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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
4章 ベトナム遠征
92/111

20話。予定された通りに行われる防衛戦1

『敵軍確認! 距離11,000!』


『敵先頭部隊の主力は中型、数は約200。その後ろに小型が約7000弱。大型は更にその後ろです!』


『敵、防衛ラインに接触!』


『砲撃、開始』


『『『了解!!』』』


通信機からは聞こえる声には緊張感はあっても悲壮感はない。


所詮は1パイロットでしかない俺には、これが師団長である伊佐木中将の統率力の賜物なのか、はたまた他の要因があってのものなのかはわからない。


ただ、派手な音とは裏腹に粛々と行われている砲撃の様子を見れば、戦闘が予定通りに推移していることはわかる。


「第二師団の戦訓のおかげだな」


その時が来るまで待機するよう仰せつかっている啓太は、コクピットの中で第四師団が行っている砲撃を眺めながら他人事のように呟いていた。


対魔物に於ける防衛戦の基本として、まず最も警戒するべきは大型の魔物による遠距離射撃である。


陣地に篭っている関係上回避することは不可能だし、なにより大型の魔物が放つ魔力砲撃は機体に大盾を持たせて防御したとしても、機体はともかく周辺施設や周囲にいる人員を蒸発させるだけの威力があるからだ。


そのため通常であれば真っ先に大型を潰す必要がある。


ただし、中型以上の魔物は魔力障壁と呼ばれる障壁があるため通常の攻撃ではダメージすら与えられないので、彼らを討伐するためには戦車などの通常兵器ではなく、機体を用いた攻撃が必要となる。


今までは、大型はその大きさから近接戦闘が苦手、というかできないケースが多く接近すればそれなりに戦えることが判明していたので、なんとかして草薙型を接近させて討伐するという方法がとられていた。


しかし最近になって魔物の動きに変化が現れた。


大型の魔物の周囲に直掩部隊とも言うべき魔物が配置されるようになったのだ。

しかも通常兵器で打倒できる小型ではなく、中型の魔物が。


この直掩部隊のせいで、現在のところ大型の魔物に対する奇襲攻撃はほぼ不可能となっている。


奇襲による近接戦闘ができない以上、人間側に取れる手段は遠距離砲撃しかない。


ここで遠距離射撃を得意とする魔物と、遠距離砲撃によって相手を仕留めるしかない人間の思惑が一致することになる。


そのせいで戦闘は双方に犠牲が出る苛烈な砲撃戦になる……わけではなかった。


しばらくの間は人間側による一方的な砲撃が行われることになるのだ。


何故か。魔物は直線的な射撃しかできないからだ。


当たり前の話だが、地球は丸い。そのため一定以上の距離がある相手を狙う場合、地球の丸さを計算に入れて攻撃を行う必要がある。


与一型が滑腔砲による直射ではなく榴弾砲による曲射を主体としているのはこのためだ。


もちろん魔物を率いている魔族はそのことを知っているだろう。

だが率いられる魔物に曲射を行うだけの知恵や性能がない以上、彼らは直射によって相手にダメージを与えることができる距離まで間合いを詰める他ない。


その距離は凡そ6kmとされている。


そこまで間合いを詰めることができれば、あとは大型による砲撃で敵の砲撃部隊を蒸発させてしまえばいい。それが魔物の勝ち筋となる。


その勝ち筋を潰すために人間は必死で砲撃を行うのだが、如何せん、大型の魔物が展開している魔力障壁を貫いてダメージを与えるのは簡単ではない。さらに直掩部隊である中型の魔物が盾になる場合もあるので、砲撃だけで大型を落とすのは極めて難しい。


結論から言えば、日本海を泳いで渡ってきたために疲労困憊な魔物たちならばまだしも、体力が有り余っている魔物を各師団が抱える砲撃部隊だけで討伐するのはほぼ不可能と言える。


さらに問題なのが、彼らが警戒しなくてはならないのは大型の魔物だけではないということだ。


大型の魔物が最重要目標であることに違いはない。だが、敵部隊の大半を占める小型の魔物が無力ということはない。


想像してみればわかるだろう。

1万近い虎の群れに襲われたらどうなるか、を。


しかもその虎は、最低でも2m以上の体躯を誇り、その足は戦車よりも速く、その爪牙は戦車の装甲をいとも簡単に貫くことができるほどの攻撃力を秘めているのだ。


それらを完全に無視して後方にいる大型やその直掩部隊だけを狙うことなどできようか。


できるはずがない。


焦れば照準がズレる。

恐怖に震えれば照準がズレる。

魔物に怯えれば砲撃に篭る魔力が失われる。


砲撃部隊が砲撃部隊として機能するためにはこれらの不安要素を払拭する必要がある。


つまり迎え撃つ側は、砲撃も射撃も恐れず一心不乱に距離を詰めようとしてくる魔物たちを片付けなければならないのである。それもできるだけ早く。


だが、これも簡単なことではない。


小型の前に中型の魔物が配備されているからだ。


人間風に言うのであれば、大盾隊だろうか。


先頭を走る中型の魔物が通常攻撃による攻撃を弾くことで、彼らの後ろにいる小型の魔物たちは無傷で(もちろん上から降ってくる榴弾全てを防げるわけではないので多少目減りすることにはなるが)距離を詰めることができるというわけだ。


