ブルスケッタを囲む
今回は2人じゃないよ!
ブルスケッタを囲む
「あれ、クマクマ、どうしたの?」
不思議そうな顔で岡田が声を掛けてくる。
「いやー、色々やらかしちゃって?」
へへっといつもの如く笑うと、
「また、女の子泣かせたの?」
と、呆れた顔で返してきた。
「いや、俺は悪くないと思うんだけど。」
「話聞いてないけど、たぶん、9割9分9厘、クマクマが悪いと思うよ」
そう言って、岡田は店長に声を掛けて、氷嚢用の氷を用意してもらう。
あと、別に女の子“は”泣かせてない。
出勤前に叩かれて腫れた頬を岡田から受け取った氷嚢で冷やしていく。
で、何したの?と苦笑いしながら、岡田は尋ねた。
「普通に好きな子に付き合ってって言っただけ」
「それで、叩かれるって、どれだけ嫌われてんの」
「まぁ、好かれてるとは思ってなかったけど」
「その状態で告白しようとした勇気がすごいよ」
「でも、告れば俺のこと気にするようになるじゃん?」
「その自信は尊敬するよ」
そう言って、岡田はカウンターでワイングラスを磨き始める。
「お、クマちゃん、女の子に殴られたって?」
「店長、マジでそれ、悪いクセっすよ」
ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべた店長は出来立てのブルスケッタを俺の目の前のカウンターに置く。
「叔父さん、やるのはいいけど、せめてお客さんに見えない裏でやって」
「岡ちゃん、お願いだから止めて?」
「クマクマ、俺が止めるといつから錯覚してた?」
「知ってた、知ってたよ…お前が止めるわけないって…!」
はぁぁぁぁと、盛大にため息をついて、ブルスケッタを1つ口に放り込む。
店長のブルスケッタ美味いんだよなぁ、バゲットがサックサクで。
「で、何があったのよ?」
ニヤニヤと未だに楽しそうに笑う店長とリスのようにほっぺを膨らませ、こちらを見ながら、ブルスケッタをモグモグしつつグラスを磨く岡田の2人。
コイツ、また、ブルスケッタ2枚口に突っ込んでんな。
「何って、好きな子に告白したら、お前正気か?って言われて殴られたって話っすよ」
「どういう告白したら殴られるの?」
「え?床ドン?」
「え、クマクマ床ドンしながらの告白?」
「クマちゃん、それはないわー」
「そうっすね、ちゃんと両手首押さえるべきでしたね」
「クマクマ、そうじゃない」
「知ってる」
そう、あの時は多分正気じゃなかった。
「おっはようございまーす!」
続きを話すかどうか悩んでると、裏口の扉が開く。
と、同時によく通る可愛らしい声が聞こえる。
「あ、カナちゃん、おっはよー」
「おはよう、愛しのカナちゃん!」
「はよーっす」
「クマクマ、ほっぺ、どしたの?」
「告白したら、殴られた」
「ねぇ、カナちゃん、俺の心配は?」
「悠斗くん、彼氏だからって、何もないのに心配されると思わないで?」
「待って、漸く付き合ったの?」
「そうなんですよ、店長!って、それよりクマクマの話ですよ!」
「オジさん、2人の話の方が気になるんだけど」
「親族の悠斗くんから後で聞いてください。それより、クマクマ、どういうこと?」
「えー、内緒。そんなことより、君ら付き合ったの?俺もそっちの方が気になるんだけど。」
そう言って、俺はニィーっとわざとらしく口角を上げる。
「ねぇ、悠くん、クマクマが気持ち悪い」
「クマクマのえっちー」
「クマちゃん、ヘンターイ」
「待って、何で俺だけ責められるの?ねぇ?」
「だって、ねぇ?」
「クマクマが俺のカナちゃんいじめるから」
「そりゃ、クマちゃんだもの」
「岡ちゃんはまだいいとして、店長は良くない、それは良くないと思うよ」
「はいはい、ごめんね。そんなことよりもうオープンだよ」
「クマクマ、今度ゆっくり問い詰めるね!」
「岡ちゃん、君の彼女怖いんだけど」
「そりゃー、俺の彼女だから!」
「答えになってないよ!」
再び、盛大にため息をついて、氷嚢片手に持ち場へと戻った。