18話。魔物蔓延る街へ
プロローグとの合流
最上重工業製魔晶対応型強化外骨格
名称 黒天
体高 2m50cm
重量 200キロ(装備込みで約400キロ)
色 黒
最大速度 80km/h
装備
53式12・7mm重機関銃 白鷹×2
50式7・62mm突撃銃 西尾×2
対中型魔物用無反動砲 北間×2
M045B10mm拳銃 広野×1
超硬片手十字槍 血鑓×1
超硬片手刀 村雨×1
超硬片手盾 八卦×2
ワイヤーアンカー射出機
名前の由来は四腕の神として知られるインド神話のシヴァと同一存在とされる大黒天から。
最上重工業が主戦武器として想定しているのは主に白鷹と西尾。
肩口にある補助腕で西尾を2丁と、両手で持った白鷹を1丁(あるいは一門)の計3丁の銃で弾幕を張るのが本来の使い方となる。
ただし魔力による強化が可能な啓太は左右それぞれの腕で白鷹を装備した上で、補助腕でも西尾を装備することが可能なため、計4丁による弾幕の構築が可能である。
同様のことはそこそこ高性能な強化外骨格でも不可能ではないのだが、通常のものには弾を魔晶に収納する機能がないうえ、反動などで搭乗者に結構な無理を強いるため、魔力によるサポートが受けられないタイプの強化外骨格では実用は難しい。
近接武器は、これらの特注品を欲するのが近接戦闘に秀でた軍人である可能性が高いために装備させているものの、製造元である最上重工業がこの強化外骨格を『一人の技術より複数の火力』というコンセプトの下に製造しているため、近接戦闘そのものを推奨していない。
ただしテスターである啓太は、想定されている使い手である軍閥出身者と違い幼少期に銃器に触れていないため、重機関砲よりも近接武器を好んで使う癖がある。
啓太曰く、魔力を通すと攻撃力が増すし射程も伸びるとのこと。
それを聞いた隆文らは当初ちょっと何を言っているかわからなかったが、最終的に『魔晶に蓄えられた魔力を攻撃に使っている』ということで納得している。
魔力による補助を前提としている。
副腕を展開した際に行動の邪魔になる。
副腕の強度がそれほど強くない。
副腕の操作性が悪い。
等々、様々な欠点があるが、最大の欠点はその見た目だろう。
副腕を固定している場合は、上半身が異様に発達した筋肉ムキムキの魔物にしか見えないし、副腕を展開している場合は4本腕の魔物にしか見えないので、常に識別信号を出さなければ味方に撃たれる可能性がある。
また味方からの誤射を防ぐため常に識別信号を出している関係上、市街戦などを行う場合、敵に居場所がばれてしまうという欠点にも繋がっている。
この欠点は、本来は集団で戦うことを想定しているため識別信号に関する問題は大きなものにはならないものの、啓太のように単独行動をする場合は致命的な欠点となる。
……なるのだが、啓太も最上重工業の面々も『他人からの見た目』についての理解が薄い――というかそもそもこの見た目が問題になるとは考えていない――ため、識別信号についての問題を理解しておらず、最初から識別信号を発するという発想がない。
このため、まともな人間がこの強化外骨格をまともに運用しようと考えた際に発生するであろう『暗闇にちょうちんを灯して、自分の位置を知らせるも同然』という某アンテナのような問題が顕在化されるのはもう少し後、具体的には日本に戻った後に行われるであろうプレゼンを兼ねた報告会の際になる。
―――
「間に合うか?」
黒天を装備した状態で10キロの距離を踏破するのに必要な時間はおよそ10分。
最高速度ならもう少し早いのでは? と思うかもしれないが、最高速度はあくまでカタログスペック上のものだし、なにより最高速度をずっと出していると思わぬ不具合が発生する可能性があるので、やや抑える必要があるのだ。
そうして抑えて出す速度が60km/hという時点で中々の速度だと思うが、このくらいの速度であれば足の速い野生動物でも出せる速度だ。馬とかな。魔力によって強化された魔物なら猶更対応できる速度だろう。
それが何を意味するかと言えば……
『ガァッ!』
俺を見つけた魔物が襲ってくるということだ。
「邪魔」
『ゴフッ!』
と言っても、向こうも高速移動中に攻撃と防御行動を両立できるほど器用ではないらしい。
なので、向こうが噛みつきや引っ搔きをしようとして上半身を乗り出してきたところを断頭してしまえばそれでこと足りるのが楽でいい。
本来であれば他の魔物の食糧になったり、土地が汚染されてしまい疫病などが発生する温床になるため死体を放置してはいけないとされるが、今は緊急事態なのであえて放置する。
もちろん敢えて魔物を引き寄せる餌にしたり、後から来るであろう極東ロシアの軍人さんたちに対する土産――新鮮な魔物の素材は武器や防具の素材になる――でもあるので、焼却処分ができないという事情も無関係ではない。
