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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
2章・二学期~
42/111

15話。強化外骨格の試験とその裏で

日間総合4位。

ありがてぇ。ありがてぇ。

「くそっ。重い!」


この日、隆文が付き合いのある貴族に頼んで借りた修練場という名の森の中では、パパパパパという軽い音とは裏腹に明らかに機嫌が悪そうな声が響いていた。


声の主は勿論俺である。


思わず声を出すほど機嫌を損ねているのは、もちろん俺の動きを阻害している重り……ではなく副腕と称されるもののせいだ。


「動かせる。動かせるけどな!」


確かにコマンドシステムを応用すれば、副腕を動かすことと、手に持った武器で攻撃をするくらいのことはできる。


ただし動きは極めて鈍い。


元々肩口から出ている副腕を自在に動かすことは困難だし、なによりこのパワードスーツがもともと集団による運用を考えられているものなので機動性を重視していないというのも問題だ。


もしここに10人の仲間がいれば本来の役割を想定した試験もできるのだろう。

だが、あいにくここに居るのは俺一人である。

そして1人である以上、俺はただ突っ立って撃つという固定砲台に甘んじるわけにはいかない――1人でなくとも固定砲台に甘んじてはいけないが――のだ。


御影型と同じように撃ったら動く。止まる前に撃つ。それくらいはできる。

ワイヤーアンカーも付けたのでジャンプ中に加減速を繰り返して相手の狙いを外すこともできる。


「加速力はいい。ジャンプ力もある。だが小回りがきかない!」


咄嗟に左右に目を向ければ副腕が視界を遮るし、副腕が邪魔で攻撃に一拍以上の隙間ができてしまう。

これを無意識で動かせるレベルにするにはそれこそ膨大な時間と、ある程度以上の魔力が必要だ。


しかし当然のことながらパワードスーツに魔力を持たせる為には魔力をもつ魔物を討伐する必要がある。

別に中型以上でなくてもいい。小型だって多少は魔力を持っているので、害獣駆除的な感じで倒していけば少しずつではあるが魔力は貯まるだろう。


だが、この有様で魔物と戦えば間違いなく死ぬ。

経験値を稼ぐどころではない。普通に死ぬ。

最初はいいかもしれないが、慣れたときに事故が起こりそうな予感がプンプンする。


つまり? 欠陥品です。ありがとうございました。


「……無理ですね」


少なくとも現状では使えない。

そう判断するしかない。


「お前さんでも無理、か」


「えぇ。見ての通りです」


テストパイロットとしては不甲斐無いと思わないでもないけどな。


でもこういう駄目なところを洗い出すのもテストパイロットの仕事だと思うぞ、俺は。


「問題点は?」


「黙って撃つなら問題ありません。なので火力を有したパワードスーツだと思えば悪くはないでしょう。ですが機動戦をするには副腕が邪魔になります」


「ふむ」


ある意味コンセプトに適合しているから問題無いように思えるかもしれないが、そんなことはない。


このパワードスーツは小型を主敵とした従来のものとは違い、『4本の腕によって生み出される火力によって中型さえも討伐することが可能なパワードスーツ』を目指している。


当然討伐する中型は1体ではない。まして集団戦をしようというのだ。


敵からの反撃を回避、もしくは防御できなくては相討ちで終わってしまう。


それも一度の反撃で10人単位の味方が蒸発するのだ。それではわざわざ新型を用意する意味がない。


故に最低限の回避能力か防御力が求められるのだが、回避についてはご覧の有様である。


では防御力はどうかというと、これも難しい。


「盾があるから大丈夫かもしれませんけど、流石にこの状態で中型以上の攻撃は受けたくないです」


「そりゃそうだろうな」


もちろん大型の装甲をパワードスーツでも使えるように加工した盾はある。

そして大型の装甲であれば中型の攻撃を防ぐことができるとされている。


あくまでスペック上の話だが。


いくら仕事だからといっても命懸けで盾の耐久性を試したいとは思っていないし、最上さんだってそんなことで俺に死なれても困るだろ。


つまり盾は諦める。その上で活用するとしたらもうアレしかないんじゃないか?


「どうしても副腕を使いたいのであれば」


「あれば?」


「肩の部分を大きくして、何も無いときは中に収納するとかはできませんか? もしくは上腕部に固定して射撃の際にだけ分離させるとか」


普段からブラブラしてるから邪魔なんだし。射撃の際にだけ副腕を出すのは悪くないと思うんだよな。

某ガン〇ムみたいに。


「ほほう? その話、もう少し詳しく聞こうか」


「構いませんよ。まずはですねぇ」


最上さんたちに掛かれば俺のアイディアもネタ装備の温床にしかならんかもしれんが、そうやってできた装備は決して無駄にはならない。


それにな、やっぱり実際に使う人たちこそ運用方法で頭を悩ませてくれればいいんだ。実際に使って悩んだ末に出された意見がこのパワードスーツをより良いモノにしてくれる……はず。