こうなればあとは乱戦となる。


そして乱戦で人間が野生動物をより狂暴化させた存在である魔物に勝てるはずがない。


つまり、詰み。


この状況に陥った時点で人間側に勝ちの目はない。


「連中が勝てるとすれば基地を捨て、犠牲を払いながらも魔物どもを誘引して各個撃破するしかなかった。一か八かの賭けに出なかった時点で連中の敗北は決定していたのさ」


この方面を任されていた子爵級魔族であるロウランは、今も必死で砲撃を行っている第四師団を眺めながら配下の魔族に向かってそう嘯いた。



―――



「ここまでは予定通りだ」


「あぁ」


砲撃だけで大型の魔物を討伐できないことなど、伊佐木も由布月も十分以上に理解していた。

当然、乱戦になれば負けることも重々承知の上だ。


それでも彼らは砲撃を行った。


何故か。敵に疑惑を与えないためだ。


「川上大尉曰く『大型の魔物を仕留める最良のタイミングは向こうが射撃準備に入った際』とのことだったな?」


「そうだ。具体的に言えば敵が6~7キロ地点に入り、進軍を停止した瞬間こそ狙い目、だそうだ」


「魔力砲撃を行おうとしている瞬間こそ狙い目、か。剛毅なことだ」


「そうだな。うちの連中にも見習わせたいくらいだ」


「……あそこまで剛毅なのはいらんぞ」


「まぁ、な。あれの上司などまっぴら御免だ」


半ば無理やり上司にされた挙句こんなところまで派遣されることになった久我のお嬢さんを思い出して苦笑いする伊佐木と由布月。


階級や役職の上では伊佐木の方が上だが、幼馴染であり、付き人として若いころから伊佐木と共に育ってきた由布月は伊佐木に敬語を使わない。


もちろん浅香のような上位者が居た場合などは別だが、現在のところ彼女はベトナム皇帝に対して状況と遠征軍が取る方針などの説明をするため帝国の首都ダナンまで後退しているので、彼らの口調を咎める者はいない。


一応、第一師団から観戦武官として送られてきた面々もいるにはいるが、現場を知らない彼らに発言権はない。彼らが連れてきた砲戦仕様についても、その指揮権は伊佐木に委ねられている。


閑話休題。


現時点に於ける伊佐木ら第四師団の目的は、敵の主力である大型の魔物に、彼が予定している狙撃ポイントまで歩を進めさせることにある。


それまでは、自分たちに大型の魔物を一蹴できる火力があることを知られないようにしなくてはならない。現在行っているのはそのための砲撃であった。


「連中には無警戒のまま来てもらわねば困る」


「そうだな」


平然と会話をしているように見える由布月と伊佐木だが、由布月にしても伊佐木にしても1万もの魔物の群れを前にすれば緊張もするし恐怖もする。


これが普通の魔物の群れであるならば、少しでも早く脅威を取り除くために今の段階で教導大隊に出動を願っていただろう。


(だが、今は駄目だ)


平然とした態度を崩さないまま、内心で歯噛みする伊佐木。


今の彼には部下を失う恐怖や自らが死ぬ恐怖を抑えてでも、教導大隊を、もっと言えば川上啓太を隠さなければならない理由がある。


「魔族、どれだけいると思う?」


「……一人ではないだろうな」


由布月の問いが全てである。


魔物を率いる存在、即ち魔族の存在が確実視されている今、切り札を早々に切るわけにはいかないのだ。


魔族が警戒して慎重策を取るかもしれない。

逆に、全部隊を一気に突撃させてくるかもしれない。


どちらにせよ第四師団が大打撃を受けることになるだろう。


もちろん観測するだけに留める可能性もあるが。それは期待薄。

というか、己の願望を基に戦術を練るなど指揮官としてはあってはならない怠慢である。


(だからこそ、だ)


「敵がなにを目論もうと、なにもできない状況にする。すべてはそれからだ」


一気呵成に突撃させようにも、前衛である中型の魔物の大半が傷付いていればこちらが被る被害は極めて小さく済む。


砲撃で削る方針にしようとも、その主力となる大型が居なくなればさしたる脅威ではない。


結局のところは教導大隊と砲戦仕様が計画通りに大型の魔物を葬ることができるか否かなのだ。


彼らが予定通りの成果を挙げることができれば、第四師団の砲撃部隊は前線に集中できるし生き残った部隊による援護射撃も可能となる。


できなければ、教導大隊や砲戦仕様に被害が出るだけでなく、自分たち第四師団も大打撃を受ける。

それだけの話だ。


(最悪の場合は基地ごと自爆することになるが、そこまでのことにはならんだろう)


傍から見れば賭けの要素が強いように見えるが、そもそも賭けの要素が存在しない戦争など存在しない。


その中で、できる限り100パーセント勝てる状況に近づけるのが、指揮官である伊佐木の仕事である。


翻って今回の勝算はどれほどかと言うと、伊佐木は7割以上は勝てると踏んでいた。


というか、だ。


本人は謙遜しているのだろうが、啓太の実績を鑑みれば、敵に大型の魔物が6体いようとも然したる脅威ではない。


そこに教導大隊と砲戦仕様が加わるのだから猶更だ。


よって現在伊佐木が抱えている不安要素は、大型の魔物に関してではない。その大型の魔物すらを操る存在、即ち魔族の去就のみ。


そう。伊佐木らが想定していた最悪の状況は『魔族が最前線に現れて暴れる』というものだったのだ。


だが、幸いなことに現時点でそのような存在は確認されていない。


「油断か、慢心か、それ以外かは知らん。知る気もない」


ただ、出てこないのであればそのまま出てくるな。

どうしようもない状況になるまで出てくるな。


胃にキリキリとした傷みを感じ、それに耐えること数分。


司令部に一つの通信が入ったことにより、伊佐木は、この戦場における己の願いが一つ叶えられたことを知る。


『目標のポイント到達確認。これより狩りを開始します』


「……あぁ。存分にやりたまえ」


ベトナムの地にて、英雄による狩りが始まる。


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