12話。最上重工業製強化外骨格開発計画の概要(中)
独自設定です。
細かい突っ込みどころはスルーでお願いします(懇願)
極東ロシア。正確には極東ロシア大公国。
1950年代にソ連の構成国の一つであるロシア共和国から独立した、ウラジオストクを首都とする立憲君主制の国である。
独立の経緯を簡単に言えば、まずソ連では帝政ロシアを滅ぼした後、赤軍による大粛清が行われたり、白軍と呼ばれる反赤軍との内戦が発生したことから説明する必要があるだろう。
この際、ロシアの貴族の大半が白軍に所属――白軍に所属していなくても赤軍からは元貴族ということで白軍扱いされた――していたものの、内戦は赤軍の勝利で幕を閉じる。
これによって貴族が一掃されたように見えたが、貴族は滅んでいなかった。
もちろんモスクワのような大都市圏にいた者たちはほぼ全てが粛清の対象となったし、男爵だの侯爵だのと言った社会的な肩書はなくなったが、その血と権力は『地元の名士』という形で存続していたのである。特に田舎とされるシベリアや極東区域に於いてその傾向は強かったらしい。
そんなこんなで田舎とされる場所で赤軍の脅威に怯えながら暮らしていた彼らだが、あるとき転機が訪れる。それが第二次世界大戦と大戦末期に召喚された悪魔の存在だ。
反ナチスで連合を結んでいた西欧諸国も対悪魔にかかりきりになり、戦車や弾薬などと言った各種軍事物資を大量にレンドリースしていたアメリカも欧州から手を引いてしまう。
これに加え件の悪魔によって軍勢の大半が消滅してしまったソ連は、国内外で噴出していた貧困や飢餓などの問題を解決する術を持たなかった。
そこで動いたのが田舎で暮らしていた旧貴族や、ソ連建国時にモスクワから追放されて国外に逃れていた貴族たち。そしてソ連の動きを警戒していた日本であった。
日本とソ連は日ソ不可侵条約を結んでいたが、それはあくまで不可侵条約であって軍事同盟や経済的な繋がりを強める同盟ではなかった。
また当時の日本は今よりももっと権威主義が強かった立憲君主制を採用していたこともあり、帝政を打倒した挙句、社会主義を標榜しながらも実質連邦共産党による一党独裁国家であるソ連とは相いれない関係にあった。
事実、ソ連は中華民国と共に反日思想の強い朝鮮共和国の設立に協力している。
これらの動きを受けて、日本政府はソ連との間に緩衝となる国が必要だと判断した。
そこで白羽の矢が立てられたのがロシア共和国の極東区にて燻っていた地元の名士たちだ。
帝政ロシア時代に貴族だった者たちは元の社会的立場――彼らからすれば誇り――を取り戻せる。
日本はソ連との緩衝地帯を得る他、朝鮮共和国や中華民国への牽制にもなる。
こういった思惑から、第二次大戦時の無理な戦線の拡大から解放されて一息吐くことができた日本は、最初の策としてソ連の中における最大戦力たるロシア共和国を分断する策を実行に移すことにしたのである。
両者の交渉は双方にとって得るものが多いためとんとん拍子で進み、わずか数年でロシア極東区は極東ロシア大公国を名乗りロシア共和国――ソ連ではなくあくまでロシア共和国――からの独立を果たした。
当然ソ連は反発したが、数年前に悪魔や魔族によって主力を打ち破られた彼らに余力を維持したまま引き上げた日本軍と戦うだけの力はなかったし、同盟国であった中華民国は東南アジアに攻め込む準備をしていたためこの時点で日本と表立ってことを荒立てることを拒否してしまう。
朝鮮共和国は国内の権力者争いが片付いておらず半ば内戦状態にあったため、ロシア共和国の流れを汲むが故にそれなりの戦力を持っていた極東ロシア大公国と敵対することができず、かの国の建国を黙認するしかなかった。
日本の勢力拡張に物申してくれそうだった西欧諸国やアメリカも悪魔や魔族との戦闘でそれどころではなく、最終的に極東ロシア大公国はソ連以外の誰からも反対されないという結果で以て独立を果たすこととなった。
とはいえ、場所が場所である。
農作物が育ちにくい環境ということもあり、極東ロシアは当初日本からの支援なしでは国家の運営も覚束ない状況だった。
