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クラス転移に失敗して平民の子に転生しました  作者: ささくれ厨
第四章

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北ファルタ 三

 アルダート・リリーが離脱したけどルーサは敷地内の案内を続ける。


「元のファルタのころより敷地が広くなって、少し建物が立派になったわ」


 ルーサが言うように、最初に入った建物は聖堂のある建物らしく、客人などを招くのにちょうど良い広さだった。この裏手には孤児院と女性たちが働く修道院が存在する。

 ここだけで三棟の建造物。

 北ファルタの西の外れ──海沿いの丘陵地にあるとはいえ旧来の孤児院とは全く変わってしまったようだった。

 というのも、セア辺境伯領が侵略されて逃れてきたが、親を殺されて引き取り手のない子たちはここに預けられている。

 遠戚などでも親戚に引き取られたり、養子に迎えられたりした子も相当数いたそうで。

 考えてみれば孤児が出てるということは子どもを失った親もいるわけで、そういった人たちが養子として引き取ったようだ。

 それでも、ここには三十人ほどの孤児がいる。

 大きな建物を建ててもらえたのはそういった面倒事を押し付けたことによるものだろうね。

 で、裏手の修道院は男子禁制ということで俺とモルグは外から見るだけとなってしまった。

 ちなみに修道院は男子の立ち入りは禁じられているが修道女が男性と接することは禁じられていない。

 それは主神が女神だからということもあるのだろう。

 割と自由な身分だというのに、異性と付き合ったり深い関係を持つことは少ないそうだ。

 要するに誰もここから出たがらないらしい。

 異性と関係を持ち教会や修道院から出ていけば聖職から離れることになるわけで、そうなると、その国の身分制度が適用される。

 この大陸の聖職者は平民になりたがらないから教会から出ていかない。

 ルーサにおいては自分が独り立ちしたら孤児を見捨てることになってしまうから、ファルタに留まって修道女を続けている。

 そんなようなことを修道院に入る前にルーサが言ってた。

 取り残された俺とモルグだが──。


『なあ、クウガ。あのニンゲンの子って孤児だと言ってたな。さっきの子……サイリスは俺が引き取っても良いのか?』

『どうでしょう。モルグさんの身元が確かなら問題ないんじゃないでしょうか。でも大丈夫なんですか?』

『悪いようにはしねえぞい。鍛冶師の才能がありそうだったからエルボアに連れて行きたくなってな』

『そういうことならルーサさんに聞いてみたらどうでしょう?』

『そうだな。そうしてみるか』


 どうやら、アルダート・リリーを連れて行ったサイリスが気になったそうで。

 最初見たときは農具の手入れをしていたサイリスを見たモルグは彼に鍛冶の才能を見出したらしい。

 モルグは少し考えてから──


『クウガ、通訳を頼んでも良いか? 俺はニンゲンの言葉がわからないからよ』


 と俺に仲介を頼んできた。

 もちろん俺は『いいですよ』と応じる。


『それじゃあ、さっきの修道女さんに話を通すからな。その時も頼むぞい』


 そうして俺はモルグの頼むを聞くことに。

 しばらくして、女性陣が戻ってくると、モルグが何やら言いたそうにしながらルーサを見つめていたが──。


「私たちは修道院にお部屋をご用意していただいたの。クウガとモルグ様は孤児院のお部屋をお貸しいただけるそうよ」


 メル皇女が俺に近寄ってきてそう言った。

 言葉が通じないモルグの娘、アルニアは身振り手振りでメル皇女やニム皇女の助けを得てある程度理解していたようだったが、伝えきれない部分は俺が補足。

 ルーサは俺に、年頃の女の子──だいたい十歳くらいの子から修道院で寝泊りをさせているのだと説明してくれた。

 説明が終わるころに、孤児院のほうから子どもが数人出てきて──


「お母さん! お茶の時間の準備したよ」


 と、男の子がルーサを呼んだ。

 ルーサはお母さんと呼ばれてるらしい。


「お客様の分も用意しました」


 女の子が付け足す。


「ありがとう。では、これから行くよ」


 そう言って男の子と女の子の頭を撫でたルーサは俺たちの顔を見て「さ、一緒にお茶をしようか」と優しい目を向けた。


「では、ご相伴に与ります。どうぞ、よろしくお願いいたしますね」


 メル皇女がそう言ってカーテシーを女の子に披露。

 彼女のカーテシーを見た女の子の目が輝いていた。


 孤児院の食堂は想像以上に広い。

 詰めれば百人ほどが同時に食事できるのではないだろうかという広い室内に、大きなテーブルが何台も置かれていた。

 そのテーブルの上にはお茶が注がれた陶器の湯のみと、果物で甘さをつけたスコーンのようなものがひとかけらずつ。

 孤児院では昼下がりの午後──だいたい午後三時くらいにこうして休憩時間を設けているそう。


「では、おやつの前に、皆さんに紹介したい人たちがいます」


 と、ルーサがテーブルの座席についた孤児たちの前に出て声をあげた。

 子どもたちがルーサに目を向け続けている中、彼女は俺に近付くと俺の肩に手を置いて「最初に──」と俺のことを言い始める。


「この子はクウガ。私の子──私たちの孤児院から冒険者として巣立ったロインの子です。私にとっては孫みたいなものよ。だから、私たちの家族としてしばらく一緒に過ごしてほしいね」


 それから、ルーサは「自己紹介をしてもらえる?」と俺に言うので──


「ロインとラナの息子のクウガです。宜しくお願い致します」


 と、無難に名乗った。

 それから次に、ルーサはメル皇女を紹介。


「こちらはメル・イル・コレット皇女殿下。コレオ帝国の第二皇女。本来なら一番最初にご紹介すべきだったんでしょうけど、私たちはクウガに命を救ってもらった恩があるからクウガを先に紹介させてもらったの」


 ルーサはそう言って「申し訳なかったわね」とメル皇女に伝えてから彼女の言葉を待った。


「メル・イル・コレットと申します。ご存じかもしれませんが、今は帝国を追われ、クウガの助力でこうして逃れてきました。今の私と、妹のニムは皆さまと同じですから、気軽に接してくださってかまいません。しばらく、皆さまのお世話に与りますので、どうぞ、よろしくおねがいいたします」


