ロフト下のふたり
くるくるくると天井でファンが回っている。
やむなく住んでいるロフト付きのこの部屋ではこれがないとエアコンの効きが良くなく、思わぬ出費になってしまった。
とはいえ、これがあるだけで部屋が一気にオシャレになったように感じるので、悪くはないだろう。
実際、彩乃ちゃんはオシャレ過ぎてウケるって言ってくれてるし。(決して、馬鹿にしてるわけではないと信じたい。)
小鍋に入れたニンジンをマッシャーで潰しながら準備を進めていると、部屋のインターホンが鳴る。
モニターを確認して、拳で応答ボタンを押した。
「玲央、ちょっと手が離せないから、玄関はいつもの番号で開けて」
「了解!」
オートロックを開錠すると再び作業に戻る。
マッシャーしたニンジンのうち半分ほどは保存用のジッパーに入れて冷凍庫に放り込む。
残りにツナ缶と牛乳を入れて、煮立たせているとスマートロックの解錠音が響く。
「悠斗、頼まれてたの買ってきたよ」
「玲央、サンキュ!後で送金するわ」
「いや、今日は飯ご馳走になるから。もし、どうしてもって言うなら、今度コーヒー奢って」
そう言って、ウインクしてくる。
男の俺から見ても顔のいい色男のコイツにはもはや嫉妬という感情すら湧かない。
「オッケ、じゃあ、今度奢るわ、アホほどホイップ乗ってるやつ」
「楽しみ過ぎてハゲそう」
「そうか、ハゲろ」
「ひっど」
ケラケラと2人して笑いながら、玲央から買い物袋を受け取る。
想像より重い袋に疑問を持って覗き込むと頼んでいない発泡酒が入っていた。
「おっと、これは」
「合ってるよな、悠斗の好きなのって」
「完璧すぎて、もはや怖い」
「何年友達してると思ってんの」
「記憶が正しければ、まだ半年なんだけど」
「それだけ濃い半年を俺たちは送ったってことよ」
再びケラケラと笑い合い、玲央をリビングに通す。
「もうちょっとでパスタができるから待ってて」
「分かった。その間にグラス選んどこうっと」
そう言って、玲央はグラスが入った棚を覗き込んだ。
俺はキッチンに戻って電子レンジを確認するとちょうど終了を知らせる音が鳴ったので、扉を開けて中に入っていたパスタを取り出す。
お湯を切って、先程作ったニンジンのソースと合わせ、皿に盛り付け、仕上げに黒胡椒をかけてからリビングへと運んだ。
「玲央、待たせたな」
「もう、お腹ぺっこりんだわ」
顔に似つかない可愛らしい表現にクスリと笑ってしまう。
「彩乃ちゃんの影響受けすぎ」
「ん?」
「お腹ぺっこりんって、彩乃ちゃんがよく言ってるじゃん」
「あー、確かに。…影響受けてんな」
へへっと少年のように笑う玲央を見て心底羨ましいと思った。
「さ、食べようか」
2人でいただきますと手を合わせる。
くるくるくると天井のファンは穏やかに空気をかき混ぜた。