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おいしい時間〜小さなお菓子の物語〜  作者: 地野千塩


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第20話 やわらかい心とフレンチトースト


 5月下旬になり、新作は中盤まで書けてきた。いつもは初稿は一カ月ぐらいかかるが、今回はハイスペースで順調だった。


 真白さんのフードトラックには、なかなか行けなかった。隣町の駅前で営業中だし、私の仕事もそこそこ忙しくなってきた。


 朝ごはんは、スーパーで食パンをいっぱい買って食べていた。春ごろは真白さんのフードトラックの毎日のように食べに行っていたが、今は時間的に難しかった。


 とはいっても真白さんのフードトラックの営業状態は気になり、SNSでチェックをしていた。フォロワーも増えているようで、真白さんのフードトラックもなかなか人気のようでちょっと嬉しくなってくる。


 そんな中、また元夫からメールが届いていた。今は転職活動して、新しい美容院を探しているらしい。いっそ自分の店を持つかな?と返事に困ることも書いていて、このメールをどうしようか悩むところだった。


 メールの文面を見ているとイライラとしてくる。おそらく浮気をし続けた過去は、全く気にしていないだろう。本人の中では、終わった話で、こうして気軽にのメールを送ってくるんだろう。


 そう思うと、イライラとしてきた。自分の心が固くなっていくような感覚を覚える。


 だからと言って「メールを送ってくるな」とハッキリと拒絶もできない自分もいた。一応この件について元義母である碧子さんにも相談してみたが、「放っておきなさい」の一言。碧子さんもおそらく本当に気まぐれでメールを送っているという意見だった。


「あぁ、どうしよう、イライラする」


 もう夜で寝る前にだったが、元夫のメールを思い返すと、眠気が来ない。むしろ、目が冴えてきてしまった。


 こんな時は、何か甘いものでも食べて気を落ち着かせた方が良いかもしれない。


 ただ、やっぱりこの時間に糖分をとるのは、罪悪感もある。


 それに冷蔵庫を見ても、何もない。ちょっと前にスーパーで買った食パン、牛乳、玉子ぐらいしか無い。


 しかも食パンは硬くなっていた。硬くなったパンを見ていると、まるで今の自分の気持ちを表しているようだ。


 おかげで食欲は飛んでしまったが、この食パンをどうしようか悩んでしまった。冷蔵庫をそっと閉じると、むなしさがどっと押し寄せる。


「そういえば……」


 真白さんが書いているブログで、硬くなったパンの活用方があった事を重い出した。


 私は台所でスマートフォンを見ながら、作り方を見てみた。「硬いパンでも美味しく出来る!」とある。


 さっそく作ってみる事にした。


 卵、ミルク、砂糖を分量通りに混ぜて保存用密閉袋にパンとともに入れた。それを一晩つけて、翌朝に焼くとフレンチトーストができるらしい。


 イライラした気持ちだったが、こうして翌朝のフレンチトーストを楽しみのすると、少し気分が落ち着いてきた。イライラもとれて気づきと眠っていた。


 翌朝、私は一晩つけたフレンチトーストを焼いた。


 硬くなったパンである事が信じられないぐらいフワフワにできた。


 真白さんのブログによると、フレンチトーストは硬くなったパンを食べるための人類が生み出した工夫とあった。確かにあんな硬いパンがこんな風に生まれ変わって、不思議な気分だった。


 ハチミツをいっぱいかけ、フレンチトーストは夢のように柔らかく、甘かった。


「うん、もう元夫の事は忘れる」


 昨日の夜は、元夫のメールのイライラし心は固くなっていたが、もうあの人の事は忘れようと思い始めていた。


 元夫の浮気を許したわけでもないが、これ以上重くて硬い気持ちを持っているのも違う気がした。


 今は、もう元夫を忘れる時なのかもしれない。


「あぁ、美味しかった」


 フレンチトーストを食べ終えると、お腹も心も満足している事に気づいた。


 このフレンチトーストのように私の心も柔らかくなるように。


 そう願いながら、空になった皿を眺めた。

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