11話。最上重工業製強化外骨格開発計画の概要(前)
当然というかなんというか、パワードスーツは機士も装備できる。
機体を操るのに邪魔だから装備しないだけであって、普通に装備できる。
機体を使った方が安全で確実に魔物を殺せるので、あえて機士用のパワードスーツは開発されていないが、装備自体はできる。
なので少し応用を利かせることができる技術者であれば【機士用強化外骨格】を造ること自体は不可能ではない。なんなら特定の人物専用のそれはすでに造られていたりする。
特定の人物とされる彼らは、機士になるには魔晶との適合率が不足しているが故に機体を操ることはできない。だがどうしても魔物と戦いたいということで、特注されたパワードスーツを着込んでいる。
汎用製品と特注品の区別は、魔晶を利用しているか否かである。
なんでも特注品の装備者は『魔晶と多少でも適合できるのであれば攻撃に魔力を纏わせることができる』という特性を利用して魔物と戦っているのだとか。
具体例としては、第一師団所属の撃剣指南役、人呼んで【剣聖】や第二師団の芝野雄平などはこれを使って中型の魔物――といっても5m級だが――を討伐するという実績を上げている。
これらの実績から、特注品のパワードスーツも無用の長物ではないと認識されている。
だがしかし。
「確かに偉業だ。素晴らしい。へそ曲がりの俺だって素直に賞賛するしかねぇ。だがな、逆に言えば剣聖と謳われるような達人でも5m級を倒すのがやっとなんだ」
「ですよねぇ」
いくら頑張っても人間は30m級の魔物には勝てない。
当たり前の話である。
だからこそ機士がいるのだ。その機士だって30m級を仕留めるのは簡単ではない。
というか単騎では絶対に無理だ。啓太と御影型以外では。
「なので、軍の大半の連中はお前さんには機体に集中してほしいと思っている。俺もそうだ」
「えぇ。でもそう思っていないのがいるのでしょう?」
「そうだ。それが財閥系企業であり、そいつらと繋がっている政治屋どもだ」
「既得権益、ですか。わかりやすいと言えばわかりやすいんですけどね」
「あぁ。俺らの足を引っ張ったところで自分が死ぬと思ってねぇ。だからこんなことができる」
「なるほど。では俺たちがするべきことは?」
「二つある。まず一つ目。連中の計画を台無しにする。これはパワードスーツを採用させることで達成できる。そしてもう一つは……」
「もう一つは?」
「……軍の連中に死んでもらう」
「死んで? まさか殺すわけでは……あぁ。もし大量の魔物がきたとしても『パワードスーツの試験中なので出られません』と伝えるってことですか?」
「そうだ。連中に対する意趣返しとしてはやりすぎかもしれん。だがここまでやらねぇと連中には通用しねぇと思っている。……お前さんはどう思う?」
「別にどうとも。今回の件は軍も無関係ではありませんし。なによりこんな時期にこんなことをする連中を放置しているわけですからね。彼らも少し痛い目に遭った方がいいとさえ思っていますよ」
その痛い目に遭うのが五十谷さんとか学生諸君なら考えもするが、そうでないなら問題ない。多少顔を知っている芝野大佐や佐藤少佐はかわいそうだが、彼らはそう簡単に死ぬようなタイプではないので大丈夫だろう。
「そうか」
どことなくホッとしたような感じを出す最上さん。
自分でも外道の所業だと理解していたからこそ、俺に反対されるのを心配していたのかもしれない。
俺が正義感溢れる主人公気質の少年だったらまずかったかもしれないが、俺だからなぁ。
「話を戻そう。前回の大攻勢に関する戦訓は確認しているか?」
「もちろんです」
実験だけとはいえ、自分が参加した作戦だからな。
「それなら話は早い。知っての通り、これまでは二、三日に一回くらいの割合で確認されていた魔物の襲撃だが、大攻勢以降は一度も確認されていない。参謀本部の予想では、魔族が戦力を逐次投入して連続して緊張を強いるのではなく、一度に纏めて投入することでこちらに損害を出す方針に切り替えたと見ている」
「えぇ。そのようですね」
逐次投入よりはよっぽどまともな作戦だと思う。尤も、いくら魔物だからと言って大陸から泳がせるのはどうかと思うが。そのおかげで疲れているところを狙い撃てるのだから悪いことではない。
「で、予想では半月~1か月後くらいに再来襲するとされている」
「そうなんですか?」
「あくまで予想だがな」
「なるほど」
さすがにそこまでは知らなかった。この辺は一学生に過ぎない俺と最上さんが持つネットワークの違いだろう。
だがそうなると……。
「その、我々を邪魔に思っている連中は、魔物が大挙して来るのをわかっていながらパワードスーツの実験をさせようとしているんですか?」
「そうだ。馬鹿だろ?」
「ですね」
馬鹿以外のなにものでもない。自分が死なないからそんなことができるんだろうが、現場からどれだけ叩かれるのか理解していないのだろうか。
……していないんだろうな。
きっと彼らの耳には現場の声なんざ入らない。入るのは側近や上役、自分に利益を齎す人間の声だけなのだろう。
そのツケを支払うのは現場だ。ただしこの世界の現場は俺が知る世界の現場よりも殺伐としている。当然担当者を吊るし上げるだろう。場合によっては粛清されるんじゃないか?
