 そうだとしたら、母さんの母親からすでに人間と変わらない容姿だったということだろう。

 俺にとって祖母にあたるその人はどこにいるのだろうか。

 エルフって長命種だからハーフやクォーターくらいなら寿命がそれなりに長いような気がするし、きっと今も生きているような気がする。

 エミルの話が一区切りすると、少しの間、間が空いた。


「それで話は変わるけれど──」


 考え事をしていたらミル皇女が沈黙に口火を切る。


「そのアンクレットを身に着けて呪われたかもしれない女の子がいるのだけど、クウガと聖女のおかげで呪いは解けましたが、容体があまり芳しくなくて、何か治療方法はないかお聞きしたいのですが……」


 ニコアにかかった呪いはすでに解かれている。けど、ニコアの容体に改善は見られなかった。

 ミル皇女にとってニコアは大切な従者として扱っていて、一刻も早い回復を願っている。


「もしかして、ラナとクウガ以外の子がアンクレットをつけたまま郷に入ろうとしたの?」

「……はい」

「今、ラナが持っているアンクレットは私やスクルドの縁の者だけが扱える魔道具。無関係な者が身につけたら身体を砕いて命を奪うものだよ。でも、よく外せたね」

「クウガが魔力を流したら緩んで外せたのです。それから聖女のスキルで解呪いたしました」

「へー。じゃ、そのアンクレットに呪われてた子は主神様から強い加護を受けてるのかもしれないね。そのアンクレットの呪いは即効だから」


 主神というのはニューイットのことだろう。たまに彼女の姿が脳裏に浮かぶけど、早々に忘れられるものではないんだよね。初めて見たときはほぼ裸体だったから。

 ミル皇女とエミルのやり取りは続き──。


「そうですか……では、ニコアを救うにはどうしたら良いのでしょうか?」

「私たちエルフの魔道具は精霊の力を借りてるの。エルフの血族で精霊の扱いを知る者なら簡単に解けるよ」


 エミルは俺に目を向けた。そして、エミルが言う。


「呪われてる状態でアンクレットを外したというだけで彼には才能があるよ。ここで精霊についての知識を身に付けたら、解呪も回復もしてあげられるんじゃないかな」


 つまり、精霊の助けを借りればニコアの容体を改善できるかもしれないということか。

 エミルの言葉を聞いてひっそりと、精霊の気配を探ってみることにした。

 すると、唐突にエルフたちが歓声を上げる。


『おおおお────ッ!!』


 精霊たちがざわつくと光の粒子が入り乱れるように揺らめいて、地面の草花から柔らかな輝きがキラキラと舞い上がる。

 人肌ほどの温かさを感じさせる緩やかな風が肌を撫でると胸の中がスーッと広がっていく感覚に陥った。

 精霊の魔力のようなものに混じって神聖な気配はふわりと周囲から引き寄せられて俺の前に留まると、空間の揺らぎがゆっくりと人の形を形成する。

 俺よりも少しだけ背が低いようだけど、その姿は見覚えがあるもの。


『おお! 主神様! 主神様がご降臨なされた──!!』


 ガネルが平伏して地べたに額をつくと、他のエルフたちも──エミルとリウも俺に向かってガネルと同様、地べたに額をくっつける。


《久し振りね。精霊の神気を使って降臨させてもらったのよ》


 ニューイットの姿だった。

 その姿は少しだけ透き通っているように見えるけど、まるでそこに本当に人の姿で存在しているよう。

 そして、彼女の声は俺の頭の中に直接、響き渡った。


──身動きが取れない。


 俺の横に居たミル皇女もその姿を視認しているからか跪いて頭を下げていた。

 母さんも両膝をついて手を組んでニューイットに祈りを捧げている。


《私の愛しい子、クウガ──》


 ニューイットは俺に向かって両手を差し伸べた。

 その手のひらは俺の顔に近付いて両方の頬を包み込む。

 俺の頬に触れるとニューイットを象った揺らぎが形を変えて俺の身体に溶け込むように消失した。

 近くから『パフォーマンスだろうがやりすぎじゃ』とナイアが独り言ちるのが耳に届く。

 彼女だけはこの場にいながら、自由に動くことができて頭を下げず、ずっと俺とニューイットを目で追っていた。


 それからというもの、エルフたちの振る舞いはガラッと変化した。


『クウガ様、これが我が家で製茶したものにございます』


