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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
4章 ベトナム遠征
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27話。予想外のことはあったものの、予定通り行われる防衛戦③

「……そうだな。頼む」


『了解です!』


翔子からの意見具申を受けた静香は迷うことなく承諾した。

いや、正確には迷いはあった。


ただしそれは翔子が具申してきた意見の内容が間違っているとかではなく、単純に自分のミスを悔いるものであった。


(しくじった! 最初に狙うべきは敵の最後方であるべきだった!)


確かに中央部に砲撃を加えたことで、魔物の群れはそれなりに数を減らしたし混乱もした。

それは事実だ。


第四師団への圧力を減らすという意味では間違っていないだろう。


だが、現状を考えれば悪手であった。

なぜか。

それは第四師団と戦う魔物たちの位置関係にある。


そもそもの話だが、魔物の群れが第四師団の陣地に襲い掛かると言っても、第四師団が構築した防衛陣地はその立地上、万を超える魔物の群れが一斉に襲い掛かれるほど広い空間ではない――そもそもそんな空間に防衛陣地を築くはずがない――のだ。


そのためこの場にいる魔物たちは第四師団と戦っている群れを除いて、ある意味で順番待ちをしているような状態であった。


それを見た静香はとっさに一番数が多いところに砲撃を加えたのだが、その結果敵を前後に分断してしまい、後方で遊兵化していた魔物に自分たちという目標を与えてしまったのだ。


(なぜ私はもっと深く考えなかったのだ!)


重ねて言うが、この戦場に限っての話であれば静香の判断は決して悪手というわけではない。


砲撃された中央部にいた魔物は数百体単位で数を減らしたし、今も混乱している。

これにより、これまで絶え間ない波状攻撃を受けていた防衛陣地に余裕ができた。

加えて後方の魔物が静香たちを狙うようになれば、必然的に防衛陣地への圧力は減るだろう。


攻勢圧力が減ればその分第四師団による反撃の効果は増すことになり、そのまま前線にいる魔物を余裕をもって殲滅できるようになる。


前線で盾となっていた中型の魔物を失った群れなど、戦車や砲兵による一斉砲撃の餌食でしかない。


前線と中央部にいる魔物を殲滅した第四師団がそのまま面制圧を行えば、残った後方の魔物たちの殲滅も難しい話ではなくなる。


つまり、教導大隊が魔物の群れの分断に成功した時点で、第四師団の勝利は決まったのだ。

で、あれば、教導大隊は第四師団が決定的な攻撃を行うまで時間稼ぎに徹すればいい。


いや、時間稼ぎどころか、現時点で伊佐木から「もう十分だ退け」と撤退の許可を貰えるくらいの仕事はしている。


そう。この戦場に限って言えば、教導大隊は見事にハンマーとしての役割を果たしていた。


やるべき仕事を果たしたはずなのに、何故静香は悔いているのか。


それは彼女らが置かれている状況にある。


本来の作戦であれば、教導大隊は本隊に遅れて移動していた大型や中型の群れを殲滅した後でこの戦場に馳せ参じ、第四師団と戦う魔物たちに対して決定的な打撃を与える予定であった。


しかしながら現状はどうか。


確かに教導大隊が討伐すべき目標であった大型の魔物は全滅した。

中型の魔物の群れにも少なくない被害が出ている。

こちらの戦闘が片付くまでには間に合わないだろう。


そういう意味では、彼女らは本来の目的も果たしたと言える。

その上で防衛陣地を狙う魔物を叩くハンマーとしての役目も果たしたのだ。

司令部から退却の許可が出るのも納得できる。


静香だって胸を張って部下に『もう十分だ。退け』と命じることもできただろう。


……魔族が、それも三体同時に出現するなどというイレギュラーさえなければ。


結果として教導大隊は『敵の主力の排除』という本来の目的を果たせぬまま、戦わずして敗走した。

それも、魔族の追撃を抑えるために啓太一人を戦場に残して、だ。


魔族の足止めができるのが啓太しかいなかった以上、戦術上仕方のないことではあるのだろう。

『足手纏いでしかない未熟な自分たちが悪い』と言われれば反論のしようもない。


しかし、だからこそ、意地がある。


自分たちがこの場から退けば、今自分たちに向かってきている魔物たちはどう動く?


後ろから来る第四師団に向かう? 

それなら戦力の逐次投入となるだけなので問題はない。

第四師団に任せればいい。


それが理想だ。だがそうならなかったらどうなる?