(あぁ、いや。それが最上さんの狙いか。うん。悪くないんじゃないか)
俺一人だと、個人がナニカしてきたのであれば普通に報復したり、そいつの家に誤射するくらいのことはするが、できるのはそこまでだ。
相手が財閥だの軍閥といった組織の場合は普通にお手上げだからな。
軍閥に対する吊るし上げは他の軍閥にしてもらう。
財閥がやってきたことに対する報復も軍閥に吊るし上げてもらう。
こっちはあくまで被害者であることを崩さないって方針は悪くないと思う。
ただ、一応確認はしておこう。
「大攻勢が予想されるのであればこっちにも出陣の要請があるのでは?」
いくら備えているとはいえ、大型を狩れる戦力が多くいて困ることはないからな。
「打診はされている。だがこっちも正式な命令だからな」
企画書をひらひらさせながら最上さんは言葉を続ける。
「俺は軍人じゃねぇ。だがここにいるときは特務小隊顧問って立場になっている」
「ん~特務小隊って言われましてもねぇ」
俺と最上重工業の人しかいないんですがそれは。
「実験小隊って感じじゃよくある話さ」
「へぇ」
そうなんですか。としか言えん。
「重要なのは肩書じゃねぇ。いや、肩書も重要なのだが、今回はそこじゃねぇ。重要なのは今回のコレがお前さんが隊長を務める特務小隊に与えられた正式な任務だってことだ」
なるほど。
「内々の打診と正式な任務。優先されるのは後者ですもんね」
「そういうこった。しかもお前さんの場合、基本的に第二師団閥の所属とみられているが、正式には配備前の学生であって第二師団に所属しているわけではないからな。命令権は市ヶ谷にあるってわけだ」
市ヶ谷つまり国防省である。確かに配属前の学生に対する命令権があるとしたらここだろう。
「そんなわけで、今回の件は国防政策局の運用政策課によって出された正式な任務になる。ただしこの任務は『期限を来年3月までとする』って期間以外の詳細は決まってねぇ」
「はい?」
決まっていないってなんぞ?
「やり方は任せるってことさ。何しろことが性能実験だからな。魔物との戦闘も視野に入れる必要もある中で、会議室で決められた内容をそのまま強制するような真似はできねぇんだよ。ちなみに来年の3月ってのも単純に年度末だからってだけで、ナニカ作戦があるわけじゃねぇ」
「あぁ。はい。わかりました」
魔物との戦闘は下手をしなくても普通に死ぬからな。
会議室で勝手に現場を無視した内容を決められても困る。
組織として考えた場合、本来であれば命令に従わない者を罰する必要があるんだが、この場合は従わないのが普通。というか『従えない』のが正しいのか。
それを理解していても、軍は命令に違反した者を罰しないわけにもいかない。
よって彼らは最初から細かい命令を出すのをやめて『細かいことは言わないから結果だけ出せ』って感じにすることにしたのだろう。
期間に年度末という制限をつけたのは、俺や最上さんが時間稼ぎをすることを封じるため、か?
(いや、普通に常識か。変態は期限と予算を明確にしないとどこまでも突っ込んでいくからな)
「……なんか失礼なことを考えなかったか?」
「いえ、別に」
事実だから問題ない。
「……まぁいい。とりあえず俺らとしては、こうして期間以外のフリーハンドを得たからには利用しねぇ手はねぇ」
「ですね。ただその内容だと普通に大攻勢の迎撃に参加させられませんか? 迎撃を優先するように言われたらどうするんです?」
普通は言ってくるよな?
「そこも当然考えているさ」
「そのお考えを伺っても?」
あんまりにもあんまりな内容なら拒否するぞ。もし機密だから喋れないって言われたら……その場合も拒否だな。作戦を隠すやつに碌なやつはいない。俺は詳しいんだ。
「もちろんだ。 ……少し話は変わるが、ウチの実家、いや、本家は東北にあってな」
「はぁ」
まぁ最上だからな。イメージとしては山形な感じだから不自然ではないと思う。
「で、地元ではそれなりに大きな家でな」
「そりゃそうでしょうね」
そうでなければ財閥でもないのに軍需産業に参画できるような工業力がある会社を作れるわけがないからな。
「お前さんも知っての通り、現状日本はいろんな国に援助を行っている」
「ですね」
実際に国防軍がベトナムやタイに遠征しているしな。
他にも色々な援助を行っているのは聞いたことがある。具体例は知らんけど。
「当然財閥系の企業もそれに関わっているが、地元の名士って連中も少なからず関わっているんだわ」
「ほほう」
そうやって貢献度を稼いだからこそ、最上重工業が軍需産業に参画できたのか。
それは理解した。そしてここまでくれば最上さんが言いたいことも何となく理解できる。
「そこで本題だ。お前さんも極東ロシアは知っているだろ?」
「……なるほど」
今回の件で最上さんが利用するのは極東ロシアか。
それなら俺が大攻勢に参加しない理由にもなるわな。
今更ながら独自な世界観が出てきましたが、仕様です。
閲覧ありがとうございました。













