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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
3章・文化祭
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15話。文化祭8

『そろそろ終わりか? 英雄さんよぉ』


(なにを偉そうに)


わざわざ周囲に――正確には自分に――聞こえるように殊更大きな声で敵を煽るアルバを見て、彼と共にこの場に来ていた女性魔族のルフィナは内心で溜息を吐いていた。


確かに興味もない子供のお遊戯を見続けるのはキツイ。八百長丸出しの戦いもそうだが、子供が銃と剣を構えて睨みあっている様子だって見ていて面白いものではないというのも理解できる。


(だからってどうして乱入するのよ!)


啓太と静香が予想したように、アルバはルフィナによって日本が誇る新型と英雄の存在を値踏みするために連れてこられただけの捨て駒に過ぎない。


当然彼女にとってアルバは『死んでも構わない存在』である。


故にルフィナは、目的を果たした後であればアルバが一騎討ちで負けようが多数によってタコ殴りにされようが文句を言うつもりはなかった。


むしろ「雑魚は雑魚なりに頑張ったわねぇ」と褒めていたかもしれない。


それもこれも目的を果たした後であれば、の話だが。


これもまた啓太の予想通りなのだが、アルバが姿を現すのはここではなかった。


当初の予定ではエキシビションマッチの後、つまり噂の新型に乗った噂の英雄さまが他の学生たちと戦闘を行い、十分以上に性能を調査した後でアルバが登場。学生相手の『遊び』ではなく魔族相手の『戦闘』でどこまでやれるのかを確かめる予定であった。


(それがコレ、か。堪え性がないのが魔族の短所よね。まぁ仕方ないと言えば仕方のないことなんだけど)


元になった人間の素養も関係するが、基本的に魔族となった者は人間を辞めたせいか色々とタガが外れており、様々な意味で傲慢になる傾向が強い。


ある意味で本能に忠実になると言い換えてもいいかもしれないが、結果として忍耐力のようなモノをどこかに置き忘れた、我慢が効かない猪のようになってしまう者も少なくない。というかほとんどがそうだ。


よってアルバが特別酷いというわけではないのだが、それでも侯爵であるルフィナからすればアルバの行動は軽率に過ぎると言わざるを得ない。


(だって、ねぇ。なぜか向こうが出てきたから良いものの、普通なら全方位からのタコ殴りだからね)


元々の予定であった【広域戦場】を模した演習場であれば逃走経路も確保できたかもしれないというのに、この狭いアリーナで戦うなど正気の沙汰ではない。


(これからどうするつもりなのやら……)


ルフィナにはアルバが一体どうやって生き延びるつもりなのか想像もつかなかった。


もしかしたら『いざというときはルフィナが助けてくれる』と考えているのかもしれないが、そもそもルフィナにとって彼など本当の意味でどうなってもいい存在である。


ただでさえそうなのに、今のアルバはなにを勘違いしたのか絶対権力者である自分の命令に違反し、勝手に戦闘を行うような阿呆だ。これで助ける気になれという方が難しい。


(ただまぁ、予想以上の成果は上げているのよね)


元々見たかった新型の性能調査という点だけに限れば、現在進行形で、それも予想よりもずっと近い距離で確認できる今の状況は決して悪いものではない。


そういう意味では、アルバの暴走はルフィナにとって確かにプラスに働いていた。


(結果論だけど、それは認めるわ)


新型の見た目に始まり、下半身を活かした機動力。各武装の存在とそれぞれの攻撃力。搭乗者の回避能力や空間把握能力も確認できている。最初の調査としては十分すぎると言えなくもない。


『そろそろ終わりか? これ以上の引き出しがねぇってんならこっちから行くぞ!』


『……』


我慢が効かずに飛び出したとはいえ、アルバも当初の目的を忘れていないようだ。

ことあるごとに挑発してしっかりと相手の引き出しを確認しようとしているのも悪くはない。


悪くはないのだが……。


(問題は本当に見たい性能が見れていないってことなのよね)


