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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
4章 ベトナム遠征
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6話。動かない機体

ACの新作が出ると発表されたので初投稿です

コマンドシステム。


それは今や量産型や試作三号機のような混合型と呼称される機体を動かす為に必須と認識されるシステムである。


ただ実際に混合型を設計・製造した最上重工業は意図して機体にこのシステムを組み込んだことはないし、それを絶対必要なシステムだと説明したこともない。


あくまで現状唯一機体を自在に操作できる機士である川上啓太が『自分はこんな感じで動かしている』と口述したことや、八房型の機士が砲撃を行う際に似たようなことをしていること、さらには機士として機体を操作したことがない大多数の軍人にとって既存の機士たちがいうような操作方法の説明、即ち『神経を繋げる感じで~』とか『手足の延長だと思って~』などと言ったものよりも『このボタンを押したらこう動く』と言われた方が理解しやすかったがために関係者各位に常識として刷り込まれてしまっただけであって、本来であれば混合型はコマンドシステムを使わなくても操縦できるよう設計されている。


少なくとも最上重工業はそう言っている。


しかしながら現在、その公式見解を信じている人間は限りなく少ない。


何故製造元の公式発表が疑われているのか? 


それは製造元である最上重工業自身も混合型の十分なテストができていないことや、軍が製造した量産型の中でコマンドシステムを使用せずに操作に成功した例がない(例外は第二次大攻勢に於ける柿崎中尉だけなのだが、その柿崎中尉が機体ごと消滅してしまったため、現在のところ『柿崎中尉がコマンドシステムを使わずに動かした』という明確な証拠がない)からだ。


さらに、現在量産型に乗って慣熟訓練を行っている機士たちの中に、従来の方法で動かそうとしても機体を操作できる人材が未だ存在していないのも最上重工業による公式発表を疑わせる要因の一つである。


よって、川上啓太という成功例があることや、従来のやり方ではうんともすんとも言わない機体が、コマンドシステムを使えば――ぎこちないながらも――砲撃や跳躍などといった挙動を見せることが証明されていることから、関係者が『混合型を動かす為にはコマンドシステムが必要』と判断するのは当然のことであった。


このような事情も相まって、今や混合型を動かすのに必要なことは『命が掛かった状況でも冷静になって必要なボタンを認識し押すことができる精神性』とまで言われていたりする。


「普通の機械ならそうだ。アイツが言うことはなにも間違っちゃいねぇ」


最上重工業の社長である隆文も、一人の技師としてその意見に異論を唱えるつもりはない。


啓太が車で例えたように、アクセルを踏んだら進んで、ブレーキを踏んだら止まる。

前後はギアで決まるし、インド人を右に……もといハンドルを右にきれば右に曲がる。

それが正しい機械というものだ。


それらの行動を冷静に行うことが車の操作に重要だということも否定するつもりはない。


「だがな。それだけじゃねえんだよ。機体ってのはな」


先に挙げた車の例で言えば、確かに車はアクセルとブレーキ、そしてハンドルで操作するものだ。

だが一流と呼ばれるドライバーはそれだけではない。

彼らは車を上手に回すのに必要なのは『腰』だと言う。

機体で言えば体の延長として認識することだろうか。


「アクセルやブレーキ以外にも重要なモノがあるんだよ」


事実唯一の成功例とされている啓太とて、跳躍中の体勢や着地の際に必要とされる細かい制動など、無意識に行っているところは多々あるのだ。


隆文はその無意識の部分こそ機体を動かすのに必要な『腰』だと考えている。


「啓太の野郎が御影型を十全に使えるのは『腰』を使えているからだろう。だがそれを他人に教えるのは……難しいだろうな」


なにせ天才が無意識で行っていることなのだ。


故に啓太に対して『どうやって機体の操作をしているのか?』と問うことは、魚に『どうやって水中で呼吸をしているのか?』と問うのと同じことと言える。


もし魚に質問を認識し答える能力があるのであれば、魚は「エラで呼吸すればいい」と答えるだろう。

啓太がいう『ボタンで動かせばいい』とはそれに近い。


「やりすぎた、か?」


隆文には技術者として自分がハンドルもアクセルもブレーキもギアも入念に造り込んでいるという自負がある。


だが同時に『入念に造り込んだが故に『腰』の比重が高くなりすぎてしまい、まともに『腰』を使えない機士には動かせない機体になってしまったのではないか?』という疑念があった。


