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人質交換

 次の大物は、電光石火でやってきた。


 ダジマット王と王妃が密かにナース国入りしたのだ。

 ダジマット王太子サミュエル殿下の電撃訪問の実に2日後のことだった。

 行動が早すぎないか、ダジマット王家?


 両陛下は在ナースのダジマット公邸で、シュアーレン帝国子爵家のアンジェリーナ扮する帝国皇女リリィと面会した。


 名門王家の惣領と首長をたった一週間で召喚できるセントリア皇家の権力は、驚異的だ。


「わたくしたちもセントリア皇家に呼び出されたら、最速で伺いましょうね~」


 くつろいだ様子でサミュエル様お手製のクッキーをつまむ婚約者に、「最初の頃はよくヒステリーを起こしていたのに、たくましくなったもんだ……」と、眩しさを感じたエイデンだった。



 晩餐のためにダジマット公邸に招かれたエイデンとケイトリンは、初めてダジマット王と王妃の顔をみて、背中に汗をかいていた。


 百合姫は、王と王妃にそっくりだった。それはもう、王の隠し子どころではなく、王妃が生んだ王の子としか考えられないほどに。



「エイデンさん、ケイトリンさん、この度は、娘との面会をアレンジしてくれてありがとう」


 百合姫との面会を思い出したのか、目をうるうるさせながら二人に感謝を伝える王妃の気品あふれる姿にケイトリンは見惚れてしまった。


 サミュエル様とリリィは、顔全体は王妃似で、髪色と目元が王に似ているのだと言うことまで気づいてしまった。


 つまり、ダジマット王家は、自国の姫をセントリア帝国に人質に出したということ?

 魔法国の盟主は、大帝国の皇帝に何か深刻な弱みを握られている?

 人質が本国の両親に接触を試みるのは、不穏としか言えない。

 サミュエル様は、百合姫から連絡があれば、すぐに動ける態勢ができていたと言っていた……

 でも、じゃぁ、あの子供の頃のエピソードは、何だったんだ?

 僕たちを油断させるためか、もしくは安心させるためか?


 世の中には、知らない方がいいこともある。


 これは、真の理である。


 エイデンは、自分にそういい聞かせた。



「君たちはもう気づいてしまっているようだし、私たちに開示できる事柄に限って打ち明けると、アンジェリーナ・シュアーレン嬢は、私たちの第4子なんだよ」


 うん。気づいた。


「ジジは、自分がセントリアの王と王妃の子供ではないこと、そしてダジマットの王族だということに気付いていたの。だから姉君が王位継承から外れて、自分が次期皇帝の地位に立つことに引け目を感じていたの」


 そうか。なるほど、そうだよな、血はダジマットだもんな。

 少なくとも、百合姫はセントリアを転覆させるためにダジマット王族に接触したわけではなさそうだ。



「それで、薔薇姫が去ったことで政情が不安定になり混乱の真っ只中にも関わらず、帝国内で正当な継承者を探しまわるものだから、手を焼いたオリバー陛下が、念のためにと、連絡をくださって」


「オリバーが、行動力が異次元だって書いていたね。まるで君じゃないか」


 ダジマット国王陛下が苦笑いしている。


「そうねぇ。でも、大事な人のために簡単に自分を犠牲にしちゃうのは、貴方似よ。困った子だわ」


「そうかな? あ、でも、サムもそういうとこあるからな~」


 サミュエル様は、愛の人なのか?

 あの方に捨て身で挑まれて勝てる人間なんているんだろうか?


「セントリアの皇位継承者を私たちが匿っていたのもバレちゃったわね」


「そうだね。バレちゃったね。それに、嫌われちゃった」


 え?

 それは、初耳。

 一方的な人質ではなく、人質交換だったということか……

 それも保護目的の。


 目まぐるしく展開される様々な情報に、忙しく思考を働かせながらも、にこやかな表情を崩さないように心がけるエイデン。


 そんなエイデンを見て、これまで感じなかった「頼りがい」を感じ始めたケイトリンだった。


「嫌われちゃったのは、別の理由よ。肝に銘じて」


「わたしたちに会いたかったわけではなかったのだよ」


 一国の王なのに、他国の王族の前でポロポロと零れる涙を隠そうとしない国王陛下の姿も印象的だった。 娘に会えたこと、娘に嫌われたこと、娘と和解できたこと、いろんなことが詰まった面会だったのだろう。

 どうやらセントリアで育てられ、セントリアに相当な愛国心を抱き、セントリアのために行動する百合姫が、それがダジマット王に突き刺さっているようだ。


 腹芸は大事、でもそこに本音の付き合いも存在することが、国と国のつながりを深め、育てるものなのだとも感じた。


「いえ、決してそれだけではなかったはずです。百合姫はサミュエル様とも驚くほどに仲良くなられておられましたゆえ、心の底では両陛下とも親交を深めたかったに違いありません。大国の姫として育てられたが故にとるものを見定め、優先順位を崩さない方ではありますが、余裕がある状況なら、許されるなら、心の底では両陛下と…」


 涙ながらにダジマット両陛下を励まそうとするケイトリンが愛しくて、抱き締めたくなったエイデンであった。


 ちなみに、ダジマット両陛下は、エイデンとケイトリンへの感謝の証として、ふたりの在位期間はナース品のダジマットへの輸入関税完全撤廃に調印して帰られた。


 え、いや、まだ、即位してないんだけど?

 てか、まだ、結婚もしてないし?


 なにこれ?


 いや、光栄だよ。

 うん、光栄だ。


 いつの間にかケイトリンが妃として扱われることに何の違和感も感じなくなっているエイデンだった。


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