大陸に8人しかいないとされる上級貴族のルフィナがわざわざ日本に来てまで確認したかったのは、なにも新型の性能だけではない。ルフィナは『新型が全力で戦闘をした際、どれだけのことができるのか』という、所謂新型の性能限界が見たかったのだ。


(遠距離攻撃仕様の新型と近接距離で戦ったデータを見せられてもねぇ)


なるほど、確かに今回の件で確認できた新型の回避性能や機動力は予想を上回るモノだった。それを見れただけでも収穫と言える。だが肝心の『正確に運用した場合の脅威度』を測ることができていない。


『……』


『その主砲は当たらねぇって言ってんだよ!』


あぁ、そうだ。88mm徹甲弾は脅威だろう。あれなら当たり所が良ければ一撃で大型の魔物を討伐することもできるし、魔族が乗っているものだって魔族ごとぶち抜くことが可能だ。もちろん中型以下であればどこに当たっても致命傷となる。


(だけど、当たらなければ意味はない)


『……』


『機関銃で潰してぇならもっと威力を増すんだなぁ!』


40mm機関銃も、従来の通常型と違いああして移動しながら片手で振り回せるのであれば中型にとっては脅威そのもの。真正面からぶつかれば魔族が操っていても危ないかもしれない。


(だけど、防御すればそれで終わり)


『……』


『燃やすったってなぁ!』


熱と衝撃で相手を削る80mm焼夷榴弾による範囲攻撃も、本来なら凶悪な兵器だ。


(だけど、魔力を自在に展開できる魔族であれば、周囲に撒き散らされた熱を遮断することは別段難しいことではない。つまり直撃しなければどうとでもなる)


『おらッ!』


『……』


近接戦闘に関してはどう見てもアルバの方が上。別にアルバが魔族の中で特に近接戦闘が得意というわけでもないのだから、近接戦闘を恐れる必要はない。


(もしかしたら新型を操っている英雄さんが近接戦闘が苦手というケースかもしれないけど……いえ、それなら強化外骨格で市街戦なんてしないわよね。なら、そもそもあの機体が近距離戦闘向けではないということよね)


ここだけ見れば『あの新型は魔族にとっては脅威足りえない』という結論に落ち着く。


(そう、ここだけ見れば、ね)


これまで挙げた前提条件は、その全てが『すべての攻撃を行う対象が見えること』を前提としている。


相手が目の前にいるからこそ、どんな攻撃を行おうとしているか見える。

見えるから対処できる。

また、相手は常に距離を保つ必要があるため、どうしても射撃に集中できない。


そういった諸々の不利を押し付けているのが現状だ。


それがない状態。つまり遠距離からこちらが気付いていないうちに狙撃されればこちらが死ぬ。

偶然相手の攻撃に気付いて初撃を回避することができたとしても、機動力に差があるため距離を詰めることができない。


そのため相手は今以上に距離を保ちつつ繰り返し狙撃を行うだけでアルバを完封できるだろう。


(もちろんそれだけで完封されるほど魔族は甘くない。でも相当苦戦することになるでしょうね)


その気になれば大型並みの遠距離攻撃を放つことも可能なので、一方的に嬲られるということはないだろうが、それでもかなり苦戦するのは間違いない。


ルフィナはそういう意味で全力を出した新型の性能が見たかったのだ。


新型の性能と生産性を確認すれば、今後どれだけの魔物を送り込めば日本に対して相応の圧力をかけることに繋がるのかを確認することができるからだ。


(そのためにわざわざ日本まで来たっていうのに、あの阿呆は……ッ!)


最低限の仕事はこなしているものの、命令に従わなかったことに違いはない。


『ハハッ! 甘めぇ甘めぇ!』


40mmによる射撃を回避しながら間合いを詰めて攻撃。


『ッ!』


『おぉ? そんなこともできんのか! だが残念だったなぁ!』


アルバの攻撃を横っ飛びで回避すると同時に焼夷榴弾を放ち、それが避けられる寸前に40mmを放って榴弾を爆発させる新型。


紙一重の回避をしていたのであればダメージは免れないところであったが、そこはアルバもさるもの。


新型を操る英雄がなんの考えもなしに榴弾を撃つわけがないと確信をしていたのか、アルバは新型の手元に40mm機関銃が握られていたことを確認すると同時にバク転で距離を取り、一歩間違えば少なくないダメージを負っていたであろう爆風を魔力で散らす。


