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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
3章・文化祭
69/111

18話。文化祭11

「「……」」


「で、相手が近接攻撃しかしてこなかったのはなんでだと思う?」


「ん~。あの魔族が近接攻撃が得意というのもあると思いますけどぉ」


「けど?」


「やっぱり川上さんが一度も近接攻撃を仕掛けなかったからじゃないですかねぇ」


「なるほど」


躊躇なく()()()()()()()()啓太の戦闘を見て唖然としている夏希と茉理をよそに、最初から『アイツ(あの人)ならそれくらいやるでしょう(やりますよね)』と考えていた翔子と那奈は自分たちが見た情報の擦り合わせを行っていた。


「近接攻撃が苦手な敵に対して近接攻撃が得意な者が距離を詰めようとするのは当たり前ですからねぇ。それに距離を置けば置くほど機動力の差が出ますから~」


「機動力と回避能力に優れた相手に距離を取られたら攻撃を当てるのが難しくなる、か」


「です。そして向こうが来る場所がわかっているなら、そこに罠を仕掛けるのも当然ですよねぇ」


「そうね。アイツは『狩り』って言っていたけど、狩りなら当然罠くらい仕掛けるわよね」


「でしょうねぇ。その罠が焼夷榴弾そのものっていうのは驚きましたけどぉ」


「離れていれば無効化される。でもそれは逆に言えば離れなければ無効化されないということ」


「そうみたいでしたねぇ」


「さらに、無効化するために魔力みたいなのを纏う必要がある。でもそれをするためには少しではあるけれど溜めの時間が必要。だからその溜めの時間中に横なり後ろに回って40mmで射撃、か」


「射撃を行いながら動き回れる量産型だからこその戦術ですよねぇ」


「そうね。少なくとも改良も何もしていない草薙型では不可能。当然それを想定していなかった敵さんも焦ったでしょうね」


「そうですねぇ」


「さらに悪質なのが、この射撃に至る前の段階。アイツはこの時点で罠を仕掛けていた」


「悪質というかぁ、悪辣というかぁ」


啓太は魔族に40mmを防がせることで、魔族に対して『40mmは防げばダメージを受けない』という刷り込みを行いつつ、自分は『魔族が操る鬼体であっても40mmは防がなければダメージを受ける』という情報を得ていた。


「勝てばいい。いえ、勝たなければならない戦いなんだもの。あれくらいは当然でしょ」


「否定はしませんけどねぇ」


相手は同級生でもなければ先輩でも、ましてや後輩でもない。魔族だ。しかもこちらが侵入された側である。で、ある以上手段を選ぶのは間違っている。


さすがに『何をしてもいい』とまでは言わないが、大抵のことは許されて然るべきであろう。


「周囲を飛び回る際もね。アイツはただ跳び回っていたわけじゃない」


「はい。横にジャンプしたかと思ったら急に止まったり、逆に加速したりしていましたよぉ」


「ワイヤーアンカーを使った緩急。ああしてみると厄介極まりないわね」


ただでさえ熱に対処するため動きを封じられていたところに、全方向から銃撃を受けるのだ。それも破れかぶれの攻撃や、着地点を予想して放たれた魔力弾も緩急を付けられることで回避されてしまう。


これだけでも魔族からすれば堪ったものではなかっただろう。


もちろん魔族とて時間があれば適切に対処することもできたはずだ。だがこの一連の行動は、啓太がスイッチを切り替えてから僅か数秒で発生したもの。


これでは如何に魔族がやり手であっても完全に対処することは不可能に近い。


まして啓太はこの時点まで色々な意味で加減をしていたのだ。

その加減を取っ払った際の動きは、加減をしていた時と比べて正しく雲泥の差と言っていい程の差があった。モニター越しに見ていた翔子や那奈から見ても圧倒的としか言いようがない。


対峙していた魔族からすれば、いきなり機動力や射撃性能が増したようにしか見えなかったはずだ。そんな状況でまともな行動がとれるはずがない。


「で、切れ散らかして最後の必殺技みたいなのを使おうとしたところをズドン、と」


「何をしようとしたのかは知りませんけど、わざわざ切り札を使わせる必要はありませんからねぇ」


「そうね。情報を得るという点であれば無意味ではないけど、そのせいで自分が死んだり、来賓やら民間人が巻き添えを喰らったら意味がないもの。あの場はあぁするのが正解よ」


わざわざ敵の覚醒やら変身を待つのはバカのすること。浪漫もへったくれもないが、魔族との戦闘にそんなものを求める方がどうかしている。


――ちなみにこの啓太の行動に対して、一騎討ちを推奨していた第一師団の上層部の一部からは『なぜ騙し討ちのような真似をしたのか!』という怒りの声が上がったらしい。だが、それには一騎討ちに価値を見出していなかった浅香や浅香と同じ気持ちを抱いていた少数の将官が『何をするかわからない相手に切り札を使わせてどうする。浪漫や作法よりも来賓と民間人を護ることを優先するのは当然だ』と、翔子と同じようなことを言って鎮めていたりする――


第一師団の上層部に、翔子曰く『どうかしている連中』が意外と多いことはさておくとして。


「……アイツは最後まで近接戦闘をしなかったわね」


「えぇ」


「何でだと思う?」


「おそらく翔子さんと同じ考えかと」


「……偵察、よね」


「それ以外にはありえないかと」


「やっぱりか」


魔族がクラスメイトにしてライバルである武藤沙織と藤田一成の戦いに乱入してきたときは、魔族の目的やらなにやらがわからなくてさしもの翔子も混乱していたが、こうして落ち着いて考えてみれば一つの答えが脳裏に浮かぶ。


