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おいしい時間〜小さなお菓子の物語〜  作者: 地野千塩


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番外編短編・甘い時間

感想コメント等ありがとうございました。


お礼と言ってはなんですが、番外編短編を書きました。その後の二人の甘い話です。よろしくお願いします。


長い話だったと思いますが、最後までご覧頂きありがとうございました。

 春がきた。


 家の窓からは桜の木も見える。ピンク色の花びらと空の蒼さが映える。その少し向こうには教会の十字架乃オブジェも見える。


 私達夫婦は、あの教会の近く乃マンションで新婚生活を送っていた。必然的に夫、真白さんの実家とも近いわけで、義母との距離も近い。


 義母は気が強く、他人に厳しく時々私の家事の出来栄えなどもチェックしにくる。気が詰まるが、間に教会の牧師さんも入ってくれて、なんとか義母との関係も良好に保っていた。


 正直、義母と顔を合わせるのはストレスが溜まるが、こうして真白さんと幸せな結婚もできた。小さじ一杯ぐらいはストレスがあっても悪くないのかもしれない。


 ちなみに私が以前住んでいた家は、元夫が住んでいる。驚いた事に妊娠させた女性に責任をとり、再婚したらしい。今は子供と新しい奥さんと賑やかな毎日を送っているらしい。人伝に聞いた話だが、元夫の変化には驚くばかりだ。これで私に変なメールや電話も一切来なくなったし何よりだ。


 それに私が再婚すると報告すると、喜んでくれた。年下のイケメンと結婚したと知ると「どうやって? 騙した?」と失礼な事まで言われてしまったが、今は真白さんとの生活が幸せだから、どうでも良かった。真白さんはフードトラックの仕事が忙しく、遊びに行く暇がないが、私もフリーランスで時間の都合がつきやすい。ゴールデンウィークが終わった頃ぐらいに長崎に旅行に行く計画も立てていた。


「しかし、進まない……」


 そんな幸せない結婚生活をしていた私だったが、仕事が詰まっていた。仕事部屋でパソコンに向かい、新作の小説を書いていたが、どうも展開がぬるいというか、ダラダラとした日常描写で文字が埋まっていき、そろそろ構成を変えるべきかと悩んでいた。


「まあ、少し気分転換するか」


 そうは言ってもパソコンとずっと睨めっこしているのも疲れてきた。仕事部屋を出て、キッチンの冷蔵庫に向かう。冷蔵庫の中は真白さんが作ってくれた惣菜、白米、スコーン、ブラウニーなどが詰め込まれていた。惣菜は煮物、サラダ、唐揚げと何でもある。


 料理は基本的に彼の仕事で、冷蔵庫の中は常に美味しそうなご飯やお菓子が入っていた。仕事に詰まって時は、冷蔵庫に直行するのが習慣になっていた。私は本当の真白さんに胃袋を掴まれてしまったようだ。冷凍庫の中にも作り置きのお弁当も入っていて、どれを食べるか迷ってしまう。


「ただいまー」


 そこに真白さんが帰ってきた。私は冷蔵庫を閉じ、早歩きで玄関の方へ向かった。


 いつもより早い帰宅だ。最近売っているティラミス・ラテやバタークッキーやハチミツケーキが好評で、早々に売れきれ。今日は夕方から天気も悪くなるそうという事もあり、早く帰ってきたらしい。


「嬉しい、早く帰ってくるなんて」

「だね、たまにはいいよね」

「うん、おかえり。おつかれ様!」


 真白さんを笑顔で出迎える。こうして笑顔で仕事から帰ってくる真白さんを迎えられるのが嬉しい。しかも今日は意図せず早く帰ってきてくれて、余計に嬉しい。ちょっと惚気すぎ?


「実は雪乃にお土産があるんだ」


 着替え、手を洗ってきた真白さんは、大きめな紙袋を差し出した。


「何これ?」


 私は紙袋を受け取り、中見を開けた。そこには大きなケーキ賀入っていた。形が独自で、翼を広げた鳩のような形だった。表面はザラメとナッツのマカロン生地。まるで雪解けの春の道のような色合いだ。私たちがいるリビングは、ふわっと甘い香りが漂う。もっとも真白さんからはいつも甘くて優しい香りがしたが。


「コロンバっていう鳩型のケーキ。復活祭のケーキで、鳩がモチーフになってる」

「へえ。もしかして福音ベーカリーの?」

「正解!」

「真白さんが作ったお菓子じゃない感じがした」

「なんで?」

「まあ、なんとなく? いつも見てるからね」

「はは」


 福音ベーカリーは、私達夫婦が贔屓にしているパン屋だった。確か店主の橋本瑠偉はクリスチャンで、真白さんとも気が合っているようだ。飲食という同業者でもあるし、友達のように親しくなっているようだ。


「瑠偉さんに聞いたけど、このコロンバがきっかけで、霊媒師からクリスチャンになったお客様がいるらしい」

「すごい、大逆転ね」

「そんな事あるから神様凄いよなぁ。なんだかんだで僕もこうして生活できるし」


 実は結婚したすぐの頃、金銭的なトラブルがあり、フードトラックの仕事が続けられるかわからなかった。もう祈るしかない状況だったが、なぜか幸運が相次ぎ、今も仕事ができていた。もっとも真白さんが以前持っていた英国カフェの土地は手放す事に決まってしまったが。あの店の常連客だった女子高生は泣いて悔しがっていたが、今は真白さんのフードトラックでバイトもしてる。ずっと登校拒否をしていたみたいだが、時々真白さんを手伝いながら、高校卒業の資格勉強も始めているらしい。


「大丈夫さ。雪乃の仕事も」

「え、悩んでたってわかった?」

「見ればわかるって。夫婦だからね」

「そっか」

「大丈夫、神様が側にいるよ」

「うん、そうだね」


 こうして二人で、コロンバを切り分けて食べた。オレンジピールが入っているのか、柑橘の爽やかな風味もするケーキだった。表面のマカロン生地の食感も楽しい。


「美味しい!」


 仕事のことなど全部忘れてしまうぐらい、このコロンバは美味しかった。


「よし、よかったよ」

「うん」


 真白さんは私の肩やおでこを触り、口元にも近づく。さらに彼の香りを感じながら、時間は甘く溶けていく。

ご覧頂きありがとうございました。


本作はほのぼの系の話で楽しく書きました。少しでも暇つぶしになれば幸いです。ご覧頂きありがとうございました。

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