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第49話 再びガレット・デ・ロワ

 年が明けた。


 一昨年は無休で働いてしまったが、去年はそこそこ休みはあった。といってもご近所だけで過ごしてしまったので、本当に引きこもりのようだ。


 仕事関係者には年末に年賀状を作って送っていたが、圭子さんや晶子さん、メグミなどはメッセージアプリでスタンプを押し合って新年の挨拶となった。里帆先生や窪田さんからは年賀状が届き、二人とも真白さんのフードトラックが気になっている模様。とくに窪田さんは一度も真白さんのフードトラックに行った事はないので、一度連れて行ってもいいかもしれない。その前に原稿は全部仕上げなければならにないが。


 真白さんとは元旦に教会に行き、礼拝をささげた。元々神社が嫌いだった私は、讃美歌や聖書の説教を聞く年始の方があっていたみたいだ。


 驚いた事に年始がすぎてもクリスマスツリーが飾られていた。なんでも公現説の1月6日まで飾っておくのが一般的なだそう。公現説とイエス・キリストの誕生日後、東方の三博士の訪問を記念したお祭りだそう。異邦人に対して神様が公に現れたという事で、クリスチャンにとって意味にある日らしかった。


 この日を記念し、ガレット・デ・ロワというお菓子が食べられているという。いわゆる王様ケーキとも呼ばれる。中にフェーブという人形が入っていて、それを当てた人は王様として祝福されるのだという。去年は偶然、真白さんからこのケーキを貰い、康恵さんへもメッセージカードに疑問を募らせたわけだが、もう過去の事。そんな事はすっかり忘れていたし、思い出しても仕方ない。


 そして1月6日。


 真白さんはガレッ・デ・ロワの箱を携えて私の家にやってきた。


 今日はサンタ姿でもいつものようなエプロン姿でもなく、なぜかスーツ姿でバッチリと髪もセットしていた。一方私はメイクをし、服もちょっといいワンピースを着たが、そこまでフォーマルではなく、気後れする。いくら以前から約束している事とはいえ、予想外だった。


「ちょ、真白さん。フォーマルすぎない?!」

「いいから、いいから。今日は特別なお祝いだよ」


 なぜかクリスマスより盛り上がっているような。


 とりあえずリビングのテーブルに、花やシャンパンやグラスも飾り、最後にガレット・ワ・デロワも置いた。


 そのそばには、紙で作った王冠も飾る。これは、フェーブという人形を当てた人が被るものだった。


 ガレット・デ・ロワの見た目は普通のパイと変わりないが、こんな演出をされるとワクワクしてくるものだ。


 去年は一人で食べたものだが、やっぱりこのケーキは二人以上で楽しむものだと実感した。


「わぁ、美味しそうだし、楽しそうなケーキだね」


 私は思わず笑っていうと、真白さんはすぐにケーキを切り分けてしまった。


「えー、真白さんはフェーブの場所知ってるよね? なんかズルくない?」

「いやいや、ズルくないよ!」


 真白さんは少々慌てながら、サクサクとガレット・デ・ロワを切り分けてしまった。


 彼が王様になりたい事はひしひしと伝わってきたが、今日ぐらいは花を持たせてもいいかもしれない。


 それにガレット・デ・ロワのアーモンドクリームが想像以上甘やかで、そんな事はどうでも良くなってきた。


「わ、フェーブが出た! 今日は僕が王様だね」


 少々演技かかって真白さんは驚いていた。いつになく嘘くさい?


 フェーブは、天使の姿の可愛らしいものだった。素材は陶器のようなので、オーブンで熱しられても大丈夫なようだったが。


「おめでとう、真白さん」


 私も彼の演技に合わせた。紙で作った王冠を真白さんの頭に乗せた。しっかっりとセットしているので、王冠はズレた感じののったが、それも悪くない気がした。


 ふと、こんな風に毎年真白さんとケーキを食べる時間が、ありありと想像できてしまった。お互いお爺さんとお婆さんになっても、二人でガレット・デ・ロワを食べながらはしゃいでいる。


 真白さんは、咳払いをしてこんな事を言っていた。


「雪乃さん、王様の命令だよ。僕とずっと一緒にいて下さい」


 その顔は私以上に真っ赤になっていた。今が冬である事は忘れそうになり、エアコンのスイッチを切った。


 ただ、そう言われるのは、自然な流れのような気もしていた。隣にいる真白さんからは、バターと優しい甘い香りがする。自分の身体のようにすっかり馴染んだ甘い香りだった。


「王様の命令は絶対だよ?」


 いつになく強引な事を言う真白さんに、私は思わず吹き出してしまった。


「そうね。王様の言う事には従うよ」

「やった!」


 真白さんは、子供のようにはしゃぎ声をあげていた。今はとっても甘い時間に感じた。


「ありがとう、真白さん。そしてこれからも宜しくね」

「こちらこそ」


 私は笑いながら深く頷いた。

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