 メル皇女は孤児を見渡すように左から右と顔を向け、最後にカーテシーを見せる。


「ありがとうございます。では次は、ニム・イル・コレット皇女殿下。先にご紹介いただいたメル皇女殿下の妹君でコレオ帝国の第三皇女です」


 ルーサの言葉でニム皇女が一歩前に出てカーテシーを披露。


「ニム・イル・コレットです。皆様の中に私と同じくらいの年齢の子たちが多くて感激です。お友達のように接してもらえたら嬉しいです。よろしくおねがいします」


 ニム皇女はカーテシーの後に自己紹介した。

 ニム皇女の後はアルダート・リリー。

 アルダート・リリーは修道院を見に行って戻ってきたら簡素なチュニックを着させられて戻ってきた。

 普段の全裸に近い半裸姿ではなく、肌の露出が可能な限り抑えられたものとなっている。


「ウチ、魔王ナイアの幹部。アルダート・リリー。よろしくね」


 両手を前にして手を組み、コレオ帝国の言葉で名乗ったアルダート・リリー。さぞかし、おとなしそうに見えていることだろう。

 それでも、魔王の幹部という言葉で子どもたちが「おおお」と声が上がる。

 見た目はここの子どもたちとそれほど変わらない。

 なのに魔王の配下の魔族。しかし、魔族をそれほど驚かないのは、


「獣人のおっちゃんとどっちが強いの?」


 と、突如、質問が出てくることから、魔族領の住人との面識はなくはないようだ。


『このあたりだと猫人族(ワー・キャット)? それとも兎人族(ラパン)? でも、どっちも、ちょっとね──』


 アルダート・リリーが魔人語で答えたが勝つとか負けるとか言いきらずに言葉を濁す。

 勝敗どころか戦いにもならないんじゃないか。魔族領は魔王城に近ければ近いほど強い種族とされているし、魔王の配下というだけで並みの強さではない。

 それがファルタを渡って半年程度の人間では計れない。

 魔族の価値観が人間の間に広まっていないのだ。

 しかし、アルダート・リリーの造形はとても愛くるしい美少女。ここ、北ファルタ孤児院の少年たちを魅了してやまない美貌で彼らの視線を集めていた。


『俺は、ドワーフ族でエルボア王国の王都エスガロスから来たモルグだ。よろしくな』

『アタシはモルグの娘でアルニア。よろしくね』


 アルダート・リリーに続いてモルグとアルニアの自己紹介。

 なぜかアルニアは女の子たちから憧憬の視線を浴びていた。

 ドワーフにしては長身らしい彼女は、孤児院の女の子たちより少し背が高い。

 鎧を外した彼女は凛々しい。胸筋で盛り上がって大きく見える乳房とがっしりとした足腰。無駄な脂肪が削ぎ落されたかのように縊れた腰。

 いかにも強い女という様相が彼女たちに憧れを持たせた。

 とはいえ、モルグもアルニアも人間の言葉は理解できないので何を言っているのか分からないだろう。

 彼らの言葉も俺が訳して皆に伝えたくらいだから。


「皆さん。お時間取らせてごめんね。それじゃあ、おやつの時間にしましょうか」


 自己紹介が一通り終わって三時のおやつが始まった。

 どうやら孤児院の子たちはこの時間を楽しみにしているようで、用意された甘いスコーンにかぶりついている。

 おやつを食べる子どもたちが落ち着きはじめるとモルグが俺に話しかけた。


『クウガ、ちょっと良いか』


 ルースとの交渉がしたいそうだ。

 モルグの頼みで俺はルースに話を持ちかけた。


「ルースさん。こちらのドワーフ……モルグさんがお話がしたいそうで……」

