26話。予想外のことはあったものの、予定通り行われる防衛戦②
『分散はしない! 各機一塊になって展開!』
『「了解!」』
『橋本と綾瀬は直掩だ! メインではないと言っても油断するな!』
『『了解!』』
『展開は済ませたな? よし最初は合わせるが、あとは各々の判断で打ち込め! 一斉射撃準備! ッてぇ!!』
静香の掛け声とともに、教導大隊に所属するすべての機体の砲が火を噴いた。
元が砲戦仕様ということも相まって、その火力は極めて高い。
さらに魔物たちは前面の基地へ意識を集中しており、後方に数キロ離れた位置からの砲撃を想定していなかった。
結果、砲撃は魔物たちの本隊ともいえる位置に着弾、甚大な被害を出すことに成功する。
普通であればこれだけでも十分な戦果だ。
しかしながら、彼女らに求められているのは甚大な被害を出すことではない。ここにいる魔物を全滅させることだ。
それも自分たちに出す被害を最小限に抑えた上で。
よって次なる命令は、防御に関するものであった。
『八房隊は散開して砲撃! 魔物の意識を固定させるな!』
『『はっ!』』
火力を集中させると言えば聞こえはいいが、それはつまり相手に的を絞らせることと同義である。
啓太のように縦横無尽に動けるのであればさしたる問題はないのだが、ここいる面々は試作三号機を駆る翔子を除き、移動もままならない未熟者。魔物からの反撃を許せば、次はこちらが甚大な被害を被ることとなる。
だからこそ静香は自分たちの直掩部隊であるはずの八房型を敢えて散開させて、魔物たちの注意を分散させる策に出た。
彼女の判断は正しい。
現状でできることの中では最適解を選択したといえる。
しかしながら、こちらが最適解を選んだからと言って、必ずしも敵を上回ることができるわけではない。
『被害は与えたが、さすがに数が多いか。だがこのまま押し切るっ!』
転身してくる魔物たちを迎え撃たんとする静香。
通信越しにでも彼女の決意が伝わってくる。
そう。魔物たちは確かに打撃を受けた。
混乱もしている。このまま砲撃を続けるだけで被害を拡大させることはできるだろう。
だが、足りない。
魔物たちは未だに数千以上残っている。
その上、一番最初に潰しておきたかった中型の魔物の多くが中央ではなく前や後ろに配置されていたため、中央部分に着弾した先ほどの砲撃では、ほとんど数を減らせなかったのも痛かった。
さらにもう一つ問題がある。
(中佐の狙いは理解できる。でも、敵の狙いはまだ……)
彼女は本気で戦っているし、最善を尽くしている。
それは理解しているが、敵が自分たちの思うがままに動くはずもない。
八房型も砲撃を行っているが、魔物の狙いは一塊になって砲撃を行っている教導大隊から外れてはいなかった。
元々遠慮もなにもなくただひたすら砲撃を繰り返す部隊から、注意を逸らすというのが無理なのだ。
(この状況を変えられるのは私しかいない。でもどうする?)
魔物の注意が自分たちから逸れていないことを察した翔子は一つの決断を迫られる。
即ち、動くか、動かないか。
砲撃部隊の中でも最大火力を誇る翔子が動けば魔物の意識は逸れるだろう。
その分、他の味方は安全になり、安全になれば砲撃も継続できる。
すでに第四師団との挟み撃ちは成立しているのだ。
こちらの砲撃が敵本隊に甚大な被害を与えたことを知れば、第四師団も即座に攻撃を開始するだろう。
あとは時間との勝負。
早く終わるか遅く終わるかの違いでしかない。
教導大隊に被害を出さずに終わらせるなら動くべきだ。
(代わりに、私が一人で魔物を捌く必要が出てくるけどね!)
一機で敵を引き付けるためには、一機で大隊の仲間たちよりも目立つ必要がある。
試作三号機はそれが可能な性能と火力装備を有しているので、敵の意識を引き付けること自体は決して不可能ではない。
不可能なのは、自分が無傷で帰還すること。
一応、射撃の後に飛び跳ねることはできる。
空中機動はまだまだだが、ワイヤーアンカーなどを使えば何度かは誤魔化せるだろう。
だがそれだけだ。
縦横無尽に動き回る試作三号機の動きについていける味方がいない以上、翔子は戦場で孤立することを余儀なくされる。
(もちろん時間はそんなにかからないでしょうけど)
第四師団の攻勢にどれだけの勢いがあるのかによって時間は変わるが、現状を顧みれば自分が敵を引き付けられる時間は長くて一〇分程度と思われる。
(それまでに味方がこなければアウト。味方が来ても、そのとき私が敵に囲まれていたらアウト)
将来的にはともかくとして、今回砲撃に専念することを前提に整備された試作三号機には近接戦闘用の装備は搭載されていない。
そのため相手が小型の魔物であっても、接近されたらまずいことになる。
(味方の援護? まぁ、無理でしょうね)
教導大隊の面々は久我静香を含めてまだ【狙撃】ができる段階にはない。
魔物ごと焼き払うことはできるだろうが、そのときは自分も死んでいる。
(つまるところ、私は一機で飛び出して魔物の群れの注意を引きつつ、自分自身も囲まれないように飛び回って、味方が来るまで凌がなければならないってわけか。……うん、無理)
翔子は現実を知っている。
今の自分が啓太のようにできないことも知っている。
だから、自分が考えていることがどれだけ無謀なことなのかも知っている。
では自分が動かなければどうなるか? と言えば、こちらは簡単だ。
魔物の砲撃によって全滅する。これしかない。
試作三号機だけなら数分は耐えられるだろう。
機体にはそれだけの装甲があるし、翔子自身とてこれまでの戦いで装甲を補強するだけの魔力は有しているのだから。
だが最初から軽量化のために装甲をはぎ落した量産型や、無理やり砲戦仕様に仕上げた草薙型は無理だ。
おそらく一度か二度の攻撃で消滅するだろう。
(味方を失い、単機で数分耐えたところでなんになるのよ)
間違いなく嬲り殺されるし、運良く生き残れたとしても、この次の戦いには絶対に間に合わない。
そんなことになったら、啓太一人を殿に残して逃げてきた意味がない。
(それは嫌! 第一、そもそもこんなところで死ぬなんて真っ平御免なのよ!)
このままでは確実に死ぬ。
学生? 試験機? 予想外?
そんなの戦場に出た以上何の関係もない。
選ばず死ぬか、選んで生きるか、それだけだ。
ならば自分が選ぶべきは、厳しくとも生き残る可能性が残された道しかないではないか。
(やってやるわ! っていうか、やらなきゃ私を含めて全滅するってんならやるしかないじゃない!)
「中佐!」
『なんだ!』
敵味方が生き残りをかけて戦う中、翔子もまた自らが最善の一手と信じた手を打たんと意見具申を行うのであった。
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