それは関係者席で啓太と静香が行っていた考察とほぼ同じもの。


「この日、この場所にしかないものなんて一つ、否、正確には二つしかない」


「そうですね。私にもその二つしか思い浮かびません」


「魔族の目的は英雄と謳われる川上啓太と、その英雄が操る――エキシビションでお披露目される予定だった――新型機(量産型)


「ですね」


「そしてわざわざ魔族が姿を現したということは……」


「魔族と川上さんの戦闘を観察している魔族がいる。少なくとも川上さんはそう判断したのでしょう」


「そうなるわね。だからアイツは魔族が本気になる直前まで力を隠していたし、近接戦闘もしなかったってことかしら」


「そうなります。力を隠すのは当然ですし、観察していたであろう魔族が『量産型は近接戦闘ができない』と思ってくれれば、その情報そのものが策となりますから」


「悪くはないわね。でもさぁ」


「はい?」


「情報を隠すなら、最初から全部隠しておけばよかったと思わない?」


「と、言いますと?」


「そもそもの話なんだけど。アイツが魔族と一騎討ちする必要ってあったの?」


「あぁ……」


翔子とて啓太が色々考えて戦闘を行っていたのは理解している。だが情報を隠すという意味であれば啓太が出なければいいだけの話ではないかとも思っていた。


事実、啓太が出るまでに警備を担当している兵士が魔族を囲んでいたし、あの場にいなかった兵士も離れたところで狙撃の準備をしていたのだ。さらに静香を始めとした教師陣も囲んで討伐しようとしていたので、翔子の考えは決しておかしなものではない。


「魔族の狙いがアイツだったっていうのはわかっていたはずよね?」


「そうですね。呼んでいましたし」


さらに疑問なのは、魔族の狙いに気付いていながら、啓太がそれに応じたことだ。


「まさか勝手に出たわけじゃないでしょうし」


「あの人はそんな殊勝な性格をしていませんよ」


「そうよね。だとするなら久我少佐が出した?」


「承諾はしたと思いますよ。でもあの人も『一騎討ち』なんて馬鹿げたことを推奨する人ではないと思います」


「同感。そうなると少佐より上の指示、か」


「そうなりますね」


「何でだと思う?」


「さて……」


わざわざ『英雄』を名指ししてきたことから、魔族の狙いが啓太だったのは間違いない。

それについては翔子も那奈も理解できるし、疑ってもいない。


何故なら、学生の身分でありながらすでに英雄と呼ばれるに足るだけの確固たる実績を上げている啓太に対して、敵である魔族が興味を抱くのは至極当然のことなのだから。


問題はその魔族に対して、教師陣、否、第一師団の上層部が啓太を向かわせた理由がわからないことだ。


基本的に軍とは敵のいやがることを率先して行い、勝利することを旨とする組織である。


故に敵の目的がわかっているのであれば、それを隠すのが正しい行為と言えるはず。

加えてここはそれを生徒に教えることを目的として造られた軍学校。

なればこそ、敵の狙いがわかった時点で周囲を囲んでいた兵士たちが『さようなら。死ね』と一斉攻撃をしかけるのが正しい判断となる。


万が一、一騎討ちに応じるにしても『貴様ごときに英雄が出るまでもない』とでも言って教師や腕自慢の兵士が出張るのが普通だ。そうやって事前に少しでも情報を得ようとするのが軍という組織であるはず。


だというのに。


「『先に挑んだ兵士さんが負けた!』とかならまだしも、初手でアイツを出すのはおかしいでしょ? それも性能の把握が終わっていない量産型で、しかも近接戦闘がメインのアリーナで出すのは違うと思うんだけど……」


「カタログスペックだけ理解していたところでどうしようもありませんからね」


「ほんとそれ」


そう。これまでで一番量産型を上手く使えたのが、二度跳んで合計3体の大型を仕留めることに成功した柿崎中尉ということでもわかるように、実のところ軍は現時点で量産型の性能を把握しきれているとは言えない状況であった。


一応、前回の大攻勢に於いて大型を討伐することに成功しているので火力は証明されているものの、それ以外は全くと言うほど研究が進んでいないこと――前回生き延びた2体の量産型が進化という名の退化をしていることも含めて――は、関係者の中では公然の秘密となっている。


故に今の量産型に与えられている評価とは『まともに動かせるかどうかさえ不明な機体』というものなのだ。


「だからこそエキシビションでどこまで動けるかを見るはずだったんですけど」


「その前にコレだもんね」


「えぇ。量産型から試作機に乗り換えをしなかったのは……まぁ単純に時間がなかったからだとしても、やっぱり川上さんを出す理由がわからないですね」


軍事上の常識として、敵に名指しされた――つまり敵の目的だと判明している――上に、今や決戦兵器と同様の存在と見做されている啓太は温存するのが正しい。まして準備されているのが『使えるかどうかさえ不明な量産型』なのだ。猶更魔族の前に出すべきではない。


また、人道上の理由でも、中尉とは言え学生でしかない啓太は庇護対象であるはず。


そんな色んな意味で護らなければならないはずの啓太を、勝てるかどうかわからない戦いに、それも一騎討ちなどという最悪なら一合目で死ぬような戦闘に出す意図とはなんなのか。


「「うーん」」


物心がついたときから軍人として鍛えられた上に、他家に嫁ぐことも考えて一般教養もそれなりに身に着けている二人は、まさか第二師団と並んで最精鋭部隊と名高い第一師団の上層部が、浪漫だの保身の為に一騎討ちに出るよう命じたなどという、静香曰く『耄碌した』考えに至ることはできず、僅かな時間ではあるものの「上層部は何を考えてあのような行動を取ったのだろう?」と、首を捻ることになるのであった。



閲覧ありがとうございました


そろそろ文化祭も終了……か?

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