第四師団の圧力に敗けてこのまま後退したらどうなる?


簡単だ。彼らの上位者である魔族がいるところに向かうだろう。


それは一人で殿を務めている啓太の背後に敵の増援が出現することを意味する。


それだけは、認めるわけにはいかない。


(ここにいる魔物たちを魔族、いや、大尉の下に向かわせるわけにはいかないのだ!)


静香の想いは教導大隊に所属する面々全員に共通する想いでもある。


故に翔子は自分が囮になることを具申してきたのだ。


その想いを無下にすることはできない。

なにより静香自身が生徒を死地に追い込んだことを赦せない。


ならばどうする? 

戦うしかない。


かといって、啓太や翔子を護るために那奈や夏希や茉莉が死んでは本末転倒もいいところだ。


故に指揮官である静香に求められることは三つ。

部下を誰も死なせない。

魔物は小型一匹後ろに通さない。

この両方を成し遂げた上で、啓太の元へ援軍を引き連れていく。


(難題だ。だが、それくらいできなければなっ!)


自分が自分であるために。

軍人として、貴族として、教師として、大人として恥じない自分でいるために。


静香は指揮官として決断を下す。


「各員に告ぐ! これより五十谷准尉が敵を引き付けるよう派手に動く!」


『『!?』』 


「魔物どもの注意が五十谷准尉に向いたら、我々が五十谷准尉を狙う魔物どもの横っ面を叩く。そして魔物どもの注意が我らに向いたら五十谷准尉がそれを叩く! 変則の掎角(きかく)だ! 対応して見せろ!」


『『はっ!』』


掎角とは、簡単に言えば部隊を二つに分けて敵を挟む戦術である。


魔物が翔子を狙えば静香たちが攻撃を加え、逆に静香たちを狙えば翔子が攻撃を加えて的を絞らせない。魔物に”二手に分かれる”という判断ができるのであれば静香たちが各個撃破されるだけだが、幸いというかなんというか、この場にいる魔物たちにはそんな知恵はない。


あるのは攻撃をしてきたモノ、もしくは目の前にいる敵に対して反撃をするという本能のみ。


故に、この挟み撃ちは効く。


さらに陽動を行うのは彼女たちだけではない。


「八房隊は攻撃をしなくていい。ただ出来るだけその姿を晒して敵を翻弄しろ!」


『『はっ!』』


その目的は敵の注意を引くこと。

もっと言えば敵の足を止めることにある。


教導大隊に配属されている機体は全て砲戦仕様となっているため、距離を詰められたら小型にさえ負けてしまう。本来はそうならないようにするために直掩部隊がいるのだが、教導大隊に於いてその数は少ないため、今回のように敵の数が圧倒的に多い状況では物量に押しつぶされてしまう。


そのため静香は最初から敵を近付けさせないようにするため、本来直掩として使うべき八房型を散開させていたのだが、そこにさらなる意味を持たせたのである。


「砲撃は中型を優先的に、直掩は小型の魔物を優先的に狙え!」


中型の魔物が行う魔力砲撃。

これを先に潰すことで砲戦の優位を取る。


(多く見積もっても一〇分。それだけ耐えれば援軍が来るはずだ。それまで耐えればっ!)


正確には一〇分で来るのは援軍というよりは第四師団からの援護射撃だろうが、静香はそれでも十分だと考えていた。


後ろから攻撃された軍は脆い。それは魔物も同じだ。


そも、魔物には”仲間の為に命懸けでその場を死守する”という概念は存在しない。

ならば防衛戦を制した勢いそのまま突っ込んでくる第四師団の攻撃に耐えられるはずがない。


後方から攻撃が届いた時点で、彼らは一目散に逃げるしかないのである。


自分たちはそれを第四師団と共に追いかければ良い。


魔物を啓太のところに通すことになるが、それらはすでに敗走した連中だし、なによりこちらも第四師団とともに啓太と合流できる。


(数の上でも質の上でも大幅に勝る援軍が到着すれば、魔族とて退くしかあるまい!)


「勝つ! 勝って私は大尉を迎えに行く!」


確かな勝算を得て魔物を迎撃せんとする静香。


彼女の貌には、普段生徒らに見せている大人としての冷静さは欠片もなく、まるで獰猛な猟犬が敵を食いちぎらんと鋭い牙を剥き出しにしているかのような、そんな猛々しさ凛々しさに溢れていた。

6〇1はボスだった?


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