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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
2章・二学期~
46/111

19話。極東にHENTAIが生まれた日

レビューいただきました。誠にありがとうございます

「よくやった!」

「アリガト! ホントニアリガト!」

「えっと。ど、どうも……」


どうやら俺が担いできたお嬢さんは向こうでも探していた人だったらしい。


なんたって合流した際に想定よりも随分早く戻ってきた俺を見て怪訝そうな表情を浮かべた最上さんが、俺が抱えていたお嬢さんを見るや否や破顔一笑して俺を褒め称えてきたし、向こうの軍人さんたちも大喜びで俺を称えてくれたからな。


また、俺を褒め称える声の中に『これでようやく退ける』という言葉があったことからも、彼女が相当なVIPであったことが窺い知れる。


ちなみに互いが使っている言語についてだが、極東ロシアの公用語はロシア語と日本語である。

主に使われるのはロシア語なのだが、知識層の人間であれば会話程度はできるとされている。


言わなくともわかると思うが、褒められたのは日本語で『ようやく退ける』というのがロシア語だ。


俺がそれを理解できるのは、同盟国の言語であるロシア語を履修していたから……ではなく、パワードスーツに添えつけられた翻訳機のお陰である。


ビバ技術。


で、詳しい話を聞いてみると、なんとびっくり。彼女はナ・アムーレを治めている貴族の娘さん、もっと細かく言えば国家元首である大公閣下の従兄弟(いとこ)の娘さんだったらしい。


そりゃ軍人さんも彼女を置いて撤退はできんよな。


そして今回年若い彼女が親元を離れて一人で衛星都市であるアムールスクに居たのは、彼女がアムールスクの代官だったからだ。


代官として大人のサポートを受けつつ冬を迎える前の収穫やら何やらを監督していたところ、運悪く魔物が襲来してきたらしい。


魔物が攻めてきたことを理解していながら、戦うことも指揮を執ることもできない彼女が事前に避難しなかったのは、偏に極東ロシアの法で『貴族は民間人より先に避難してはならない』というものがあるからなんだとか。


軍としても本音を言えば彼女を真っ先に避難させたかったらしいのだが、この法があったがために避難させることはできなかったそうな。


なぜそこまでこの法に固執するのか。


それは貴族制が存在する国家に於いて貴族は貴族としての義務を果たしているからこそ国民が彼らの存在を認めているという事情があるからだ。


つまり先ほどの『貴族は民衆より先に避難してはならない』という法はただの慣習ではなく、極東ロシア大公国の根幹を成す法律なのである。


当然それは子供だからと言って免除されるものではない。


そういった背景があったからこそ、彼女は市街地に残っていたわけだ。


今は代官である少女の上司、つまり少女の父親がナ・アムーレからやって来て現場の指揮を執っているので少女が出なくとも特に問題にされることはないが、本来であれば今も彼女は防衛戦の指揮を執らなければいけない立場なんだとか。


尤も、一人で魔物に追いかけられた上、ギリギリのところで助けられたことで気が抜けてしまい、今は深い眠りについている、文字通り満身創痍の少女を戦地に送ろうとする人間はここにいないのだが。


話を戻そう。


魔物に突入された後、元々存在していた市庁舎の防衛部隊は彼女を逃がす前に全滅したようだ。


前線で戦っていた主力部隊も、押し寄せてくる魔物たちから市民を護るため市内に援軍を出す余裕がなかった。


結局彼らは雇い主の娘である少女の安否を確認することができないため勝手に退くことができず、かといって戦線を押し上げるだけの戦力があるわけでもないという手詰まり状態になっていた。


そんなところに現れたのが最上さんだ。


完全に浮いた――それも自国の正規軍に匹敵する火力を持った――兵力が参戦したことにより余裕ができた極東ロシアの軍人さんたちは、一部の兵を残して攻勢に移ることを決意した。