これが改善されたのは、技術が発展しシベリアや極東区の開発速度が向上してからのことになる。
彼らにとって幸運だったのは、開発が軌道に乗るまでの間、なぜか魔族や魔物がシベリアや極東区に進出してこなかったことだろう。
尤も、これに関してはちゃんとした理由がある。
それは悪魔からほどほどに人間を追い詰めるよう指示を受けていた魔族たちにとって、シベリアを越えたところにある極東地区は魅力のある土地ではなかったというものである。
そのため『わざわざここよりも寒くて辺鄙なところに行きたいか? 俺は嫌だぞ』と赴任を拒否したり『べつに残しててもいいだろ。全滅させなくていいなら放っておけよ』と放置をするような意見を出す魔族が続出し、その意見が他の魔族たちにも認められたが故に彼らは放置されることとなったという、なんとも笑えない話があったりするのだが、当然そういった話が外に出ることはなく、あくまで『極東ロシアにとっての幸運』という形で結論付けられている。
そんな感じで魔族と人間のすれ違いによって奇跡的に安全な地域となっていた極東ロシア大公国であったが、それも今は過去の話。
朝鮮共和国が滅亡してから数年後には、かの地もまた魔物の脅威に晒されるようになっていた。
――
「朝鮮共和国が潰れたことと、それなりに開発が進み人口も増えたことで価値があると思われているんだろうな。特にここ数年にかけてだが、極東ロシアに進出してくる魔物の量は増加傾向にあるんだわ」
「ほう」
それはまたなんとも面倒な。
「で、それまでは主に資源と食糧を引き換える感じで商……援助をしていたんだが、最近の向こうさんは食料に加えて武器も欲しがっているわけだ」
「ふむ」
魔物に攻められているのであれば戦うための武器が必要だろうからな。
「で、かの国と繋がりがある企業の中でも武器を扱える企業ってのは思いのほか少なくてな」
「そりゃそうでしょうね」
企業が勝手に武器を造ってばら撒いたらあかんからね。許可のない企業は造れんわな。
「そんな感じだから、極東ロシアへの武器支援は主にウチが行ってきたわけだ」
「なるほど」
そこでさっきの『戦場から離れる』ってのが出てくるわけだな。
「わかったみたいだな。今までは俺が忙しかったこともあって部下に任せてきたが、これからは俺が直接向こうに赴いて援助を行うことにする」
「俺は護衛ですか。で、ついでに現地で実地試験を行う。それが今回の特務というわけですね?」
「そうだ。性能実験は立派な任務。スポンサーであり開発責任者でもある俺たちの護衛なら特務扱いにしても何の問題もねぇ。さらに外交が関わってくるからな。いくら国防省が関わるとはいえ、所詮は国防政策局、その中の運用政策課なんて末端の連中がどうこうできる規模の話じゃなくなるって寸法だ」
「なんか、色々溜まってますね?」
「当たり前だ! 財閥の連中が俺を羨んで殺そうとすることは予想できていたが、軍人が、それも仲間の命が掛かっている状況でこんな小賢しい真似をしてきたんだぞ!? 連中には今までも『自分たちが認めなければコンペに出すことすらできないぞ』とか言って金をせびられてきたが、これはそんなレベルの話じゃねぇだろ!」
「あぁ。そんなこと言っていたんですねぇ」
「おうよ!」
自分が権力を持っていると勘違いした小役人が言いそうなセリフではあるけどな。
そんな連中相手に商売してたらそりゃストレスも溜まるわ。
「そんなわけでな。俺としてはきっちり意趣返ししてやりたい。……そのために現場で死ぬ兵隊さんたちが出るのは悪いとは思うがな」
「それについてはさっき言った通りですよ」
むしろ今のうちに膿を出し切らないとやばいだろ。
それになにより。
「最上さん。俺たちがいないせいで死者が増えるって考えは傲慢です」
「……」
「それに第二師団の師団長のことは知りませんが、少なくとも迎撃部隊を率いる芝野大佐は無策の人ではありません。俺らがいないならいないなりの対策を練ることができる人ですよ」
実際芝野大佐のことはよく知らねぇけど、五十谷さんや田口さん曰く第六師団と第八師団から第二師団へ援軍を出すってのは確実だからな。
前回と同じ規模程度ならまぁ何とかなるんじゃないか?
