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おいしい時間〜小さなお菓子の物語〜  作者: 地野千塩


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第22話 怒りのポテトチップス


 近所を不安に陥れていた変質者が捕まり、ホッとしていたが、続報が新聞に載っていた。


 犯人は全く反省しておらず、子供を性的対象にしか見えないと発言しているようだ。また、余罪もあり、家には大量のポルノが押収された。過去にも何度も似たような犯罪を繰り返しているらしいのも、記事を読んでいると気持ち悪いし、イライラしてきた。


 犯人が捕まったのは良い事だが、犯人は想像以上だった。近所の女性が文句を言ってきた事はビックリしたが、こんな犯人だったと思うと気持ちがわかってしまう。自分が子供をもつ親だったら同じ行動をしていたかもしれず、責められない。


 今日の空は珍しく晴れていた。


 溜まった洗濯物を庭で干し、気分は少し晴れてきた気もしたが、あの犯人について思い出してしまう。近所にあんな変質者が住んでいると怖いし、イライラもしてくる。


 まあ、自分は警察でも無い。そんな事をグルグル考えても仕方ないが、腹も減ってきた。朝ご飯を食べ、昼ごはんまで時間があるが、真白さんのフードトラックに行ってみる事にした。


 今日は、隣町ではなく家の近所の公園で営業しているようだった。


 公園の噴水は相変わらず止まっていたが、今日は晴れているのでちょっと残念に思う。初夏から夏にかけて噴水があったら良さそうだが、色々と難しいのだろう。


 今日のフードトラックは、意外と甘い香りはしなかった。むしろ、少しスパイシーな香りもした。


 フードトラックの前にある黒板状の看板を見ると、今日はポテチチップス祭りとある。


 なぜか怒っているウサギの絵が描いてあった。意外と可愛いが、なぜ怒っているのだろう。


「こんにちは。今日はポテトチップスなの?」


 カウンターの上のバスケットには、袋に入ったポテチチップがあった。ふんわりと油の匂いがして、食欲を刺激された。


 いつものように砂糖たっぷりのお菓子も素晴らしいが、たまには塩っぱい系のスナックも美味しそうだ。他に揚げパンやパンの耳のスティックもあり、思わず口の中がヨダレでいっぱいになる。


「うん。最近はイライラしちゃってね。だからポテトチップスだよ」

「え? イライラとポテトチップスってどう関係があるの?」


 話しが繋がらない気がした。というか真白さんでも怒るんだと意外だった。


「ポテトチップスの起源って知ってる?」


 私は首を振った。


「アメリカのレストランでフレンチフライが分厚すぎるってクレームがあったらしい。それを聞いたシェフは怒って薄くスライスしたジャガイモを揚げて客に提供した。これが意外にも美味しくて、ポテトチップスとして定着したんだ」

「へー。怒りが良いものになったのね」


 ここでシェフが怒りを抑えて、良い人ぶっていたらポテトチップスは生まれていないのだ。という事は、怒りも悪いものでは無いのだろうか。


「そうだね。怒りを抑えたら良いっていう問題でも無いんだね。僕は最近、あの変質者のニュースを聞いてイライラしちゃってね」

「わかるわ。私もあのニュース聞いてイライラしかいない」

「だよねー。でも怒っても何か生産的なものを作ろうと今日はポテトチップスを作ってみた。まあ、これは本当に今日だけ特別だよ」


 そんな事を言われると、このポテトチップスを買うしかない。


 そういえばカウチポテトという言葉がある。ポテトを食べながら、ダラダラと映画でも見たくなってしまった。今日ぐらいは良いだろうと思い始めていた。


「それにしても私は、どうやって怒りを良いものにしようかな」


 ふと、元夫の愛人の顔が浮かぶ。怒りを感じないと言えば嘘になる。


「それこそ作品にしてみたら良いんじゃない?」

「そっか。確かに悪役なんかはムカつく人をモデルにしちゃおうかな」

「あはは」


 真白さんは大笑いしていた。彼の笑い声を聞いていると、なぜかさっきまで頭に浮かんでいた愛人の顔消えてしまった。


「まあ、ポテトチップスを最初に作ってくれた人がいて良かったよ」

「そうだね。性格は悪そうだけど、良いものが生んでくれて、嬉しいね」


 真白さんは私の言葉を聞くと、さらに笑っていた。


 私は怒り何か生産的なものに変えるタイプではないだろうが、こうして真白さんは機嫌が良くなって何よりだった。


 こうして家に帰り、昼食を食べ仕事をあらかた終えた昼下がり、映画を見ながらポテトチップスを食べてみた。


 確かにこれは、美味しい。シンプルな塩味だったが、ジャガイモの甘みで後を引く。パリパリの歯応えも癖になってしまう。あっという間に完食してしまった。


 指が油でちょっとべとべトしていたが、少し名残り惜しい気もしてきた。


 食べ終えると、イライラした気持ちはすっかり忘れてしまっていた。


「さあ、また仕事しましょう」


 背伸びをしたら、気分も明るくなっていた

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