第2話 ママ友
老人が散歩をしていると前から30代の女性の二人組が楽しそうにしゃべりながら歩いてきた。
「そうなのよ。」
「えー。」
「やーね。」
ぺちゃくちゃとすごい勢いでしゃべっている。
二人は老人に近づくと挨拶をした。「こんにちは。」
老人は無視してそのまま行ってしまった。
「何あれ、こっちが挨拶してるのに。」
「最近近所に引っ越してきたのよ。」
「やーね、同じ町内にあんなのがいるなんて。」
二人も文句を言いながら歩いて行ってしまった。
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二人はママ友である。
青木友子 36歳 夫 大卒 年収1千万円
渡辺真由美 38歳 夫 高卒 年収4百万円
二人の息子は同じ小学校の同じクラスで友達である。
1週間後、渡辺真由美の家のポストに1通の手紙が届いた。その中身は一枚のDVDだった。
真由美がそのDVDを再生してみると、青木友子が他のママ友に真由美の悪口を言っている姿が映っていた。
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青木友子「真由美ってさあ、なんか偉そうじゃない。金もないくせに無理してブランド品の服なんか来ちゃって、馬鹿みたい。」
ママ友「えー、でも青木さんって渡辺さんと仲良いじゃない?」
青木友子「えー、仕方なく付き合ってるだけよ。大体、真由美の家って金ないじゃない、家とは釣り合わないんだよね。旦那も高卒で馬鹿だし。」
ママ友「えーそうだったんだ。いがーい。」
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「何これ?友子の奴、絶対に許さない。」真由美の怒りは凄まじいものだった。
実は同時刻に青木友子の家にもDVDは届いていたのだ。やはり内容は渡辺真由美による青木友子への罵詈雑言だった。
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渡辺真由美「友子ってさあ、なんか嫌な感じだよね。あいつ、旦那が一流企業に勤めていて金があるからっていい気になってるんだよ。」
ママ友「えー、でも渡辺さんって、青木さんとすごく仲いいじゃない。」
渡辺真由美「家が近所で子供が同級生だもん、仲良くするしかないじゃん。私、あんな奴、大嫌いだよ。」
ママ友「そうなんだ。まあ、でもそんなもんだよね、ママ友なんて。あははは。」
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「あいつ、私の事こんな風に思ってたんだ。見てなさいよ。」友子も怒りを抑えきれなかった。
次の日から二人の戦いが始まった。
当然、二人は口をきかなくなり、それぞれが別々のママ友を作り始めた。二人はそれぞれのママ友たちにそれぞれの悪口を広めることに躍起になっていた。
二人は子供にも「これからは渡辺さんちの子とは遊んじゃいけないからね。」「これからは青木さんちの子とは遊んじゃいけないからね。」と命令した。
二人の争いはどんどんエスカレートしていった。
しかし、二人の異常さに付いていけないママ友たちは一人二人と離れていき、とうとう二人ともママ友から孤立することになってしまった。
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この1か月前、隣町の動画制作会社で代金を払う老人の姿があった。
そう、このDVDは老人が隣町の専門会社に依頼して作らせた偽物である。
完全に居場所を失った二人の姿を見て「ふん、ママ友なんてこんなものじゃ。むやみやたらとはしゃいでいる奴らを見ると虫唾が走るわ。」老人は吐き捨てるように言った。
この老人は一体何者なのだ。
つづく