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第1話 ワーカーホリック

 

 年が明けた。


 1月1日である事をテレビを見て気づいた。通常のラインナップでなく、着物を着た芸能人達が歌ったりコントを演じていた。


「そっか。今日って正月だったんだ」


 独り言が仕事部屋に響く。


 私はそれぐらい仕事に熱中していたため、曜日、祝日の感覚が麻痺していた。


 元々ワーカーホリック気味ではあったが、離婚してから顕著になった。一人で生きていかなければならないという妙なプレッシャーもあるが、それよりは浮気症の夫と離れられた事はホッとしている。夫はメンヘラホイホイだったので、家にもよく不倫相手が来ていた。酷い場合は嫌がらせもあった。


 子供がいない事は、何よりも幸いだった。元夫の事を思い返すと胃がキリキリとしてくるが、仕事をしていると忘れられた。


 それに元夫の母は、なかなか太っ腹で今住んでいる一軒屋をくれた。これが慰謝料代わりだった。向こうの家は地主で、使っていない親戚の家などもあったそう。


 田舎なので、駅やスーパーに行くのはちょっと不便だが、なぜか近所の人から野菜や卵を貰えたりして、意外と生活は順調だった。


 それに離婚の傷を抱えたまま、都心で生活するのも心が荒みそうだった。特に若い女とすれ違うと心がザワザワとしてくる。


 その点、この田舎は高齢化が進んでいるので、心を騒がせる人物像とすれ違う事はあまりなかった。


 それに、やっぱり仕事をしていると気がまぎれる。


 私はフリーライターの仕事をしていた。フリーというその文字通り、何でもやっているライターだった。


 ネットの記事はもちろん、小説も書く。ゲームや漫画のノベライズや原作もやる。いわゆる何でも屋状態で、仕事は探せば何でもあった。


 おかげで去年は休みが1日もなかった。365日ずっと家にこもってキーボードを叩いていた。


 取材で京都や東京に行った事もあったが、別に観光を楽しんでいたわけでもない。写真を撮り、インタビューをし、メモをとり……。完全に仕事だった。


 まあ、取材先のホテルではマッサージをしてもらってリラックスはできたが、あとは毎日引きこもって文字を打ち続ける日々だった。


 おかげでこの近所では引きこもり疑惑も出ているそうだったが、仕事の方が忙しいので忘れていた。


 こうして年が明けてしまった。


 離婚してから友達も減った気がする。もう主婦やママ友とは気が合わないだろう。引きこもりの方が気が合うかもしれない。


 仕事部屋の机の上は、チョコレートバーのあき箱で散乱していた。


 仕事中は片手かつ糖分補給ができるチョコレートバーが大活躍だ。ネットでまとめて購入し、仕事中にちまちまと消費していく。酷い場合は三食チョコレートバーだ。


 一応パッケージには、完全栄養食って書いてあるし。


 もうアラフォーの私だが、風邪一つひかない健康体だった。少々偏った食生活でも乗り越えられる。


 今のところ問題はないと思う。離婚の傷を除けば、特に不満は無いと言っていいだろう。


 それでも、少し違和感があるのはなぜだろう。


「なんか、お腹減ったな」


 当面の仕事を片付けた後、私の腹はぐーっと情けない声を上げた。


 田舎の正月なので店は閉まっている可能性が高い。


 まあ、コンビニぐらいは開いているだろう。


 空きっ腹を抱えながら、身支度を整えて外に出た。

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