頑張れよ。未来の軍人さんたち。



―――


某所


「さて。もう少しで予定した数が揃うかな?」


啓太と隆文がパワードスーツを改良しながら野生の魔物を討伐して魔力と経験値を稼いでいる最中のこと。


極東ロシアから少し離れた地に於いて、とある魔族による恐るべき計画が発動されようとしていた。


「まったく。先輩のみなさんは少しばかりやる気が足りないと思うぞ」


と言っても、その計画自体は日本側も予想しているものだ。


即ち魔物による大攻勢である。


「戦力の逐次投入によって圧力を掛ける? 最初から勝つつもりがないならそれでもいいって話なんだろうけどねぇ」


この魔族はこれまで先達の魔族たちが採用していた方針を、とてももどかしいもの……というか少し方向性がおかしいように感じていた。


対象となる相手は日本。かつてアジアで唯一列強として名を馳せた国でもあるこの国は、世界を相手に戦った大戦から100年以上経過した現在も魔族や魔物たちとの戦闘を継続して行っていながら、これまで魔物相手に一歩も国土を譲っていない稀有な国である。


その実績とそれを支える工業力と技術力。

それらを背景に生み出される機体は人間にとっての希望となっている。


事実、東南アジア諸国のうちいくつかを魔物の勢力圏から解放しその国土を維持しているのは、主に日本から派遣された軍隊だ。


そういった実績も相まって、現在日本の援助を望まない国は存在しない。なんならヨーロッパに残っている国やオーストラリアも日本との共闘――最悪でも技術交流――を望んでいるくらいだ。


「本当であれば滅ぼしたいところなんだけど、上司である悪魔の命令がある以上、僕たちは日本を滅ぼすわけにはいかない。……滅ぼしたいけど滅ぼせない。そういう二律背反があるからこそ先輩のみなさんは日本から目を背けている。だから今まで気づかなかった」


確かに最初は日本にも圧力はかかっていたのだろう。

だがいかなる圧力とて慣れれば圧力ではなくなる。


もっと言えば、定期的に訪れる魔物の存在が『戦闘経験と魔物の素体を得ることができるというボーナスゲーム』に成り下がってしまう。


「もちろん口減らしという意味では間違っていないさ。でもね。相手側に肝心の『圧力』が掛かってないなら話は違うよねぇ?」


喰いぶちの多い大型を減らす。それ自体は大いに結構。


だが無駄死にはよろしくないし、相手に素材をプレゼントするのはもっとよろしくない。


「悪魔が求めるのは闘争。決して一方的な戦いではないよね」


故に魔族は前回出撃する魔物たちに簡単なアドバイスをした。


そのおかげで、今まで以上の魔物たちが日本へと上陸を果たすことができた。


その数は大型が10体に中型が130体以上。小型も相当数。


もちろん魔族とてこの程度で日本が滅ぶとは考えていない。


しかしながらそれなりの損害を与えるだろうとは思っていた。


だが結果は惨敗。それも向こうの協力者が言うには、軍の損害もほとんどなかったらしい。


相手にとって予想すらしていなかったはずの大量の魔物が上陸したにも拘わらず、だ。


そこから導き出される答えは一つ。

戦力が足りていない。


「あの規模の魔物を無傷で撃退できる連中に対してだよ? 大型が数体、中型が数十体なんて規模を差し向けたって意味はないさ。それこそ経験値と素材をくれてやるだけじゃないか」


しかも日本では今までにない機体の量産も始まっているという。これで圧力をかけていると言えるか? 否、断じて否。


「だからこそ試すのさ。日本の力ってやつを」


どれくらいの戦力であれば『圧力』となるのか。

どれくらいの被害を出せば向こうにいる『協力者』がそんな阿呆な真似をする余裕を失うのか。


「今回はとりあえず前回の倍。それが負けたら更に倍。時間はかかるけど無駄に消費するよりはマシ。あぁ、それと途中で溺れないようにしないと駄目だね。隊列はいいとして、あとは船……は無理だけど、浮輪とか推進力を強化するための板みたいなのを用意してあげれば少しは楽になるかな?」


この魔族が『小手調べ』に用意したのは、日本側が想定していた数の倍。

すなわち大型24体。中型300体。小型1000体に及ぶ大軍となる。

しかもこれらが少しでも溺れないよう、かつ渡海で体力を使い過ぎないよう工夫をして襲撃させる予定だ。


「見せてもらおうか。君たちが今回の攻勢をどう捌くのかを、ね」


―――


『馬鹿な! なんだこの数は!』


日本側からすれば、日程的には予定通りに襲来することになる魔物たち。


しかし実際に現れたのは予想を遥かに上回る規模の大軍勢だった。


文字通り未曾有の大軍を、啓太という決戦兵力を欠いたまま迎撃することになる国防軍。


希望の見えない戦いに身を投じることになる彼らの表情が絶望に染まる日は近い。


ポイントやブックマークがありがてぇのと作中のキャラが苦労するのは別のお話……


ポイントはまじで嬉しいです。


閲覧ありがとうございました

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