紅茶とふたり
「アヤちゃん、はい、どうぞ」
「ありがと!それじゃあ、早速いただきます!」
香菜ちゃんのお菓子はいつ食べてもおいしい。
ほんと、玲央くんと付き合っていなければ間違いなく香菜ちゃんと付き合ってた。
…いや、それは言い過ぎたかもしれない。
香菜ちゃんとヤラシーことしてるの全然想像つかないし。というか、想像したくない。香菜ちゃんは香菜ちゃんのままでいて欲しい。
「うーん!やっぱ、香菜ちゃんのお菓子っていつ食べてもおいしいね!」
「ふふっ、ありがとう」
「しかも、ジャムも手作りなんでしょ!」
「そうだよ!親戚からいっぱい苺もらったから。あ、ジャム、良かったら持って帰る?」
「え、いいの!?迷惑じゃないなら欲しい!毎日パンに塗る!」
「そんなに気に入ってくれたなら良かったわ。むしろ、持って行ってくれると助かるわ。」
そう言って穏やかに微笑む香菜ちゃんを見て、いやいや、こっちが助かります!って気持ちになる。
こんな可愛い子に想われてる岡田が心底羨ましい。
「ホント、香菜ちゃんと付き合わない岡田の気持ちが分からないわー」
思わず呟いて、アッサムティーにミルクを注ぐ。
それにしても、このミルクピッチャー可愛いな。あとで、どこで買ったか教えてもらおう。
「アヤちゃん、あのね…」
「ん?なぁに?」
「実は、悠斗くんと付き合うことになって…」
「へぇー、そうなんだー」
悠斗くんと付き合ったのかー
え、付き合う…?
「え!マジで!?」
思わず、ミルクを混ぜていたティースプーンの動きが止まる。
顔を上げれば、幸せそうに微笑む香菜ちゃんがいた。
「え、いつから?」
「えっと、昨日から」
「付き合いたてホヤホヤじゃーん、おめでとう!」
思わず、ニヤニヤしてしまう。
ずっと、岡田のことが好きで、どうすればいいかと相談に乗っていた身としては嬉しいことこの上ない。
「今でも夢なんじゃないかなって思ってるくらいだから…」
そう言って、恥ずかしそうに俯いている。
何この子、かわいい。
「夢なんかじゃないよ」
実は岡田が玲央くんに相談していたことを知っていたので、確信を持って、答える。
「そうかな…」
「そうだよ、今だから言えるけどね…」
そう前置きして、岡田が玲央くんにずっと相談していたことを打ち明ける。
香菜ちゃんは驚いた表情で私の話を聞いてくれる。
本当は相談してることを知った時に香菜ちゃんに伝えようとも考えたんだけど、玲央くんに“部外者は余計なこと言っちゃダメだよ。“と釘を刺されていたから、言えなかったことも併せて伝える。
玲央くん、結構チャラそうに見えるけど、そういうところは本当にしっかりしてる。
「そっかぁ、そうだったんだね。なんか、それを聞いたら安心したなぁ」
そう言って、ホッとした表情でこちらを見る。
何この子、やっぱかわいい。
こんな子、振ったら間違いなく天罰が下るじゃん。
天罰が下らないなら私が私刑に処してやるわ。
「万が一別れることになったら教えてね。その時は私が岡田のことシメるから。」
「アヤちゃん、物騒だなー」
そう言いながらも、ちょっと悪そうな顔で笑う。
「万が一、そうなった時は真っ先に伝えるね。」
そう言って香菜ちゃんはウインクして、紅茶のお代わりを入れるために立ち上がる。
私はそれを見送って、バターの香るスコーンを割って、いちごジャムを塗りたくった。