こんなことは本来一号機の性能実験で確認するべきことなのだが、いかんせん一号機のテストパイロットに選ばれた少年が規格外に過ぎた。


「あの野郎はその辺ぶっ飛ばしちまったからなぁ」


もちろん隆文も『自分たちが作った最強の機体』が大型やら魔族に――実際に魔族と戦ったのは余所が製造した量産型だが――通用することが実証されたことは嬉しいし、それを成してくれた啓太に対して「よくやってくれた!」と感謝する思いはある。


感謝の気持ちはあるのだが、同時に本来段階を踏んで行うべき作業を大量にすっ飛ばされたせいで、試作一号機から吸い上げているデータの大半が次作以降にフィードバックすることができていないという現状に対して文句を言いたい気持ちもあった。


「しかしそれもこれも今となっては過去の事」


微笑み、というには些か以上に邪悪な笑みを浮かべる隆文。その視線の先には、今まさに彼らが手掛けた試作三号機のコクピットに乗り込もうとしている少女の背中があった。


―――


「目標をセンターに入れなくて良いからスイッチ」

「目標をセンターに入れなくて良いからスイッチ」

「目標をセンターに入れなくて良いからスイッチ」

「目標を……」


冬休みを数日後に控えたある日のこと。


今日も今日とてシミュレーターの中で某神話になった少年のような口ぶりでひたすら射撃を行っているのはもちろん俺……ではなく、試作三号機の慣熟訓練兼性能試験を行っている五十谷さんである。


目標をセンターに入れなくて良いというのは、軍が量産型に求めている最低ラインとして『射撃を行えるようになること』を求めているからだ。


攻撃は最大の防御という言葉も有るように、数を揃えて撃ちまくれば大型の魔物だって一定数削れることは実証済みなのだ。故に最低でも攻撃ができれば良いという軍の判断はなんら間違ったものではない。


とは言え、誰だって反撃で死ぬのは御免だろうから理想は当然『撃った後に即移動して再度射撃を行えるようになること』となる。


五十谷さんもそこを目指しているものの、彼女とてそういうのは一朝一夕でできるものでもないと割り切っているので、ここ数日射撃訓練だけを行わされていることに不満はない……はず。


目が死んでいるのは単純に代わり映えしないトレーニングがキツいからだろう。

実際アレは心にクるからな。そうに違いない。そう思いたい。


なんとも曖昧な表現になるのは、彼女の目の前に文字通り一朝一夕で機体を動かせるようになった例があるからだ。


まぁ俺のことなんだが。


だがしかし、自分で言うのもなんだが俺は文字通りの例外である。

一緒にしてはいけない。


それは才能とかそういうのではなく、純然たる事実として、だ。何処の世界に『例の企業が作ったとあるゲームに魂を焼かれた前世の記憶を保持している子供』がいるというのか。


それも血の病に罹っていたり、薪場の王と戦っていたり、忍殺したり、褪せていたりするのではなく、オオヤマネコ――もしくはカラス――としての技術を宿して(覚えて)いる人間など、前世でさえ見つけるのは難しいと思われる。