まぁその辺は政治や商売の領域なので一軍人に過ぎない俺はノータッチを貫く所存だが。
とにかく、俺が最初に目指すのは救難信号を発した元である市庁舎だ。
すぐに信号が途絶えたことからすでに信号を発する機械は魔物に破壊されたと思われるが、それでもそこに生き残りが――それも貴族の関係者である可能性が高い――がいると思われる以上、真っ先に向かわねばならない場所なのだ。
こんな状況で救難信号を発したら魔物に狙われるということくらいはわかっているだろうに、それでも信号を発したからには何かしらの意味があると思ったのもある。
「ゲームなら全部マッピングしてから行くんだけどな!」
そこに落とし穴があるとわかっていても敢えて踏む程度にはマッピングガチ勢の俺だが、さすがに救助対象者がいる状況でそんなことはしないぞ。あとでやるかもしれんけど。
マッピングについてはさておくとして。
市街地に入り、中心に向かえば向かうほど密度が高くなる魔物たち。
「小型にしてはデカいのが多いな?」
今、俺の目の前には3m級が2体と2・5m級が3体、合わせて5体ほどがうろついている。
『『……? ッ! ゴァァァァァ!』』
俺を見た魔物たちが威嚇の声を上げた。
「お。どうやら見つかったか」
一瞬動きが止まったのが疑問だが、ナニカあるのだろうか?
「まぁいい」
1対5だ。しかも相手は小型とはいえ中型に近い連中である。普通なら速度やワイヤーを利用した三次元軌道で戦闘を回避するのだろうが、今の俺にそんな暇はない。
「さっさと死ね」
まずは強化外骨格の力を利用してハイジャンプ。
『『ゴォォォ!?』』
「どこを見ている?」
『『グゥエァ!?』』
俺の動きに反応して上を見た魔物たちの喉元を掻っ切る。
俺に殺された魔物たちが不思議そうな顔をしているが、なんのことはない。ワイヤーアンカーを地面に設置しておき、ジャンプと同時にワイヤーを巻いてジャンプを強制キャンセルしただけのこと。
所謂小手先の技だが、俺の姿と初動から出せるであろう脚力を想像できるだけの知性と、ジャンプの動作に反応できる反射神経がある相手。即ち魔物に対する効果は抜群だ。
「慣性に逆らうことになるからそれなりに反動があるのが欠点と言えば欠点だな。魔力の補助がない奴がやるには相当きついと思うが、俺がやる分には問題ない」
ちなみに重火器を使わなかったのは、音を出さないためだ。五月蠅いからな、あれ。
「それに比べてブレードはいい。弾薬も必要ないし、魔力を籠めれば伸びるしな」
実際は伸びるというか短距離ではあるものの斬撃を飛ばせるようになるのだが、大した違いではないので最上さんたちには『伸びる』と報告している。
もちろん魔力由来の攻撃なので、相手が中型以上の魔物であれば障壁で相殺されてしまうが、相手が小型であれば問題ない。一方的に貫いて終わりだ。刃こぼれもしないので非常にエコな攻撃と言えるだろう。
尤も、刃こぼれも弾薬も使用しない代わりに魔力の消費を警戒する必要があるのだが、その辺は個人の問題なので将来使う人に考えてもらえばいいことだ。
「要は俺が使えるかどうかだからな……って。なんだ?」
退路を意識しつつ、できるだけまっすぐ市庁舎へ向かうこと数分。
おかしな動きをする魔物の群れを発見した。
数は数十体。何かを包囲するような感じで展開していた。
ただし、包囲の西部分から数体が東、つまり包囲の中央部分にゆっくりと進んでいる。
「あれは狩り、だな」
まず、獲物を逃がさないように囲んだうえで追い詰める。
そして獲物が『もう少しで逃げられる!』と希望を見出した瞬間に『実は包囲されていた』という絶望を与えてから殺す。知性が発達した魔物がよくやることだ。
……元は人間がやっていたことなので、魔物を悪趣味と罵れないところもまた厭らしい。
「だが、見つけたぞ」
『ドギュ!』
狩りをしているということは、相手は魔物ではなく人間。
それも、万に一つも抵抗することができないような弱者だ。
『ギャワ!』
現時点で、それもこの場所で生きていて、かつ力のない者となれば相手はかなり絞られる。
『バロッ!』
「市庁舎に篭っていた民間人か、それとも市庁舎の人間が何としても護ろうとしていた対象か」
『ガヒュ!』
包囲を敷いている魔物を駆除しつつ中央部に向かえば、そこには魔物の群れと一匹の魔物に頭を掴まれている一人の少女が……。
「手前ぇら! なにしてやがる!」
妹様と同じくらいの年頃の少女が魔物に捕まっていると認識した瞬間、俺は駆け出していた。
「ラヴィィィィ!」
『ドアッ!?』
『え?』
しってるか? 頭を掴んでいいのは頭を潰される覚悟があるやつだけだってことをなぁ!
