25話。予想外のことはあったものの、予定通り行われる防衛戦➀
大変お待たせしました。
書籍化作業が一段落したのでぼちぼち更新します。
予想さえしていなかった魔物の援軍――それも特大型の魔物――を目の当たりにしてさしもの啓太も無傷で生還することを諦めるに至っていたころのこと。
国防軍によって築かれていた防衛陣地でもまた、魔物との戦闘が行われていた。
「ここだ、一斉斉射!」
「「はっ!」」
『『『ガアォォォォォ!!』』』
「油断するな! 第二陣、てぇ!!」
「「はっ!!」」
『『『オォォォォォォ!!』』』
「よし! 今のところは順調だ! この調子で減らすぞ!」
「「はっ!」」
極めて高い火力を有する大型の魔物こそいないものの、魔力による障壁の展開と、遠距離攻撃が可能な中型の魔物や、そういった特殊な力は持たずとも、既存の野生動物を遥かに上回る身体能力と万に近い数でもって自分たちを押し潰さんとする魔物の群れを迎え撃つ形となった第四師団。
拠点の防御力を利用することで犠牲を最小限にしつつ迎撃を成功させると意気込んでいた彼らであったが、本格的な戦闘が行われている今となっても、その損害は極めて軽微なものであった。
彼らが作戦司令部の予想をいい意味で覆した要因はいくつかあるが、強いて一つを挙げるとすれば、それは本国から来た援軍が持ち込んできた新兵器であろう。
『大佐! 危険です! お下がりくださいッ!』
「何を今更! 戦場が危険なのは当たり前だろうがッ!」
『そういうことではなくっ……』
「お前だってわかるだろう!? この強化外骨格があれば俺でも連中と戦えるんだ!」
『それはっ! ですが!』
「それにな! 指揮官が戦場に立つことはなんら間違ったことではない! いや、兵の邪魔にならんのであればむしろ前線に立たねばならん!」
『っ!』
副官が止めるのも聞かずに先陣に立ち、屁理屈をほざきながら中型の魔物を狙撃するのは、連隊指揮官であるはずの綾瀬勝成大佐であった。
本来であれば彼の行動は指揮権を放棄した行いとして問題視されていたかもしれない。
だが今回に限っては話は違った。
勝成は現在戦車隊の指揮を副官に任せ、自身は第一師団が持ち込んできた新型の強化外骨格を身に纏い、随伴歩兵の指揮を執っているのだ。
随伴歩兵もまた連隊の一員である以上、彼の行いを問題行動として罰することができる人間はいない。
まして今回の戦いは拠点に篭っての防衛戦である。
そこで機甲連隊の主力である戦車のすることなど、敵に向かって砲を放つ以外にない。
詳細な指揮を必要としないなら副官でも十分。そう判断した勝成を誰が咎められようか。
また、勝成がそこそこ魔晶との適合率が高く、新型の強化外骨格に適応できたことも、彼の行動を後押ししていた。
彼の中に在る気持ちはただ一つ。
(ようやくだ。ようやく俺も魔物と戦える!)
もちろん、今までも勝成は戦車隊を率いて魔物と戦っている。
実際師団長である伊佐木も、敵を前にしても冷静さを保ちながら機動戦を行うことができる勝成の指揮能力を高く評価していた。
勝成とてそれはわかっている。
だが、それ以上に彼を突き動かす思いがある。
(それだけでは駄目なんだ! 俺たちだって戦えるってところを見せなきゃ駄目なんだ!)
魔物と戦い、散っていく仲間たち。
その中で最も数が多いのは、魔装機体を駆る機士たちである。
彼らは通常兵器が通用しない中型や大型の魔物を倒すために進み、そして散る。
まさしく、その身を以て活路を切り開くのだ。
その姿を見て忸怩たる思いを抱かない人間はいない。
その背中を見て「俺たちだってッ!」と嘆かなかった人間はいない。
これは勝成だけが抱えている想いではない。
戦場で戦うほぼ全ての将兵に共通する想いなのだ。
その想いを知るからこそ、副官も強くは言えなかった。
彼とて自分が新型の強化外骨格に適応できていたら、勝成と共にこれまで自分たちでは太刀打ちできなかった中型の魔物を狙い撃っていたはずなのだから。
加えて、勝成には自分が戦えるというところを証明しなければならない理由がある。
(娘を、茉莉を最前線に立たせておきながら俺が下がれるかよ!)
そう。彼には娘がいる。
彼女は、相手方の決戦兵器である大型の魔物を打破するための兵器である魔装機体を駆る騎士として参戦しているのである。
男として、父として、勝成は自分が戦えることを証明しなくてはならないのだ。
そしてこの戦場には、彼と同じような想いを宿して戦う者が数多くいる。
父を。母を。妻を。子を。娘を。息子を。恋人を。友人を。
その対象はまちまちだが、誰もが大切なものを護りたいと願っていることに違いはない。
大切なものを護るために軍人になった者が、大切なものを護るための力を手に入れた。
大切なものを護るために軍人になった者の前に、大切なものを脅かす存在がいる。
ならば戦おう。命を賭けて抗おう。
二度と舐めた真似ができないよう、息の根を止めてやろう。
通常兵器しか使えない戦車兵たちは通常兵器で斃すことができる小型の魔物を殲滅すべく銃撃と砲撃を繰り返し、新型の強化外骨格を纏った随伴歩兵たちは砲撃を防がんとする中型に銃撃を加え、全てを蹂躙する打撃力を持つ魔装機体に乗る機士たちは突撃の合図を待つ。
誰もが目の前にいる魔物の群れを殲滅せんと力を尽くしているとき、戦場に大きな音が鳴り響いた。
それが魔装機体の中でも極めて特異な機体による砲撃音であることは、この戦場に立つ者であれば誰もが知っていた。
「もうきたのか! さすがは茉莉の仲間たちだ! 仕事が早いな!」
援軍が来た喜びと、援軍が来る前に終わらせることができなかった悔しさを混ぜ合わせながらも、称賛を送る勝成。
これで勝った。
多くの者が勝成と同じ思いを抱く中。
彼らとはまったく別の反応を見せる者がいた。
「早すぎる。それに向こうの反応は消えていない。どういうことだ?」
「……予定外の事が発生した。そういうことだろうな」
「それしかない、か。すぐに久我中佐に繋げ!」
「はっ!」
指令室で情勢を確認していた伊佐木と由布月の二人は、援軍が来たことよりもその速度を訝しんだ。
そして彼らの懸念は的中する。
「魔族が三体だと?」
「それを大尉が足止め、か。伊佐木、これはまずいぞ……」
「あぁ」
英雄が失われるのもそうだが、それ以上に自分たちが全滅しかねないのが問題だ。
敵を倒す。英雄も護る。
両立させることが極めて難しい問題だが、それをやらなければ国が亡ぶと言うのであれば是非はない。
「全軍に攻撃。最速で終わらせろ。出し惜しみは無しだ」
このまま防衛に専念していれば犠牲は最小限で済むだろうが、敵を殲滅させるまでに時間がかかる。
攻勢に出れば犠牲は出るだろうが、時間は短縮できる。
短縮した分だけ魔族に対する準備ができる。
後のことを考えれば選ぶべきは後者一択。
この判断が吉と出るか凶と出るか。
それが分かるのは、伊佐木たちを呑み込んでいる戦場の霧が晴れたときだけだ。
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