故に俺は例にはならない。よって俺にできるのは後方師匠面してアドバイスっぽいことを言ったり、シミュレーターの相手になったり、愚痴を聞くことくらいしかできない。


大隊長としてそれでいいのか? と思わなくもないが、今のところはこれでいいらしい。


「お嬢さん方はまだ学生だからな。学校を卒業するまでにできれば良いって感じだろうよ」


「そんなもんですか?」


「そんなもんだ。何しろ俺たち以外にもいろいろと試行している面子はいるからな。軍としてはその中のどれか一つでも当たればそれでいいのさ」


現段階でさえしっかりと射撃ができていることからもわかるように、混合型は某汎用人型決戦兵器と違って起動確率が0.000000001%などというような、起動するだけで奇跡と言われるような理不尽な機械ではない。


さらに、これから少なくとも2年の間は試行できるのだから、時間的な余裕もある。


そもそもの話だが、俺らが所属する教導大隊の目的は『学生のうちに混合型を動かせるようになれる生徒を育てること』ではない。軍学校の生徒が2~3年で混合型を動かせる人材になれるようなカリキュラムを作ることである。


故に、このまま手探りで行っている訓練を継続し、卒業までに操作ができるようになれればそれでよし。そのやり方で操作ができないままであれば、別のやり方を探すだけの話でしかないのだろう。


「なるほど」


そう考えれば今の段階で焦りを覚える必要はないという最上さんの意見も理解できる。


「本音を言えば、俺らとしてもああやってチマチマとしてくれた方が色んなデータが取れていいしな」


「それ、本人に言ったら殴られますよ」


初期のデータを取りたいって気持ちはわかる。最上さんたち技術者からすれば悪い意味ではないのだろう。だが、本人からすれば悪口以外のなにものでもないからな。


整備士と機士の間にある機微に関してはさて置くとして。


「他の人たちはどんな感じですか? 特に量産型を使っているボ……中佐と田口さんは色々大変だと思うんですけど」


「あぁ。向こうの連中か」


俺たちがこの規模で教導()()という括りで纏められているのは、指揮官が中佐で、副官が大尉であること。来年以降も増員を考えられていること、構成員に複数の師団が絡んでいることや、扱う機体の関係上複数の企業から出向してきた整備班が存在することなど、特殊な事情が多々あるからだ。


この中で、特に問題になりがちなのが整備士たちの所属が違うことだろう。このせいで、俺たちは相互の情報を完全に掴めずにいた。


もちろんメインパイロットである俺たちは、同じ大隊の仲間である以前にクラスメイトなので機士としての情報交換はそれなりに行っている。


だが量産型の整備班と最上さんたちの間には元が競争相手であることから『企業秘密』という大きくて分厚い壁があるため、機械的な技術の話は共有できていなかったりする。


そのせいかどうかは知らないが、今のところボスも田口さんも射撃訓練すら満足に行えていない状況なんだとか。


理由としては、やはり下半身を満足に動かせないことが挙げられるらしい。


なにせ射撃を行うのはボタンを押すだけでいいがその後、つまり反動を抑えたり体勢を整えたりするためには下半身で踏ん張る必要があるからな。


よって上半身と下半身を上手く連動できていないと、まともな射撃はできないのだ。


伊達に軍が『射撃ができること』を最低ラインとしているわけではないということだな。


ちなみに五十谷さんが現時点でボスさえできていない『射撃』を行えているのは、自分の意志で下半身を動かすことを完全に放棄しているからである。


具体的に言えば、接続を上半身のみに集中させると同時に、本来機士が行っている細かい制動やなにやらの調整をオートで行っているのだ。


もし軍関係者がこのやり方を知っていたら『それができるなら最初からやれ!』とか『やり方を教えろ!』とか騒ぐかもしれないが、これは大型の素材をふんだんに使っているが故に関節部分などの頑丈さや柔軟性が増している試作三号機だからこそできる荒業であり、主に中型の素材で造られている量産型ではできないやりかたなので参考にはならないことを明言しておく。


尤も、機体の制動に使用されているデータ自体は俺が量産型を使った際に得たデータを使っているので全く互換性がないというわけではないのだが、データを持っている最上さんは向こうに情報を渡す気がないようだ。