(へぇ。両手で異なる武器を使えるのか。器用ね。今の今までそれを隠していたのはアルバの油断を誘うためかしら? でも残念。脳筋は本能に忠実だからこそ危機察知能力も高いのよね)


思わぬ反撃をしてきた新型の器用さとこれまでそれを隠してきた用心深さに驚きつつ、それを回避したアルバを褒めながら貶すルフィナ。


『どっちの味方かわからない』と思われるかもしれないが、実はルフィナの心情的としては新型の味方である。


なにせルフィナの目的は新型と英雄の調査であって、殺害ではないのだから。


ルフィナからすれば、英雄の能力と新型の性能が高ければ高い程、前回の大攻勢で大損害を被った第二師団のフォローができるということに繋がるとさえ考えているくらいだ。


その戦力調査の結果を【王】に届けることで、今後の予定も立てられるだろう。それら一連の流れが上手くいって、初めて前回犯した己の失態の挽回となるのだ。


(暑いところに回されたくないのよ!)


彼女にとって重要なのはその一点のみ。しかしながら英雄と新型の見極めはすでに終わっている。


(遠距離のデータは無理だったけど、他は十分以上に取れた。あとは生産性と、あの機動が英雄だけに可能なのか、それとも他の面子でもできるのかってことかしら? っていうか、どうして日本の連中が援護にこないのかしら? 邪魔だから? 連携訓練が終わっていない? そもそもなんで一騎討ちなんかしているの? 英雄を殺したい、とか? ……ありそう。ニンゲンどもの狙いなんて知らないし知ろうとも思わないけど、いずれにせよこの場はもうお終いね)


最後の手段であろう奇襲攻撃を回避された英雄に勝ち目はない。


これからアルバに玩具にされて死んでしまう――援軍がきて助かるかもしれないが、間違いなくトラウマを負う程度には破壊される――であろう英雄に対しての興味を失ったルフィナは、その思考を『今後はどうやって新型の配備状況や練度を調査し、どれだけの戦力を送り込むようにすれば程よい感じが演出できるのか』に向けることにした。


これをルフィナの油断慢心と言うのは些か以上に酷であろう。


『ここまでやりゃ十分だろ! そろそろ終わらせてやるぜ!』


事実この時点では、これまで一方的に啓太が攻撃を仕掛けていると勘違いしていた観客や、モニター越しで見ていた面々も『啓太が一方的に仕掛けていたのではない。全ていなされていたのだ』と理解して啓太の負けを想起していたし、なにより啓太と向き合っているアルバが勝利を確信しているのだから。


「校長、これ以上はっ!」


「あぁ!」


啓太の敗北を確信した静香が部隊と共に介入しようとしたその時。

量産型に備え付けられていた内部マイクが啓太の呟きを拾った。


『なるほど。大体わかった』


「……なに?」

「む?」


アルバも、ルフィナも、静香たちも、クラスメイトたちも、観客席にいた人々も、もちろん無責任な命令を下した上層部の面々も、この戦いを見ていた誰もが啓太が【英雄】と持て囃される理由を知ることになる。


『そちらが終わらせるつもりなら丁度いい』


古来の心理学者曰く、深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている。


性能を確認していたのはルフィナやアルバだけではない。

啓太もまたアルバの性能を確認していたのである。


行動に及ぶ前の予備動作の有無。

踏み込みの速さ。

打撃を伸ばせる距離。

攻撃に対する反応速度。

回避は右か、左か、上か、下か。その割合。

防御をする際の癖。

奇襲に対してどう動くのか、等々。


それら各種性能の確認は終わった。


『ナニカに飲まれ、ニンゲンであることを失った元ニンゲンに見せてやろう』


故にこれから始まるのは戦闘ではない。


『……ニンゲンの狩りを知るがいい』

啓太くん、テンションが上がってナニカのスイッチが入ったもよう。



閲覧ありがとうございました。


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