問題があるとすれば大型だけど、あれもな。
前回の実験で大型だろうがなんだろうが頭をぶち抜けば死ぬってところを知った以上、無駄弾は撃たないはず。そうやってみればアレは良い的でしかない。
一応攻撃には備える必要があるが、歴戦の戦士であれば討伐することはそんなに難しいことじゃないだろう。一応前回討伐した大型の死体もあるしな。
向こうでどんな加工をしているかは知らんが、外殻にちょっと魔力を通すだけで立派な盾になるんだ。きちんと運用すれば反撃による被害も相当抑えられるはず。
学生の俺でさえ思いつくことをプロの軍人である芝野大佐や佐藤少佐が気付かないはずがない。つまり大丈夫だ。もしかしたら俺らが必要と判断した被害さえ出ないかもしれん。
その場合は……まぁ俺にとっては悪くはないんだよな。
だって毎回毎回俺が戦場に出なくてもよくなるってことだし。
ボーナスは惜しいが、後ろから撃たれる可能性のあるところに行きたいとは思わんよ。
「……そうだな」
ん~。罪悪感が薄れることに対しての安堵と、自分が造った機体が絶対のモノじゃないと言われた不満が入り混じった感じか?
ただな。あまり求めすぎるのはよくないと思うんだ。
「最悪、というのもおかしいですが、もし被害が少なかった場合はパワードスーツを正式採用させることで意趣返しをする程度で我慢するべきでしょうね。あくまで今回は、ですが」
欲張りはしない。
妥当な所で抑える。
だが狙われたことを忘れるとは言っていない。ここ大事だぞ。
「今回は、か」
「えぇ。今回は、です」
いずれわからせてやるがな。
あ、そうそう。
「ちなみになんですが」
「ん? なんだ?」
「最上さんは、その、運用政策課ですか? そこで今回の画を書いた首謀者というか、主導した人ってのは誰なのかご存じですか?」
「あぁ。それか」
「それです」
俺がその相手を知らないと、わからせるもなにもないからな。
「主導者と言えば第二課の課長である笠原中佐になるんだろうな」
ん? 笠原? なんかどこかで聞いたような。
「ただし、課長と言っても派閥の一員だからな。当然奴一人が主導しているわけじゃねぇ。そういう意味では財閥の連中と第三師団閥の連中が今回の首謀者にして主導者と言えるだろうな」
「えぇぇ」
また第三師団かよ!
あいつらほんと俺のこと嫌いだな!
第三師団君さぁ。
まぁ第二師団と第六師団と第八師団が手柄を立てるところを傍観するしかないと考えれば邪魔したくなるのもわか……らんね。えぇ。
いやはや。三国志の売れ行きを気にし過ぎて危なく更新が間に合わなくなるところでした。
そんなわけで宣伝をば。作者が書いた小説である『偽典・演義4巻』が本日発売しております。
三国志に対する作者の独断と偏見と妄想がこれでもかと詰め込まれた産物となっております。
興味がある方は、ぜひお手に取ってごらんいただければ幸いです。
閲覧ありがとうございました。