 彼女はラエルの母親でメルウェンという名の女性。とても胸が大きくてひとつひとつの動作でおっぱいがぶるんと揺れて目が奪われる。

 森のエルフの茶はメルウェンが作っているもので、それがエルフの間で流通しているそう。


『ありがとうございます。大事に飲みます』

『いいえ。クウガ様に重用いただき大変光栄に存じます』


 メルウェンからお茶をいただいて、俺の目的の一つは達成。

 それからガネルが、


『では、精霊の棲み処にご案内させていただきましょう』


 と、俺だけが大木の裏に連れて行かれた。

 不自然な太陽光が真上から降り注ぎ、地面を丸く照らしている。

 草花と小さなせせらぎに小鳥が鳴き、穏やかな雰囲気に神気と魔素が入り混じっているからか多くの精霊の気配が感じられた。


『ここは我々、森のエルフがこのせせらぎの水で身体を清め精霊や主神との親和性を高める場にございます。クウガ様の魔力と神力がございますれば、精霊たちも喜びましょう』


 なるほど。この水で身体を流せということか。

 ガネルが籐の籠を近くに置いてくれて、せせらぎに入るよう促した。


『では、私は戻ります故、ごゆっくりとなさいませ』


 と言ってガネルは去る。

 服を脱ぎ、裸になってせせらぎに入った。

 冷たいんじゃないかと思っていたけど、思っていたほど冷たくなく、むしろ、生暖かい。

 こういうのも精霊の働きらしい。

 多くの霊体が話しかけようとしているのがわかる。

 何を言っているのかわからないものから、何をしたいのか、何をしてほしいのか、感じ取れる個体もあった。


──ここの水、気持ち良いでしょ?

──この風なら寒くないよね?

──目に優しい光だよ。よく見えるもんね。


 この場所に似つかわしい精霊の声が聞こえるよう。

 しかし、それだけではなく。


──素晴らしい炎を宿しているね。

──この地には私もいるよ。


 控えめに訴えかけてくる声もあった。

 そして、真上から降り注ぐ光の影から小さな声を感じる。


──アタシならアンタが必要としているものを与えられるわ。


 せせらぎに身体が馴染んでくると精霊たちの声が次第に強く響く。

 森のエルフは産まれてからずっと、このせせらぎで身体を洗い、精霊との距離を縮めるそう。

 俺ですらこんなに声が聞こえるから、エルフだったらもっと凄いはず。

 みんな、ありがとう。みんなの声、聞こえたよ。

 心の中で声にすると不思議と神気が身体に沁み入るよう。

 せせらぎから上がって身体を拭って服を着てから元の場所に戻った。

 大木の下の広場では母さんが、


『聖母様。聖母様はエミル様によく似ていて、とても憧れます』


 などと、エルフの女の子たちに言い寄られていた。

 エミルというエルフの女性は若い頃に郷を出てあちこちを歩き回った冒険者気質の持ち主。

 どうやらスクルドというハーフエルフの女性もそのようで、エミルのように郷を発ったとエミルが笑っていた。

 チヤホヤされている母さんだけど、エルフの言葉がわからなくて困った表情をしてる。

 ミル皇女はエミルと談笑していて、どうやらこちらはエミルの思い出話をミル皇女が聞き入っているよう。


 でも、俺が戻ると母さんの周りにいたエルフの女性たちは口を噤み、エミルは広場の椅子で静かに俺の顔を見て微笑んだ。


『やはり、主神様の愛されしお方。これほどまでに精霊に愛されるとは、我らがお仕えするに相応しい』


 ガネルはそう言って俺に向かって跪き祈るような体勢をとる。


『我ら森のエルフの民はクウガ様に忠誠を誓いましょう』


 そう言われても俺の人生ってたかだか八十年くらいだろう。

 エルフからしたら産まれたばかりの子どもが思春期になる程度の時間でしかない。

 とりあえず、ここは適当にやり過ごして、この郷での出来事は内密にしてもらおう。

 きっと母さんも同じ気持ちのはず。この森のエルフの郷で知ったことや起きた事は、ここから外に漏れることはない。

 俺はエミルから『また、ラナと一緒に来て私に顔を見せて欲しい』と言われて、指輪を受け取った。


『この指輪はラナが持つアンクレットと同じで、郷への入り口を示す魔道具。くれぐれも他人に譲渡しないように』


 エミルに釘をさされたのは二コアのことを伝えたからだろう。

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