朝のふたり
窓の外で響く雨の音に気づいて、ふと横を見る。
レースカーテンの隙間から覗く鉛色の空を見て、ため息をついた。
ゆるりと起き上がれば、掛け布団が不自然に斜めにズレている。
またか、と思いながら、ベッドの下で転がっているであろう男に目をやる。
「玲央くん、風邪ひくよ」
呆れた目で見ながら、彼の手を引いてベッドへと導く。
フロアベッドなので、落ちてもさほどダメージはないが、肌寒い3月中旬の朝のフローリングに半裸で寝転がるのはさすがにいただけない。
「アヤちゃーん、さむーい」
先程まで子犬のようにフローリングで蹲っていた彼氏は布団に潜り込んだ途端、ぎゅーっと抱きついてくる。
「あぁ!やめてやめて!ちべたい!至るところがちべたい!」
「こうすれば、すぐ冷たくなくなるって」
そう言いながら、キャミソールの隙間から手を入れようとしてくるので、
「しないよ!せっかくの休みなんだからもう少し眠らせて!」
雪解け水のように冷えたその大きな手を両手で包み込みながら、収まりきらなかった指たちにキスを落とす。
そして、頬擦りをしてから手を離して少し温もり始めた彼の背中に腕を回し抱きしめる。
「そんなかわいいことしないでよ、我慢できなくなりそう。」
「昨日は玲央くんのお願いを聞いたんだから、今度は私のお願いを聞いてよ。」
ねっ?と小首を傾げて、胸板に頬を擦り寄せる。
はぁと短く息を吐くを音が聞こえ、ほんのりと温かくなった手が乱れた私の髪の毛を整えるように撫でる。
「本当に可愛いな、僕のお姫様は。」
なんて、キザなことを言いながら再び私を抱きしめて目を閉じた。
「おやすみ、玲央くん」
「彩乃ちゃん、おやすみ」
弱まり始めた雨音を聞きながら、私も目を閉じた。