ちなみにこの時点で少女の生存は諦められており、軍人さんたちの目的は少女の敵討ちと、民間人の保護になっていたらしい。


まぁ普通なら死んでいたからな。

なんならあと10秒遅かったら死んでいたからな。


だが、少女は俺という軍人さんたちが想定していなかった戦力によって無事――魔物に襲われた恐怖で心に傷を負ったかもしれないが――に保護された。


これにより要人を保護できたことで商売上の障害がなくなった最上さんらは大満足。向こうもVIPの娘さんを救助できて大満足。俺もボーナスが確定して大満足と、まさに三方ヨシの成果となった。


「それだけじゃねぇぞ。お前さんが彼女を助けてくれたおかげで、今回の件で日本国内で俺らに文句を言える輩がいなくなったんだ」


「あぁ。それもありましたか」


統括本部や参謀本部の予想が正しければ、今頃日本にも魔物が襲来しているはずだもんな。


そこで被害が出た場合、俺を貶めたい連中が『彼らは魔物から逃げた』なんて悪評を流す可能性があった。でも今回要人を救助したことでそういった声を封殺することができるってわけだ。


というかそうなるように大公閣下にお褒めの言葉を頂くようお願いするんだとか。


相変わらず抜け目のないことだ。


ただそれをやると、俺らが助かると同時に俺らがここに来ることを認めた運用政策課の連中の首の皮が繋がることになるのだが、そこについては正直知らん。


最上さんや第二師団の方々の頑張りを期待したいところである。


とりあえず今の段階で言えることは、今回要人を確保したおかげで少しだけ不安が残っていた帰国後のケアに関するあれこれも完全に解決したということだ。


さらに少女の救出に成功したことで軍人さんたちの士気は上がっている。


思うに、これから彼らは市中に残された民間人を救出するため、攻勢に出るだろう。


先ほど誰かが言った『ようやく退ける』というのは、あくまで『退くという選択肢を選ぶことができる』って意味だからな。


普通に考えれば――十分な余力があることが必須条件だが――撤退よりも魔物を討伐しようとするはずだ。


そこで俺は考えた。


彼らがいれば俺一人が敵に狙われるということはない。


彼らがいれば要救助者を発見した際にいちいち俺が護送する必要もない。


魔物を独り占めしても文句を言われる筋合いがない。


なんなら建物を壊しても事故で済ませてもらえるだろう。


なにより、一度諦めたモノに手を伸ばすチャンスだ。


ここまで条件が整っているのであれば、追加報酬を狙わねば無作法というもの。


「最上さん。彼らの攻勢にあわせて俺ももう一度出て良いですか?」


「そりゃ構わねぇが、これ以上魔物を倒したところでお前さんに得は……いや、違うか」


「えぇ。確かに損得の勘定がないとは言いませんが、今回は別ですよ。と言っても自己満足でしかないんですけどね」


「……あぁ。そうだな」


それに囲まれない限り小型も中型も潰せることはわかったからな。だからあそこに脅威は、ない。それは油断や慢心ではなく、純然たる事実だ。


だからこそ俺は『目の前に助けることができる人間がいるなら助ける』なんていう、人として当たり前の行動を取ることができる。


もちろん見返りを要求するが、それが目的なわけではない。断じてそれが目当てではないぞ、うん。


俺が再度出撃することが誰にとっての幸運となり、誰にとっての不幸になるのかは推して知るべし、といったところだろうか。


少なくとも俺は満足する。

それが魔物にとって良いことではないことも確かだろうが、その辺は諦めてもらうしかない。


というか……

「殺しにきたんだ。殺される覚悟だってあるだろう?」


―――


「だから死ね!」


『な、なんだありゃ?』

『新しい魔物か!?』

『いや、識別信号は味方だぞ!』


まだ生存者がいる可能性があるため御影型による蹂躙はできない。そのため、再突入することを決めた啓太が纏うのは、最上重工業製強化外骨格、黒天である。


「首だ! 首を置いていけ!」


基本的に、射撃の腕に自信がないが故に重機関銃や突撃銃を使わないようにしている啓太の戦闘方法は、距離を詰めて斬る、もしくは突く、逃げる敵には背中から拳銃で撃つ、になる。


