8話。模擬戦の結果
レビュー頂きました。ありがとうございます
田口さん相手の【広域戦場】での模擬戦は1回のみで終わってしまった。
具体的には、向こうが『狙撃を見てみたい』なんていうから普通に撃って終了。
「まだやるかい?」って問いかける前に『……なるほど。わかりました。では次の【戦場】でお願いします』なんて言われたらな。さすがに聞けねぇよ。
で、2回行われた【戦場】での模擬戦。
1回目は普通に向こうが動き回ってたところをヘッドショットして終了。
経緯はだいたい五十谷さんと一緒だが、田口さんは姿勢を低くして警戒しながら動いていたんで、その分少し時間がかかった感じだ。
2回目は田口さんが盾を携行してきたんで、敢えて盾の上から40mm機関砲で弾丸を撃ち込んでみたんだが……結果は数秒耐えられたものの、盾ごと大破して終了となってしまった。
草薙型って脆弱すぎませんかねぇ?
まぁ本体が15トンしかないから、持てる盾の重量や材質に限度があるんだろうけどさ。
あれっておそらく中型の素材だよな?
生きてる中型をミンチにできる威力がある40mm機関砲を前にしたら意味なくね?
あれだと大型の攻撃を喰らったら盾ごと蒸発すんじゃねぇの?
いや、まぁ、おそらく中型かそれ以下の魔物の攻撃を防ぐためのものなんだろうから文句を言うつもりはないが、せめてもう少し頑丈な素材にしたらいいと思う。
そして最後の【闘技場】での模擬戦は、事前の宣言通り2回で終わり。
五十谷さんと田口さん対俺という変則マッチだったが、まぁ、な。
一戦目は、開始と同時に突撃を警戒した二人が横に転がったんで、そこを40mm機関砲で撃って終わったし、二戦目は転がるか防御するかで迷った田口さんをシールドバッシュで潰してリタイヤさせ、結果的に俺の後ろを取る形になった五十谷さんが俺に照準を付けようとしたところを横に飛び、いきなり標的が視界から消えたことで隙だらけの姿を見せたところを撃って終わった。
多分あと2回か3回やればもう少し良い動きができると思うんだが、流石に一方的に負ける戦いで一戦10万円は彼女たちにとって色々とキツかったのだろう。
最後はまたも『まだやるかい?』っていう前に、ぐったりしたような声で『……もういいわ。今日はありがとう』って言われて終わってしまった。
実のところ二回目は接待プレイをしようとも思ったんだが、五十谷さんはそういうの嫌いそうだし、何より俺にソレを気付かせない技量が無いので諦めた。
でもな。アレはあっちも悪いと思うんだ。
接近戦をしようにも重量も速度も違うんだから勝負にならないし、射撃戦をしようにもこっちは突撃した時点で次の行動を入力しているのに、向こうは突撃されてから照準を付けるんだもの。
そりゃ当たらんて。
コマンドシステムが最良なんていうつもりは毛頭ないし、上から目線で説教するつもりもないんだが、彼女たちはもう少し機械を使っているっていう自覚を持った方がいいと思いましたマル。
結局本日の模擬戦は【広域戦場】が3回。【戦場】が4回。【闘技場】が3回の合計10戦。
手にした報酬は合計120万円で終わりを告げたのである。
「……お前さん。近接戦闘が苦手なんじゃなかったのか?」
何をおっしゃる最上さん。
「え? 近接戦闘なんかしてないでしょう?」
ブレードで斬り付けたわけでもなければ蹴りを喰らわせたわけでもない。シールドバッシュなんて言って誤魔化しているが、あんなの敵が同じくらいの機動力を持つ相手だったなら、後ろや横に飛ばれたあとに撃たれて終わりだ。
それと、移動や行動の切り替えの際にワンフレーム以上のラグがあるのもいただけない。
これは俺の腕の問題もあるんだろうが、少なくともこの程度では卓越した技量を持つネームドの烏には通用しないでしょうが。
あぁ、いや、いるかどうかの存在を例に出してもしょうがない、か。
最上さんにわかりやすい例えを挙げるとすれば、そうだな。
「あんなの大型の魔物には通用しないですよね?」
「あぁ、まぁ。そりゃ、な」
中型はともかく、大型はこっちよりも大きくて重くて頑丈なんだ。
そんなのにぶつかったらこっちが負けるもんな。
そのくらいは最上さんだってわかっているだろう。
結局魔物用に使えない技術なんて無駄なのだ。
だから近接用の武装も改良する必要があるんだが、これがなぁ。
浪漫を優先するならもちろんパイルバンカー一択だと思う。
