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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
3章・文化祭
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10話。文化祭3

文化祭で行われる機士戦は、基本的に実機で行われるものの機士の負傷や機体の損耗を防ぐため、武装は刃引きされたものを、弾丸はペイント弾を使用することになっている。


また勝敗の決め方は相手を破壊することではなく、決められたポイントを先取することで決まる。

基本的にポイントは有効打撃を与える度に1ポイント貰える仕様だ。もちろん胴体部分や頭部に深刻な有効打が与えられた場合は、一度で規定ポイントに到達する場合もあるらしい。


まぁ、即死級の一撃を受けたらそれで終わりということだな。


で、今回の規定ポイントは5ポイント。


極端な話をすれば4回までは攻撃を受けても良いことになる。


尤も、暗黙の了解として攻撃を受けた部分は破損扱いとなるため、その戦闘で使用することは推奨されていない。というか、もしその暗黙の了解を破って勝利した場合、評価されるどころか評価を下げることになるので、普通の機士であれば攻撃を受けた箇所をパージして戦闘を継続するのが常となっているそうな。


ちなみに個人戦は最初にトーナメントの一回戦を全部終わらせてから武藤さんと藤田くんが戦うらしい。そうする理由は、他の参加者とのインターバルに差が出るのを防ぐため……というのは名目で、実際は試合ごとにレベルの差が生じるためらしい。


なんでも最初に主席と次席が戦うと後の試合が盛り上がらず、観客が白けてしまうんだとか。


そりゃ一番最初に一番レベルが高い試合をしたらその後の試合は白けるわな。そんなこんなで学年も1年から順番に行われることになっている。


そういう諸々の常識などを鑑みた上で、目の前で繰り広げられている戦いを見てみよう。


―――


「腕を上げたな辰巳!」


「くっ! 健次郎様との間に差があることは理解しておりましたが、まさかここまでとはっ!」


「貴様とて見事! なにせこの軍学校に入学して以来、誰よりも鍛え、そして誰よりも成長したこの俺にここまで食らいついてきたのだからな!」


「健次郎様こそ努力する天才、というわけですか! しかしこの笠原辰巳、そう簡単には負けませんぞ!」


「それでこそ我が従者よ! さぁ来い! 貴様の主の力を存分に理解させてやろう!」


「う、うぉぉぉぉぉぉぉ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


―――


な ん だ こ の 茶 番 は。


文化祭が開催されてしばし。1年の個人戦が始まったということでガレージから教職員が待機しているブースに入り、クラスメイトの試合を見学していたんだが……なんだろう、この圧倒的ニチアサ感は。


『はぁっ!』


『甘いですよ!』


現在大型ディスプレイに映し出されているのは、術理もなにもなく連続して大振りな攻撃を繰り出す小畑くんと、その際に生じている隙を突かず、敢えて正面から受け止めたり、ギリギリで回避することで苦戦を演出する笠原くんの姿だ。


この時点で対人経験が少ない俺が見ても実力は笠原くんの方が上なのはわかる。


と言っても、笠原くんの実力も高いわけではない。

おそらく草薙型に乗った俺と同じくらいだろう。


そんな笠原くんに届かない小畑くんのレベルは推して知るべし、と言ったところだろうか。


うん。前に五十谷さんが『彼が派閥の力を使ってAクラスに入ったせいで自分の友人がBクラスにされてしまった』とぼやいていたときは言い過ぎだと思ったものだが、五十谷さんや田口さんと模擬戦を経験した今ならわかる。


機士としての能力に限って言えば、小畑くんはAクラスの基準に届いていない。

いや、もしかしたら笠原君も微妙なのではなかろうか。


ま、それを決めるのは俺ではなく学校だからな。

ボスが何も言っていないのであれば俺がとやかくいうことでもあるまいて。


(第一、彼らがAクラスにいることで何らかの迷惑を被ったわけでもないし)


彼らの能力についてはさておいて。話を試合に戻そう。


現在両者のポイントは、小畑くんが笠原くんの右足と胴体部分に有効打を与えて2ポイントを、笠原くんが小畑くんの胴体部分に浅く斬り付けて1ポイントを取っている。


明らかなプロレス……と見せて小畑くんの方はあれが全力っぽいのが滑稽なところだろう。

さらに滑稽さを助長しているのが、戦闘中にも拘わらず彼らが行っている会話とその内容である。


『ふぅ。辰巳よ。ここまでよくぞ戦った。しかしこれ以上は次の試合に差し障る……そろそろ全力で行かせてもらうぞ!』


言葉だけならどこぞのAUOっぽいんだけどなぁ。


『もう勝ったおつもりか? 舐められたモノですな。 不肖笠原辰巳、健次郎様の全力を受け切って見せましょうぞ!』


いや、あのさぁ。そもそもなんで全力を受け止める必要があるの?