「ダッヴァイ!」
『シコッ!?』
『えぇ?』
魔物風情が、群れているからって偉そうにしてんじゃねぇぞ!
「多対1? 一向に構わんッ!」
『レカッ!』
『えぇぇ?』
それと後ろで偉そうにしていた中型もだ!
中型なら死なねぇと思ったか? 残念だったなぁ!
「貴様らはニンゲンを舐めたッ!」
『ドルッ!?』
『えぇぇぇ?』
「……ん? 終わりか?」
気付けば周囲には少女を囲んでいた魔物たちの死骸、死骸、死骸。中には中型っぽいのもあったが、まとめて斬り捨てていたらしい。
魔力障壁はどうなった?
あぁいや、今はそっちじゃないな。
「少女よ、よく頑張ったな……って寝てるぅ!?」
まずは絶体絶命のピンチに陥っていた少女を慰めようとしたんだが、件の少女はなんとも安らかな表情をして寝ころんでいた。
いや、正確には気絶しているのだろう。
それだけ疲れていただろうし、恐怖も感じていたはずだ。
なのでそれから解放された途端に気を失うのも理解できる。
理解できるんだが。
「恰好つかねぇなぁ。ってかこれ、俺が運ぶのか?」
見た感じは妹様と同い年くらい。つまり10代前半くらい。
着ている服は汚れているが、間違いなく上質なモノだ。
多少アンモニアの臭いがするような気がするのは……多分気のせいだな。
「おそらくは貴族か、貴族の関係者だろう」
いろんな意味で要救助者を救助したわけだが、これからどうしたものか。
「意識があるなら『向こうに行け』とか言えるんだが、意識がないなら担ぐしかないよなぁ」
移動するだけならそれでもいい。
だがこの娘さんを抱えながら魔物の群れと戦うのはさすがに無理がある。
「魔力がどんな影響を与えるかもわからんし、そもそも全力で動いたらGで死ぬからな」
俺は主君の息子を抱えて戦場を縦断した武人ではないのだ。まして相手は子供とはいえそれなりに成長した娘さん。抱え込んで動くには邪魔すぎる。
このまま戦闘の継続はできない。かといって放置もできない。ならば俺が選べることは一つだけ。
「……一度退く、か」
他にも要救助者がいるかもしれない。
俺が市内を回れば助かる命があるかもしれない。
だがそれをするには目の前の少女をどうにかする必要がある。
具体的にはここよりも安全と思われる場所に置いていく必要がある。
魔物に嬲るように襲われていた少女を置いていく?
たった一人でそれから逃げていた少女を置いていく?
意識を保ったまま魔物に頭を掴まれていた少女を置いていく?
もう少し遅かったら魔物に殺されていたであろう少女を置いていく?
それから解放され、今は『助かった』という思いから意識を失った少女を置いていく?
まだここを包囲していた魔物を完全に滅ぼしていないのに、自分を信じて気を失った妹様と同い年くらいの少女を置いていく?
「無理だ」
特に最後のが無理。
未だに助けを待っているかもしれない面々には申し訳ないが、一度撤退させてもらう。
「行くか」
ここは戦場だ。悩んでいる時間さえ勿体ない。
なにより、もう少ししたらここを包囲していた魔物たちが来る可能性があるからな。
「……すまん」
俺は目の前にいない多数を探して救助することよりも、目の前で意識を失っている少女一人を救助することを選んだ。
この決断が正しかったのかどうかは後の俺が判断するだろう。
ただし、この決断があまり気持ちのいいものではなかったことは今後も忘れない、否、忘れてはいけないことなんだと、心に留めることにしたのであった。
取捨選択って大事ですよね。
妹様以外に興味がないと公言する啓太君も、助けられる人間を見捨てたことについてはさすがに心にクるらしい。
強化外骨格の武装については素人の作者が考えたものなので矛盾点などがあったら変更あるかも。
閲覧ありがとうございました。















