運命の恋人たちの結婚
「パパは、前皇帝と皇妃が隠して育てた子供で、上の2人の兄君が亡くなったために皇帝に引っ張り上げられたの。
セントリアの男児は生き残るのが難しくて、パパの兄君達は若くして儚くなってしまったから、仕方なく、ね。
継承権は女児にもあるのだけど、これまで皇位を継いだ前例がないから、男児が標的になりやすいのよ。
双子の片方が男の子だと分かった時点で、剣術修行でセントリアに滞在していたダジマットの王子に「どうかこの子をかくまってください」ってお願いしたら、
ダジマット王子から『息子のナサニエルとして育てますから、貴方は私の娘のアンジェリーナを大事に育ててください。そして、大人になったら嫁として返してください。』って言われたらしくて、
『女の子は男の子よりも狙われにくいけれども、安全ではないからいらないです』って、言ったらしいんだけれど、
『それを言うなら、ダジマットだって、王族として育てるなら、命を狙われる危険はあります。それでも私の手元に置いて大事に育てますから、あなたも必死でこの子を大事に育ててください。』って、私を置いてダジマットに帰っちゃったのですって。
酷いわ、お義父様。
剣術バカは、男気っていうのが妙に高いらしいの。
困ったものだわ。
そういえば、この男気っていうもの、薔薇姫からも溢れているのよ。姫なのに。
でも、置いて行かれたおかげで、パパとママとローズの家族になれたし、ナサニエルと双子として育てられていたら結婚できなかったのだし、結果オーライね。
わたくしとローズとナサニエルは1才くらいまでセントリア宮殿で一緒に育ったのですって。
テオ兄様とサム兄様とマシュー兄様とも一緒に暮らしていたのですって。
なんだか不思議。
当時10才だったテオ兄様は『ジジを置いていくなら、自分も置いて行け』って、頑として動かなかったそうよ。『父上がいらないなら、私の娘にする!』って声が枯れるまで叫んでくれていたらしいわ。
テオ兄様の男気はどこへいったのかしら?
剣術バカなのに…
ふふふ。
それからパパは、『リリィがいなくても帝国はきっとどうにかするから、ダジマットにお嫁に行っていいんだよ』っておっしゃって。
そしたらナサニエルが、
『リリは帝国が大好きで、
移民の数でも羊の数でもなんでも調べるのが好きで、
どこそこの三世代定着率どうだとか、
どこそこの過疎地域は寂しいけれど自然な森に戻すのが良いとか、
どこそこの言葉が廃れたとか、新しい言葉が定着したとか、
そんなことばかり日記に書いているんです。
リリが帝国にいたいんです。
リリと私を帝国においてください。
私を婿としてリリの傍に置いてください』って言ったの。
わたくし、しあわせ者ね」
百合姫は本当に穏やかな表情で微笑んでいる。
「今日は、三人でナース宮殿に突撃してしまって、ごめんなさいね。
本当にお二人にはご迷惑をおかけしてばかりね。
感謝しても、しきれないわ」
しばらくしんみり雑談をしていると皇帝陛下、皇后陛下、ネイト、小柄な痩せマッチョイケメン騎士とその夫人らしき人、それにちびっ子三匹、ひとのよさそうな老夫婦がぞろぞろと帰ってきて、一緒に晩餐となった。
え? 皇帝陛下、まだいたの??
ん? ネイトも一緒だったの??
うぉ!? なに親の前で「お帰りのチュウ」とかしちゃってんの?
いや、ちょっ、それ、もうチュウっていうか、ブチュゥ~ッになってるよ?
恥ずかしくないの??
こ、皇帝陛下に、慰められるように肩を手を置かれちゃったんだけど?
なんで?
てか、アッシュと痩せマッチョイケメン騎士なんで椅子もってんの?
帝国大使館から、借りてきた?
ごはん食べてくだろ?
はい?
あぁ、椅子は僕とケイトリンの分?
んんん? 今日から一緒に暮らす??
皇帝陛下が結婚を承認してくれたからOKだって?
承認? 承諾じゃなくて??
えぇぇ? コーニック伯爵令息は既にシュアーレン子爵家に婿入りしてる?
帝国領事館で受け付けられ、セントリア皇帝自ら即刻承認した?
ブライト国の治水伯マシュー様の案?
結婚の手続きをしていたら、エイデンとケイトリンが訪ねてくるっていうから、リリィだけ先に家にもどった??
いや、なんか、大事な日に押しかけた上に、ごはんまでごちそうになって、すみません?
アンジェリーナ・シュアーレン子爵令嬢は、まだ未成年だから、セオドア・シュアーレン子爵とその夫人が後見人として立ち合い、署名した?
え? この小柄な痩せマッチョイケメン騎士が剣術修行で世界を放浪しているセオドア・シュアーレン子爵?
イメージと違いすぎ!
夫人と、子供三人も一緒なの?
一緒に世界をめぐってるだって!?
イメージと違いすぎ!!
アッシュ・コーニック伯爵子息もまだ未成年だから、コーニック伯爵夫妻が後見人として立ち合い、署名した?
もしかして、リリィのグランパ?
あの、すっごくおいしかったんですけど、ホントにネイトとリリィだけ残してみんな帰っちゃうの?
セキュリティーはバッチリだ?
いや、そういう問題じゃなくて…
「玄関の前で馬車に乗り込む訪問客を見送る若カップル」が妙に様になってるんだけど、なんで?
なんで、そんなに、軽いのこの人たち?
え?
また邪魔が入って、思いつめたふたりが手を取り合って駆け落ちしたら、今度こそ探せないから、こっちの方がまし?
たしかに…
なんだか幸せそうな二人にあてられて、帰りの馬車の中で「はじめてのチュウ」に挑戦したエイデンとケイトリンだった。
え?
成功したとは書いてないって?
そこ、指摘しないで。