『よくぞ吠えた! では我が奥義を受けよ!』


『そ、その構えはまさか、牟呂口家の直系にのみ伝わる伝説のっ!』


伝説の、なんだよ。


『『うおぉぉぉぉぉぉぉ!』』


見た感じではただの上段からの振り下ろしにしか見えない攻撃を繰り出した小畑くんと、それを真っ向から受ける笠原くん。


いや、そりゃ崩しも残心もなにも考えずに全力で上段から振り下ろしたら威力は出るだろうけどさぁ。


『くっ! なんという威力だ! 機体がもたんとはっ!』


そりゃな。同じ重さの相手が全力で振りかぶって全力で振り下ろした一撃を真正面から受けたら持ちませんわな。さらに笠原くんは小畑くんの機体に衝撃が伝わらないよう、少しだけ力を緩めたし。


拮抗しているところで受けた側が力を緩めれば、当然押し切られた形となった笠原くんの機体に小畑くんの斬撃が届くことになるわけで……。


『ぐっ!』


【クリーンヒット。ポイント4】


『ははははは! 見たか! これがかの剣聖が編み出した伝説の剣技、一の太刀よ!』


それ、牟呂口家の直系だけに伝わる技じゃないよね? 

とりあえず小畑くん。君は塚原卜伝に謝るべきだと思う。


【状況終了。一回戦第二試合・勝者、小畑健次郎】


『……お見事です』


『貴様もな。誇れ、この俺に奥義を使わせたことを!』


あーうん。とりあえずあれだ。あんな隙だらけの一撃を奥義とか言える小畑くんの精神性が凄いことはわかった。


あとわかりやすい大技の連発で一般のお客さんが喜んでいるから興行としては成功しているよな。


どこからか『アレでは道化だよ』なんて声が聞こえてきた気もするが、なんのことかさっぱりだ。


俺からは「次に戦う綾瀬さんが真正面から受け止めてくれたらいいね」としか言えんよ。


兎にも角にも突っ込みどころ満載の第ニ試合はこうして幕を下ろしたんだが……。


「さて」


茶番を堪能させてもらったことで疑問に思ったことがある。それは『もしかしてこれが軍学校における個人戦の伝統なのだろうか?』という疑問だ。


もしそうだとしたら、個人戦が全部終わった後で行われるエキシビションマッチに於いて相当空気を読む必要があるんだが?


「「「「「……」」」」」


そう思って周囲に目を向けてみれば、俺以外の皆も声が出ない様子だった。


彼らの表情を見れば、あの戦い……戦い? は彼らにとっても不本意なものだということがわかる。


それはつまり俺も空気を読んで『牟呂口家に伝わる奥義』を受けなくて良いということだ。


(良かった。あの茶番に巻き込まれなくて本当に良かった)


本気で安堵の息を吐く俺は、隣でフルフルと震えている存在に気付いた。というかボスだ。


「あの」


「言うな」


「いや、でも」


「分かっている。分かっているんだ」


さすがに恥ずかしいのか顔を隠して呟くボス。


わかるぞ。だって周囲からの冷たい視線は、さっきまで互角の戦いを繰り広げていた両者と、その担任であるボスに向けられているからな。


これはアレだ。『こうなる前になんとかならなかったのか?』って視線だ。

ちなみに俺も全くの同意見である。


「実際問題アレってなんとかならなかったんですか?」


戦い方は、まぁ観客を楽しませるためと思えばまだ言い訳もできるだろうが、戦闘中の会話はどうかと思うぞ。それも笠原くんに至ってはずっとヨイショしているだけだし。


「……ならなかったんだ」


矯正しようとして失敗したのだろう。ボスはなにやら遠くへ目を向けている。その瞳が映すのは過去の自分か、はたまた現在の……ディスプレイの前で勝鬨の声を上げている小畑くんか。


「そっすか」


いずれにせよ深く関わっても良いことなんか無いと確信した俺は、さっさとこの問題から距離を置くことにしたのであった。


―――


「酷い、戦いだったな」


「そうですねぇ」


「流石にアレが今年のAクラスだと思われるのは困る」


「そうですねぇ」


「私には簡単に負けられない理由が有る。君もそうだろう?」


「そうですねぇ」


「……勝たせてもらうぞ」


「できるとお思いですかぁ?」


「できるかどうかではない。やるんだ」


「そうですかぁ。では、教えてあげましょう」


「何を?」


「現実ってやつを、ですよ」


「「……((絶対に勝つ!))」」


一回戦第三試合。

第六席・田口那奈対第七席・橋本夏希。


入試の結果に第三師団閥が介入したとはいえ、直前の戦いで関係者各位に無様を晒したクラスメイトの片割れよりも下位に叙せられた二人は、それぞれの名誉にかけて目の前の相手を叩き潰すことを決意したのであった。

クラスメイトにも脚光を……と思いつつ、なんか違うなぁと首を捻る作者がいるとかいないとか。


閲覧ありがとうございました。

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