『自分から魔物の群れに突っ込んで、剣で斬る?』

『……なんでそんなことを? 銃を持っていないのか?』


さらに先ほどの成功体験から、啓太は魔物が自分の攻撃に耐えられないことを理解している。そのため、魔物の群れに向かって突っ込むことに躊躇というものがなくなっていた。


「倍の速度で突っ込めば破壊力も倍っ!」


『そういえば、日本人は頭のネジが外れてるから、絶対に敵対しないようにしろって婆ちゃんが言ってた』

『ハラキリの国だからな……』


さらにさらに、今回は一人で突っ込んでいるわけではない。周囲に友軍がいるのだ。

要救助者を救助したら友軍に任せればいい。

倒した魔物の後始末も友軍に任せればいい。

そして啓太は倒せば倒すだけ魔晶に魔力が溜まり、自己が強化されることを知っている。


「ボーナスステージだ!」


他の連中にはやらんと言わんばかりに嬉々として魔物の群れに突っ込む啓太。


「くたばりやがれぇぇぇ!」


遠慮や自重という言葉を脳内辞書から消した啓太は、目に映る魔物に対して容赦なく刀を振るい、槍で突き、拳銃で撃ち抜いた。


川上啓太。完全にトリガーハッピー状態である。


『おい、アイツ、銃も持ってるぞ!』

『持ってるならなんで最初から使わねぇんだよ!?』

『あれ? つーか腕が増えなかったか?』

『増えた腕からなんか光るのが出てないか? つーか光ってないか?』


黒くて、上半身が異様に筋肉モリモリに発達していて、たまに腕が増えて、時にピカピカ光る怪しい人っぽいモノが、周囲の制止の声を完全に無視した上、妙なテンションで敵の群れに突っ込んでいく。もちろん単騎で。


「さぁさぁさぁさぁ!」


ところで、啓太のこの姿と一連の行動を、優勢になったことでやや冷静さを取り戻し始めている周囲の人たちが見たらどう見えるだろうか?


『すごく……やべぇな』

『あぁ、よくわからんがやべぇことはわかるぞ』

『バカ。よくわからねぇからこそやべぇんだよ』

『腕が増えるんだぞ? それだけでやべぇだろ』

『ああいうの、確か日本語だと「ヘンタイ」って言ったか?』


厳密に言えば変形だと思うが、この場にそうと突っ込める人間はいなかった。


第一、単身魔物の群れに突っ込んでいるにも拘わらず何故かテンションが上がりに上がってしまい、まるで何かをキめた英国紳士並にイイ表情をしている啓太を見てしまえば、たとえ近しい友人であったとしても啓太を変態呼ばわりすることを否定するのは極めて難しいと言わざるをえない状況であった。


さらに悪いことは重なるもので。


『そうだ。俺は日本語に詳しいからな! 間違いない。あれが「HENTAI」だ!』


なんと、自称日本語に詳しい軍人によって勘違いは訂正されるどころか肯定されてしまったのである。


『『『おぉぉ!』』』


極東ロシアの軍人が啓太のことをヘンタイと認知した瞬間であった。


最終的に、中型10体を含む数百体の魔物を討伐し、数千人の民間人を救うことに多大な尽力を果たしたことで、啓太は極東ロシア大公国内に於いて【HENTAIする英雄】もしくは【HENTAIした救世主】としてその名を残すことになる。


数日後、隆文から爆笑されたうえに大公からも変態呼ばわりされるも、自分が使っていた強化外骨格が変態することは事実だし何より相手との立場の差や相手に悪気がない――隆文を除く――ことを知っているが故にはっきりとした抗議もできず、ただただその名を受け入れるしかなかった啓太の姿が散見されたとかされなかったとか。


それからさらに数日後、共生派経由でこの情報を耳にしたとある魔族が『いや、英雄とか救世主が変態行為をしたら駄目でしょ』と真顔で突っ込むことになるのだが、それはまた別のお話である。


レビューの内容が(「あれ? こんな内容だったか?」と思わなくもありませんでしたが、そもそもあらすじからして詐欺みたいなもんだったのでなんの問題も)ないです。


閲覧ありがとうございました。


もう少しで2章終了。




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