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大帝国の第2皇女は特大の厄介者だ

「それで君の方はどうなんだ? 百合姫に動きはないか?」


 セントリア第2皇女リリィもまた、いわくつきの姫だ。


 

 セントリア帝国には継承権を持つ男児はおらず、双子の姫がいるのみだ。


 通称、薔薇姫と百合姫。帝国内では絶大な人気を誇っていた。


 ところが、第一位の皇位継承者だった姉・薔薇姫ローズが世紀のスキャンダル「真実の愛」事件で平民落ちした。平民と恋に落ち、10才の頃からの婚約を破棄して、自身も平民に落とされたのだ。


 これにより百合姫が帝国の皇位継承第1位に繰り上がったが、皇室からの正式な発表はまだ出ていない。

 このため帝国内は浮足立って、不安定な状態にある。

 そんな中、渦中の人物が、国外に緊急避難してきたのである。


 問題しかない。

 超特大の厄介者だ。



 セントリア帝国の皇族は併呑された亡国の旧臣たちからの恨みを抱かれ、常に暗殺の危険に晒されている。今回の政局混乱は、亡国の旧臣たちにとって大きなチャンスとなろう。


 このナース国で百合姫が暗殺されでもすれば、怒り狂ったセントリア皇帝がナースに向けて挙兵する可能性だってある。



 そんな物騒な国の姫がナースに到着して間もなく、怒りに満ちた表情で「おのれ、ダジマット王、許すまじ! 成敗してやる!!」とつぶやいたのをケイトリンは聞いてしまった。


 ダジマット王というのは、魔法国連盟の盟主であり、アッシュ・コーニックとして学園に通うナサニエル第4王子の父君だ。


 エイデンとケイトリンには、百合姫リリィの企みも行動も予測することができない。

 ただ、分かるのは、「百合姫は潜伏している人間にしては、目立ちすぎている」ということのみ。


 髪の色も瞳の色も変えず、アンジェリーナという真名でナース国内をウロウロするのは、大国の姫の行動として危うすぎる。

 はっきり言って迷惑である。


 ケイトリンは危険性について忠告したが、リリィは聞き入れてくれなかった。


「セントリア皇室広報部のつくった『百合姫』は、ブロンドに水色の瞳だから、わたくし本来のミルクティー色の髪に紫色の瞳の姿で人に会ったことがないのよ。わたくしを見て『百合姫』だと思う人なんていないわ!」


 確かにそうかもしれない。


「大体、アンジェリーナなんて真名、帝国文書のどこにも書いていないのよ。誰にもわかるわけないわ。家族ぐらいしか知らないんだから」


 ケイトリンは、帝国の極秘情報をガンガン漏らすリリィに危機感を感じた。



 薔薇姫の剣トモに貰ったという「ナース淑女ブック」と「ダジマット淑女ブック」を開いては、ナース美女、ダジマット美女、セントリア美女のちょうどド真ん中を狙ってのんきに美容研究しているリリィに、ケイトリンは頭を抱えてしまう。


「ナース美女はかわいい系で、ダジマット美女は気品系で、セントリア美女は華やか系だから、そのド真ん中を攻めなさいって、言われたの。わたくし、頑張るわ!」


 張り切るリリィに、ケイトリンは恐る恐るダジマットが入っている理由を聞いてみたところ、またもや


「ダジマットは、ええと……」っと、言葉を濁した後、何かを思い出したように怒りを浮かべて、


「ダジマット王め、絶対に許さない! 滅ぼしてやる!!」っと、口を滑らせたこともある。


 というか、割としょっちゅう、そのように口を滑らせている。


 もう、どこに地雷が埋まっているかわからず、当惑するばかりのケイトリンである。


 口を滑らせた後には「冗談よ。冗談。そんな物騒なことなんて、しないわよ? 慣用句みたいなものよ。ほら、『ブルータス、お前もか!』とか、有名でしょ? あんな感じの? でも、世界大戦に発展しそうだから、気をつけなきゃね。ほほほ」などと言って誤魔化しているが、なかば口癖のようになっている。


 一応、自分の発言が大きな危険を孕んでいるという認識はあるようだ……


 真面目なケイトリンは、セントリア帝国のダジマットに関係する慣用句を調べてみたが、該当するとおぼしき表現は見つからない。


 ケイトリンは、とりあえず「ダジマット」には極力触れないようにしている。



 リリィの驚愕の発言を聞いたケイトリンは速やかにエイデンと連絡をとり、ナース国王に報告した。

 たが、ナース国王は「セントリア・ダジマット両国は緊張関係にないから大丈夫」と軽く受け止めていた。


「ダジマット王に、百合姫がまだ怒っていることは伝えておくよ。ところで、姫と王子は健やかに仲良く暮らしているのか?」と話を打ち切られてしまった。


 エイデンがナサニエル王子と共にいろいろなことに挑戦する日々について、ケイトリンが同世代の友人がいなかったという百合姫と買い物にいったり、おしゃれを楽しんでいることについて報告すると、にこやかにねぎらいの言葉をかけてくれた。


((いや! そうじゃない!!))


 二人は、ナース王の危機感のなさに肩を落とした。



 リリィがダジマットに敵意を抱いていることを知っているエイデンとケイトリンは、アンジェリーナ扮するリリィ皇女とアッシュ扮するナサニエル王子が文化祭フィナーレでファーストダンスを飾ることになった時、恐怖におののいた。


 そして、二人が見つめ合って踊っている間、生きた心地がしなかった。


 ナサニエル王子がリリィ皇女に一目惚れし、それをリリィ皇女が利用してダジマット王を陥れる最悪の事態が脳裏をよぎる。

 世界大戦に発展しかねない未曽有の危機だ。


 緊張のあまり、自然と自分たちの手が繋がれていることにも気付けなかった。



 その様子を目にした学生たちは、自国の王子と婚約者も「運命の恋人たち」に感銘を受けて、思わず互いの手を握ってしまったと理解した。


 野次馬なんて、そんなもんである。



 エイデンとケイトリンにとってのせめてもの救いは、それ以降、「運命の恋人たち」に接触がないことだ。

 恋に落ちた様子もない。

 むしろ「絶対に接触を許してはなるものか!」っと、全力で遠ざけているし、その話題には触れない。


 当然、この戦慄の事態を、ナース王にも報告した。

 しかし、王は、相変わらずのんきである。


「おぉ。ご両名はそんなに美しいのか。なるほど血は争えないな。両国のご両親には私から報告しておくよ」


((だから、そっちじゃな~~い!!))


 すごすごと謁見の間から退去することしか出来なかった二人だった。

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