先端部分が真っ赤に燃えるヒートパイルでもいい。
だがそんな浪漫兵器を体長30M級の魔物や30M超えの特大型にぶち込めるかと言われると……正直自信がない。
ゲームなら被弾覚悟で行けたが、現実ではなぁ。
もちろん自爆覚悟で行けば当てることはできると思うが、それで殺せるかどうかは未知数だ。
いや、それ以前に威力不足で大型すら殺せないかもしれない。
そうなると俄然長距離狙撃の方がいいんだよなぁ。
安全だし。頭を潰せば大型も殺せるってわかったし。
とにかく、今回の模擬戦でわかったことは、魔晶と機体に蓄えられている魔力は意外と応用が利くってことと、敵が魔力障壁を持たない場合、つまり対人戦を想定した場合は攻撃ではなく機動の補助に使った方がいいってことくらいだろうか。
無意味ではないがあまりありがたい情報でもないな。うん。
ただまぁ、今回の模擬戦だけで120万もらったから、それだけでも十分かな。
機体については最上さんがどうにかするだろうし。
「そんなわけで俺はさっさと帰って妹様と美味いもんでも食べに行こうと思うんですけど、どうですかね?」
「何が『そんなわけ』なのかは知らんが、このまま帰れるわけねぇだろ」
「えぇ!?」
なんでさ!
―――
最上隆文
「何が『そんなわけ』なのかは知らんが、このまま帰れるわけねぇだろ」
「えぇ!?」
「えぇ!? じゃねぇよ。なんでそんなに驚いてるんだよ」
驚きたいのはこっちだっつーの。
と言っても、元々『近接戦闘が苦手』ってのはこいつの自己申告でしかなかったからな。
俺たちも確認しなかったのは悪かったのかもしれん。
でもなぁ。造った俺らだってこの機体で普通の近接戦闘は無理って判断を下していたんだぞ?
それをあんなに簡単にこなしやがって。
そのことを指摘すれば『あんなの近接戦闘じゃない』とか言い出しやがる。
恐らくこいつにとっての近接戦闘ってのは双方が武器を振り回すチャンバラのことを指すのだろう。
それでいけば、確かにさっきまでのアレは近接戦闘じゃねぇ。
だがな。世間一般で【近接戦闘】っつったら近接した場合における戦闘の事を指すんだよ。
重さと速さを利用したシールドバッシュだって立派な戦法だし、それを予測して先んじて回避行動を取るのも技術なら、それ自体をブラフとして転がってるやつを狙い撃つのも立派な近接戦闘だ。
反面。こいつが言うようにシールドバッシュが自分より硬くて重い魔物に通用しないのも事実だし、シールドバッシュが通用しない以上、それを利用したブラフも意味がないってのもわかる。
ただしそれは相手が大型以上の魔物の場合だろうに。
もしかしてこいつ、現状草薙型や八房型に乗っている機士が『自分が戦うべき敵』として想定している相手が中型の魔物だってことを知らんのか?
(……知らん可能性もあるな)
なんたってオヤツ感覚で大型を撃ち抜くような奴だからな。焼夷榴弾で潰せる中型なんざ『その他大勢』としか認識していない可能性もある。
(さて、ここで俺はどうするべきか)
誤解を正すのは簡単だ。だがそれで『じゃあ大型とはやらねー』と言われても困るんだよな。
それに、現在量産型は遠距離からの砲撃で大型を削ることを想定して改良されているが、もし軍がこいつの戦い方を知ったら、現在草薙型で行われているすべての作戦行動を停止させてでも草薙型と量産型を入れ替えようとする可能性だってあるんだよな。
尤も、こいつみたいに魔力を使って機動力にブーストを掛けて縦横無尽に動き回ることができる機士なんざいないだろうから、しばらくは遠距離攻撃の強化を急ぐだろうが、な。
「ま、どうでもいいや」
正味な話、すでに俺の手を離れた機体がどうなろうと知ったことじゃねぇ。
今は啓太とこの機体のデータをしっかり取って、それを試作三号機以降の機体にフィードバックすることだけ考えていればいい。いや、それだけに集中するべきだ。
「うっし! 頑張るか! 予想以上にいいデータも取れたしな!」
――まずは目の前のことに集中する。そう気合を入れた俺の下に軍閥経由で面倒な仕事が舞い込んできたのは、それから数日後のことであった。
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ガンバリマス。
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