仲間内で情報を隠すのはあまりいいこととは思えないのだが、まさかタダで――それも頼まれてもいないのに――情報を提供してほしいとは言えないし、なにより向こうには向こうで意地が有るようなので今のところ口を挟むつもりはない。


ボスも「冬が明けるまでは各々のやり方を試そうか」と言っていたし、田口さんたちもそれに納得していたからな。


なので、俺らには互いの進捗状況に拘りはないのだが、どうやら向こうの技術者たちは違うようで。


「連中、なんでも第一師団の遠征に同行するよう働きかけているようだな」


「はい?」


射撃もできないのに遠征に参加とはこれ如何に。


「それって同行するのは中佐と田口さんだけ……ですよね?」


俺は首都の防衛があるから遠征に参加できない。はず。


そう思いたかったが、現実は非情である。


「国内に残っている連中はそうしたいようだが、まぁ無理だろう。お前さんも一緒だ」


「ですよねー」


うん、知ってた。一応同じ大隊だからな。勝手に分隊を作られても困るだろうし。


「北の連中は冬篭りで動かねぇ。つまり今はお前さんを国外に出せる数少ない機会ってわけだ。お前さんは首都防衛の要だが、冬休みの間くらいならなんとでもなるって考えみてぇだな」


「なるほど。無理をするならいざという時の保険が利くときにってことですか?」


「そうだ」


保険、つまり俺ですね。わかりますん。


「連中にしてみたら第一師団の上層部との繋ぎが作れるうえに、上手くいけば中型の魔物を倒して成長や最適化ができるし、なによりお前さんが戦闘しているところも見れる。第一師団の連中はお前さんっていう護衛が同行することになる。傍から見れば良いことずくめだな」


「あぁ」


やんごとなき御方に叱責されて前線に行くことになったとはいえ、第一師団の上層部がお偉いさんであることにかわりはないからな。企業から出向してきてる連中が繋ぎを作ろうとする気持ちはわからんでもない。


俺や最上さんに得があるようには思えないけどな。


気分は道化……いや、パンダか。


「断るのは?」


「それ相応の理由がねぇと難しいだろう」


「ですよねー」


教導大隊の任務と考えれば実地訓練は有効だもんな。


なにより俺とボスは第一師団の所属だ。

正式な命令が出たら逆らうことはできない。


期待するとしたら、そもそもの叱責を受けた原因である俺を嫌った第一師団上層部の連中が俺の同行を断る可能性だが……。


「昨日の時点で根回しは終わっているはずだ。今頃お前さんの担任に意見具申でもしてるんじゃねぇか?」


「そっすか」


感情よりも護衛を付けることを優先したのだろうか? 

お偉いさんの考えることはわからん。


ボスから何も言われなかったのは、量産型にかかりきりでその動きを掴めなかったからだろう。


うん。現在進行形でその話を持ち掛けられているであろうボスが頭を抱えている様が見えた気がするが、きっと気のせいだ。そうに違いない。


「目標をセンターに入れなくても良いからスイッチ……」


遠征に参加して実際に魔物と戦うのと、ここで死んだ目をしながら黙々とスイッチを押し続けるのとどっちがマシなのか。


「まぁ、なるようになる、か」


なんか色々面倒になった俺はここで考えることを止めるとともに、未来のことは未来の自分に任せることにしたのであった。


もちろん作者はフ〇ムの関係者では有りませんし、広報を頼まれたわけでもありません。単純に体が投稿を求めたから投稿しただけの野良作者です。


というか……あれ? 

新作が出るのであれば、ただでさえ書籍化のお話が来ていないというのに、今以上に権利のあれこれが厳しくなってさらに書籍化のお誘いが遠のいてしまうのでは? 作者は訝しんだ。


閲覧ありがとうございます。

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