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人魚姫の涙

作者: うさみち


 深い 深い 海の中


 海の王「海竜」と愛する妻「サファイア」に


 なんとも可愛い娘が産まれました。


 金色の髪はうなる海のようなウェーブがかかり、


 金色の目は、はるか遠くの海を見渡せそうな美しい輝き。


 上半身は人間で、下半身はお魚の見目麗しい人魚姫。下半身の鱗は、海から見上げる太陽のように輝かしい虹色をしていました。


 母のサファイアは、水色の貝殻と小さな黄色の星型アクセサリーを人魚姫の髪につけて、夫の海竜に言いました。


「美と愛の女神にちなんで、ディーテという名前はどうかしら」


「それはいい。幾千幾万の幸せがディーテに訪れますように……」


 2人は愛しい我が子をそれはそれは大切に育てました。


 ◇ ◇ ◇


 月日は経ち……。


 ディーテは見目麗しく、すくすくと育ちました。


 そしてとても心優しい子に。



「襲撃だー!」



 ある時、人魚の仲間がリザードマンに襲撃されて大怪我をしてしまいました。


「あぁ、なんて痛々しいの。かわいそうに……」


 ディーテは心を痛めてポロリ、ポロリと泣きました。


 すると――なんということでしょう。


 涙は虹色の結晶になって、カラン、カランと宮殿の中に落ちていくではありませんか。


 なんと、負傷した人魚に持たせてやると、みるみるうちに快癒してしまったのです。


 すりつぶして飲めば万能薬に。

 身につけて持てば幸せになれるという噂はたちまち広がり、やがて、幸運の『人魚姫の涙』と呼ばれるようになりました。


 ◇ ◇ ◇


 ある時、人間の男が面白い機械を口にはめて、海中にやってきました。


 宮殿の中は酸素で満ちているため、男は機械を外してディーテにこう言いました。


「お願いです。私に『人魚姫の涙』をください」


「ならん! なんと無礼者め」


 男は、海の王、海竜の怒りを買い、牢屋へ閉じ込められてしまいました。


 しかし……。


 心優しいディーテは毎日のように牢屋へ食事を届けにいきます。


「なぜ、私の涙が欲しいの?」

「大事な人が、死んでしまうかもしれないんだ」

「人間の力では治せないの?」

「あらゆる方法も試したさ。でも、叶わなかった。私は錬金術士なのに、なんの力もないただの男だったんだ……」


 男が打ちひしがれる様子を見て、ディーテは心を痛めます。


 すると、カラン、カラン……と人魚の涙がこぼれ落ちたのです。


「これを、あげるわ。大切な人を、守ってあげて」

「ありがとう人魚姫。代わりに私の書いた本を差し上げましょう」


 ディーテは父母に内緒で男を地上へ逃してやりました。


 男のその後はわかりませんが、幾千幾万の幸せが訪れるディーテの加護をもって、幸せに暮らしたことでしょう。


 ◇ ◇ ◇


 ディーテが男を逃したことは父母にばれてしまいましたが、怒られることはありませんでした。


「あぁ、心優しきディーテ。そのように選択すると思っていたよ」


 父も母も言いました。


 そしてふと、家族は気がつくのです。


「あの男、どうやって宮殿までたどり着いたのかしら。人間は海の中で呼吸ができないというのに」

「錬金術士、と言っていたわ」


 ディーテの言葉に、父はこう言いました。


「あらゆるものを対価に万物を作り出せる力を持つ、錬金術士……。本当に実在したとは。その書物は、国宝としよう」


 そうして、男が書いた本は国宝となりました。

 しかし困ったことに、海竜も、ディーテも、高名な海の学者であるタツノオトシゴも、本の内容がさっぱり読めませんでした。


 読んでも意味がわからない本は、眠り続けることでしょう。

 新たな錬金術士が、再び海の宮殿へ訪れるその時まで……。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  錬金術と万能の秘薬になり得るディーテの涙、私がネガティブだからかもしれませんが嫌な予感が…   儚き少女の想いが欲深い者によって汚されぬ事を祈りたいです。 今のところ悪者は出てきてません…
[良い点] 神秘的な海の底の宮殿にやってくる錬金術師とその本、シリーズではないようですが、なんとなくミミリちゃんのお話とのつながりを感じますね。 優しい人魚姫と、ご両親の思いにほっこりしました(*´…
[気になる点] 錬金術士はどこで噂を聞きつけてきたのでしょうか。 外の世界に噂が漏れ出すような可能性があったのなら 錬金術士は秘密を守るかもしれないけれど また、別の誰かがやってくるかもしれない。 そ…
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