運命の恋人たちの終幕
今日も今日とてコーニック邸にお邪魔しているエイデンとケイトリンである。
「はははっ。なるほど、私たちが二人とも学園に来なくなったことで、『運命の恋人たち駆け落ち騒動』に発展しているわけだね? それはまた、手間をかけちゃって、申し訳ないね」
全く申し訳なさそうにしていないネイトの横にお茶を出し終わったリリィが腰かける。
「まぁ、でも、そのままでもよろしいのではなくて? 『苦労はあるかもしれないが、二人はお互いがいれば、何より幸せだろう。』と観衆に想像させて締めくくるのも、物語の1つの手法でしょう?」
エイデンは渋い表情で首をふった。
「例の神聖国の留学生が似たようなことを言って抑えてくれているんが、セントリアの姫とダジマットの王子の婚約発表で刺激されちゃった学生達は、『運命の恋人たち』にも堂々と太陽の下で幸せになってほしいと願っているんだよ」
「あら、まぁ。それは、ありがたいことね」
「それじゃぁ、しばらく学園に戻って、芝居を打つ?」
「徐々に言葉を交わすようになって、初々しく手をつないで、徐々に寄り添うようになって、木陰でキスなんて…… きゃっ♡と言った感じで? ふふふ」
リリィがふざけていると、ネイトがそれに悪乗りする。
「それでは時間がかかりすぎるから、私たちの実話も交えて、『まぁ、あなたがわたくしが探していたアシュリーですのね。』、『も、もしや、君が、ジジか? ジジなのか??』となるストーリーでも作って、皆の前でぶちゅーってすれば、満足するんじゃない? それから二人でどっちかの国に帰ったことにしてさ」
などと言いながら、ネイトが百合姫にかぶりつくようなキスを実演して見せるものだからエイデンとケイトリンは、真っ赤になって両手で顔を覆ってしまった。
もちろん、指の間から覗き見てしまうのだけれども…
「ふふふ。でも、これはダメね。わたくしここで止まれませんもの」
え? 何言っちゃってるの百合姫さん?
「ははは。確かに。ムリだね。続きがしたくなっちゃうからね。コーニック卿とシュアーレン嬢のイメージをぶち壊してしまうね」
え? 勘弁してよ、ナサニエルくん……
顔が茹でだこのように真っ赤になっているケイトリンが、声を絞り出した。
「はい。クールなコーニック卿と清純なシュアーレン嬢のイメージはできるだけそのままで、いい案はありませんか? 学園の風紀のためにも」
「そうねぇ…… サム義兄様がいらして、わたくしが早退したのは、皆さんご存じなのよね、あと、そのときコーニック卿は思い悩んでいたっていう噂があったわよね? 実は、あの時、コーニック卿は、シュアーレン嬢の兄上に結婚の許可を貰うべく行動したことにして……」
「そして結婚が許された二人は、仲良くコーニック卿の国へ帰ったってことにするのは、無難だし、ハッピーエンドだし、イメージも壊さない。どうかな?」
リリィとネイトの案に、エイデンは納得する。
「あぁ、そのストーリーだと、兄君が帰られた後、二人が目を合わせたとか、コーニック卿が口パクで『ありがとう』もしくは『愛してる』と伝えたのも自然だし、それを受けたシュアーレン嬢は微笑を浮かべて頷いただけだってことだったと思うから、クリーンなイメージが保たれてる」
「既に婚約が決まっていたのに、浮かれることなく学園内では適切な距離を保って、ベタベタしていないのも、シュアーレン嬢の清楚さをより引き立たせるし、なにより初々しいわ」
ケイトリンも賛成のようだ。
「いやね。ケイトリン。確かにわたくし、浮かれてベタベタしておりますけれども、これはこれで『初々しい』って言うのよ?
学園の風紀を乱す恐れがあるという点は、認めざるを得ませんけれどもね」
ネイトにぴったり貼り付いたリリィが幸せそうに微笑んでいる。
そうと決まってしまえば、体よくポイっと追い出されたエイデンとケイトリンである。きっとさっきの続きがしたかったのだろう。
帰りの馬車の中、膝の上でエイデンがすやすやと寝息を立てている。最近のドタバタでお疲れ気味なのだ。その顔を眺めながら、ケイトリンは思う。
今日のリリィは、迫力の帝国美女でも、三国一の美女でもなかった。でもネイトに熱烈に愛されて幸せいっぱいのリリィは、最高にキラキラ輝いて、これまでで一番美しかった。っと。




