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第41話 フルーツケーキの表と裏

 真白さんのフードトラックのSNSは、相変わらずアンチコメントが寄せられていた。真白さんは一切反応していなかったが、気になってしまった。アンチは一人しかいないようだったが、一応SNSの運営側に報告はしておいた。全く変わった様子は無かったが。


 アンチのSNSを見ると、隣の県に住んでいる大学生のようだった。コロナをとても怖がっているようで、対策をしっかりしているというコメントも多かった。もともと情緒不安定なのか、コロナは茶番という陰謀論者にもしつここく絡み、暴言を吐いていた。


 この事と真白さんの関係はよくわからなかったが、今年の1月に曽祖母を亡くしているようだった。122歳まで長生きしたそうだ。車椅子生活は長かったものの、認知症などにはならず、死ぬまで意識ははっきりしていたそう。3年ぐらい前に長寿おばあちゃんとしてメディアに取り上げられた事もあるようだった。意外と食べ物は全く気にしていないようで、ファストフードやカフェにもよく行っていたそう。


 アンチはこのおばあちゃんが大好きだったみたいで、積極的に介護をしていたそう。


 死因はコロナだった。数日熱がつづき、あっという間に息を引き取ったらしかった。この事がアンチを余計に苦しめているようだった。おばあちゃんの死を境に、ありとあらゆる陰謀論者や反ワクチン派にいちゃもんをつけていた。


 この事が真白さんと関係ある?


 今はインターネットがある。私が子供の頃はそんなものはなかったが、今は文明の利器を享受している。


 まず、このアンチのおばあちゃんの名前で検索してみた。


 ローカルテレビ局や新聞社の記事がヒットした。長寿おばあちゃんとして、有名だった事は事実だったようだ。おばあちゃんのインタビュー記事も出てきた。


 どこかのカフェの前のおばあちゃんの写真があった。このカフェがお気に入りで毎日のように孫やひ孫と出かけているという。カフェの前にいるおばあちゃんは、車椅子に乗っていたが、100歳すぎとは思えないぐらい元気そうだった。


 この事とアンチ、真白さんと何か関係ある?


 そういえば近所のクソガキ・勇人くんは過去に真白さんはカフェをやっていたと言っていた。何かピンとくるものがあった。


 アンチのおばあちゃんが通っていたカフェの名前で調べてみた。


「あ、これって真白さんじゃん……」


 再び、ローカルの新聞記事がでてきた。地域密着型の英国風カフェとして特集されていた。接客している真白さんの写真も出てきたが、全く同一人物だった。


 この記事にはたいした情報はでていなかった。どれだけ英国の菓子や紅茶が好きかと熱心に語っているだけだった。


 カフェの名前で検索すると、とっくに閉店していた。


 なぜ閉店したのかは、わからない。私はしつこくカフェの名前で検索し続けると、地元の人が集まる掲示板があった。そこでも真白さんのカフェが悪く言われていた。食べ物の味やサービスの悪口ではなく、店長の真白さんがコロナにかかり、カフェがクラスターになっているという噂話だった。地元民は、何人かで講義したが、真白さんは営業をやめなかったという事だった。


 これとあのアンチって何か関係ある?


 私はメモ帳を引っ張りだし、わかった情報を整理して書いてみた。もしかしたら、アンチはおばあちゃんの死因を、このカフェのせいにしているのだろうか。だとしたら、全部辻褄が合ってしまう。


 それにしても真白さんにこんな過去があったなんて。気が利き、人の気持ちばかり考えてしまう真白さんは、こんな風に中傷されるのが耐えられなかったのだろうか。本当の事はわからない。彼が何でカフェをやめたのか、だいたい想像はついたが、本当は何を思っているのかはわからない。私の想像以上にきづいついているのかもしれない。


 そう思うと、もう夕方に近かったが真白さんのフードトラックに行く事にした。心配になりいてもたってもいられない。それSNSをすすめたのは自分なので、責任も感じる。真白さんがずっとSNSをやっていなかったのも、理由があった気がして、今更ながら自分の行動に効果しはじめていた。


 今日は駅前ロータリーで営業しているようだった。夕方前の中途半端の時間のせいか、他に客はいなかった。


「雪乃さん、いらっしゃっい!」


 カウンターの上には、フルーツ入りのパウンドケーキしかなかった。他のものはほとんど売れきれたそうだが、意外と真白さんは元気そうだった。


「SNS見たよ。しつこいアンチがいるね。なんかごめんね。私がSNSすすめちゃったから」

「えー? 雪乃さんのせいじゃないって」


 真白さんは少々大袈裟に笑っていた。私の考えすぎ? 今の真白さんは、特にアンチを気にしていないようだったが、これが空元気だとしたら恐ろしい。


「とりあえず、このフルーツケーキかうわ。余ってるの全部くれる?」

「オッケー! ありがとう!」


 真白さんは、不思議までのニコニコ笑いながらフルーツケーキを包み、紙袋に入れて渡した。


「フルーツケーキって英語では、変な意味のスラングだったりするんだよね」

「そうなの?」

「うん。頭おかしいって意味になるらしい。意外だよね。アメリカの人だとフルーツケーキは、あんまり好まないって聞く」

「へー、意外」


 それは初耳だった。真白さんによるとチーズケーキも英語では変なスラングになるそう。その意味は恥ずかしがって教えてくれなかったが。


「こんな美味しそうなフルーツケーキなのにね」

「そうだね。物事は一面ではなく、裏面も表面もあるんだろうね」


 確かにフルーツケーキやチーズケーキは、美味しいスイーツ というのも一面しか見ていなかったのかもしれない。


 そんな事を思うと、真白さんも面面しか見ていなかった気がする。なんか恥ずかしくなってきて、下を向きたくなる。もう夕方になり、日が沈みかけていた。オレンジ色の光がちょっと眩しい。


「真白さん、大丈夫? 無理しないでね」

「え? 別にそんな事ないよ」


 真白さんはいつものようにニコニコ笑っていたけど、何か嫌な予感に襲われた。


 次の日、真白さんのフードトラックに行こうとしたが、SNSが全部消えていた。ブログも記事が全部削除されている。


 駅前や近所の公園に行ってみたが、ミントグリーンのフードトラックはどこにも無かった。


 あの美味しいお菓子と真白さんは夢だったんだろうか。そんな事を思うほどだった。


 もう10月が終わっていた。いつのまにかハローウィンも終わってしまっている。


 最悪な11月が始まってしまったようだった。


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