「お話……ですか。それはどのような……?」


 ルースは俺の話を──モルグの話を聞く


『あのサイリスっていう子ども。どうやら俺たちドワーフの鍛冶師に匹敵する才能を持っているようだから、しばらく、あの子の才能を確認させてもらいたい。しばらく、ここでの滞在を許してもらえないだろうか?』


 モルグは引き取るという話をしていたが、気が変わったんだろうか?

 そう思いながらルースにモルグの言葉を伝えていたが──


『俺は異国のドワーフだから、すぐには信頼できないだろうし、引き取るというのも難しいんじゃないか? だからここにいる間、ニンゲンの言葉を覚えるし、いくらかの金を稼いで寄付しよう。何なら魔族領で使える金ならすぐにでも寄付できるぞい。どうだろうか?』


 モルグの言葉にルースはしばらく考えた。

 すこし経ってルースはこう答える。


「しばらく時間が欲しいわ。確かに異国の──それも異種族に子どもを渡すことは難しいもの。それが皇女殿下たちの目の前でというなら尚更」


 ここは北ファルタという帝国から逃れた平民と貴族が作った町。

 住人にはまだコレオ帝国の国民という意識が心のどこかにあるようだ。

 かくいう俺もそうだし。

 そこで口を開いたのは話を聞いていたメル皇女。


「サイリスという少年に鍛冶の才能があるというのは本当かしら? それは恩恵を授かってるかもしれないということでしょうか?」


 メル皇女の言葉をモルグに伝えた。


『俺には鑑定がないからわからないが、おそらくは間違いなく。エスガロスに連れていければ鑑定させてはっきりできるんだがよ』

「エスガロスというのは……?」

『エスガロスはエルボア王国の王都。エルボア王国はここからちょうど真北にあるはずだ。俺と娘のアルニアはそこから来た』


 モルグはエルボアはドワーフの国で、ドワーフの国の鍛冶師などの職人が作った物を持ち出して、魔族領のさまざまな町で売り歩いているという。

 以前は魔族領の魔都にも足を運んでいたがコレオ帝国が勇者を召喚し、魔族領への侵略を始めたくらいから魔都を避けるようになっていたらしい。

 恩恵を持たず、鍛冶の才能に乏しいモルグ。彼が生きていく手段として選んだのが行商。

 稼ぎはそれなりで何よりもドワーフの国では手に入らない工芸品が少なくなく、それが意外と良い稼ぎになっていた。

 モルグの話はこれまでの旅のことから始まり、そして──


『そのサイリスという少年は才能がある。本当はドワーフの国に連れていきたいが俺たちの国ではニンゲンは行きづらいだろう。だからここで俺がサイリスに鍛冶を教えて、サイリスが作ったものを俺が買い取ってエスガロスで売ろうと考えた。ニンゲンならドワーフでは考えつかないようなものを作るだろうし、そういうものは受けが良いんだ』

「そういうことならサイリスくんに話をしてみるけれど──こちらに留まるということでしたら……ええ、そうですね。アルニアさんは子どもたちに好ましく思われているようですし、サイリスくんだけでなく何かしらのものを教えてくださるのなら、お金は必要ありません。こちらでもサイリスくんのことを見てみることにしましょう。それでお目に適いそうであれば、皇女殿下の許しを得た上でサイリスくんの希望を聞いて前向きに検討させてください」


 モルグとルースの間で話がまとまり、ルースはサイリスを呼び、モルグはアルニアと何やら話をし始めた。

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